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「笑顔を見せれば好印象」は大間違い…昭和・平成は問題なかったが令和時代に増加した"笑顔"のリスク

プレジデントオンライン / 2024年7月8日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bluberries

ビジネスで求められるコミュニケーションとはどのようなものか。物流エコノミストの鈴木邦成さんは「自分は十分な笑顔を見せているつもりでも、テレビやYouTubeで大きな笑いを見慣れている今の時代は『笑っていない』ととらえられるリスクはかなりある。そうなると笑顔の存在自体がコミュニケーションに“滞り”を生むストレスになる。『笑顔を見せれば好印象だ』というバイアスは捨てるべきだ」という――。

※本稿は、鈴木邦成『はかどる技術』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

■欧米に「アイスブレイク」という概念は存在しない

営業先ではいきなり本題に入らず、まずは相手を知るという意味で、アイスブレイクを行うのがいいと、よくいわれます。

アイスブレイクとは初対面の人同士が打ち解けることを目的に行われ、自己開示や雑談、あるいはちょっとしたゲームなどを提供することで場の雰囲気を和(なご)ませる効果があるというのが定説です。

実際、アイスブレイクの信奉者も多く、営業だけでなく、会議や新入社員研修などでも行われています。

しかし、アイスブレイクの概念については突っ込みどころが満載です。

まず、アイスブレイクというのは和製英語で、欧米にはそんな概念は存在しません。そもそも欧米と日本では雑談の定義自体が異なるのです。

日本語の雑談に当たる英単語としてはチャット(chat)があります。ただし、チャットというのは、よく知っている人が目的を持たずに話す場合に使われる単語です。「緊張をほぐす」という意味合いでは使われません。

友だち同士の打ち解けた感じでの「他愛もないおしゃべり」を意味するので、アイスブレイクとはかなりニュアンスが異なります。

そこで、日本語の(というか和製英語の)アイスブレイクのように会話の冒頭で緊張をほぐす場合は、スモールトーク(small talk)が使われます。

スモールトークというのは、ショッピングするときなどに店員と交わすちょっとした会話のことをいいます。基本的には、よく知らない人にちょっと話しかける場合のトークと解釈していいでしょう。

■そもそも緊張をほぐす必要があるのか?

また、フランス文化圏では「カフェで話そう」といった場合は、「議論する」という意味で、英語のディスカッションに当たるdisputer(ディスピュテ)という単語を使います。

商談などの導入部分に自己紹介などをすることはありますが、それは「緊張をほぐす」という意味合いではないはずです。

アイスブレイクは「緊張をほぐすためのトーク」となっていますが、大の大人が営業や商談でそんなに緊張するでしょうか。仕事で人に会うのに多少の緊張はあるかもしれませんが、わざわざそのために前振りのようなトークをして、ほぐす必要はないような気がします。

しかも問題なのは、「アイスブレイクをどうやればよいかわからない」「本論からなら話せるが、アイスブレイクが負担になっている」という人が意外と多いことです。

もっというと、日本の場合、アイスブレイクや雑談が原因のトラブルがかなり多いのです。「雑談で余計なことをいってしまった」「プライベートに踏み込んだようなことをいったら相手の機嫌を損ねた」という経験は少なからず誰にでもあるのではないでしょうか。

■かえって緊張するくらいなら、いきなり本題に入る

たとえば、取引先との商談の冒頭で、「私はゴルフが好きなんですよ」と言ったとき、「そうですか。私はゴルフはしないんですよ(笑)」と笑顔で返されたら、多くの人は戸惑うはずです。

「失礼なことをいったかな」と考える人もいるでしょう。あるいは「気を使って笑顔を見せてくれたのかな」と相手の笑顔を気にする人もいるかもしれません。

結局、商談以外の部分が気になり、緊張はほぐれるどころか、かえって緊張することになります。

したがって、そんなリスクを抱えるならば、何も話さないほうがいいでしょう。「今日は暑いですね」くらいの挨拶(あいさつ)を交わしておけば、わざわざ相手のプライベートに踏み込んだ話をする必要もなくなります。

