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かつて1部屋2000万円台だった「中央区勝どき」は、なぜ1部屋2億円以上のタワマンエリアに激変したのか

プレジデントオンライン / 2024年7月8日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Free art director

■2億円出さないとファミリー向けは買えない

私は1990年代前半から勝どきに住んでいる。生まれも育ちも勝どき出身。当時は、人気がある街とはお世辞にもいえないエリアで、2000年代に入るまで、「勝どき」の地名を知っている人もあまりいなかった。

今では、「最寄り駅が勝どき」といえば、多くの人から「タワマンに住んでいるんだな」と思われてしまう。勝どき周辺には10棟以上のタワマンがある。たとえば勝どきビュータワー(総戸数719戸)、勝どきザ・タワー(総戸数1434戸)、パークタワー勝どき(総戸数2786戸)などがよく知られている。

こうしたタワマンは価格が高騰している。2023年から入居が始まっている人気のパークタワー勝どきは、2024年6月現在、70m2台後半の部屋は2億円超えで、90m2を超えると3億円台の部屋もある。タワマン以外のマンションであっても、たとえば築22年のセザールベイサイド勝どき(小規模マンション)は、76m2で9980万円となっている。

そんな勝どきエリアでも、2000年ごろまではファミリーマンションが2000万円台で購入できた。大きなきっかけは都営大江戸線の勝どき駅の完成だ。

■かつては2000万円台で購入できる時代があった

勝どき駅が完成するまで、地下鉄の最寄り駅は、築地駅(日比谷線)か月島駅(有楽町線)。勝どき駅がある地点から橋を渡る必要もあり、各駅のホームに着くまでは少なくとも徒歩10分以上はかかった。

現在、勝どきビュータワーが建っている場所は、かつては長屋が立ち並び、下町の雰囲気を感じられるエリアだった。それこそ、月島を背に少し歩くと木造住宅も密集していたほどだ。

それが新駅の完成で、年を追うごとに街が変化していった。

勝どきエリアに最初に建ったタワマンは、2008年に完成したTHE TOKYO TOWERSだ。何もなかった空き地に大規模タワマン(総戸数2794戸)ができるので、住民の間でも話題になった。その頃は、このエリアの発展に期待していくというワクワク感もあまりなく、まさかこんなにタワマンが増えるとは想像もできなかったというのが正直な感想だ。

シンボリックなタワマンは、勝どき駅直通の勝どきビュータワー(2010年)、THE TOKYO TOWERSの清澄通りを挟んだ向かい側にできた勝どきザ・タワー(2016年)などがある。タワマン街のイメージがつき、憧れを持たれるようなブランド化が感じられるようになったのは勝どきザ・タワーができたあたりだろうか。

そして極めつきは2023年に完成したパークタワー勝どきの登場。今の湾岸タワマンの価格上昇の中心地といっても決して過言ではない、勝どきエリアの旗振り役的存在だ。

■ここ数年で坪単価は2倍以上に急上昇

価格推移を見てみるとパークタワー勝どきの一次販売(2020年)では坪単価300万円台の物件もあったが、2024年5月時点で、売りに出されている物件の坪単価は900万円台が多く見受けられ、1000万円台も目立つようになってきた。もちろん成約価格ではないため、一次販売価格と単純比較はできないものの、ここ数年でも坪単価は2倍超となっている。

何か一つ「コレだ!」という圧倒的に優れた何かが出現したわけではなく、大江戸線が開通し、タワマン増加で街全体がにぎわい、勝どきという立地の優位性が広く知れわたったことが人気になった要因だと思う。

都心へも近く、もともと立地的に魅力がある土地柄。大江戸線は線路が深くて時間がかかる、駅が狭い、埋め立て地であるなど、勝どきにネガティブなイメージを持っている人もいるかもしれないものの、住んでいる人は気にしていないだろう。

■終電を逃しても、銀座からはタクシーで1000円

自転車を使えば、築地、銀座、月島まで10分もかからず、お台場方面へは有明までも移動可能な範囲。また、都営バスやBRT(バス高速輸送システム)などの地上の交通網も便利で、階段を使わずに幅広い方面へアクセスできる。

曜日や方面にもよるものの、比較的、時間の乱れが少なく、本数も多いので、大きなストレスになりにくい。銀座までの距離の近さを魅力的に感じる人も多く、終電を逃して飲んでいても、勝どきまでタクシーでは1000円前後で帰れるのだ。

また、単身者でも家族がいても暮らしやすいのは魅力的。スーパーやドラッグストア、コンビニもあるので日常的な買い物に困ることが基本的にはない。歩道の多くは歩車分離かつ幅が広いので、子どもでも安心して歩ける。少し足を延ばせば、豊洲のららぽーとや有明ガーデン、有楽町のマルイなどの商業施設もある。

学生たちが住むエリアではないので、騒がしい様子もなく、落ち着きがあるのは昔から変わらない。少し歩いて川沿いに進むと、タワマン群やレインボーブリッジも見渡せる。地上からでも開放感を感じるのだから、タワマンの上層階から見える眺望は格別だろう。

こうして住みたい人が増え、価値に目をつけた海外投資家の参入によって価格が上昇し、またさらに注目を集めるという循環によって、勝どきのブランドが確立されていったように思う。

