1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

「夏の甲子園」を札幌ドームで開催するしかない…「日ハムがいない」と恨む前に大赤字の運営会社がやるべきこと

プレジデントオンライン / 2024年7月9日 10時15分

2022年の札幌ドーム外観 - 筆者撮影

札幌ドームの経営が苦しい。6月21日に発表された2024年3月期決算は6億5100万円の赤字だった。スポーツライターの広尾晃さんは「経営陣は現実を見据え、民間の意見を取り入れるなどして抜本的な策を講じる必要がある。さもなければ、残された道は経営破綻しかない」という――。

■炎上騒ぎになった札幌ドーム社長の発言

札幌ドームの指定管理者である第3セクターの「株式会社札幌ドーム」は6月21日、定時株主総会を開き、2023年度の最終(当期)損益が過去最悪の6億5100万円の赤字となったと報告した。

山川広行社長は「やろうとしたことが思うように進まなかった。(中略)平日にプロ野球をやれたらいいが、やらせてくれないのでね」とこぼした。

この発言がメディアに出ると、ちょっとした「炎上騒ぎ」になった。

筆者はこれまでも札幌ドームについて記事やブログでたびたび取り上げてきたが、そのたびに大きな反響があった。人々は札幌ドームと、一昨年まで「店子」だった北海道日本ハムファイターズの「対立の構図」に強い関心を示している。なぜ「札幌ドーム」はこんなにバズるのか。

とにかく、一連の騒動は、ストーリーが「わかりやすい」、それが最大の原因だろう。

「札幌ドーム」が関西弁でいうところの「わるもん」、日本ハムが「ええもん」に見えている。

しかし、札幌ドームと日本ハムは当初は、蜜月の関係だったのだ。

■札幌ドームと日本ハムの関係が壊れたきっかけ

札幌ドームは北海道、札幌市、地域財界の意向を受けて2002 FIFAワールドカップでの使用を前提とした「全天候型多目的ドーム」として2001年に完成した。

ワールドカップが終わってからはJリーグのコンサドーレ札幌の本拠地としてスタートしたが、試合数の少ないJリーグの動員だけでは採算が心もとない。そこへ日本ハムの本拠地移転、という話が飛び込んできたのだ。

2003年までの日本ハムは、東京ドームを読売ジャイアンツと共用する形で本拠地にしていた。しかし都心の好立地で知名度抜群の東京ドームの使用料はとにかく高い。コスト削減と新規マーケットの開拓を目的に移転先を探していたところ、札幌ドームと利害が一致したのだ。

チームは2004年に北海道に移転。名前も北海道日本ハムファイターズと改め「北のプロ野球チーム」として再スタートを切った。

日本ハムは、北海道内をマーケットに定めて道内各地で試合も行うなど地域密着型のマーケティングを展開。福岡に本拠地を置き九州のファンを獲得した福岡ダイエーホークス(のちソフトバンクホークス)とともに、フランチャイズ移転での成功例と言われた。

しかし、この時期から日本のプロ野球の「ビジネスモデル」は大きく変わった。

■放映権料頼み→独立採算へ

従来は、セ・リーグ各球団は圧倒的な人気を有する巨人との主催試合の「放映権料」が収益の柱になっていた。一方、巨人戦のないパ・リーグ各球団は、地域密着営業を展開していたが、それでも収支はぎりぎりで、親会社の赤字補填に頼っていたのが現状だ。

21世紀に入って巨人戦の視聴率は低迷、地上波の巨人戦の試合中継が激減し「巨人戦の視聴率」だのみのセのビジネスモデルは頓挫する。

また、パ・リーグでは、累積する赤字で近鉄バファローズが経営を投げ出し、2004年シーズン終了後にオリックス・ブルーウェーブとの合併が決まった。

NPB球団の経営者たちは、これを機会に2リーグ12球団の体制を1リーグ10球団にすると発表。これに猛反対したプロ野球選手会は、古田敦也選手会長(当時)以下、ストライキを敢行、世論もこれを支持して1リーグ化は沙汰やみとなり、新規に東北楽天イーグルスがパに参加し、2リーグ12球団存続となった。

この「球界再編」を経て、NPB球団は「独立採算」「財政健全化」へ向けて大きく舵を切った。

重要だったのは「チームと本拠地球場の一体化」だった。阪神タイガース(甲子園)、中日ドラゴンズ(バンテリンドーム)、ソフトバンクホークス(みずほPayPayドーム)など、グループ会社が球場を保有している球団では、球場を中心としたビジネス、マーケティングは容易だったが、球場使用料を支払っている球場は、その負担が大きい上に、球場内で自由なマーケティングができず、ビジネスモデルの変革は難しかった。

