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小池都知事は「EV原理主義」に取り憑かれている…中国BYDに補助金を出し続ける東京都のバラマキ体質

プレジデントオンライン / 2024年7月6日 9時15分

「EV100%は非現実的」が各社の共通認識(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/UniqueMotionGraphics

東京都の小池百合子知事は、「東京都は2030年に新車販売で非ガソリン車を100%にする」と宣言している。この目標は実現可能なのだろうか。モータージャーナリストの岡崎五朗さんは「『EV100%論』を信じる小池氏は『脳内お花畑』と言わざるを得ない」とという――。

※本稿は、杉山大志ほか『SDGsエコバブルの終焉』(宝島社)の原文を元に一部を再編集したものです。

■「EV100%は非現実的」が各社の共通認識

いまだEV原理主義に取り憑かれた人たちもいる。その一人が小池百合子東京都知事である。

2023年10月26日から11月5日に開催された東京モーターショー改めジャパンモビリティショーには、自動車メーカーのみならず、スタートアップやエネルギー会社などモビリティに係わる多くの企業が参加し、カーボンニュートラルに向けた様々な取り組みを発表した。

「EV100%は非現実的。だからこそ様々な技術やアイディアを持ち寄り、力を合わせて日本の競争力を高めていこう」というのが各社の共通認識である。

■東京都副知事が語った「EV100%論」のお花畑

そんななか、空気をまったく読めていない主張をする人物が現れた。

「地球環境×モビリティの未来。持続可能な社会のために」と題したテーマのトークショーセッションに、小池百合子東京都知事の代理として急遽出席した潮田勉東京都副知事だ。

事前アナウンスでは小池東京都知事が参加する予定だったが直前にキャンセル。

「やっぱり逃げたか」と多くの関係者が呟くなか始まったトークセッションでは、日産の内田誠社長、経済産業省製造産業局局長の伊吹英明氏、富士通の大西俊介氏、東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり氏などが、現実に即した取り組みやアイディアを披露した。

そんな雰囲気を一気にしらけさせたのが潮田副知事だ。

曰く「東京都は環境先進都市として2030年の“非ガソリン化”を目指します」。

世界が方向転換をしつつあるなかでの超お花畑発言に対し、会場からは失笑が起こった。

小池都知事は「EV原理主義」に取り憑かれている(東京都知事の公務後、報道陣の取材に応じる小池百合子氏、2024年6月20日)
写真=共同通信社
小池都知事は「EV原理主義」に取り憑かれている(東京都知事の公務後、報道陣の取材に応じる小池百合子氏、2024年6月20日) - 写真=共同通信社

■実効性や納得感のある行動を取るべき

非ガソリン化が意味するのは、ガソリン車もディーゼル車も締め出すことである。

そういう極端なことは不可能だから皆で知恵を出し合ってよりよい方法を探っていきましょう、というのがこのトークセッションの論点であり、ジャパンモビリティショーの主要テーマでもある。

そんな場で、カビの生えたような非現実的なワンイシュー解決論を恥ずかしげもなく披露してきた根性は大したものだが、都の目指す「環境先進都市」なるものの薄っぺらさを広く印象づける結果にしかならなかった。

そこまで言うなら、都内のパーキングメーターを全部引っこ抜いてEV用充電器に置き換えた上で、夜間駐車を許可するとか、新潟県に行き頭を下げ柏崎刈羽原発の早期再稼働をお願いするとか、実効性や納得感のある行動をまずはするべきだ。

それもせず、「地球沸騰化」などというおよそ科学的とは言い難い国連事務総長のコメントを引きながらお花畑論を展開するのが小池都政の実態である。

■苦境に直面するテスラ

EV販売減速、の煽りを受け、24年1月~3月期決算では前年同期比で販売台数はマイナス13%、営業収益はマイナス15%、営業利益はマイナス43%。

営業利益率も11.4%から5.5%へ半減と、ずらりとマイナスが並ぶテスラ。

テスラ専用充電器
写真=iStock.com/Sjo
テスラは苦境に直面している(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Sjo

それとは対照的に、好調ぶりが伝えられているのが中国大手自動車メーカーのBYDだ。

電池メーカーとして95年に創業。2003年に自動車ビジネスに参入してからしばらくは安価なことだけが取り柄のコピーまがい商品を販売していたが、次第に実力を付け2023年にはメルセデス・ベンツを抜き世界10番目の規模に成長した。

■BYDのEVを買おうと思う人は少数派

同年日本にも進出し、2025年までに年間3万台、つまりフォルクスワーゲンとほぼ同じ販売規模を目指している。

理想を高く持つのは決して悪いことではないが、3万台はさすがに盛りすぎだ。

モータージャーナリストとして純粋に商品性を評価すれば、内外装の仕上げも走行性能も、多くの方が想像している以上の出来映えになっている。

とはいえ、日本では国内メーカー8社に加え、各国の輸入車も販売されている。いくら価格が安くても、BYDのEVを買おうと思う人は少数派だろう。

個人的には年間5000台売れれば上出来と見ているが、まあそこはお手並み拝見である。

■「BYDへの補助金」10兆円近いという説もある

BYDが日本メーカーのライバルになるとすれば、日本国内ではなくむしろ海外マーケットだ。

日本メーカーがほぼ独占的な地位を占めているタイでBYDのEV販売は伸び始めているし、他のASEAN諸国やメキシコ、欧州でも低価格を武器に販売を伸ばしている。

BYD車をバラバラに分解しコスト計算をした日本メーカーのエンジニアによれば、合理的な説明が付かない安さだという。

ドイツのキール世界経済研究所によると、BYDが中国共産党から受けた補助金は34億ユーロ(5700億円)となっているが、地方政府からの補助金や工場用地の提供、ファンドの形をとった実質的な補助金などを含めると、2016年から2022年の7年間に10兆円近い補助金が入ったという説もある。