注目を集めたパークタワー、転売問題が騒がしい晴海フラッグ、次の目玉である豊海タワー
注目を集めたパークタワー勝どき(出所=パークタワー勝どき公式ホームページ)

■全戸の2割が転売されている晴海フラッグ

先述の通りパークタワー勝どきは、人気を集めているのが価格推移からもわかる。大きな要因の一つはこのタワマンが勝どき駅直結だからだ。また、前掲の写真をみてもわかるとおり、部屋からは開放感がある景色を堪能でき、最先端を感じさせるデザインも魅力的。第一期販売では最高倍率が27倍となるほどの過熱ぶりだった。仮に一次取得した人気の部屋を今売却しようとしたら、購入金額から数千万円以上を上乗せしてもすぐに売れてしまうだろう。

タワマンといえば、勝どきエリアに隣接する晴海フラッグについても触れておきたい。東京オリンピック・パラリンピック選手村の跡地として都が整備した晴海フラッグは、大量の住戸が市場に供給されるために、湾岸タワマン全体の不動産価格が暴落するのではないかと懸念されていた。

いざ売り出されると、転売などのネガティブニュースもあるものの、人気は加熱の一途をたどり、価格は大きく上昇。中には1億円程度で販売された部屋が2億円超の価格で成約しているケースもあり、都の再開発が個人の投資家や法人などの利益になっているのはどうなのか、という声も上がっている。

実際に転売目的の不動産会社や円安によって割安に感じた海外投資家も多く参入していると聞く。NHKの調査(5月29日)によると、全体2690戸のうちの491戸(約18.2%)が転売や賃貸に出されているそうだ。

■勝どきエリアのマンション価格は2億円以上になる

転売すると購入価格の1.5~2倍近くで売れ、賃貸では周辺よりも高い利回りが確保できるので、利益目的の法人や投資家が集まるのは、ある意味では当然かもしれない。しかし、参入が相次いだために、本当に住みたい人がなかなか手に入れられないのは大きな問題だ。

次の新築タワマンとして注目されているのがザ・豊海タワー。こちらは駅徒歩10分と不便とはいえないものの、勝どき周辺のタワマンと比較すると駅距離での優位性は低い。このタワマンの強みは、ホシノアーキテクツが手がけている豪華な外観や、遮るものがなく海を見渡せる圧倒的な眺望だ。

現在、施工上の問題が発生しているため、予定より販売時期が遅れているがおそらく2024年中には第一期の販売が始まるだろう。問題が発現する前のスケジュールでも2027年竣工となっていたので、入居が始まるのはまだ少し先ではあるが、パークタワー勝どきの一次販売以上の抽選倍率になる部屋も出てくるのではないか。モデルルーム見学予約のためのホームページがダウンするほど、アクセス集中が起きたとのことで、もし購入したいなら激戦必至。

ザ・豊海タワーが完成したら、また話題になって勝どきエリアは注目を浴び、周辺のタワマンと一緒にさらなる価格上昇が予想される。絶景が望める部屋や、家族で住むための広い部屋を購入したいなら、よほどのキャッシュがあるか、2億円以上のローンを組める高所得者でない限り、ブランド化された勝どきエリアのタワマンは手が届かないだろう。

■環状第3号線の延伸、地下鉄新線、築地の再開発…

勝どきはここ30年で大きく変わった。タワマン開発に関していえば、2027年開業のザ・豊海タワー、勝どきパークタワーB棟(※)の完成で一区切りとなるが、実はまだまだ発展するポテンシャルを秘めている。

※名称は未定

例えば、東京都のリーディング事業となっている環状第3号線の勝どき―芝公園間の延伸は利便性の大幅向上が期待できる。

【図表1】東京湾臨海部基幹的広域防災拠点施設(有明の丘地区)周辺
出所=東京都 TOKYO強靭化プロジェクト

また、少し前に話題になった東京駅から東京ビッグサイト間の「都心部・臨海地域地下鉄」構想。2040年頃の開業を目指すとのことで、まだまだ先ではあるが、将来的には羽田空港までの接続も噂される。

そして注目を集める築地市場の再開発では、多機能型スタジアムやホテル、オフィスなどが予定されており、勝どきへの波及効果が見込める。築地市場の再開発エリアと勝どきは橋を隔ててすぐ隣なので、恩恵も大きいだろう。

【図表2】築地の再開発エリア
出所=東京都 築地まちづくり方針

いずれも実現するのは2030年後半以降になるが、具体的な計画が明らかにされるたびに注目度は上がる。多くの人の関心が集まるのに比例して、勝どきの評価も上がると同時に不動産の価格にも反映されてくるのではないか。

かつては坪単価100万円台とほとんど見向きもされないどころか、多くの人が聞いたことのない地名だった無名の街「勝どき」。湾岸タワマンへの視線が鋭い海外投資家の後押しも受けて、近いうちに坪1000万円がデフォルトになってもまったく不思議ではない。

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七海 碧(ななみ・あおい)
不動産・金融専業ライター
不動産会社で再開発に従事したことがきっかけで不動産に興味を持つ。東京都の勝どきエリアに長年住んでおり、湾岸エリアの再開発やタワーマンションを長年取材。個人では不動産・株式・暗号資産など幅広く運用しており、その投資体験をもとに、初心者でも理解できるように説明することが得意。

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(不動産・金融専業ライター 七海 碧)

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