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会話の中で「アレ」「コレ」が増えたら要注意…最新研究が明らかにした「おりがみ脳活」の驚くべき効果

プレジデントオンライン / 2024年7月5日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

健康で長生きするにはどうすればいいのか。脳科学者の西剛志さんは「脳の老化を防ぐことが大切だ。指先を速く動かすことで脳の認知機能を高めることができるため、おりがみは脳活に最適な方法の一つと言える」という。86歳のおりがみ作家・伊達博充さんの著書『脳科学でわかった! 80歳からでも若返るすごい脳活おりがみ』(あさ出版)から、2人の対談を紹介する――。

■歳を重ねても脳のネットワークは進化する

【西・脳科学者】あるピアニストの研究で、指を速く動かせるピアニストのほうが、より脳の神経細胞が活動していることがわかりました。つまり、指を速く動かせるかどうかは指の筋力の違いではなく、脳の活動状態の違いだったというわけです。

いってみれば、歳を取るといろいろなところの筋力が衰えますが、指を速く動かすことに関しては、筋力よりも脳のほうが影響が大きいということです。

実際に歳を取っても指を速く動かす練習をすると、認知機能が上がる、という研究結果もあります。これは、指を速く動かすことで、神経細胞が活性化するためです。

【伊達・おりがみ作家】高齢者でも神経細胞は活性化しますか?

【西】60歳以上でも、あきらめる必要はありません。個人差はありますが、練習で指を速く動かせるようになるにつれて、脳の活動が増えていきます。

【伊達】意外です。歳を取ると脳の神経細胞は減るものだと思っていました。

【西】基本的に加齢によって神経細胞の数は減ります(ただし、一部の神経細胞は増えます。第5章で詳しく説明します)。しかし、神経細胞同士をつなぐネットワークを増やすことはできます。刺激を与えると、このネットワークが増えることがわかっています。脳にとって神経細胞同士のネットワークを増やし、質を高めることがとても大切なのです。

■刺激を与えることで神経細胞は活性化する

【伊達】神経細胞が減ってネットワークが増える?

【西】わかりにくかったですかね。たとえば、脳を損傷して、足が動かなくなった人でも、リハビリを行って歩けるようになった、というケースはよくあります。これは脳の損傷した部分はそのままでも、神経細胞のほかのネットワークをつなぐことで、補われて、歩けるようになるためです。

何もしなければ、ネットワークはできませんが、動かそうと刺激を与えると、神経細胞がつながって、動作するようになります。

【伊達】なるほど、刺激を与えることが大切なんですね。

【西】その通りです。少し難しくなりますが、神経細胞と神経細胞をつなぐ「スパイン」という神経細胞があって、刺激を与えると数分でスパインが細胞からニョキニョキたくさん出てきます。

細胞を介してスパイン同士がつながると、新しい神経ネットワークができるのです。ネットワークは大人になってからでもいくらでもできます。つまり、私たち人間は歳を重ねてもまだまだ進化できるというわけです。

【伊達】それは嬉しい。「人間の脳は6歳までに90%以上が完成する」と聞いたことがあります。小さい子どもを見ると、まだまだ伸びしろがたくさんあると思ってきましたが、私たち高齢者も捨てたもんじゃないんですね。

■アルツハイマーの進行を遅らせることができる⁉

【西】「脳の発達は6歳まで」といまも信じられていますが、それは古い常識。私はその常識を打ち破っていきたいと思っています。大人だってまだまだ捨てたもんじゃありません。

【伊達】でも、私のように80歳を過ぎても大丈夫ですか?

【西】もちろんです! 指を動かすことで、刺激になり、脳の神経細胞同士のネットワークがつながる可能性は大いにあります。

【伊達】アルツハイマー病の予防にもなりますか?

【西】期待できるかもしれません。重度になってしまうと難しいかもしれませんが、軽度の場合は、トレーニングによってアルツハイマーの進行を遅らせることができることもわかっています。

手をつないで歩くシニアカップル
写真=iStock.com/pixelfit
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pixelfit

■おりがみで「あれっ、名前が出てこない」がなくなる

【伊達】高齢になると、人の名前が出てこなかったり、いろいろなものの名前が思い出せない人もいますよね。「ほら、あの人、誰だっけ?」とか、「あれ」とか「これ」とか、指示語がやたらと多くなったり(笑)。そういうのも、おりがみを折ることで減る可能性はありますか?

