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「ポルシェそっくりのEV」が27分で5万台売れた…中国格安スマホメーカーの新型EVが中国人に大人気のワケ

プレジデントオンライン / 2024年7月7日 9時15分

2024年4月25日、北京で開催された北京モーターショーで展示された電気自動車「シャオミSU7」モデル。 - 写真=AFP/時事通信フォト

中国格安スマホ・家電メーカーのシャオミ(小米、Xiaomi)が3月末、同社初のEV「SU7」の販売を始めた。予約開始から27分で5万台の予約があった。なぜシャオミのEVは中国人に支持されているのか。伊藤忠総研主任研究員・趙瑋琳さんは「CEOのカリスマ性、強力なエコシステム、膨大なユーザー基盤とファンの存在という3つの理由がある。例えばシャオミのファンコミュニティは、6億人超のアクティブユーザーを抱えている。彼らの熱狂的な支持がEV人気の原動力になっている」という――。

■27分で5万台、24時間で8.9万台が売れた「SU7」

格安スマホメーカーとして知られるシャオミ(小米)の初のEVセダン「SU7」が好調だ。3月28日の販売初日、予約開始後わずか27分で予定台数の5万台、24時間で8.9万台の予約が入った。鮮烈なデビューを飾った。

その後の販売・生産も順調に推移している。6月1日に深センで開催された「2024年未来汽車先行者大会」で、創業者の雷軍会長兼CEOは「5月末時点までに8万台超の受注を獲得し、既に約1万5000台を納車している。6月から月1万台の生産を実現し、2024年は10万台の納車を目指している」と明らかにした。また、「女性消費者による注文が全体の3割強で今後さらに上昇」と言及し、女性にも人気のあるクルマと説明した。

シャオミSU7公式サイトより
シャオミSU7公式サイトより

「SU7」は、米テスラのセダン「モデル3」を手本にして開発された。雷軍氏は3月28日に北京で開いた新車発表会で、モデル3などと比較し、電力消費や自動運転技術を除くほぼすべての性能でSU7が上回ると力説している。

基本モデルの販売価格は21万5900元(約467万円、6月12日現在のレートで算出)で、テスラ・モデル3の24万5900元(約532万円)より安い。標準モデルのフル充電時の航続距離は、中国独自のCLTCモードで約700kmとなる。

また、「SU7」の最上位モデル「SU7 MAX」は、航続距離が800km。販売価格は29万9900元(約649万円)で、雷軍氏は独ポルシェのEVスポーツカー「タイカン」より航続距離が長いと性能をアピールしている。

シャオミは、2010年創業。日本では「スマホメーカー」として知られているが、炊飯器やロボット掃除機、空気清浄機などの生活家電も手掛けてきた。中国には、それらすべてをシャオミ製品でそろえる熱狂的なファン(ミーファン:米粉)がいる。なぜシャオミは中国の人たちに支持されるのだろうか。 

■「中国のジョブズ」と呼ばれるカリスマ経営者への共感

4月25日~5月4日、北京で行われた北京モーターショーはこれまでと違う景色だった。

従来ではモーターショーの主役はクルマでありながら、それを盛り上げるのがクルマの隣に立つモデルの女性たちのようだったが、EV大手のBYD(比亜迪)創業者の王伝福氏、世界最大のEV用バッテリーメーカー・CATL(寧徳時代新能源科技)創業者の曾毓群氏などEV関連有力企業の経営トップが注目された。その中でも、初出店したシャオミ・雷軍氏への注目度は高かった。

シャオミ人気の要因の一つが雷軍氏のキャラクターだ。従前からSNSを通して積極的に発信し、そのキャラクターがファン獲得に一役買っている。

雷軍氏はアップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏の大ファンを自認し、iPhoneだけでなく、ジョブズ流の経営やプレゼンもお手本としてきた。2011年から毎年8月に開催している製品発表会には、ジョブズ氏を彷彿させるTシャツとジーンズ姿で登場し、中国では「中国のジョブズ」と呼ばれるほどイメージは定着している。

雷軍氏講演会
2023年に開かれた講演会のテーマは「成長」だった(小米ウェブページより)

アップルと異なるのは雷軍氏の公開スピーチが製品発表前に行われていることだろう。昨夏、雷軍氏は「成長」をテーマに講演した。

3時間に及ぶスピーチでは、1987年に武漢大学コンピューターサイエンス学部に入学して以降歩んできた道や学んだ教訓を「成長」というテーマに絡めて話し、大きな反響を呼んだ。「夢を持つことが重要で夢の堅持は成長につながる」や「起業は人を早く成長させる重要な手段」など自身の成功体験に裏付けられた彼の言葉は、多くの人を鼓舞し励ましとなり、雷軍氏はカリスマ経営者として若い人たちの偶像となっている。

実際、創業数年でシャオミを成長の軌道に乗せた彼の経営手腕や、ユーザーとの交流を常に重視し、社会貢献への高い意識も持ち、勤勉で地道に努力するという人間性に惹かれシャオミの商品を買ったりシャオミのファンコミュニティ(後述)に入ったりする人は多くいるという。

シャオミ小売り店
写真=iStock.com/Robert Way
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Robert Way

■利益率を5%以下にする「コスパ優等生」への支持

「コスパ優等生」――。これが中国の多くの人たちが抱くシャオミ創業以来のブランドイメージと言ってもいいだろう。特に若者層を中心に支持されている理由となっている。

シャオミは「無印主義」を標榜し、「シンプルなデザイン」「高品質」「リーズナブルな価格」を自社製品の特徴としている。

例えばスマートフォン。部品サプライヤーや生産チェーンの整備など多くの苦労を伴った紆余曲折を経て、売価1万円以下の格安スマホを大ヒットさせた。以降、ローエンドからハイエンドモデルまで、機能性とコストパフォーマンスをアピールする戦略で、中国のスマホ市場の激戦を勝ち抜き、国外市場でのシェア拡大にも成功した。2023年の出荷台数は1億4640万台で、アップルとサムソンに次ぎ、世界3位のシェアを占めている。

2018年に香港証券取引所に上場したが、株価はしばらく低迷していた。経営不振より、「誠実な価格設定でより良い製品を提供する」との経営哲学から雷軍氏は「シャオミのすべてのハードウェアの利益率は5%以下」と宣言したことが主因だった。

スマホのみならず、「コスパ優等生」や「価格破壊者」とのイメージがシャオミのすべての製品に定着するようになったと言えるだろう。

■「人・車・家」を中心とするエコシステムで顧客層を拡大

スマホメーカーとして大きく成長を遂げたシャオミは、事業の多角化に乗り出し、さまざまな関連企業を擁するエコシステムの構築を意識するようになった。

スマホに加え、シャオミは2014年頃からテレビや洗濯機、空気清浄機などの家電製品の製造、さらにはフィンテック、広告、ゲームなどのインターネット関連サービスにも参入し、「スマホ+AIoT」を中心としたエコシステムの構築を経営戦略に据えている。

AIoTとは、AIとIoTを組み合わせた造語であり、あらゆる「モノ」をインターネットに接続(IoT)して情報をやり取りするだけでなく、AIの学習機能で「モノ」の性能を高めるシステムである。言い換えれば、AIを搭載したスマート家電をはじめとする多くのモノ(ハードウエア)を繋げ、包括的なサービスを展開する戦略である。

シャオミはすでに、ウェアラブル製品やスマートテレビ、スマートスピーカーなど、AIを搭載した商品を相次いで販売している。最先端のハードウェアの利用体験を通して、スマートライフに対する需要を押し上げるのが狙いだった。

消費者はシャオミの一つの製品だけでなく、AIoT関連のデバイスのシームレスな接続をはじめ、シャオミのコンテンツを楽しみ、ネット関連サービスも受けられるといった「スマホ+AIoT」エコシステムへのアクセスが可能になるのだ。これはスマホユーザー以外の顧客層の拡大につながり、シャオミの発表によると、2024年5月時点で「スマホ+AIoT」に接続されているデバイス(スマホ、タブレット、ノートパソコンを除く)の数は7億4000万台に達した。

時代は変わり始めている。自動車業界に変革をもたらす「CASE(コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化)」が進み、クルマが走るスマホとなりつつある。

■3年前の約束を果たす

一方では、シャオミにおけるスマホの売上高は2021年に2000億元を突破してから減少し続けている(図表1)。スマホを中心としたエコシステムの構築を目指していたシャオミにとっては、次の進化及び新たな事業の柱を図るためにはEVが欠かせないピースとなっている。

【図表1】シャオミのスマホの売上高の推移(2015~2023年、億元)

そのため、昨年10月にシャオミは自社戦略を「人・車・家のエコシステム」へとアップグレードした。昨年末にシャオミが取り組んでいるEV関連の技術およびEVの写真を公開し、2024年の春に量産を開始すると明言した。

振り返ってみれば、2021年3月末はコロナ禍の最中だった。シャオミはスマホの新製品発表会にてEVに参入することを発表し、かねてより噂されていたことが事実となった。EVを作るのに膨大な資金力が不可欠であるため、初期投資は100億元(約2000億円)で、今後10年間に約100億ドルを投資する見通しだ。実際、2022年と2023年にEV関連の研究開発にそれぞれ31億元と67億元を投じた。

EV事業は、雷軍氏が率いることになった。彼は「これまで社内で検討を重ねてきた。最後の起業として自分の名誉、残りの人生をかけてEVに注力する」と述べ、EVをシャオミの新たな成長の柱にする決意を表明した。経営手腕も人柄も評価されている雷軍氏なら成功できると信じる人は多かった。

