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祇園祭りはショーではないのか…「40万→15万円に大値引き」訪日客向け観覧席巡り宮司がキレた割引以外の矛先

プレジデントオンライン / 2024年6月28日 10時15分

京都祇園祭での酒提供見送りについて、記者会見する八坂神社の野村明義宮司=2024年6月20日午後、京都市 - 写真提供=共同通信社

■京都・祇園祭で富裕層インバウンド客向け特等席でひと悶着

日本三大祭りのひとつ京都・祇園祭のあり方を巡って、地元でひと悶着が起きている。京都市観光協会は昨年より、高額な「プレミアム観覧席」の販売を開始した。今年も同様の席を設けようとしたところ、八坂神社の宮司が「祇園祭はショーではない」として猛反発したのだ。

京都は空前のインバウンド需要が続く。市は、祭りを維持するために富裕層を取り込みたい意向を示しているが、寺社の思惑とは必ずしも一致していない。観光イベントと宗教行事はどう折り合いをつけていくべきか。

祇園祭は例年、7月の古都でひと月間にわたって開催される盛大な祭りである。「コンチキチン」の祇園囃子の音色と、豪華絢爛の山鉾が繰り出されるさまは、実に壮観だ。東京の神田祭、大阪の天神祭と並び、日本三大祭の一角をなす。また、葵祭、時代祭とあわせて京都三大祭としても知られている。

祇園祭のはじまりは869(貞観11)年まで遡る。京都に疫病が流行し、人々は祇園精舎の守護神・牛頭天王(ごずてんのう)の祟りだと畏れた。そして、現在の二条城の南側にある真言宗寺院「神泉苑」に当時の国の数である66の鉾を立てて「露払い」とし、祇園社(明治期に八坂神社として再編)の神輿を迎えたのが始まりとされている。祇園祭は神仏習合の祭りなのだ。

戦後の高度成長期には、観光促進と交通渋滞緩和のために、期間が縮小。本来の祇園祭の姿である前祭(さきまつり)と後祭(あとまつり)を合同にして、17日に祭りのハイライトである山鉾巡行がまとめて実施されていた。ことわざの「後の祭り」とは、「もはや手遅れ」という意味で使用されるが、祇園祭の後祭が語源とも言われている。

2014(平成26)年からは、前祭・後祭の両方が、49年ぶりに復活した。かれこれ半世紀が経過し、このままでは祭り本来の姿が永遠に失われてしまうという危機感などから、元の前祭・後祭のかたちに戻そうということになったのだ。

コロナ禍では3年連続で山鉾巡行は中止に。長期間、祭りが中断すると、資金や技術の継承などが行き詰まってしまう。コロナ禍が開けた後の祇園祭はインバウンド急増の後押しもあって、大いに盛り上がっている。昨夏は82万人もの集客があった。今年はさらに増えることが予想される。

京都市観光協会は祇園祭の保全・継承のための収益源確保などを目的にして昨年、1席最高40万円の「祇園祭プレミアム観覧席」を発売した。祇園祭のハイライトである山鉾巡行のある7月17日、河原町通と御池通りが交差する南西角の一等地で観覧できるとあって、大変な話題になった。

プレミアム観覧席からの鑑賞
画像=プレスリリースより
プレミアム観覧席からの鑑賞 - 画像=プレスリリースより

■「祇園祭はショーではなく、神事。酒を出すことは推奨できない」

京都の夏は、殺人的な酷暑で知られる。それを日除けが設置された畳敷の座椅子席でくつろぎながら、目の前を多数の鉾が横切る様を見られるのだ。さらに、プレミアム観覧席の場所は「辻回し」と呼ばれる、鉾が回転する様子を間近で見ることができる最高のロケーションだ。

客には英語・日本語対応のイヤホンガイドのサービスの他、京料理のおばんざいやビール・ワインなどのアルコール類が飲み放題で提供された。観光協会が用意した84席のうち8割方が売れたという。

観光協会は今年もプレミアム観覧席を用意。サービス内容を見直して、大幅に割引きし、最大15万円(山鉾に搭乗できるオプションを入れると20万円)と昨年の半額以下の料金設定にしていた。アルコールの提供は昨年並みに実施する方向であった。

