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SNSに強制されないと「素の自分」を出せない…授業中もバイト中も「BeReal」で撮影するZ世代の切実なホンネ

プレジデントオンライン / 2024年7月6日 10時15分

アプリストアのBeRealの紹介(筆者提供)

リアルを共有するアプリ「BeReal」に若者が熱中している。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「映えるSNSとして普及したInstagramの逆張りコンセプトとゲーム性が人気の秘訣だ。一方で、時間や場所を選ばず撮影して投稿する、通知が気になって集中力が低下するといった問題も表面化している」という――。

■生徒が校内でこっそり撮影している

講演に行った複数の高校で、先生から「今、一番問題になっているのはBeReal」と聞いた。「どうやら授業中にこっそり撮っている生徒がいるようで……講演内で取り上げて注意してください」

ある高校では、スマホは持ち込めるが、校内で使用するには板書の撮影などでも必ず許可が必要だ。無許可での撮影がわかると、処罰対象となってしまう。そのため、勝手に撮影する生徒はいないはずなのに、どうやら撮っていた生徒がいるらしい、と先生の耳に届いたという。

「他の生徒が映り込んだとか、こっそり撮っているらしいという話も聞いています。なぜそんなリスクを犯してまで撮ってしまうのか……」。先生は眉をひそめる。

講演内で利用率を聞いてみたところ、全体の3割弱が手を挙げた。すでに高校生の間でBeRealが流行していることは間違いないだろう。

「ビーリアルじゃなくて、ビーリールですよ」と言っていた生徒がいる。正式名称は“ビーリアル”だが、アプリストアの説明が“ビーリール”となっていた時期があり、今もそのように呼ばれることがある。つまりその生徒は、その頃からのユーザーの可能性があるということだ。

■「撮らなければ見られない」が逆に楽しい

BeRealは、2020年にフランスで誕生した写真共有SNSだ。アクティブユーザー数は2300万人を超え、「映えない系」SNSとして知られている。

ランダムに来る通知から2分以内に写真を投稿しなければならず、保存していた写真は使えず、写真には加工もできない。インカメラとアウトカメラの両方で同時に撮影されるため、その時いる場所だけでなく、撮影者も映ることになる。つまり、アプリでつながっていたら、相手のすっぴんや普段の姿を見る可能性があるのだ。

自分が投稿するまで、友達の投稿はぼかしが入った状態となり見られないため、投稿が見たい若者たちは必然的に撮影しなければならなくなる。

遅れても投稿できないわけではないが、制限時間からどれくらい遅れたかが表示されてしまう。逆に2分以内に投稿できれば、その日はさらに2回、好きなタイミングで投稿することができるので、なんとか間に合わせたいと考える。

■取り繕ったインスタとは違う「日常」を共有

通知はいつ来るかわからず、通知から2分以内という制限は厳しいが、これが逆にゲーム性を高め、攻略したいという気持ちを刺激する。

ある大学生は「休日に寝ているときにきて見過ごしたこともあるし、バイト中に通知が来て絶望したこともある。1日中、いつ通知がくるか気になっている。通知がきた時、一緒にいる友だちに声をかけて撮影することは多い」という。

「授業中に通知がきて、仕方なくバッグの中とか天井とかを撮影したこともあるし、部屋が散らかっているから廊下に出て撮ったり、すっぴんでも仕方ないからそのまま撮ったりする。慌てて撮るから、後で『居場所が丸わかりだった』とか、『まずいものが写っちゃってた』とかもある。

でも、みんなもそうやって撮っているから、いつどこにいるとか、こんなバイトしてるんだとか、普段の生活とかがかなり正確にわかる。インスタではわからなかったことがわかるし、お互いが知り合えるし、写真を見ればその時の自分も思い出せるし、とっても楽しい」

ただし、「授業中に通知がきて撮影しているのがバレて、怒られた学生がいた」などの問題も起きているという。「自分は後ろにいたから、たぶん角度的に写ったと思って嫌だった。先生にもバレて、先生がめちゃくちゃキレていた」と話す。

机の下でスマートフォンを使う生徒
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■授業中でもバイト中でもかまわず撮影

撮ってはいけない場所や時間でも撮影してしまう、というトラブルは非常に多い。ある高校では、「授業中にBeRealの通知音らしきものが教室で鳴って、いろんなところからシャッター音がしていた」そうだ。テスト中に通知音が鳴っていたという話も聞いた。

