1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

"ホワイト化"する企業で急増中…産業医が聞いた過剰なストレスを抱えてメンタル不調に陥る中間管理職の悲鳴

プレジデントオンライン / 2024年7月3日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

働き方改革により会社の「ホワイト化」が進んでいる。外資系企業で産業医として年間1000人以上と面談をしている武神健之さんは「若手社員への理不尽な要求や過重労働が減る一方で、中間管理職が犠牲になっている印象がある。中間管理職が過剰なストレスを抱えていても全く不思議ではない」という――。

■10年以上外資系IT企業に勤めていたAさん

こんにちは。産業医の武神です。

毎月100件近くの産業医面談を行なっていますが、中間管理職社員との産業医面談も少なくありません。彼・彼女らと話していると、若手社員や年配社員たち同様の不安やストレスや悩みに加えて、中間管理職特有のものも感じます。

今月は産業医が感じた中間管理職特有の不安とストレスについて書かせていただきます。

Aさんは新卒から10年以上外資系IT企業に勤める女性でした。同僚に産業医面談を勧められて私の面談に来られた時は、睡眠障害のほか、食欲低下、朝の憂鬱(ゆううつ)気分、集中力の低下(考えがまとまらない)など複数の症状があり、すぐに医療受診とそこで休職の相談をすることをお願いしました。

■経験豊富な部下が退職して仕事量が増加

Aさんの話をまとめると、2年ほど前に部下の人数が5人から4人となった。1年前には4人中一番の経験者が退職した。残った3人中2人は非管理職のため残業に制限があり、退職した人たちの仕事を自分でもカバーすることとなった。新たな仕事が発生した時も、疲労がたまっている部下たちにお願いすることはできず、また、自分は経験があるため部下に教えるよりも自分がやってしまったほうが早いからと、自分でやってしまうことが多かったとのことでした。次第に趣味や気分転換の時間は無くなってしまったともおっしゃっていました。

Aさんは昨年末に上司より新たな人をチームに雇う計画はないことを言われ、年明けから次第に食欲がなくなり、3カ月前から睡眠がおかしい日が増えてきたようです。この頃から夫には心配されていたけれど、忙しくて医者に行く時間が取れず働いていたそうです。先週心配した同僚に産業医面談を勧められ、面談にきたとのことでした。

医療機関を受診した結果、Aさんはすぐに休職となりました。現在Aさんは内服治療をしながら休職中です。1年以上も我慢して頑張ってきたことを考えると、まだまだ休職は続くと思われます。

■若手がホワイト化する一方で中間管理職に仕事が集中

近年の働き方改革やDX化の影響などで、多くの会社がホワイト化しつつあり、若手社員への理不尽な要求や過重労働は減ってきています。

しかし、私は多くの働く人たちの面談の中で、中間管理職が割を食っている印象を強く持っています。

目標が数値などで明確化されたことであいまいさがなくなったものの、達成できれば容易にハードルをあげられ、達成できない時はよりプレッシャーになります。

働き方改革の影響で労働時間の管理が厳しくなり、特に若手の労働時間は減りました。この補充はDX化だけでは足りず、多くの職場では上司たちの労働時間へ転換されています。

私生活や働き方などにおいて多様化する価値観を持つ部下たちへの個別対応を、定期的な1on1で行うことを中間管理職は求められていますが、ハラスメントにならぬようこなすことも暗黙のうちに求められています。

上司と1対1で会う実業家
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

このような中、中間管理職の人たちは、目まぐるしく変化するビジネス状況に対応するだけではなく、適応するために自分自身のアップデートもし続けなければなりません。最近はリスキリングという言葉でこれが明確に求められるようになってきました。

中間管理職が過剰なストレスを抱えていても全く不思議ではありません。

■「有給休暇を毎年捨てていた」Bさん

Bさんは外資系金融に転職後7~8年目、40代中間管理職の男性社員でした。彼は約1年半休職しましたが、復職後は問題なく働いています。彼は休職中リワークプログラムに通い、そこで行った振り返りの内容を産業医面談で私に共有してくれました。

休職に至った原因を彼なりに分析すると、業務量と上司との関係、そして自分の性格があったとのことでした。

管理職だが、日々のルーチン業務、プロジェクト業務、部下のマネジメントの3つをこなしていた。慢性的な人手不足のため朝から晩までお昼休みも満足にとれず働いていた。体調が悪くても休みも取れず、医者にもいけなかった。チームとしての業務量、期限、質は落とせないため、メンバーの負担が増えないように自分で責任や仕事を背負い過ぎてしまった。部下たちの有給取得は許可したが、自分は取れていなかった。入社してから有給休暇を毎年捨てていた。

■帰宅後も夜中まで仕事をするようになり……

1年前に赴任してきた上司とは相性が良くなかった。

業務過多で大変な中、上司に相談できず、ちゃんとやらないと排除されるとおびえ頑張るしかなかった。チームへの責任感、他人に迷惑をかけられないという気持ち、仕事のためにしていた自己啓発、プロフェッショナルとしての意識などで自分を奮い立たせてやってきたが、安全安心が保障された環境ではなく、つらくなっても誰にも弱音を吐けなかった。