昨年の祇園祭の様子
撮影=鵜飼秀徳
昨年の祇園祭の様子 - 撮影=鵜飼秀徳
昨年の祇園祭の様子
撮影=鵜飼秀徳
昨年の祇園祭の様子 - 撮影=鵜飼秀徳

ところが、これに意義を申し立てたのが、祇園祭を執り行う八坂神社の宮司であった。

「祇園祭はショーではなく、神事。酒を出すことは推奨できない」として、自身が理事を務める観光協会からの辞任も示唆した。結果的には観光協会が折れた形となった。結局、食事は提供せず、飲み物はソフトドリンクのみという方向性で事態は収まった。

八坂神社の野村明義宮司は記者会見で不快感を露わにした。

「昨年こういうサービスが提供されて内容に驚いていた。神事にお酒はつきものだが、その飲み方、飲ませ方が神様を感じ取っていただける有り難いお酒ならいいが、ショーを見るような形でのお酒の振る舞いはいかがなものか。行政と神社側の隔たりのなかでこういうことが起きてしまった」

確かに、宮司の言い分はわからぬではない。特に京都では、オーバーツーリズムの弊害があちこちで起きている。八坂神社でも参拝客が本殿(国宝)の鈴の緒を無茶苦茶に振って、鈴を破損させるなどの被害やトラブルが起きていた。八坂神社は今年5月、夜間は鈴の緒を上げて鈴を鳴らせないようにした。

最近では八坂神社からもほど近い、浄土宗総本山の知恩院の三門(国宝)の柱に傷がつけられた。こうしたマナー違反や犯罪行為は、京都の寺社の多くが経験している。

観光客相手の商売や、有料拝観寺院であればメリットも大だろうが、多くの京都人や一般寺社にとってはオーバーツーリズムは「百害あって一利なし」であろう。東京・渋谷ではインバウンドが集結して路上飲みする問題が指摘されているが、昨今の京都でも似たような状況が生まれている。インバウンドの観光マナーの改善、ゴミや騒音への対策は、行政が早急に対策を打たねばならない。

■酒も弁当も販売する大相撲は「神事」であり「興行」でもある

他方で、祇園祭のプレミアム席の設置自体は問題かといえば、必ずしもそうではないと思う。

近年は祇園祭を支える地元、山鉾町の人口が激減していた。祇園祭が開催される地域は昔から繊維産業が盛んであった。しかし、バブル崩壊以降、繊維産業は大きく衰退し、店舗は軒並み撤退した。祭りの担い手である住み込みの奉公人らが、この地を去っていったのだ。

近年は人口流動の不安定さに加え、観光客の増加などによる警備費・保険料などの金銭的負担が増えてきていた。祇園祭ではクラウドファンディングによる資金調達を実施していたほどだ。

プレミアム観覧席の売り上げは、祭りの保全と継承に使われるという。それが「神様に失礼」かどうか、はさておき、財源確保のアイデアとしてはアリだと思う。15万円もの料金を設定しておいて「ソフトドリンクだけ」というのは、少しお粗末だろう。客が、祭りや他の客の妨害をするようなことのないような規定と運用をすればよいだけの話ではないか。

その上で、祭りは「ショー(興行)」かといえば、「宗教儀式であり、ショーでもある」というのが私の考えだ。例えば大相撲は「神事」でもあるし、「興行」でもある。神事だけでは大相撲は維持されてこなかっただろうし、むしろショー化したことで、大衆が楽しめるスポーツになった。なお、国技館では酒も弁当も販売している。

祇園祭の花笠巡行
写真=iStock.com/CHENG FENG CHIANG
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CHENG FENG CHIANG

祇園祭は八坂神社境内での儀式においては、厳粛を貫くことはもちろんのことである。だが、公道を使った山鉾や神輿の巡行などは、むしろ、うまく興行化していかねばならないのではないか。興行化というのは、きちんとルールを決めて、老若男女、観光客も地元民も共に楽しめる時間と空間を演出することである。

今回の問題の根源は「酒」にあるのではなく、祭事と興行の折り合いをつけられなかった観光協会と、八坂神社との関係性にあるのだろう。祇園祭の機会を活かし、ぜひとも神様が喜ぶ「京都での、雅な酒の飲み方」を世界に発信してもらいたいものだと思う。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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