シャオミEVストア
写真=iStock.com/Robert Way
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Robert Way

■ファンの支えで成長してきたシャオミ

人気の裏にはシャオミが抱えている膨大なユーザー基盤とファンの支持がある。シャオミは実にファンづくりがとても上手な企業である。

シャオミは設立直後にユーザーインターフェースでファンコミュニティでもある「MIUI」を立ち上げた。ユーザーと一緒に製品を開発する目的で、使用体験や広告のレコメンド機能、必要なアプリなどにおいて、技術マニアから一般のユーザーまでの声を取り入れた自社製品の改善を積み重ねてきた。

同社の英語表記は「Xiao“m”i」で、「M」を自社のシンボル文字としているため、MIUIに参加するファンは「米粉」と呼ばれている。ファンコミュニティを重視し、熱烈な支持者を囲い込むことでシェア拡大の支えとする戦略は奏功している。2023年末時点で世界におけるMIUIのマンスリーアクティブユーザー数は6億4000万人となっている。この膨大なユーザー基盤が好調なEV販売を支えると同時に先行きを左右すると言っても過言ではないだろう。

■残された課題

中国では価格や性能を中心にEV市場の競争が激化し、乱戦模様を呈している。テスラをはじめ、先行しているBYDや、新興勢力で米国上場もしているEVメーカーの「蔚小理(蔚来汽車、小鵬汽車、理想汽車)」、国有企業、民営企業などもEVへの参入が相次いでいる。また、前述したように、クルマのスマート端末化の流れはファーウェイのような大手テック企業のEV参入も後押ししている。

EVを巡る激戦が続いており、今後EVメーカーの淘汰が進むと思われる。業界勢力図が大きく変わる可能性が高まる中、シャオミに勝算はあるのか?

シャオミが直面している主な課題を整理してみたい。まず、価格設定をめぐるユーザーとのコミュニケーションの不足である。SU7の価格が世界に衝撃を与え、海外のメディアが軒並みその性能と価格を評価しているが、シャオミのユーザーにとっては、その価格では車を買えるかと、発売直後から疑問を持つ人が相当いたようだ。

コスパ優等生のシャオミだからか、SU7に寄せられた多くの消費者からの期待はコスパだった。販売価格が9.9万元や14.9万元、19.9万元と推測する人は多かったようだ。蓋を開けてみれば、シャオミが20万元からの中高価格帯を狙っていることが明らかになった。EV業界の価格競争が激化している中、シャオミはコスパの優等生から脱皮を図ろうとしているが、消費者に対して価格以上に優れたクルマへの認知を高める必要がある。

■シャオミに勝算はあるのか

次に、SU7の供給力である。北京の郊外に位置するSU7の工場は2期に分けて建設を急いでいる。1期目は2023年6月に完成され、年間15万台が生産できる。2期目は現在建設中であり、来年中に完成する予定だという。工場建設に関しては北京市政府から全面支援があるものの、その稼働能力が受注に追いつかない可能性は否定できない。納期の長期化が消費者の信頼にダメージを与える可能性も出てくるだろう。

最後に、PHV(プラグインハイブリッド車)からの衝撃に対する忍耐力である。EV大手のBYDが5月末に過去最高の燃費性能を実現したPHV技術を公表し、波紋を呼んでいる。EVの拡大基調のトレンドが変わらないものの、PHVの人気も高い。シャオミだけではないが、すべてのEVメーカーにとってはPHVによるシェアの奪い合いの圧力が高まっている。

シャオミの優位性と強みは世界3位のスマホメーカーとして擁する膨大なユーザー基盤、ブランド力および販売網である。これらの武器を活かし、中高価格帯に代表されるクルマをより多くの消費者に受け入れられれば、EV市場で勝機を掴める可能性も十分高いだろう。

シャオミは自社が掲げた「世界の上位5位に入る自動車メーカー」へまい進できるか、EV競争の厳しい試練を乗り越えられるか、今後も注視したい。

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趙 瑋琳(ちょう・いーりん)
伊藤忠総研主任研究員
中国遼寧省瀋陽市出身、2002年に来日。2008年東京工業大学大学院社会理工学研究科修了、イノベーションの制度論、技術経済学にて、博士号(学術)取得。早稲田大学商学学術院総合研究所、富士通総研経済研究所を経て2019年9月より現職。早稲田大学商学部非常勤講師として「中国ビジネス論」を担当。著書に『チャイナテック 中国デジタル革命の衝撃』(東洋経済新報社)、『東アジア最新リスク分析 「新冷戦」下の経済安全保障』(日本経済新聞)、『2030年中国ビジネスの未来地図 9億人新市場が誕生する日』(東洋経済新報社)がある。

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(伊藤忠総研主任研究員 趙 瑋琳)

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