自分の性格的に、迷惑になるから人に頼ってはいけない、他人をなかなか信用できず任せられないという気質もあり、周りに頼ることができなかった。また、こんなに頑張っているのに、よくやっていると自分で自分を褒める(認める)ことはなかった。

帰宅後も家からリモートで仕事をする日が次第に増え、夜中まで仕事をするようになった。次第に胃痛、不眠(寝つきが悪くなる、早朝に目が覚める)、食べなくなる(食べなくてもいいと思うようになる)、音楽やテレビの音がダメになる、ふと涙が出て止まらなくなるなどの症状が出始めた。妻が医療受診を勧めてくれたが忙しくてできず、上司に産業医面談を予約したからと言われ受けた産業医面談で、初めて自分が病的な状態になっていることを知った……。

残業
写真=iStock.com/comzeal
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/comzeal

■今週頑張っても、来週の業務はなくならない

私は産業医としてクライエント企業で管理職研修や、社外での講演をさせていただくことがあります。部下のマネジメント的な内容を管理職の方々にすると、一番多いコメントは、「そんなことわかっている。そんなことより、俺たち(今日受講している中間管理職)のストレスこそ、どうにかしてくれよ」です。

真面目な人、責任感の強い人ほどこう言います。とてもわかります。人は自分に余裕がない時は他人に優しくできません。部下の心と体の健康を配慮するマネジメントなんてできません。

では、中間管理職の人々はこの状況にどのように対処すればいいのでしょうか。

残念ながら、私にもこの状況の打開策はわからず、産業医としての処方箋はありません。

ただ言えるのは、中間管理職に委ねられる業務は、常にたくさんあるということです。疲労がたまっていたり体調が悪かったりする中、今日頑張って終わらせても明日は明日でたくさんの業務があります。今週頑張っても今月頑張っても、来週来月の業務はなくなりません。

■企業の安全配慮義務は管理職にも適用される

私は産業医として、管理職は若手(非管理職)のように残業に関する規制がないと、思い込んでいる(思い込まされている)中間管理職たちをたくさん見てきました。私の理解では、これはyesでもあり、noでもあります。

残業代に関しては労働基準法で定められていますが、管理監督者に対しては、労働時間、休憩および休日に関する規定が適用されないとされています。しかし、管理監督者とは、単なる役職や肩書だけではなく、実質的な管理監督権限を有し、経営者と同等の待遇や権限を持つ者とも定義されており、多くの中間管理職が管理監督者に該当するかはかなり疑問です。

また、企業が持つ社員への安全配慮義務は労働契約法に定められており、これはすべての労働者に対して適用されています。使用者(会社)には管理職と非管理職の区別なく、労働者の安全と健康を確保する責任があるとされています。

ですので、残業代の視点からは管理監督者扱いされているとしても、安全配慮義務の視点からは、中間管理職の方々の多すぎる残業時間は正当化される理由はないのです。残業代は出ないとしても、労働時間管理は非管理職と同等であるべきなのです。

オフィスで働くビジネスパーソン
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

■中間管理職は「犠牲者」になっている

現在の、中間管理職にしわ寄せが重くのしかかっている現状は、決して個々の中間管理職のやる気が足りないのではなく、能力不足でもありません。中間管理職は犠牲者とも言えるでしょう。ビジネス(会社の業務)での、もしかすると日本全体での不具合なのかもしれません。そうであれば、その解決は自分の上長に委ねてしまうことを産業医としては提案します。

そして産業医としては、中間管理職の方こそ、自分自身を仕事から「区切る」ことをしていただきたいと思います。

毎日仕事とプライベートの時間をしっかりと区切る。1日が終わったら短時間でもいいから気分転換をして緊張感を解きよく眠れるようにする。週末も仕事ざんまいになるのではなく、どちらか1日は必ず休む。定期的な有給休暇で体にたまった疲労を癒やす、心にたまったストレスを発散する……。

■自分にとってのサステイナブルな労働時間で働く

どうせ業務がなくならないのであれば、長時間働くのではなく、長期間働けることを目指してはいかがでしょうか。

1日12時間働けば、8時間労働よりも1.5倍の業務量をこなせるかもしれません。では16時間働けば、2倍の業務量をこなせるでしょうか。一時的にはできるかもしれませんが、おそらく長くは続きません。そして、体を壊して終わってしまいます。

それよりは、自分にとってのサステイナブル(継続可能)な労働時間をしっかり働き、間に合わないものは間に合わない、できないものはできないと、明確に上長に意思表示してはいかがでしょうか。キャリアを心配する声も聞こえそうですが、心身を壊すよりは絶対にマシな方法です。

あまたのクライエントでたくさんの産業医面談をしていると、働く人たちに共通する問題が見えてくることがあります。多くの中間管理職のメンタル不調の原因も、その一つです。今のところ、その特効薬は見えません。日々の産業医面談の中で、何らかの治療法が見えてくることを願ってやみません。その時はここでいの一番に共有させていただきます。

----------

武神 健之(たけがみ・けんじ)
医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、フォルクスワーゲングループ、BMWグループ、エリクソンジャパン、テンプル大学日本校、アドビージャパン、テスラ、S&Pといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。公式サイト

----------

(医師 武神 健之)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください