なぜコーヒーより中毒性が弱いティーチェーンが儲かるのか…あのタピオカ店もブーム終焉後ティーで絶好調
プレジデントオンライン / 2024年7月3日 10時15分
「カフェチェーン」と聞いて、どこの店を思い浮かべるだろうか。
スターバックス、タリーズ、ドトール、コメダ……多くの人がコーヒー系をイメージしたのではないか。しかし最近、この傾向に変化が出てきた。「ティー」を主力商品とするチェーンがじわじわと勢力を伸ばしてきたのである。
スターバックスコーヒーが手がけるティー専門店「STARBUCKS Tea & Café」は2024年に入って出店を加速させている(現在14店舗)。また、タリーズコーヒーが運営するティー専門店「&TEA」も、2017年ごろからじわじわと数を増やし続けている(現在31店舗)。
さらには、日本を席巻したタピオカブームの寵児ともいえる「ゴンチャ」は、ティーチェーンとしてその勢力を拡大し続け、タピオカブームの終焉やコロナ禍などのマイナス要因をはねのけ、右肩上がりで成長を続けているという。28年までに国内400店舗に拡大する計画だという。
どうして今、ティーチェーンの勢いがあるのか?
■根付かなかった「ティーチェーン」
ティーを中心メニューとしたチェーンストアはこれまで大きな存在感を発揮できなかった。
例えば、スタバ系のティー専門店であった「ティバーナ」は2017年、全米にあった379店舗を閉鎖した。コーヒーと同じぐらいのビジネスの成長が見込めないことがその理由だったが、スタバほどの規模感を持つ事業者でも、ティーを主体とした店舗の継続が難しいと判断したのだ。
ひところ、日本でもXを中心として「なぜ紅茶チェーンは広まらないのか」が話題になった。そうした投稿へのリプライとして、以下のような理由がポストされていた。
「コーヒーと比べて中毒性が弱く、来店回数頻度をあげることで利益を上げるファストフードには向いていない飲み物であること」
「そもそも紅茶自体が、アフタヌーンティーに代表されるように“ゆっくり”飲むものであり、カフェチェーンが志向する“ファスト”なスタイルとの親和性がない」
「そもそも茶葉の品質管理が大変で、かつ茶葉の種類が多く、チェーンオペレーションで均一にすることが難しい」
ティーという商材ではビジネス的な利幅が望めないことが、その拡大を阻んでいた。そんな見立てがあったが近年「ティーチェーン」がじわじわと勢力を伸ばし始めている。
■各社それぞれのやり方で「紅茶」で利益を上げる
各ティーチェーンはどのように利益を挙げているのか。例えば、スタバ。
スターバックス コーヒージャパン商品本部本部長の加藤桜子さんは、「ここ数年でティー部門に力を入れている」と述べている(出典「スタバが「紅茶特化店」を増やす理由。タリーズも全国30店展開」https://www.businessinsider.jp/post-286249))。興味深いのは、その拡大のさせ方だ。既存のスタバ店舗の近くに、あえてティー専門店を配置することで、相乗効果でその双方の店舗の売り上げが上がるのだという。
気分によって、コーヒーを飲みたい日と紅茶を飲みたい日は分かれる。スタバしかなければ紅茶を飲みたい層は取りこぼしてしまうが、紅茶専門店が近くにあれば、そちらに入ってもらえる、というわけだ。
スタバは国内店舗数でも群を抜いており、圧倒的な知名度を持つ。そのブランド名に惹かれ「スタバのティー」が近くにあれば行く、という層も一定数いるのだろう。そのような既存のコーヒー主力の業態とのシナジーを見込んで増収を挙げているのだ。
これに対して、タリーズコーヒーが展開する「&TEA」は、フレーバーの豊富さだけでなく客単価を上げることで利益を上げている。「&TEA」の客単価は、通常のタリーズコーヒーの客単価に比べると1〜2割ほど高いという。
実際、商品を見てみるとデパ地下の本格スイーツのような600円以上するケーキなども売っており、こうした商品とのセットで客単価が上がっているのだろう。だが、値段が高いだけでは成長は持続しない。そもそも、タリーズコーヒーの運営元は伊藤園であり、「お茶」の会社である。その祖業ともいえる「お茶」の品質を活かし、高品質・高単価というビジネスモデルを確立させているのが、「&TEA」の戦略だ。
また、前者2つとまた異なる戦略を取るのが、タピオカで一躍有名になった「ゴンチャ」。現社長の角田淳さんはティーチェーンとしてゴンチャを拡大させる方向に舵を切っている。
タピオカのブランドイメージだけにこだわらず、ティーを、コミュニケーションを促進するものとして捉えて「meからweの場所を目指す」といった世界観の構築を経営方針にしている(「タピオカブーム終焉なのに絶好調の秘訣」https://newspicks.com/trends/1710/)。
ティーチェーンは、それぞれ、異なるビジネスモデルを模索しながら、これまでは利幅が取れなかったティーをうまくチェーンオペレーションに馴染ませている。
■「スロー」な時代感覚と「紅茶」がマッチした?
