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「かに道楽より大きいカニ怪獣と闘う社長登場」カンテレ新社長"フルAI"番組宣言でTV業界に起こるエグい下剋上

プレジデントオンライン / 2024年7月2日 16時15分

画像作成=DeepManga

多くの業界と同様、テレビ局も人事異動の時期を迎えた。この中で大きなトピックとなったのは、フジテレビの専務取締役だった大多亮(とおる)氏(65)が関西テレビの代表取締役社長に就任したこと。その大多氏が7月1日の就任初日で全社員向けの集会での衝撃的な発言が話題を呼んでいる。

■新社長就任

大多亮氏はバブル期の1990年前後から一世を風靡したトレンディドラマを確立したプロデューサーの一人。

『君の瞳をタイホする!』(1988年)から始まり、W浅野の『抱きしめたい!』(89年)、『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』(共に91年)、最終回が視聴率37.8%となった『ひとつ屋根の下』(93年)などを制作している。テレビ界屈指のヒットメーカーだ。

その大多氏が、カンテレの社長就任と同時にぶち上げたのがAIコンテンツ。

6月19日の株主総会では、「AIコンテンツで日本初を連発するようなイノベーティブな会社にする」と宣言した。そして、社長就任初日である7月1日の全社員集会で、AIの可能性を強調したのである。

例えばこんな発言があった。

「カンテレがAIアニメの制作を決定したと言ったら日本初かもしれない」

実は同社では、スタジオのセットをAIで描き、業務の効率化を進めている人がすでにいた。ところがAIへの挑戦を始めた彼らも驚いたのが、大多社長が披露した1分足らずの動画だった。

出席した社員によれば、冒頭から度肝を抜く映像だった。かに道楽よりはるかにデカいカニの怪獣が大阪駅前に現れ、「速報 阪急うめだ本店前にモンスター出現」のテロップ。

大多亮新社長の実写・実写を基にして作成したアニメ
画像作成=DeepManga

そこで連絡を受けた新社長が登場。実はこのアニメシーンは、写真の通り大多社長が歩く実写をアニメ化したものだった。そして社長は“IRON8”に変身。刀を背負っているので、さしずめ日本版アイアンマンだ。「8」の数字は、言わずと知れたカンテレのチャンネル番号だ。

ラストは「coming soon on your screen」。

つまり大多新社長は、生成AIを駆使してアニメなどテレビ番組を連打しようと考えている。

■生成AI革命

ご存じの通り、今や世の中はAI祭り状態だ。

昨春米国ハリウッドでは、「仕事を奪われかねない」と映画脚本家らが大規模なストライキを実施した。日本でも各種クリエイターが創作物を投稿するnoteが、記事執筆のアシスタント機能を持つAIサービスを提供し始め、生成AIを身近に意識する人がメディア界でも増えた。

極めつけは去年10月の芥川賞。

受賞者が「全体の5%くらいは生成AIの文章」と発言したため、いよいよクリエイティブな表現もAIの時代になると思った人は多かった。

AI革命は今年さらに加速し始めた。

我々の質問にチャット形式で返事を返してくれていた生成AIだが、会話で受け答えするようになった。

映像分野でも「Sora(ソラ)」が発表された。プロンプト(テキストによる指示)に基づき作られる動画はリアルそのもので、一見しただけでは実写か作りモノかの判別が難しい。さらに観光地・建物・街並みを何枚も写真撮影すれば、あたかもドローンで撮影しているような動画にできるし、自由視点の画像が作れるようになった。

■生成AIの進化

わずか1~2年で目覚ましい進化を見せた生成AI。

今週日曜(6月30日)の『サンデーモーニング』(TBS系)に出演した孫正義ソフトバンクグループ会長兼社長は、その進化の爆速ぶりをこう評した。

「(AIの能力は)4年で1000倍になった。すごいのは今後4年で1000倍になり、さらに次の4年で1000倍になる。つまり12年で10億倍に進化する」

加えて日本の“失われた30年”は保守的な経営の責任と非難した。

「インターネットが出てきたときに『これはまがいもの』と言い過ぎた。『若い者が何言っている』みたいな感じで、昔の重厚長大な大経営者とか、メディアも含めて、新しいものを低く見すぎた」
「もっと心を開いて素直に真正面から、進化に対して純粋に取り組まないと日本はヤバイ」