2022年の札幌ドーム
筆者撮影
2022年の札幌ドーム - 筆者撮影

■1試合800万円という「球場使用料」

しかし2006年、千葉ロッテマリーンズは、本拠地の千葉マリンスタジアム(現ZOZOマリンスタジアム)の所有者である千葉市と「指定管理者」の契約を結ぶ。

これは公共施設の運営や管理を私企業などが請け負う仕組みで、小泉純一郎政権の「骨太の政策」の一環として導入された。千葉ロッテは、試合興行だけでなく場内の広告や物販、野球以外のイベント運営までを包括的に請け負う契約を結び、千葉マリンスタジアムを「自分たちの球場」として活用した。

この後、楽天イーグルスや横浜DeNAベイスターズなども、スキームは異なるが「包括的な指定管理者」として、本拠地球場で多角的なビジネスを展開するようになった。

アメリカでは行政が建物を建て、これをプロスポーツチームに全面的に運営委託して、賑わいの創出や税収増を生み出すビジネスモデルが一般化していた。ニューヨーク・ヤンキースは、ニューヨーク市が建設したヤンキースタジアムを本拠としてさまざまなビジネスを展開しているのだ。同様のビジネスモデルが日本でも可能になったと言うことになる。

地域密着で新たな顧客を増やしていた日本ハムとしても、同様の契約を札幌ドームと結びたい。それが難しくてもせめて1試合800万円という「球場使用料」を軽減して、収支を改善したい。そこで、日本ハムは札幌ドームと折衝を重ねた。

■サッカーにとっても野球にとっても「専スタ」ではない

しかし「行政の仕事」は「継続性」が基本だ。札幌ドーム側としては「プロ野球のビジネス環境が変わったから、契約を見直してください」と言われても、「知らんがな」という感じだった。

札幌ドームの指定管理者は、第3セクターの「株式会社札幌ドーム」だ。社長は北海道銀行などの出身だが、副社長以下幹部には札幌市役所の職員が就任している。メディアからは「天下り会社だ」との指摘もあるが、それもあって指定管理者の座を日本ハムに譲ることは、考えられない。

また札幌ドームは、Jリーグのコンサドーレ札幌も本拠地にしていた。

もともと札幌ドームはサッカーのワールドカップの会場として建設された。本来ならコンサドーレ札幌が「主たる使用者」のはずだったが、日本ハムが移転してきたために「軒を貸して母屋を取られる」ようになった。

野球とサッカーの両方の試合をするために、野球のときには、人工芝をカーペットのように敷き詰める。そしてサッカー使用時は人工芝をたたんで収納し、スタジアムの隣で養生した天然芝を「ホヴァリングシステム」で移動させて使っていた。

サッカーにとっても野球にとっても「専用スタジアム」でない分、試合環境としては厳しい。サッカーサイドにしてみれば「野球が来なければ、こんな不自由な思いはしなくて済んだのに」という意識がある。

エスコンフィールドHOKKAIDO
撮影=プレジデントオンライン編集部
エスコンフィールドHOKKAIDO - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■「もっと早くからやればよかった」

株式会社札幌ドーム、日本ハム、コンサドーレと施設の主要3者の思惑と利害が相反するなかで、日本ハムは2016年、自前のスタジアムを北海道に建設することを決めた。

株式会社札幌ドームの年商は30億円ほどだが、その約4割を占める「最大の店子」が、出ていくことを決めたのだ。

一般企業であれば、2023年と決められた「移転」の前に、新たなビジネススキームの構築、スポンサーや支援企業の獲得に動くはずだろうが、株式会社札幌ドームは、少なくとも表面上は目立った動きはなかった。

そして2023年3月期決算では、「日本ハムが出ていった2023年は、一時的に少し(純利で2.9億円ほど)赤字になりますが、翌年以降はまた黒字になります」という極めて楽観的な見通しを発表した。

2023年3月に札幌市に隣接した北広島市にできた日本ハムの新たな本拠地、エスコンフィールドHOKKAIDOは、開場当初こそ「遠い」「アクセスが悪い」と言われたが、ペナントレースが始まると「野球観戦を核として、グルメ、ファッション、レジャーを満喫できる」本格的な「ボールパーク」としてブームを呼び、1年目から利益を出した。