「バイト中にBeRealを撮っているのがパートの人にバレて、告げ口された」「接客中にバイトがいきなり撮りだして、お客様が写ってしまうと騒ぎになった」など、バイト中の撮影が問題になった例も少なくない。

ある企業の研修担当者から「バイトの研修中、『BeRealを撮ってもいいですか』と言われて、つい『うん』と答えたら、その場で撮りだしてびっくりした」と聞いたこともある。

仕事中は職務に専念する義務がある上、顧客の個人情報や企業秘密などを撮影してしまうリスクもある。本格的に問題になる前に、バイト中にはスマホを持ち込ませないなどの対策が必要ではないだろうか。

■大学生の35%が「制限時間内に投稿」

筆者が講師を務める大学の受講生を対象に、BeRealについての調査を行った。有効回答数は227名、男女比はほぼ同数で、1年生が6割近くを占め、2年生が3割程度、残りが3~4年生となっている。

BeRealを利用しているかについて聞いたところ、「現在利用している」が55.1%、「過去に利用していたことがある」が9.3%と、利用率は6割強に及んでいる。「名前だけは知っていたが、使っていない」は35.2%だ。確かに大学生の間でも流行しているのだ。

【図表1】大学生227人に聞いたBeRealの利用率

BeRealで通知が来たときにどうするかについても聞いてみた。「通知がきたら、必ず制限時間内に投稿する」は6.6%、「通知がきたら、なるべく時間内に投稿する」は27.8%と、約35%の学生が制限時間内に投稿するようだ。

「通知がきても、制限時間はあまり気にしない」(16.3%)、「通知がきても、制限時間はまったく気にしない」(13.2%)と気にしない学生もいるが、気にする学生のほうが多い。

■「通知のせいで集中力低下」は37%

BeRealで困ったことについても聞いた。「自分が投稿した写真が問題になったことがある」(1.3%)、「投稿してはいけない時間に投稿して問題になったことがある」(3.1%)、「自分が投稿した写真にプライベート情報が映り込みすぎていた」(11.9%)など自らの投稿で問題が起きることも。

「他の人の投稿に映り込みなどがあり心配になった」(27.3%)、「他の人が投稿してはいけない時間に投稿していて心配になった」(11.5%)、「他の人が投稿した写真にプライベート情報が映り込みすぎていた」(17.2%)など、周囲で問題ある投稿や行動を見かけることも多い。

そして、「通知が気になって、集中力が低下している」は37.4%と約4割に上っており、アプリに振り回されてしまっている実態が明らかになった。

【図表2】大学生227人に聞いたBeRealで困ったこと

大学生もアプリに振り回されており、トラブルを起こしたり、周囲から迷惑を被ったりしている。しかし、それでも楽しさのほうが勝っており、人気はまったく衰えない。

■擬似的な自己開示効果で親しくなれる

大学生のメインSNSはInstagramだ。X(旧Twitter)で同じ大学の新入生同士でつながり、会って親しくなった後は、親しい友人とInstagramの鍵アカ(鍵アカウント)でつながり、ストーリーズやDMなどで交流するのが一般的だ。

しかしInstagramは、基本的に映える写真を投稿する場であり、リアルタイムの素顔はストーリーズでしか見ることができない。そのストーリーズでさえ加工されているので、本当の姿を見せ合っているわけではない。

ところが、BeRealは強制的に日常の姿を見せ合える。キラキラした日常ではなく、生活感あふれる部屋や、バイト先での姿、加工しない素顔が見られる。Instagramに慣れた世代に彼らにとって、決して見ることができなかった貴重な日常が見せ合え、親しみを覚えることができるのだ。

自己開示効果というものがある。自分のプライベートや考えなどを自己開示することで、互いの心の距離が縮まりやすくなるという心理効果だ。互いに受け入れ合い、信頼関係の構築につながりやすくなる効果がある。学生たちは、BeRealの利用で擬似的な自己開示効果を得られているのではないだろうか。

自分を見せ合うことを恐れ、複数のアカウントで顔を使い分けてきた世代にとって、加工もせず、顔を使い分けないで、素顔や日常を見せ合うことには、大いなる価値があると考えられる。Instagramとバランスを取る意味で、若者におけるBeReal人気はまだまだ続くのではないだろうか。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。

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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)

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