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運転をやめた高齢者は8倍の要介護リスク…精神科医・和田秀樹「認知症患者は危ない」は幻想と断言する理由

プレジデントオンライン / 2024年7月7日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/seb_ra

認知症になったら、日常生活で何を気をつけるべきか。精神科医の和田秀樹さんは「日本人は何かにつけて怖がるだけで対策を考えないので、認知症になったら一人で何もできずに周りに迷惑をかけるという思い込みがある。高齢者の運転にしても、国立長寿医療研究センターの調査では、運転をやめた高齢者は運転を続けている高齢者にくらべ、8倍の要介護リスクがあることがわかっている。本当に危ないのかどうかの実態調査や統計学的な調査もまったくしないで、免許を取り上げるというのは、認知症の人に対する差別でしかない」という――。

※本稿は、和田秀樹『みんなボケるんだから恐れず軽やかに老いを味わい尽くす』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■何かにつけて怖がるだけで対策を考えていない日本人

老年精神科医として非常に残念に思っているのは、認知症に対する正しい理解が遅々として進まないことです。

日本は、2007年に65歳以上の人口の割合が21%を超える「超高齢社会」に突入したあとも、高齢化率は上昇を続けています。

昔とくらべ、要介護や認知症がめずらしくなくなっているにもかかわらず、介護保険や福祉のサービスについて事前に調べない人が少なくありません。

コロナにしてもそうでしたが、日本人というのは何かにつけて怖がるだけで、きちんと調べて、いざとなったときの対策を考えていない人が多いのです。

私は、それを「恐れすぎ病」と呼んでいるのですが、この病にかかっているせいか、認知症に対する誤解がなかなか解けない。一時は、昔より偏見が強まっている印象さえ受けました。

人気脚本家の橋田壽賀子(はしだすがこ)さんが、「私は80歳を過ぎた頃から、もし認知症になったら安楽死がいちばんと思っています」と雑誌に寄稿して話題を呼んだのは2016年のことでした。

私はその記事を読んで、正直、やれやれと思ってしまいました。こうした発言をする人は、認知症に対して大きな誤解をしているからです。

■問題行動で迷惑をかける割合は1割未満

認知症になったら一人では何もできなくなって、周りに迷惑をかける。支離滅裂なことを言って、徘徊したり失禁したり、と恥をさらして生きていくことになる。そんなふうに思い込んでいる人がどれほど多いか。

この思い込みが、認知症になるくらいなら死んだほうがマシ、安楽死で死なせてください、という発言に結びつくわけです。

ベッドに横たわる高齢女性
写真=iStock.com/ururu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ururu

認知症の本当の症状や特徴を知らないことが、この病気に対する恐れを増幅させているとも言えます。繰り返しますが、認知症は老化現象の一つですから基本的にはおとなしくなります。だから、それほど迷惑をかけることはありません。

たしかに末期になると失禁や会話ができなくなって周囲の世話にはなりますが、問題行動で迷惑をかけるのはせいぜい5%程度、あっても1割に満たないくらいです。

そもそも迷惑をかけている人は、生きている価値がないのでしょうか。赤ん坊は言葉もわからないし、排泄や食事の世話もすべて大人にやってもらっていますが、邪魔だとか殺せとかいう話にはならないでしょう。なぜ、赤ん坊はよくて、お年寄りはいけないのか。

しかも、お年寄りは、それまでずーっと働いて、納税して社会に貢献してきているわけです。

拙著『どうせ死ぬんだから』でも述べましたが、だれもが社会に「貸しをつくる」生き方をしてきたのですから、人生の終盤は、正々堂々と社会に貸しを返してもらうつもりで迷惑をかければいい。私はそう考えています。

認知症への理解が進まないために、安楽死、つまりは殺してほしいなどと恐れられる病気と思われ、それが高齢者差別のベースとなっているのが、私は残念でなりません。

■誤解を生んだ大学教授とマスコミ

2016年以降、高齢ドライバーによる事故が、ニュースやワイドショーで毎日のように取り上げられ、社会問題化しました。それを受けて翌年から、75歳以上の高齢者が運転免許を更新する際に認知症と診断されたら、運転免許を取り消されることになりました。

これまでも私が著書や雑誌のインタビュー、講演会、SNSなどでしつこく発信してきましたが、こんなおかしな話はありません。

この道路交通法を定めるにあたって、認知症の患者さんをろくに診ていないような大学医学部教授たちがアドバイザーになり、世間の認知症のイメージくらいしか知らない官僚が、法律の文面を考えたとしか思えません。

つまり、私たちみたいに認知症の患者さんをずっと診てきた者であれば、認知症は軽いうちであれば楽勝で運転ができるとわかっています。

私たちからすると、「認知症が一定以上進み、運転に支障をきたすようになったら免許を失効する」というのが正しい文章であって、認知症と診断されたら免許を失効するというのは認知症の本質をまったくわかっていない。

そんな法律をつくったことについて国会議員も誰一人として反対しない。本当に危ないのかどうかの実態調査や統計学的な調査もまったくしないで、免許を取り上げるというのは、認知症の人に対する差別でしかありません。

■運転をやめた高齢者は8倍の要介護リスク

本来なら、マスコミが冷静な解説をすべきなのですが、高齢者が事故を起こしたときにテレビのコメンテーターなどは「やっぱり高齢者の運転は危ないですねえ」と単なる印象論を口にする。

私だったら「免許を返納するとかなりの数で要介護高齢者が増えて、高齢者が不幸せになり、国家の介護予算が増える」と答えますが、そういう本当のことを言う人間はなぜかマスコミから干されてしまうのです。

現に、国立長寿医療研究センターの調査では、運転をやめた高齢者は運転を続けている高齢者にくらべ、8倍の要介護リスクがあることがわかっています。

認知症が一定以上重くなってしまった人であれば、デイサービスなどを利用して外出できますが、そうでない場合、とりわけ地方の高齢者は、自動車がないと外に出る手段がなくなってしまいます。

買い物にも病院にも行けないし、サークルにも参加できません。外出が減ることによる刺激のなさが、認知機能を落としてしまうのです。

和田秀樹『みんなボケるんだから恐れず軽やかに老いを味わい尽くす』(SBクリエイティブ)
和田秀樹『みんなボケるんだから恐れず軽やかに老いを味わい尽くす』(SBクリエイティブ)

だから私は、高齢者の方たちに「免許を取り上げられたらボケてしまいますから、意地でも自主返納などしないでください」と話しています。

いや、そうは言っても認知症の人を運転させたら危ないでしょう、と思われるかもしれませんが、運転に支障をきたすレベルになるとエンジンもかけられません。エンジンをかけて普通に走れる人は、そんなに危険ではないはずです。

実際に、交通事故のもっとも多い世代は24歳までの若い世代です。高齢者の事故が目立つようになったのは、高齢者が増えたから仕方ありませんが、高齢者の死亡事故の場合、対人事故は2割弱、死亡事故の4割はものにぶつかって自分が亡くなる事故なのです。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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