「相続税100%」を導入しなければ超高齢社会を乗り切れない…世代間対立を避け不況を解決する最強策
プレジデントオンライン / 2024年7月12日 15時15分
※本稿は、和田秀樹『みんなボケるんだから恐れず軽やかに老いを味わい尽くす』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■子離れしないと晩年が不幸になる
「日本って、おかしいな」と私がつくづく感じるのは、わが子がいくつになっても、いつまでも「子ども扱い」をするところです。
80代の親が50代の引きこもりの子どもを支えるために、経済的にも精神的にも強い負担を請け負う社会問題のことを「8050問題」と言いますが、親が80歳になっても、なお50代の子どもの面倒を見ないといけない状況は悲劇としか言いようがありません。
子どもが引きこもりでなかったとしても、親に依存している子どもは少なくありません。
50歳になった時点で一度も結婚したことがない人の割合を「生涯未婚率」と呼んでいますが、2020年の国勢調査によれば、男性は28.3%、女性は17.8%です。
もちろん自活していれば問題はないのですが、実家暮らしで、親がいつまでも面倒を見続ける状況になっている家庭も多いのです。
そうなると親は、「自分が死んだあとも子どもが困らないようにしてあげたい」という心理を働かせてしまい、「子どもにお金を残してあげたい」となる人が少なくありません。
高齢になればなるほど「お金を使っている人」のほうが幸せになれる側面があることは本書で述べていますが、子どもにお金を残そうとして、自分のためにお金を使えなくなっている高齢者が想像以上に多いわけです。
■「老後は子どもに面倒を見てもらう」の不幸な結末
子どもにはできるだけのことをしてあげてきたのに、まだ子どもに何か残さないといけないと思う親がいる一方で、いままでこれだけしてやったのだから、子どもに介護してもらいたいと、すっかり子どもに頼りきってしまう親もいます。
親子の関係が密であるために、子どもも親の介護を引き受けてしまいます。在宅介護をすることに決めた子ども世代の中には、親の介護を優先せざるをえなくなって、退職に追い込まれる人が大勢います。
親が80代になっていれば、子どもも結構年を取っているわけですから、体を壊したり心を病んだりする場合もあります。
![セラピストに相談する女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/9/1200wm/img_993a064cbf4b5f1f9bf371772ac818cb201873.jpg)
確かに子どもは可愛いです。可愛いのですが、「一生面倒を見なければいけない」「財産を残さなければいけない」、あるいは「老後は子どもに面倒を見てもらうべきだ」「そのために子どもには嫌われないようにしないと……」といった思考をリセットできないままでいると、親も子も不幸な結末を迎えてしまう事態が起こりえます。
後悔のない人生を送りたいなら、よい意味で「子離れ」をして、親は自分自身の幸せを考えて行動することが大事です。
子どもに関しては、もう少しドライに、「子どもは子ども、自分は自分」と割り切ること。これが、これからの時代においていっそう大切になってきます。
■自分のお金は自分の幸せのために使うこと
たとえ、子どもが定職につけないとか、うつ病になってしまうことがあったとしても、本来であれば、社会福祉によって面倒を見てもらうことが原則です。
長年、納税者として税金を納め、社会の側もセーフティネットを整えているわけですから、あまりに何でもかんでも親が背負おうとしなくていいと思います。
それが結果的に、子どもを自立に導くことになりますし、子どもに老老介護をさせて「親子共倒れ」になるというリスクを減らすことにもつながります。
そして、自分のお金は自分の幸せのために使うことです。財産を残しても子どもたちのトラブルの種になるだけですし、お金を持っているがゆえに不幸になるケースを私はいやと言うほど見てきました。
注意してほしいのは、認知症の場合、子どもが勝手に「成年後見」を申請して、それが認められれば、自分のお金でありながら自由に使えなくなるということです。現実に、そういう悲惨な目にあっている高齢者は少なからずいます。
ですからボケる前に「任意後見」という制度を使って、誰に財産を委ねるかを決めておいたほうがいい。子どもだからといって、信用しすぎるのは危険です。
■私がしつこく「相続税100%」を主張するワケ
私の経験から言うと、金持ちの子どもは、不動産など親の財産を処分して、介護の質が良くアメニティのいい老人ホームに親を入れてあげようという発想にはなかなかならない。