運営担当者は「もっと早くからやればよかった」と言った。

「エスコンフィールド」内
撮影=プレジデントオンライン編集部
「エスコンフィールド」内には球場とは思えないほど、フードが充実している。こうした飲食収入もあり、日ハムの23年の年間売上高は、札幌ドーム時代の19年から1.6倍の251億円となった。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■いまだネーミングライツ応募者は現れず

これ以降、札幌ドームは、なにかにつけて「それにひきかえ」と言われるようになる。折あしく、毎年大きな収益をもたらしたアイドルグループ「嵐」も活動を休止した。

そんな中で、札幌ドームは活用策を探るため、5万人規模を収容できる会場を大きな暗幕で仕切り、通常の半分ほどの2万人規模でイベントが開ける「新モード」を打ち出す。費用の10億円は札幌市が拠出したという。

しかし、この新モードは全く反響を呼ばず、2023年度の利用は「3日」にとどまった。

「一般企業なら、新しい展開をする前にしっかりしたマーケティング調査をすると思う。まさかお偉いさんの『思い付き』ではないと思うけど、どこまでプランを詰めたのかなあ」とは、スポーツビジネスの専門家の言葉だ。

さらに、今年1月には球場のネーミングライツ(命名権)の売却を発表した。しかしオリックスの「京セラドーム大阪」、千葉ロッテの「ZOZOマリンスタジアム」など、年間数億円規模のネーミングライツは、プロ野球チームあればこそだ。札幌ドームの年間2.5億円という価格は、いかにも割高で、応募者はないまま、募集は継続中だ。

そうした札幌ドームの「迷走」は、逐一メディアの報じるところとなった。

その挙句に、2023年度の純損益が、当初の見込みの倍以上に膨らむという発表である。

日本ハムファンだけでなく、多くの人々は「それ見たことか」と思ったのだ。

■私が考える起死回生の策

ここまで苦境が続けば、一般企業であれば、社員のリストラ、給与のカット、事務所の移転などの対応が始まるはずである。

しかし第3セクターの株式会社札幌ドームは「剰余金が20億円余ある」として、少なくとも表面上は余裕があるかのように振舞っている。このあたりも、世間の神経を逆なでするのだろう。

実は札幌ドームの保全は、株式会社札幌ドームではなく、札幌市が担っている。2022年実績で、保全事業費として6.5億円を負担している。それを収支に含めれば、札幌ドームは日本ハムがいた時代から「実質赤字だった」との指摘もある。

札幌ドームは「災害時の大型避難施設」でもあり、行政が保全事業費を出すのは当然との見方もあるが、老朽化とともにその費用は増大するだろう。

地価も上昇し、北海道医療大学の移転も決まるなど、「街づくり」のレベルに及ぶ経済効果をもたらしている北広島市と日本ハムに対し、札幌市と札幌ドームは頼みの2030年札幌五輪も頓挫し、いい話が聞こえてこない。

「札幌ドーム」にとって大事なことは「意地を張るのをやめて、現実を見据える」ことだろう。このままいけば、「破綻」の道しかない。

筆者は以前から「夏の甲子園を札幌ドームに」と唱えている。

昨今の酷暑の中、屋外で行われる夏の甲子園では、選手の健康に及ぼすリスクが高まっている。猛暑は熱中症だけではなく、選手の集中力を奪うため、ケガのリスクも増える。もちろん観客や審判にもリスクがある。ならば、天候や日程変更の影響を受けない札幌ドームで行った方が高校球児の命と健康を守れる。

この際、札幌ドームは選手たちから不評のカーペットのような人工芝を本格的に入れ替えて、夏の時期だけ「札幌甲子園」と名称を改め、高校野球の殿堂にしてはどうか。筆者は本気で思っている。それくらいしないと、道はひらけない。

かつて大阪ドーム(現京セラドーム)も、第3セクターの運営会社が破綻して、オリックスグループが支援したのだ。「破綻」の声を聴く前に、民間も含めた「再建スキーム」を構築すべきだろう。現経営陣の「聡明さ」が求められる。

----------

広尾 晃(ひろお・こう)
スポーツライター
1959年、大阪府生まれ。広告制作会社、旅行雑誌編集長などを経てフリーライターに。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』、『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』(共にイースト・プレス)などがある。

----------

(スポーツライター 広尾 晃)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください