バカほど「タバコは絶対ダメ」と言いたがる…和田秀樹「本質を見抜ける人、そうでない人の決定的な差」【2023編集部セレクション】
プレジデントオンライン / 2024年7月4日 8時15分
※本稿は、和田秀樹『頭がいい人、悪い人の健康法』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■極端に危険視される「受動喫煙」より怖い排ガス
「頭がいい人」が、ものごとを広く俯瞰的に捉えることができるのに対して、「頭が悪い人」は一元的に捉えてしまいがちです。
たとえば、タバコは健康に悪いので、がんになると思えば徹底的に排除します。もちろん、日本人全員が「頭が悪い人」だとは思っていませんが、タバコと喫煙する人たちに対する厳しさは、タバコを吸わない私から見ても少し気の毒になるほどです。
その一例が、受動喫煙の害が叫ばれたことがきっかけとなって、2020年4月1日に改正健康増進法が全面施行され、世の中の多くの場所(飲食店、会社などの事務所、娯楽施設、体育施設、宿泊施設など)が原則禁煙になったことです。
施行当初はそれなりに設置されていた喫煙所も、コロナ禍を機にどんどん閉鎖されました。タバコが体に害を与えることは明らかですが、受動喫煙まで極端に危険なものとして扱うというのは、いささかバランスを欠いています。
というのも、喫煙率は以前の3分の1に下がっているのに、肺がんはむしろ増えているからです。かつて日本人の肺がんは、ほとんどが扁平上皮がんでしたが、喫煙率が下がってから、およそ10~15年後に扁平上皮がんは減っています。いまは扁平上皮がんが3割ほどで、6割くらいが腺がんです。
両者は、顕微鏡で見たときの組織型で区別されますが、部位でいえば、一般的に扁平上皮がんは太い気管支に発生します。肺のなかでも、入口(つまり、口や鼻)から近い部位にできるがんといえます。一方の腺がんは、肺の奥に発生するケースが多いのが特徴です。
おそらく原因物質として、粒子の大きいものが気管支で引っかかって扁平上皮がんとなり、粒子の小さいものが肺の奥まで運ばれて腺がんを引き起こしていると考えられます。
扁平上皮がんの発症要因のほとんどはタバコとされています。ヘビースモーカーに多かったのですが、喫煙率の低下とともに、減少する傾向が表れています。これに対し、腺がんの発症要因は、おそらく粒子の小さな大気汚染でしょう。
工場からの煤煙などは、以前よりずっときれいになっています。中国の経済発展とともに大陸からPM2.5と呼ばれる微粒子が飛んでくるようになりましたが、身近なところで考えられるのは、やはり自動車の排ガスだと思います。
■総合的な知恵が社会に求められている
走行している車の数が増えているとは思えませんが、道路工事によって、東京都内や都市部にかぎらず、各地にひどい渋滞が起きています。景気が悪いから道路工事が増えているというのなら、渋滞の起こらない時間帯に工事をすべきでしょう。
工事が行われている期間は、周辺の信号機のタイミングも変更して、渋滞が極力起こらないようにすることもできるはずです。AI(人工知能)の技術も活用できるでしょう。
さらに道路工事いかんに関わらず、車が渋滞する場所はたいてい決まっているものです。渋滞する場所については、信号機のパターンを変えるなど、工夫の余地があるでしょう。常時、左折が可能な交差点がもっと増えてもいいはずです。
海外の道路を運転したことがある人はご存じでしょうが、進行方向の路端側(アメリカでは右、日本やイギリスでは左)に曲がるときは常時進行が可能です。日本でもないわけではないし、増やそうと思えばできるはずなのにしていません。
道路交通法に掲げる「交通の安全と円滑を図り」のうち、警察の眼中には「安全」しかないようです。警察官は、違反を見つけて取り締まる怖い人になっていて、円滑な交通を助けてくれる優しい人とは思われていないのが現状でしょう。
受動喫煙の原因をつくっている喫煙者に対し、これだけ厳しい対応をするのであれば、道路工事のときに渋滞が起こらない時間帯を指定するとか、信号機のパターンを工夫するなどして渋滞の回避を義務づけるとか、排ガスを減らすための柔軟で総合的な施策を打ち出すべきだと考えます。
つまり、タバコをこてんぱんに叩きのめして、扁平上皮がんの減少という一定の成果が出たいま、さらに肺がんを減らそうとするならば、受動喫煙を槍玉にあげるより、自動車の排ガスが減る方法を考えたほうが実効性が高いはずです。
個人の健康法であれ、行政や政治上の事案であれ、データに基づいて合理的かつ柔軟に判断することは、当たり前のようでいて苦手とする人は案外多いのです。
こうした思考ができるかどうかにも、「頭がいい人」と「頭が悪い人」の違いが表れます。
■先進国で唯一、日本のがん死が増えていることの意味
こんな例もあります。
警察庁の統計によると、飲酒運転による事故件数は、2000年の2万6280件をピークに年々減少し、2022年は2167件と12分の1になりました。
飲酒運転による死亡事故は、2000年の1276件から2022年の120件へと10分の1以下になっています。この期間に危険運転致死傷罪の新設や、飲酒運転の厳罰化などが行われた成果でしょう。
ここまで飲酒運転による事故が減っているデータがあるのに、さらに減らそうという動きがあります。朝の呼気チェックをするよう、アルコール検知器の設置を義務づけようというものです。
これは業務用の自動車を対象としたもので、やがてすべてのドライバーに呼気チェックを義務づける方向にあると見るのが自然です。
国民の生活に口を出して規制したがるのが「官」、とくに警察官僚の習性なのです。結果的に、夜の飲酒をともなう会食がけしからんという日が訪れても不思議はありません。
コロナ禍のときも痛感したことですが、人とワイワイと楽しくお酒を楽しむことがそんなに悪いことなのでしょうか。
人びとのささやかな楽しみが、「官」によってことごとく奪われるとなると、失われるのがメンタルヘルスです。メンタルヘルスが奪われると、うつ病や自殺の増加につながります。精神神経免疫学の考え方からすると、免疫力が落ち、がんも増えかねません。
実際、警察はほぼ無意味な取り締まりで渋滞を起こし、肺の腺がんを増やしている可能性が高いのです。そもそも、日本では死因のトップが40年以上がんであり、先進国で唯一、がん死が増えているのです。
■過剰な節制が免疫細胞を減らす
私は、ある年齢まで生き延びたら、食べたいものを食べればいいし、お酒も飲みたければ飲んでいいと考えています。日本には健康になろうとして、自分の本当にやりたいことや、食べたいものを我慢している人が多すぎるように思います。
でも、そんな過剰な節制生活がストレスになって、免疫機能を抑えている可能性があります。たしかに、遺伝性のがんもありますが、後天的な要素としては、免疫活性がストレスで落ちてしまうことも原因の一つです。
ある面で多少は体に悪影響があったとしても、ストレスのない毎日によって、がんのリスクが減ることも理解しておく必要があります。差し引きをトータルで判断する思考こそ、「頭がいい人」の健康法の第一歩だといえるでしょう。
ついでにいうと、このような規制によって、飲食店の店主がうつ病になったり、廃業したりすることで、食文化の破壊につながっていくというマイナス面については、ほとんど考えられることはありません。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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