親が死ぬときには60代、70代になっていて、子どもの教育も家のローンも終わっているはずなのに、それでも親の財産をアテにする。
貧乏な家庭の子ども世代は、ほとんどが在宅介護を押しつけられて、自分の老後はよけい貧乏になっていく。介護のために失業して生活保護を受けている人だっていっぱいいます。
それなのに、テレビは生活保護を受ける人たちをバッシングして、親の財産でリッチに暮らす人たちをセレブと称してもてはやす。おかしいでしょう。
私はいまでも、バブル時代に電車の中で、名門中学の受験生と思しき小学生が、「開成に受かって、東大に受かっても、どうせ家の一軒も建たないもんな」と言っていたのが忘れられません。
バブル期には、都心の土地持ちの子どもはスーパーリッチなのに、東大出のサラリーマンは郊外の狭いマンションを買うのがやっとでした。
私が「相続税100%」にするべきだとしつこく言うのも、この「親の財産を相続するのは当たり前」という考え方を何とかしないと、まともな競争社会は生まれないし、超高齢社会は乗り切れないと思っているからです。
■世代間の対立を回避する
私の「相続税100%」というのは、実は生ぬるいもので、親の事業を継承した子どもや親の介護をした子どもの相続税は減免して、それ以外の兄弟の相続税を100%にしろというものです。
家によりつかない子どもや勘当した子どもまで平等相続できてしまう現法とは違って、ある程度、親の側の意思が働くだけ、私はましだと思っています。
現実問題として、農業を継がない兄弟が農地を相続するから、農業を受け継いだ長男が兄弟に地代を払わないといけなかったり、兄弟仲が悪いと、残りの兄弟が相続した土地が荒れ地になっていることが多い。
東京に出てきて農業を継がないとか、ほかの仕事についている人は相続税が100%になれば、おそらく相続放棄をするでしょう。
もう一つ、私が「相続税100%」論を支持する理由は、世代間の対立を回避するためです。
![家のアイコンの周りでメモを取る手、電卓を使う手、提案する手、悩む手](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/4/1200wm/img_14b9c2f69e5c85c9c2508b3a0b790eed522036.jpg)
相続税の増税がない限り、消費税は20〜25%くらいまで上がり、所得税と社会保険料は給料の半分近くになりかねません。
そのほとんどが高齢者に使われるということになれば、年金をもっと下げろとか、高齢者の医療や介護は無駄だとかいう話になりかねません。現にそういう気運も高まってきています。
■お金を使わず、若い世代に頼る現実
そこで、子ども世代の60代、70代が、相続財産をあきらめる代わりに、自分たちの望むように、医療、福祉、年金の財源にあててもらえばいいのです。
そうなると若い世代に頼らないで済みます。むしろ相続税を、高齢者に対する目的税にしてもいいくらいです。
そして何より、高齢者がどうせ税金に取られるならとお金を使うようになれば、長引く消費不況が解決します。少なくとも、高齢者向けの産業が勃興することは間違いありません。
![和田秀樹『みんなボケるんだから恐れず軽やかに老いを味わい尽くす』(SBクリエイティブ)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/f/1200wm/img_0f874fd173bc64166b6d990c01e36cee146610.jpg)
高齢者が、介護保険以上の介護サービスを自腹を切って買うのが当たり前になれば、新たな雇用も生まれ、ビジネスチャンスも増えます。いままで以上に外食や娯楽、旅行などにお金を使うようになれば、高齢者に魅力的な商品を提供するようになるでしょう。
高齢者向けの自動運転の車や高齢者向けのIT商品が売れれば、企業は血道を上げて生産するはずです。
もちろん相続税を払いたくなくて国を出ていく人はいるでしょうが、そういう非国民が日本に入国するには100%の相続税を払わないといけないようにすればいい。外国に逃げても数年もすれば、治安もよく、ご飯もおいしい日本が恋しくなるものです。
いまのところ、「相続税100%」導入策が、高齢者がボケても安心して楽しく暮らせる社会への近道だと信じているのですが、なかなか前向きにとらえていただけないのが残念です。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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