【西】そうですね。おりがみを折ることで言語力が上がることがわかったという研究はあります。この研究では、19人の被験者を集めて3週間、おりがみやほかの手を動かす訓練をしてもらいました。その結果、2つのことがわかりました。ひとつは訓練期間の前後で、手先の器用さが上がったこと。

もうひとつは、意味言語課題(言葉の意味をいってもらう課題)で、言葉の意味を回答するスピードが速くなったことです。

【伊達】言葉の意味をパッと答えられないのと、人の名前が出てこないのとは、少し違うような気もしますが。

【西】因果関係はまだよくわかっていませんが、この実験がそもそも、絵を見せてそれが何かをパッといえるかどうかを問う形で行われたことを考えると、記憶を引っ張り出して言語化する能力はおりがみによって上がったといえるでしょう。

そう考えると、おりがみを折ることで、会話の中の「あれ」や「これ」などがなくなることが期待できるとも考えられます。

【図表1】タンチョウヅルの折り方
出典=『脳科学でわかった! 80歳からでも若返るすごい脳活おりがみ』

■「頑固老人」から「穏和老人」へ

【伊達】ほかにはどんな研究がありますか?

【西】海外の研究ですが、実際におりがみのトレーニングをしたことで、「女性のメンタルローテーション力が高まる」という研究もあります。

メンタルローテーション力とは、たとえば、積み木で何かを作るときに、それを回転させると、どんな形になるか、頭の中で想像する力のことです。IQを測るときに、複数積まれている積み木を、裏側に隠れているものまで数える、という問題があります。メンタルローテーション力があるかを見る問題です。

営業の方で、お客様に見えるように資料を渡すと、自分がまったく読めなくなる人がいます。これは、メンタルローテーション力が弱いためです。

【伊達】年齢とメンタルローテーション力は何か関係がありますか?

【西】歳を取ると、メンタルローテーション力は下がる傾向にあります。視点が固定されてしまい、いろいろな角度からものを見るのが難しくなります。昔はそうでもなかったのに、高齢になって頑固になるのはこのためです。おりがみを続けてメンタルローテーション力が上がると、頑固さがなくなり、穏和な性格になる可能性もありますね。

【図表2】頭の中で想像してみる
出典=『脳科学でわかった! 80歳からでも若返るすごい脳活おりがみ』

■脳は新しいことにチャレンジするのが好き

【西】パンダにゴジラに犬……。伊達さんのおりがみは、どれをとってもオリジナルなものばかりですね。

【伊達】自分で工夫して、ああでもない、こうでもないって、やっているのが楽しいんですよ。それ、脳の老化防止にかなり役立っていると思います。

【西】「創造性には、新しいことに対してオープンな態度と、柔軟な思考が必要」ということがわかっています。保守的な人は新しいものを作り出すのが苦手です。たとえば、電化製品で新製品に興味がない人は、創造性が乏しい傾向にあります。

常識にとらわれていて、柔軟な思考ができない人もそうです。離れた場所に暮らす人とのコミュニケーションは電話が当たり前、と思っていたら、メールでのやりとりは生まれていなかったわけです。伊達さんも保守的というより、柔軟な思考をされるほうですね。

【伊達】それは、あるかもしれません。おりがみでも、昔からある伝統的な折り方をベースにしつつも、自分で紙をいじりながら、オリジナルを作るのが楽しいです。

【西】その発想こそが大事なんです。

■おりがみで4つの認知機能が鍛えられる

【西】もうひとつ、2020年におりがみについての論文が出ましたので紹介しておきましょう。おりがみは科学的に見ると4つのプロセスに分けられます。

「説明書きを読む(リーディングプロセス)」……言語機能を使う。
「意味を構築する(リフォーミュレイティング)」……言葉の意味を頭の中でイメージして折る。
「再概念化(リコンセプチェライジング)」……2次元を3次元に変換する。説明書き(2次元)を見て、頭の中で立体的にイメージ(3次元)すること。
「評価する(エヴァリュエイト)」……頭の中で、できたものと説明にあるものが一致するか確認する。

科学的に見ると、おりがみを折ることは、この4つの認知機能を使っている。つまり、おりがみの本や折り図を見ておりがみを折るのは4つの機能のトレーニングを同時にしているようなものともいえます。伊達さんは毎日おりがみを折っていますよね?