巨大隕石の落下で大型恐竜は滅び、小回りのきく小型哺乳動物が生き残った【伊藤博文氏が生成AIで作成した画像】
画像作成=DeepManga

かつて地球上を席巻した恐竜は、巨大隕石によって滅びた。直径10kmもの隕石がメキシコのユカタン半島近くに落下し、地球環境の変化で絶滅し、そして体が小さく柔軟な対応に勝る哺乳類が恐竜の後継者になった。

■“テレビ×AI”の可能性

筆者はこの隕石を今の生成AI、恐竜を大マスコミに例えたい。

孫氏が予言するような幾何級数的な進化を遂げなくとも、生成AIは我々の生活に大きな影響を与える。特にメディアにとっては、ITデジタルでインフラの革命が起こっているが、生成AIの進化で表現活動のイノベーションが起こるだろう。

例えばアニメの低廉化は画期的に進む。

現在30分番組の制作に3000万~4000万円を要しているが、コストは4分の1程度に圧縮できる。さらに孫氏がいうようにAIが劇的な進化を遂げるなら、さらに1桁安くできる日も来るだろう。

しかも単にコストが安いだけではない。

制作時にプロンプトなどの指示を工夫すると何通りでも作り変えてくれるので、制作者のイメージにぴったりの作品になるどころか、制作者の想像を超える出来になる可能性がある。

そもそもフルAI作品はデジタル信号でできている。横型画面を容易に縦型に変換できるし、ダイジェストや視聴者の嗜好別に作り変えることも簡単だ。マスを狙ったヒットコンテンツを筆頭に、特定の好みの集団向けに改編できる。作品に関連したストラップなどグッズも容易に作れるし、ファンが一緒に映り込む画像や動画も提供できる。つまり、メインの作品で勝負した後にも、さまざまなマネタイズが可能なのである。

それでもメディア経営者の中には、生成AIにネガティブな人が少なくない。

「著作権が疑問」「画質やテイストが違う」などの批判だ。もちろん課題には向き合う必要はある。それでもテレビ局の映像アーカイブや記事データなどをベースに作成すれば、著作権問題はクリアできる。

また画質やテイストの問題は、CGアニメの例がわかりやすい。

1990年代に登場したピクサーの『トイ・ストーリー』(95年)、『ファインディング・ニモ』(03年)、『アナと雪の女王』(13年)などは明らかに日本の伝統的なアニメと異なるが、瞬く間に日本でも大ヒットとなった。NHKニュースでは一部をAIが読み上げているが、視聴者はすぐに慣れてしまった。

■“理系と文系”の交差点

冒頭の大多新社長の発言に戻ろう。

「(AIの登場で)理系の人が頑張って、文系のクリエイターを一気に抜き去ることができる。偉そうにしているP(プロデューサー)やD(ディレクター)を抜き去ってほしい」
「文系も頑張れば理系を抜ける。理系にはハードルが低い。(生成AIは)理系と文系の交差点、どちらにもチャンスがある」

要はこれまでの専門によらず、誰にでもチャンスはあると言っている。

文系・理系と書かれた木製ブロック
写真=iStock.com/Seiya Tabuchi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Seiya Tabuchi

「10個やれば1~2個あたる。そういうのにチャレンジしていかないと元気な会社になれない」

生成AIを駆使すれば、低コスト・制作期間短縮・品質向上が望める。テレビ草創期のように、いろんな挑戦が可能となるので四の五の言わずにとにかくやれ、ということだろう。バブル期にトレンディドラマで大成功を収めた“英雄”が令和の今、新社長として何ができるのか。お手並み拝見といきたい。

孫正義氏が批判した「保守的な経営」を続けるのか、大多亮氏のいう「とにかくやれ」を始めるのか。

どうやら巨大隕石が落下したテレビ界は、誰が対応できない恐竜として絶滅するのか、はたまた柔軟な哺乳類としてどの局が新たな時代を切り開くのか。興味深い時代に突入するようだ。

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鈴木 祐司(すずき・ゆうじ)
次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。

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(次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司)

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