酒もタバコも嗜む94歳"自撮りおばあちゃん"は元気ピンピン…和田秀樹「後悔しない人生後半のお手本」
プレジデントオンライン / 2024年7月10日 15時15分
※本稿は、和田秀樹『みんなボケるんだから恐れず軽やかに老いを味わい尽くす』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■楽しいことだけしていいのが「老いの特権」
70歳にもなれば、もう自分を束縛する組織もないし、子どものためといった義務や責任もありません。仕事の成果とか昇進とか家のローンとか教育費とか、一切考えなくていいのです。
老いは、これまで自分を縛ってきたほとんどの役割から解放してくれて、自由な時間をたっぷりと与えてくれます。その自由をとことん楽しんでいいし、それが許される年齢なのです。
自分の年齢を意識するとしたら、「そうか、もう何をやってもいい年なんだ」と自由になれた解放感を存分に味わえばいい。
そして、自分のやりたいことをやる。体さえ元気なら、好きなときに好きな場所に出かけることもできます。何もしたくなかったら日がな一日、のんびり過ごしても誰の迷惑にもなりません。
しかも自分が楽しければ、それでいいのです。たとえば楽器一つでも、若いうちは「もっと上達したい」とか、「あいつよりうまくなりたい」とか、「ほめられたい」とか、どこかで意識していますから、心の底から楽しめません。
時間のやりくりも大変ですから望んだほどの上達も成果もなければ、続ける気力がなくなります。
しかし、老いてしまえば、そんなことはどうでもよくなります。下手の横好きだろうが何だろうが、自分が楽しければそれでいい。子どものときのように無邪気に楽しいことだけを追いかけられるのは、老いの特権です。
そして、もし飽きたらやめればいいだけのことです。そういう気楽さがあるせいか、年を取ってから始めたことは案外、長続きするものです。
■70歳を過ぎて自撮りの楽しさにのめり込んだ「キミちゃん」
「自撮りのキミちゃん」こと西本喜美子(にしもときみこ)さんは、70歳を過ぎて写真のおもしろさに目覚め、やがて自撮りの楽しさにのめり込みました。
![自撮りをするシニア女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/2/1200wm/img_a2a91aeee43a3025f66cb0419b683fc4308109.jpg)
パソコンも習って、写真を自分で加工し、ユーモラスな写真を次々とネットで公開しています。
2023年、『94歳、自撮りおばあちゃんやりたい放題のひとり暮らし』(宝島社)というエッセーを出していますが、インスタグラムのフォロワー数は36万人(2024年1月22日時点)を超えたそうです。
デイサービスに通いながら、いまも精力的に創作活動を続け、写真教室の友人たちとバーでおしゃべりを楽しみ、お酒もタバコもたしなむようです。
喜美子さんの言葉がふるっていました。
「好きなことばかりしよったら、年も忘れてしもた」
高齢になっても、やはり好きなことに熱中できるのは、楽しくてたまらないものなんだろうと思います。そして夢中になっていると、あっという間に時間が経ってしまう。
童心に返る、というのはこういうことを言うのでしょう。
何の楽しみもなく、ただボケて過ごす人生にはしたくないと誰でも考えるはずです。そうならないために準備を始めるのは、いまです。
子どもの頃に好きだったことを再開してみるのもいいし、やったことがないことでも、おもしろいかもしれないと思ったら、とにかく乗ってみる。つまらないと思ったらやめて、また次を探せばいい。
どんなことでもいいのです。何かを始めるのに遅いということはありません。
■定年退職で人生の答えを出すのは早すぎる
いま、自分の人生を振り返って、どう思われますか?
半世紀近くも勤め続けて、子どもも一人前に育て上げ、家のローンも完済し、とにかく無事にこの年までやってこられたのだから、自分の人生は上出来だと思っていらっしゃるかもしれません。
あるいは、もっと自分のやりたいことをやってもよかったんじゃないか、と不満を抱えておられるかもしれません。
しかし、満足であれ不満であれ、答えを出すのはまだ早すぎます。これから先もまだ長い人生が残っているからです。
少し前までは定年退職というと60歳でしたが、2021年4月から、いわゆる「70歳就業法」が施行され、定年が引き上げられて、多くの人が70歳まで働けるようになりました。
年齢別に見ると、65〜69歳の就業率は10年連続で伸びており、2021年には50%を超えています。
これは、2012年から人口の多い団塊の世代が65歳を超え始めたこと、「人生100年時代」といわれるように平均寿命と健康寿命が延びる一方、少子化で若い世代の働き手が減少しているなど、さまざまな理由が考えられます。
■人生の醍醐味は70歳から
いずれにしても、いまや、第二の人生は70歳から始まると言っても過言ではないでしょう。70歳はまだまだ心身ともに健康で、体力も気力もあり、現役時代と同様の生活ができる最後の活動期でもあります。
これまでつつがなく生きてきたのだから、これからも平穏無事に過ごしていければいいと思うより、老後の長い人生を「今度はどう生きてみようか」と考えたほうが楽しいでしょう。
ここははっきりと、自分にはまだやり残したことがある、やってみたいことが残っているんだと認めて、積極的に第二の人生を考えてみる。そのほうがワクワクしてきませんか。
私は、人生の終盤が幸せであれば、人生は成功だと思っています。「あの頃がオレの絶頂期だったなあ」と、懐かしむ人がいますが、人生はゴールを迎えるその日まで続くのです。
それなら、人生の絶頂期はなるべく後ろに持っていったほうが、その分だけ幸せが長続きするような気がします。
私は、20代のうちに映画監督デビューしたいと思い、30代でミリオンセラーの本を出したいと思っていましたが、どちらも実現できませんでした。
しかし、62歳で『80歳の壁』がベストセラーになり、高齢者向けの本が次々と売れるようになって、遅咲きであればあるほど幸せを強く感じているように思います。
■ボケても、楽しい思い出はたいてい忘れない
映画を初めて撮ることができたのは47歳のときでしたが、いまだにヒット作はありません。もちろん、ヒット作は出したいと思っています。ヒットすれば、その興行収入でまた次の映画を撮ることができると考えると、楽しみが増幅します。
![和田秀樹『みんなボケるんだから恐れず軽やかに老いを味わい尽くす』(SBクリエイティブ)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/f/1200wm/img_0f874fd173bc64166b6d990c01e36cee146610.jpg)
映画監督は年を取ってもできますから、この先の人生にまだまだ絶頂期があると思えば、楽しみはずっと続いていきます。
ただ年齢を重ねるにつれて、どうしても体が衰えていきますから、元気なうちに行動に移しておくという考えも必要だと思います。
たとえば夫婦で世界遺産を訪ね歩きたいと思っていたら、早いうちに実現させてもいいでしょう。パートナーと思い出を共有できて、その後も語り草にできれば、楽しみがずっと続くわけですから。
ボケても、楽しい思い出はたいてい忘れないので、死ぬまで楽しみは続きます。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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