ラーメン店の多い県ほど、脳卒中死亡率が高い…自治医大の研究者が考察する「統計的に有意な差」が出た背景
プレジデントオンライン / 2024年7月11日 6時15分
■「ファストフード」や「うどん・そば」は無関係なのに
ラーメン店の数が多い都道府県ほど、脳卒中の死亡率が高い。そんな驚きの研究を、自治医科大学医学部内科学講座神経内科部門の松薗構佑講師らが2019年、英国の栄養学専門誌『Nutrition Journal』に発表した。
松薗講師らは、NTTタウンページに許可・協力を得て、4種類の外食店「ラーメン」「ファストフード店」「フランスおよびイタリア料理店」「うどんおよびそば店」の店舗数の電話登録を利用し、都道府県ごとに男女別人口あたりの店舗数を算出した。そして厚生労働統計協会の「国民衛生の動向」(2015年)を用いて「脳卒中」と「心筋梗塞」による死亡率を集計し、4種類の外食店との関係を調べた。その結果、「ラーメン店の数」と「脳卒中の死亡率」に統計的に有意な関連性があったという。つまり、「人口あたりのラーメン店の数が多い都道府県ほど、脳卒中の死亡率が高い」結果が示されたのだ。
研究報告に基づき、「人口あたりのラーメン店舗数が多い都道府県」と「脳卒中死亡率が高い都道府県」を下記に挙げよう。
![【図表】「人口あたりのラーメン店舗数が多い都道府県」と「脳卒中死亡率が高い都道府県」(男性)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/9/1200wm/img_6995c47ac9b4af7756f1445f568019ae514188.jpg)
![【図表】「人口あたりのラーメン店舗数が多い都道府県」と「脳卒中死亡率が高い都道府県」(女性)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/c/1200wm/img_4c694d9ca024d4e0d7ee9b02c668edf1512148.jpg)
虚血性心疾患との関連性も調べているが、そちらでは有意な差は見出せず、またほかの3つの外食店(ファストフード店、フランスおよびイタリア料理店、うどんおよびそば店)でも脳卒中や心筋梗塞などとの関連が示されなかった。
■「ラーメンを食べると脳卒中で亡くなる」ではない
ちなみに米国ではファストフードと病との研究報告が複数あり、地中海食と呼ばれるフランス料理は動脈硬化を予防することで知られている。日本では讃岐うどんが地域食として有名な香川県は糖尿病患者が多いが、それらは結果には反映されなかった。松薗講師がこう解説する。
「この研究はあくまで『店舗数』なのです。うどんとそばはだいたいカテゴリーが同じですので、そばとうどんの店舗、それぞれでは検証できません。それに関連して、有意な関連があったラーメン店も、『ラーメンを食べると脳卒中で亡くなる』という結果が示されたものではないということです。食品との因果関係を直接証明した研究ではありません」
ラーメン店に行っても、餃子やチャーハンなど他のサイドメニューを注文することもあり、それらが関係しているのかもしれない、と松薗講師が続ける。
「しかし、いずれにしてもラーメン店舗がそれだけ多いということは、その地域にラーメンの需要があるということ。そしてラーメンは一般的に高塩分食です。医学的に脳血管に悪影響を与える塩分を摂りすぎていいことはありません。過剰な塩分は血管への毒性が指摘されています。そういった食事を好む地域は脳卒中死亡率が高い傾向にあると考えてもいいのではないでしょうか」
![自治医科大学医学部内科学講座神経内科部門の松薗構佑講師と同大学同部門の藤本茂教授。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/3/1200wm/img_73be48182d15a04cbf9cb74081335f77599111.jpg)
■「重症の脳卒中の割合が高いのかもしれない」
また研究結果を見る上で、もう一つ気をつけなくてはならないことは「脳卒中の死亡率」を示しているという点。「発症率」とは違うということだ。同大学同部門の藤本茂教授が補足してくれた。
「発症率と死亡率は異なります。『ラーメンを食べると脳卒中が起きる』ではありません。一般の方はそこを勘違いしないでいただきたい。今回心疾患では有意差が出ませんでしたが、心疾患には心出血はありません。一方で脳卒中には脳の血管に血栓が詰まる脳梗塞と、脳の血管が破れて起こる脳出血があり、死亡率が高いのは脳出血のほうです。そういうことを考えると、研究結果で死亡率が高いということは、重症の脳卒中の割合が高いのかもしれません。今後の検証が必要ですが、ラーメン好きの多い地域は重症の脳卒中が起きている可能性があるということです」
繰り返しになるが「ラーメンが悪」と決まったわけではない。その地域の「ラーメンの消費量」ではないのだ。ラーメン店は夜まで営業する店が多く、夜中にラーメンを食べるような生活習慣が悪影響を及ぼしたとも考えられる。
「夜にラーメンなどの高カロリー食を摂るというのは、あまりいい生活習慣ではないですよね。私もよく食べましたが……」
と、博多出身の藤本教授が笑う。
