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天皇陛下だけが足を運ぶ「歪な皇室外交」でいいのか…両陛下の「英国訪問成功」を手放しで喜んではいけないワケ

プレジデントオンライン / 2024年7月6日 9時15分

2024年6月25日、歓迎式典のためロンドン中心部のホテルを出発する天皇皇后両陛下 - 写真提供=©Tayfun Salci/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ

天皇皇后両陛下が6月下旬、国賓としてイギリスを公式訪問した。評論家の八幡和郎さんは「半世紀以上続いている日英君主の相互訪問で、日本の天皇陛下が6回訪英している一方、イギリス国王(女王)の訪日はたったの1回と、不均衡な状態だ。日本の皇室が英国の王室にすり寄っている印象なのはよろしくない」という――。

■待望のオックスフォード訪問が実現

天皇皇后両陛下が6月22日から28日まで英国を訪問された。そのうち、25日から27日の3日間は国賓訪問だった。

雅子皇后陛下の体調が心配だったが、ゆったりした予定が組まれたことで、予定された日程は大過なくこなすことができた。

陛下は、留学記『テムズとともに』(紀伊國屋書店)が昨年復刊された際、「遠くない将来、同じオックスフォード大学で学んだ雅子とともに、イギリスの地を再び訪れることができることを願っている」と書かれ、イギリス出発前にも同様の趣旨のことをおっしゃっていた。

最終日にはそのご要望が実現し、両陛下にとって懐かしいオックスフォード大学を訪問されるなどリラックスした時間を過ごされ、お慶びだった。

■天皇陛下としての訪英が5回続いている

この訪問が「新日英同盟」といわれるほど緊密の度を深めている両国関係や、東西世界を代表する天皇と国王の友情を深化させ絆を深めたとしたら、心強いことである。

ただ、1975年のエリザベス女王のたった1回の訪日の後、日本の天皇陛下(平成年間の上皇陛下の訪英を含む)が5回連続して訪英するという現在の状況は普通では考えにくい。ほかの国の君主は、むしろ日本が受け入れることのほうが多いのと好対照になっている。

【図表1】日英君主の相互訪問

■1週間も滞在されたが、内容は薄かった

また、今回は、チャールズ国王、キャサリン皇太子妃、雅子さまの体調面の不安があり、しかも、英国は総選挙の期間だったので、1週間という長い滞在にもかかわらず、内容は薄く、現地の報道でも主要ニュースとしては取り上げられなかった。

私は、『英国王室と日本人 華麗なるロイヤルファミリーの物語』(小学館、篠塚隆と共著)という本で日英国際親善の歴史を解説しているが、これまでの皇室外交と比べたとき、いささか内容が希薄で多くの課題を残したと考える。

たとえば、訪英中にランチやディナーの機会は12回あったが、両陛下での参加は国王ご夫妻との内輪の会と公式晩餐会、それに、オックスフォード大学総長との昼食のみ。ほかに陛下単独で歴史的な金融地区であるシティ・オブ・ロンドンで開かれた晩餐会への出席が1回あったものの、8回はホテルで両陛下など身内ですまされた。

■雅子さまは4日目の国賓訪問から表舞台に

日程については、雅子さまの体調管理が最優先で、最重要な行事だけ雅子さまが確実に参加できるよう万全の配慮がされた。

まず、上皇陛下ご夫妻への事前のご挨拶は、昨年のインドネシア訪問のときに負担になったとのことで割愛されたようだ。

英国には、国賓訪問開始より3日前に到着されたので、1971年の昭和天皇訪英時に、レッドカーペットを敷いてマーガレット王女が出迎えたような行事はなかった。長期滞在だったためかバッキンガム宮殿でなく、市中のホテルに宿泊された、

2日目に陛下は、日本の文化発信拠点である「ジャパン・ハウス」視察や、在留邦人や日本とゆかりのある英国人と交流され、雅子さまはホテルで休養。

3日目、陛下はテムズ川の防潮施設視察と日英友好団体主催のレセプション出席で、雅子さまはこの日も休養。

4日目に国賓訪問が始まり、ホテルに迎えに来たウィリアム皇太子とホース・ガーズ・パレードに向かわれた。

歓迎式典の後、バッキンガム宮殿までの花道「ザ・マル」をオープンエアの馬車でパレードされたが、馬アレルギーの雅子さまは大きな白マスクをしたままでお顔が拝見できず、沿道の人々を失望させた。事前に分かっている話なのだからカミラ王妃と雅子さまには、屋根のある馬車を用意し、それを予告しておくべきだったのではないか。