笑顔で握手をする二人のビジネスマン
写真=iStock.com/somethingway
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/somethingway

アイスブレイクがうまく決まるときもあるかもしれませんが、その確率は考えている以上に低いので、それならば、いきなり本題に入ったほうがよいでしょう。

だいいち、アイスブレイクなしでいきなり本題を始めても怒り出す人なんていませんよね。だとしたら、そのことで悩むのはナンセンスというものです。

結論として、「アイスブレイクはしなくて済むならしないほうがよい」と考えたほうが緊張もほぐれていくのです。

■効率化の視点からは「挨拶は無意味」

ビジネスシーンにおいて、挨拶はありとあらゆる場面で必要になります。これまで、挨拶は当たり前のように行われてきましたが、令和の時代は「挨拶はしたくない」という人も増えています。

確かに滞りを生むケースも少なくありません。

たとえばデスクワークをしているときに入室してきた人が「失礼します」「こんにちは」という挨拶をしてきたら、作業が止まったり、考え方がまとまらなくなったりするきっかけとなります。

多くの人が入ってくる部屋で作業をしていると、その都度応(こた)えていれば、かなりの時間がムダになります。実際、私も挨拶ばかりで仕事にならなかったという経験があります。

また、仲の良くない同僚や上司とすれちがったときに、「挨拶してくれなかったらどうしようか」という不安を感じる人もいます。機嫌の悪い人ならば、ぶっきらぼうな挨拶をするでしょうが、それを気にする人も少なくありません。

ところが物流センターなどでは「大きな声で挨拶する」ということが基本になっています。これはセキュリティチェックの意味合いもあります。「不審な人物が物流センター内に入っていないか」ということを確認する意図もあるのです。

こちらに笑顔を向ける倉庫の作業員
写真=iStock.com/lisegagne
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lisegagne

マンションのエレベーターで知らない人同士でも軽く挨拶を交わすことがあります。これも同じように声を掛け合うことで不審者の侵入をけん制する効果があるのです。

このように挨拶をある意味、戦略的に使うことはあります。けれども令和の時代、形式的な挨拶は不要になってきているともいえます。

■必要かどうか微妙なときはこれをする

オフィスはフリーデスクやフリーアドレス、出勤時間帯はフレックス、仕事はパソコン中心となると、「お先に失礼します」「お疲れ様でした」といっても、「今来たばかりなのに」ということもあるでしょう。

また、イヤホンなどを使っている場合は、声も聞こえないので挨拶の声が聞こえないこともあります。したがって、タイムマネジメントの視点から考えると、挨拶の効果はほとんど感じられないのです。

マンションのエレベーターでも声をかけると「この人はこの階に住んでいるのか」と余計な情報を与えて、ストーキングのきっかけになることもあります。

声をかけて安全を確認するといっても、不審者のほうに悪用され、不審者ゆえに声がけを行い、「信用できる存在」であることをアピールしてくることもあります。

もちろん、コミュニケーションの潤滑油として挨拶は重要でしょう。でも、過度な挨拶、不必要な挨拶はこれから淘汰(とうた)されていくように思えます。

私は挨拶が必要かどうか微妙なときは会釈だけにしています。

エレベーター内で知らない人から言葉をかけられたら、軽い会釈で終わりにしています。フリーデスクのオフィスに入る場合も挨拶は不要で、会釈だけで十分と理解しています。日本式の会釈が通じないような状況では手を軽く上げて笑顔を見せることにしています。

挨拶をする場合、「その挨拶が本当に必要か、挨拶しても煩わしいだけか」を考える必要性を時代が求めているのです。

あえて挨拶をしないという選択が、コミュニケーションを円滑に行うためのコツとなる時代なのです。

■令和の時代の笑顔は意味合いが異なる

挨拶の延長に笑顔もあります。

ちょっと驚かれるかもしれませんが、令和の時代では笑顔は自分が見せるときも相手に見せられるときも微妙な滞りが生じることになります。

昭和や平成の時代であれば、「笑顔を見せることで打ち解けられる」「相手に親しみを感じてもらえる」といったポジティブな効果しか感じられなかったと思います。「何はともあれ、まずはスマイル」というのが、営業でもコミュニケーションでも基本と考えられていました。