【伊達】はい、時間を見つけては折っています。最初はおりがみの本を買っては折っていましたが、いまはもっぱら動物の写真集を見ては、こういうふうに折ろう、ああいうふうに折ろう、と考えている時間がほとんどです。

【西】なるほど。脳が若々しいと感じる理由がわかったような気がします。

【図表3】おりがみと4つの認知機能
出典=『脳科学でわかった! 80歳からでも若返るすごい脳活おりがみ』

■脳は「生きがいに」によって若返る

【西】最後に、脳は何歳になっても若返るというお話をしておきましょう。アメリカのラッシュ大学で発表された「生きがいのある人」は脳が萎縮しても認知機能が高い、という有名な研究結果があります。この研究は250人の高齢者を10年調査し、亡くなったときにそれぞれの脳を解剖したものです。

その研究では、生きる目標がなかった人に比べ、生きる目標があった人は、アルツハイマーの病変があったとしても高い認知機能を維持していた、ことがわかったのです。

見た目はアルツハイマー病と診断するような病変があったけれども、認知機能を調べてみると、結構高かった、というケースです。

【伊達】アルツハイマーなのにボケていなかったということですか?

【西】その通りです。少し専門的な話をすると、β-アミロイド(脳で作られるタンパク質の一種)が排出されずに、脳の中にたまってしまうと、健康な神経細胞やシナプスを傷つけ死滅させるため、脳が萎縮します。その結果、アルツハイマーになるといわれます。しかし、生きがいのある人は、脳が萎縮しても、高い認知機能を保っていたというわけです。これ、なぜだと思いますか?

■趣味が多いほど認知症になるリスクが下がる

【伊達】先ほどの話に出てきた歳を取ってもつながる脳のネットワークと何か関係がありますか?

【西】はい。生きがいのある人のほうが、脳のネットワークが豊富なため、認知機能が保たれていた、と考えられています。もっといえば、「生きがいがない人」は老化が進みやすい、ということです。男性で、奥さんが亡くなると、急激に老けてしまうパターンが結構あります。

それは、「老後は奥さんと一緒に○○をやろう」と思っていたのに、奥さんが亡くなったことで、急に生きがいや目標を失ってしまうからです。もう生きる意味はない、と考えて一気に老けてしまうんです。

【伊達】妻と一緒の趣味があってもいいけれど、自分ひとりでもできる趣味があるともっといいわけですね。それが、生きがいになるようなものだとさらにいい。

伊達博充著、西剛志監修『脳科学でわかった! 80歳からでも若返るすごい脳活おりがみ』(あさ出版)
伊達博充著、西剛志監修『脳科学でわかった! 80歳からでも若返るすごい脳活おりがみ』(あさ出版)

【西】その通りです。伊達さんのように、一生懸命になれる「おりがみ」という趣味をもっていることは、脳の老化防止に大変役立っていると考えられます。

趣味の数と認知症のリスクの関係という研究結果もあります。趣味が多いほど認知症になるリスクが下がります。だいたい30%下がります。

おりがみに限らず、何か趣味がある人、夢中になるものをもっている人は、脳が老化しにくいのです。しかも趣味の数が多いほどいいんです。女性は4個、男性は5個あると、認知症のリスクがいちばん下がる、という結果でした。

〈参考文献〉
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・創造性には新しいことへのオープンな態度と柔軟な思考が関係する/ Furnham, A., Zhang, J., and Chamorro-Premuzic, T. (2005). _erelationship between psychometric and self-estimated intelligence, creativity, personality and academic achievement. Imag. Cogn. Pers. 25,119-145.
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伊達 博充(だて・ひろみつ)
創作おりがみ作家、一級建築士、核建築設計事務所代表取締役
1938年、大阪市都島区生まれ、鹿児島市出身。旭化成工業(現・旭化成)や大和ハウス工業などを経て、早稲田大学大隈講堂の設計者の佐藤武夫設計事務所(現・佐藤総合計画)に在籍。1966年に独立し、現在に至る。本業の傍ら東京青山「おりがみ倶楽部」を主宰し、創作おりがみでは、2021年「紙わざ大賞30」にて「牛」が、2023年「紙わざ大賞31」にて「闘牛」がそれぞれ入選している。

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西 剛志(にし・たけゆき)
脳科学者
1975年生まれ。東京工業大学大学院生命情報専攻卒。博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。テレビやメディアなどにも多数出演。著書に『脳科学者が考案 見るだけで自然と脳が鍛えられる35のすごい写真』『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』『世界一やさしい自分を変える方法』(以上、アスコム)などがある。著書は海外を含めて累計32万部を突破。

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(創作おりがみ作家、一級建築士、核建築設計事務所代表取締役 伊達 博充、脳科学者 西 剛志)

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