しかし「なぜ今、ティーチェーン?」という疑問は残る。それぞれのチェーンは独自の「稼ぎ方」を見出してはいるが、それはもっと前でも構築できたはずだ。ティーを流行らせる、なにか別の要因があるはずなのだ。ひとつは、高まり続ける美容・健康意識の影響だ。紅茶には抗酸化作用やリラックス効果などがあることが報告されている。だが、それ以外にも理由はある。
ここで考えてみたいのは、特にコロナ禍以後の時代を象徴するような消費の「空気感」である。私は最近、「1000円程度の比較的安めの値段で時間をあまり気にせずだらだらとくつろげることのできる空間」に対する需要を「せんだら需要」と呼んでいる。カフェやサウナ、シーシャ(中東発祥の水たばこで、水のフィルターを通したフレーバー付きの煙を楽しむ嗜好品)など、時間をゆっくりと過ごせる場所に対するニーズが急上昇している。
ここでは詳述は避けるが、筆者が客にインタビューしたり、近年盛り上がりを見せている店舗などを取材したりすると、さらなる伸びしろを肌で実感するのだ。
とりわけその空気が顕著なのがカフェだ。ここ数年、都内を中心とするチェーンカフェの人の多さには目を見張るものがある。(https://jisin.jp/domestic/2322583/)
少し前には、「ファスト」という言葉が流行語のようにもてはやされ「ファスト教養」や「ファスト映画」などという言葉も誕生したが、こうした「ファスト」が持てはやされることに対するある種の反動で、「スロー」に対するニーズが増していると感じられるのだ。
そんな中、カフェイン摂取して眠気覚ましにもなるコーヒーが、どこかファストなエナジードリンクのように受け止められることもあるのに比べ、ティーは優雅にゆっくりとくつろぐことができ、おしゃべりなどを楽しめると評価を得ているのではないか。
こうした流れには、コロナ禍を背景に少しずつ浸透してきた「ヌン活」の影響も見過ごせない。ヌン活はホテルのラウンジなどでの本格的なアフタヌーンティーを指すが、これだと1万円近くかかることもある一方、チェーンカフェなら1000円もあれば済む(https://toyokeizai.net/articles/-/459425)。そんなわけでティーの持つ優雅さを手軽に楽しめるティーチェーンの認知度がさらに増したのだ。実際、ティーを売りにしているチェーンカフェにいくと、店舗デザインがゆったりとした配置になっており、女性たちが話に花を咲かせているのだ。
ただ、注目のティーチェーンとはいえ、その店舗数は珈琲チェーンには及ばない。本当に人々のライフスタイルに根付くかどうかは未知数だが、「チェーン」がファストなものであるという常識に反省が促されつつある現在、ティーが勢力を広げる余地は大きいと思うのだ。
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ライター
1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業後、早稲田大学教育学術院国語教育専攻に在籍。デイリーポータルZ、オモコロ、サンポーなどのウェブメディアにチェーンストア、テーマパーク、都市についての原稿を執筆。批評観光誌『LOCUST』編集部所属。2017年から2018年に「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。
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(ライター 谷頭 和希)
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