しかし、令和の時代の笑顔はちょっと意味合いが異なってきます。

まず、これだけ進んだデジタルトランスフォーメーション(DX)の世の中では、意思の疎通を行うツールは豊富にあります。コミュニケーションの手段としてのデジタルもメールだけでなく、ZOOMもあれば、LINEもあります。

笑顔は「(笑)」でも表現できますし、絵文字でもかまいません。笑顔の画像や動画を使う人もいます。わざわざ対面でつくり笑い(と思われる笑顔)をする必要はないわけです。また、相手から「本心からの笑顔だろうか」と疑われる可能性もないわけです。

笑顔でスマホを見ている女性
写真=iStock.com/AsiaVision
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AsiaVision

■笑顔が安っぽくなった時代

さらにいえば、近年、笑い自体の質はオーバーになってきています。

米国カリフォルニア大学バークレー校の研究者が、全米26州800冊の卒業アルバムから画像3万7000枚を分析したところ、年代が進むにつれて笑顔が大きくなっていることがわかりました。

日本でもお笑い芸人がテレビに出ない日はないという状況です。笑いや笑顔が次第に大きくなってきていると考えて不思議はないでしょう。

そのため、ちょっとした笑顔では理解してもらえないことも増えているように思えます。

「あの人の表情は笑顔だったのかな」「もっとはっきり歯を見せて、笑っていることをアピールしなければ、相手に伝わらないのではないかな」などと考える傾向にあるのです。

自分は十分な笑顔を見せているつもりでも笑いがオーバーになっている今の時代では「笑っていない」ととらえられるリスクはかなりあります。テレビやYouTubeで大きな笑いを見慣れていれば、相手がほんのちょっと笑ったくらいでは満足できないこともあります。

■「笑顔を見せれば好印象だ」というバイアスは捨てるべき

そうなると笑顔の存在自体が滞りを生むストレスになります。笑顔を見せたつもりでも相手は「笑っていなかった」と判断するかもしれません。その逆も考えられます。

鈴木邦成『はかどる技術』(フォレスト出版)
鈴木邦成『はかどる技術』(フォレスト出版)

さらにコロナ禍で笑顔を見せられないとなると、何が笑顔なのかもわからなくなってきます。

もっといえば、今後、AIにより笑顔も画像解析され、「つくり笑い」「本心を隠す笑顔」などが分析されていくことにもなるでしょう。単に人当たりのよい笑顔で対人関係がよくなるという時代は終わりつつあるのです。

「笑顔を見せれば好印象だ」というバイアスは捨てるべきでしょう。また、人の表情を気にするあまり、「あまり笑顔でなかったから自分は嫌われているんだ」と、相手の表情を気にしすぎるのも、もうやめたほうがいいのです。

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鈴木 邦成(すずき・くにのり)
物流エコノミスト、日本大学教授
一般社団法人日本ロジスティクスシステム学会理事、電気通信大学非常勤講師(経済学)。専門は物流およびロジスティクス工学。物流改善などの著書、論文多数。普段から学生やビジネスパーソンから専門分野に関する相談を受ける一方で、就職、転職、資格試験の勉強方法、職場での時間管理や人づきあいなど、幅広い悩みについても意見を求められるという。そうしたやりとりのなかで、物流・ロジスティクス工学の知見を、「仕事や人生の滞りをなくす」という視点から悩みに当てはめることで、思いがけない解決策を導けることに気づく。主な著書に『トコトンやさしい物流の本』『入門 物流(倉庫)作業の標準化』『トコトンやさしいSCMの本』(いずれも日刊工業新聞社)、『シン・物流革命』(中村康久氏との共著、幻冬舎)、『物流DXネットワーク』(中村康久氏との共著、NTT出版)などがある。

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(物流エコノミスト、日本大学教授 鈴木 邦成)

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