■栃木県内で運転中に「ラーメンの看板が多い」と思った
研究を主導した松薗講師は、今回男女ともにワースト10にランクインしている鹿児島県で生まれ育った。大学卒業と同時に24歳で鹿児島を去り、初期研修は秋田県、その後岡山、大阪、京都と赴任し、8年前から栃木県で診療を行っている。
「2府3県と居住し、就業する中で同じ日本という国にありながら、各地域で方言も全く違う、習慣も違うことを実感しました」と松薗講師。
「生まれ育った鹿児島、赴任した秋田、現在診療している栃木は日本の中で脳卒中死亡率が高い県、かつて赴任した大阪、京都は低い県です。関西は薄味の傾向にあると思います。そして岡山は、それらの中間に位置します」
松薗講師は栃木県で脳卒中診療に携わり、入院患者の家族歴で脳卒中罹患の多さに驚いたという。その原因を解明し、死亡率を減少させることに貢献したい、と思った。
「脳卒中死亡率が高い鹿児島、秋田、栃木は地域の特性がかなり異なっていますが、その中で何か共通点がないだろうかと考えていたんです。そんなある日、栃木県内で車を運転していたら、ラーメンの看板が多いことに気づき、これだ! と思いました」
それを機に研究に取りかかったのだという。
「鹿児島も東北も大企業がたくさんあるわけではありません。安価でおいしくて早く食べられるもの=ラーメン、という要素が関係しているのかもしれないと思います」
![山形の辛味噌ラーメン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/5/1200wm/img_555a38014ec1ff4986e2822d3c0b19af569285.jpg)
■チャーシューや卵などのタンパク質から食べたい
だがラーメン好きでも健康を維持している人は多い。松薗講師も藤本教授も筆者もラーメン好きだが、今のところ健康である。
適正なバランスを心がければ、ラーメンは健康的に食べられる。健康検定協会理事長で管理栄養士の望月理恵子氏は「カリウムを意識したトッピング」を勧める。
「ラーメンは高塩分食で、噛まないため血糖値も急上昇しやすいところで罪悪感やデメリットがあると思います。ですからまず塩分を排出するカリウムを意識して取るといいでしょう。ワカメなどの海藻類、コーンがいいですね。どちらも食物繊維が豊富で、一緒に食べると自然と噛む回数が増えることにもつながります」
またラーメンはタンパク質が不足しやすいので、チャーシューや卵で補うといい。
「学生の研究になりますが、ラーメンを食べる時に野菜や果物、肉、卵などを組み合わせて食べることで、尿中ナトリウム排泄量が増えたという報告があります」(望月氏)
またどうしても「麺から」食べたくなるが、麺は糖質の塊。できる限り「トッピングから」食べることを意識したい。チャーシューや卵などのタンパク質から食べると満足感も得やすいという。
■青森には「味噌カレー牛乳ラーメン」がある
そして「つけ麺」はトッピングが少ない分、麺の量がラーメンの1.5~2倍くらいとなる店が多い。
「どうしても食べたい場合は、やはりチャーシューなどトッピングを多くするように工夫しましょう。最近、あるお店で『納豆つけ麺』を見かけていいなと思いました。また、ご当地ラーメンも、比較的栄養素のバランスが取れているように感じます。横浜の『サンマーメン』では新鮮な野菜や肉が麺の上に乗っていますし、岡山の『トンカツラーメン』では一食として十分な肉(タンパク質)がのっています。ただし、とんこつや味噌バターは高カロリー・高塩分なので避けたほうがいいかもしれません」
青森では味噌カレー牛乳ラーメンがある。管理栄養士の小山浩子氏が青森のあるお店で塩分量を試算すると、1杯約10g。そして訪れる人は皆スープを飲み干していったというから、健康面では心配になる。
![青森県青森市の名物「味噌カレー牛乳ラーメン」](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/8/1200wm/img_f85e5a38aaa4d6719d16e463c0543937514227.jpg)
たまにこってり味が欲しくなる気持ちもわかる。しかしその際は、スープは飲まずに。また、ちぢれ麺よりも、スープがからみにくいストレート麺がお勧めだ。野菜や肉のトッピングも忘れずに。
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ジャーナリスト
1978年生まれ。本名・梨本恵里子。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)など。新著に、『野良猫たちの命をつなぐ 獣医モコ先生の決意』(金の星社)と『老けない最強食』(文春新書)がある。ニッポン放送「ドクターズボイス 根拠ある健康医療情報に迫る」でパーソナリティを務める。 過去放送分は、番組HPより聴取可能。
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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)
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