■午後から天皇陛下のみで訪問される日も

バッキンガム宮殿では午餐会が開かれ、国王から陛下に最高位のガーター勲章が授与された。外国人では欧州のキングと非キリスト教圏のエンペラーに与えられる。

午後にはウェストミンスター寺院を訪れ、無名戦士の墓に献花された。晩餐会には、選挙中のスナク首相と、次期首相と噂されるスターマー労働党党首も列席した。

5日目は、雅子さまはホテルで休養され、陛下はバイオメディカル研究所、王立音楽大学を訪問され、ロード・メイヤー及びシティ・オブ・ロンドン主催の晩餐会に出席された。

6日目、両陛下は国王夫妻にお別れの挨拶の後、子ども博物館を視察され、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの舞台「となりのトトロ」を鑑賞された。午後は陛下のみウィンザー城でエリザベス女王夫妻の墓参をされ、植物園に立ち寄られた。

7日目は両陛下でオックスフォード大学を訪問され、雅子さまは名誉法学博士号を授与されるなどのイベントをこなされ、そのまま帰国のため空軍基地に向かわれた。

【図表2】天皇皇后両陛下の訪英中の動静
在英国日本国大使館HPより編集部作成

■王室も首相も歓迎できる時期ではなかった

1998年の天皇皇后両陛下(現在の上皇陛下ご夫妻)の国賓訪問時は、両陛下が一緒に動かれたときには、「ウェストミンスター市歓迎式典」「女王陛下及び王配殿下主催晩餐会」「ウェールズ大臣主催午餐会」「ロンドン市長主催晩餐会」「首相夫妻主催午餐会」「天皇皇后両陛下主催晩餐会」「日英関係4団体共催レセプション」と、重要な午餐会・晩餐会が連日のように組まれていた。

今回は当初、英首相主催の食事会が予告されていたが、選挙で多忙を理由にキャンセルされた。中国の習近平国家主席や韓国の尹錫悦大統領の訪英のときは、議会での演説もあったがそれもなかった。

また、キャサリン妃は、6月17日の国王公式誕生日には出席していたが、残念ながら天皇皇后両陛下の歓迎行事は欠席し、国王の姉のアン王女も直前に馬との接触事故があり、欠席された。

このように振り返ると、やはりこんな時期に強行すべきであったかは疑問だ。チャールズ国王のお見舞いなら、欧州のほかの国を訪問されてその帰路に立ち寄られるという方法もあったように思う。常識的には、天皇陛下のご在位中に国賓訪問する機会はもうないのだからもったいなかった。

■なぜイギリス国王が訪日しないのか

もうひとつの疑問は、順番からいってチャールズ国王が訪日するべきだったことだ。日英君主の相互訪問は、1971年に昭和天皇が訪英され、1985年にエリザベス女王が訪日されたのが始まりである。

しかし、平成年間には、両陛下が1998年、2007年、2012年と3回連続訪英されたが、エリザベス女王は一度も訪日されなかった。

女王は英連邦諸国は別にしても、米国、フランス、ドイツなどには複数回訪問されており、タイやネパールも2回だ。

もっとも、最晩年の女王は外遊されてなかったから、2019年に今上陛下が即位された後、英国を訪問するように招待され、これを陛下が受けられたのは仕方がないことだったかもしれない。しかし、女王が2022年に死去され、葬儀に両陛下が参列されたのだから、次はチャールズ国王が来るべき番だ。

■日本の皇室が英国王室にすり寄っている印象

2023年のチャールズ国王戴冠式に両陛下は招かれたが、昭和天皇の葬儀や今上陛下の即位礼にも女王がお見えになっていないのだから出席されず、秋篠宮皇嗣殿下ご夫妻が参列された。このときに、両陛下が行くべきだという巷の声があったが、皇室の尊厳からいってありえなかったと思う。

このように順番だとか扱いをうるさく指摘するのは、馬鹿げていると思う人もいるだろうが、少なくともエリザベス女王はそういうことに非常に敏感で、失礼な扱いを受けたと思ったら、かなり手厳しい報復をする怖い女王だった。

すでに新国王は主要国の訪問を挙行されており、フランスやドイツ訪問は大きなニュースになっていた。私は非常な歓待をすることを約束してチャールズ国王夫妻をお招きし、その後、両陛下が訪英して同等の扱いをしてもらうことが、両国間の関係を良い方向で高みに上げる方策だと提案してきた。

いずれにせよ、日本の皇室が英国の王室にすり寄っている印象なのはよろしくない。一方、皇族が英国に留学したりしても、あちらの貴族社会になじんでおられる風でもない。雅子さまのご体調を前提にすればいかなる日程が好ましいのかとか、今後の悠仁さまの留学も含めて、皇室外交について戦略の立て直しが必要だ。

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八幡 和郎(やわた・かずお)
歴史家、評論家
1951年、滋賀県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。フランスの国立行政学院(ENA)留学。北西アジア課長(中国・韓国・インド担当)、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任後、国士舘大学大学院客員教授を務め、作家、評論家としてテレビなどでも活躍中。著著に『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス、八幡衣代と共著)、『日本史が面白くなる47都道府県県庁所在地誕生の謎』(光文社知恵の森文庫)、『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)、『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)など。

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(歴史家、評論家 八幡 和郎)

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