BYDの販売店
写真=iStock.com/Robert Way
「BYDへの補助金」10兆円近いという説もある(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Robert Way

■ファーウェイは8兆円の補助金を受け取っていた

確証はないが、かつてファーウェイが8兆円の補助金を受け取っていたことや、EUが不公正貿易の疑いがあるとして調査を始めていることなど、状況証拠からみればあながち見当外れとも思えない。

ファーウェイ本社
写真=iStock.com/baona
ファーウェイは8兆円の補助金を受け取っていた(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/baona

それが事実だとすれば、各国の自動車メーカーがコスト競争力で中国メーカーに負けるのは当然の帰結となる。

その他、海外の自動車メーカーに対する地元企業との合弁義務づけや、中国で生産するEVへの中国製バッテリー搭載義務付けなど、過去の数々の不公正が中国メーカーの急速な発展の後ろ盾になったのは間違いない。

■米国は中国製EVの関税率を100%に引き上げた

これを受け米国は中国製EVの関税率を100%に引き上げ輸入を事実上阻止、さらにBYDがUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の適用を狙って建設を計画しているメキシコ工場についても、メキシコ政府に圧力をかけ優遇政策を適用しないとの言質を得た。

欧州も、前述したように中国製EVの導入に慎重な姿勢だ。

日本政府もようやく重い腰を上げ、BYD製EVを購入する際の補助金を、2023年度の85万円から35万円へと大幅に減額した。

中国との経済的な結びつきが強いドイツは反対しているが、西側先進国では中国製EV締め出しが着々と進行中である。

■BYDの業績は伸び悩んでいる

加えて、中国市場においても、激しい値引き合戦の煽りを受け2023年1月~3月期のBYDの純利益はアナリスト予想を大幅に下回る45億7000万元(990億円)にとどまった。

業績は伸び悩み、信頼耐久性に対する疑問も内外から出はじめている。

そんなメーカーを多くの日本メディアが黒船襲来と盛んに持ち上げていることには違和感しかない。

むしろ日本が警戒するべきなのは、BYDが欧州のエンジニアリング会社と組んで高効率エンジンの開発を始めていることだ。

現状でもBYDの販売台数の約半分をプラグインハイブリッド車が占める。

今後ハイブリッド車でも実力を付けてきたら、侮れない競争相手になるだろう。

もはやエンジンなどやっている場合ではない、EV開発に集中しろ、などという無責任な雑音に惑わされず、日本メーカーは自分たちのもっているエンジン技術にさらに磨きをかける必要がある。

■「ガラケーからスマホへの転換」のようにはいかない

最後に。誤解なきように言っておくが、私は決してEV否定論者ではない。

乗れば楽しいし快適だしデザインの自由度も高まる。原子力、水力、太陽光、風力といった様々な手段から得られる電気というエネルギーで走れるEVを一定量普及させることは、原油の97%を中東に依存している日本のエネルギー安全保障にも有効だ。

いちばん近いガソリンスタンドが20km先といった地域では、必要最小限のバッテリーを積んだ安価な小型EVが今後受け容れられる可能性も高いだろう。

豪華で速い高級EVも商品としては魅力的だ。

とはいえ、EVの場合、ガラケーからスマホへの転換のようにはいかない。スマホの普及スピードは滅法速かったが、それは政府がスマホに補助金を出したりガラケーの販売を規制したりした結果ではなく、スマホのほうが圧倒的に便利だったからだ。

しかし様々な不便があり、値段も高く補助金頼りの現状のEVにマーケットでの競争を勝ち抜いて世界のメインストリームになる実力はまだ備わっていない。

杉山大志ほか『SDGsエコバブルの終焉』(宝島社)
杉山大志ほか『SDGsエコバブルの終焉』(宝島社)

ここから先は私の予想だが、2035年における日本市場でのEV販売比率は多くて30%、少なくて10%。肌感では15%前後ではないかと考えている。

EVを便利に使うには自宅充電が必須だが、日本で戸建てに住んでいる人は55%にとどまる。共同住宅にも今後充電器の設置が進んでいくだろうから合わせて60%とする。そのうちの半数がEVを選べば30%になるが、それには価格、補助金、航続距離、公共充電インフラ、充電時間といったEVの課題が改善される必要がある。

自宅以外の急速充電器で凌ぐ人が少しだけ加わってもせいぜい15%。まあそのぐらいがいいところなのではないか。

11年後にこの原稿を読み返すのが楽しみだ。

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岡崎 五朗(おかざき・ごろう)
モータージャーナリスト
青山学院大学理工学部機械工学科在籍中から自動車関連の執筆活動を開始。2008年からテレビ神奈川「クルマでいこう!」のMCを務める。日本自動車ジャーナリスト協会理事。日本カーオブザイヤー選考委員。著書に『EV推進の罠』(ワニブックス)など。

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(モータージャーナリスト 岡崎 五朗)

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