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洋菓子店の倒産件数が過去最多ペース…スイーツ人気は衰えないのに"日本人の洋菓子店離れ"が進んだ理由

プレジデントオンライン / 2024年7月12日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hanasaki

洋菓子店の倒産が増えている。帝国データバンクの調査によると、「街の洋菓子店」の倒産件数が今年1月~5月に過去最多を記録した。生活史研究家の阿古真理さんは「自店の特徴をアピールし、良質な商品を作り続けている店でなければ、生き残りが難しい時代になっている。その背景として5つの要因が考えられる」という――。

■洋菓子店の倒産件数が過去最多ペース

タピオカミルクティーの爆発的ブーム、マリトッツォ、バスクチーズケーキ、スコーン、ポップコーン、高級かき氷、ドーナツ、りんご飴、パフェ、グリークヨーグルト……ここ数年を振り返るだけで、いろいろなスイーツが流行している。

しかし、帝国データバンクが6月7日に発表した「『洋菓子店』の倒産動向調査(2024年1-5月)」によると、「街の洋菓子店」の倒産件数は今年1~5月、過去最高の18件も発生した。倒産は閑散期の夏以降に増えやすいため、今年は過去最多を更新する可能性があるという。なぜスイーツは人気なのに、洋菓子店は次々と倒産してしまうのか、要因を掘り下げてみたい。

考えられる要因は5つ。1つ目は、物価高。帝国データバンクの発表記事によると、洋菓子の原料のほぼすべてが値上げされたが、商品価格に転嫁するなどの対策をあきらめ倒産した店が多かった。バターが2007年、2014年に品不足で大きな話題になったことをご記憶の方もいるだろう。その頃から、原料価格は上昇し始めている。

しかし、デフレが長すぎた日本では、経費が上がったからと商品価格を上げれば、客離れが起きる恐れがある。町の商店は、客の顔が見えるだけにかえって上げにくい場合もあるだろう。最近やっと、デフレが所得の低さや経済の低迷を招いてきた、と問題意識が共有され始めたが、それでもまだ、現場レベルでは価格を上げるリスクは大きいようだ。適正価格でモノが売れないと、売る側は商品の質を下げる、量を減らす、人件費を減らす、あるいは一部の洋菓子店のように、経営を圧迫されて倒産に向かうしかなくなる。

■「小腹を満たす甘いモノ」のライバルが増えた

2つ目の要因は、ライバルの増加だ。よく言われるのが、コンビニスイーツの人気。2009年にローソンがプレミアムロールケーキを発売して以降、大手各社がスイーツの開発に力を入れ、洋菓子店の脅威になるほど質を上げた。また、シャトレーゼなど大量生産でコストを抑えた洋菓子チェーン店もある。

最初に挙げたスイーツのラインナップを、もう一度確認してほしい。流行するスイーツには、洋菓子店が扱わないジャンルが多くないだろうか? これらのスイーツの中には、専門店が次々にできて流行が拡大したモノも多い。2019年に大ブームとなったタピオカミルクティーもその一つだ。つまり、小腹を満たす甘いモノの製造・販売業者の幅が広がり、目新しさからブームになるなどしていることが、古参となった洋菓子店に人が行く機会を減らしているのだ。

■「できたて」スイーツを提供する高級路線の店も

しかも流行スイーツは、洋菓子より手軽なイメージを持たれているモノが目立つ。りんご飴やポップコーン、ドーナツなど歩き食べができる、洋菓子より価格帯が安い、あるいはフレーバーやトッピングのバリエーションが豊富で映えるなど、現代人の嗜好を捉えた商品も多い。しかも専門店の場合、スイーツ自体は1種類なので、仕入れや製造のコストも抑えられる。一方、高級路線で勝負する店もある。最近増えているのが、酒に合うチョコレートやアイスなどを開発したバーや、デザートコースを出す店だ。6~7年ブームが続くアフタヌーンティーも、スイーツや料理に凝った企画が増え、高級化が進む。

アフタヌーンティー
写真=iStock.com/MinnaRossi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MinnaRossi

これらの店が扱うのは、テイクアウトするケーキとは異なり、できたてが魅力のデザートだ。バブルが崩壊して以降、グルメ化が進んだこともあり、数千円でコースに仕立てる飲食店も多くなった。レストランでコース料理をいただき、デザートでしめる楽しみを覚えた人は多い。できたてモンブランなど、食事と切り離してデザートを出す店もある。

■昭和期とは消費シーンが大きく変わった

昭和の頃から愛されてきたスポンジケーキ中心の洋菓子店の場合、店主や職人の高齢化が経営悪化につながっている場合がある。店に新しいモノを取り込む発想やエネルギーが不足していることもあるだろう。また、少ないながら長年の顧客が中心の店は、路線変更をしにくい。速過ぎる時代の変化が、3つ目の要因である。

先に挙げたように、スイーツの消費シーン自体が大きく変わっている。庶民がケーキに親しむようになったのは高度経済成長期以降。子どもの誕生日やクリスマスにホールケーキを買って家族で分ける、あるいはよその家庭を訪問する際の手土産にする、などの場面で洋菓子店のケーキは親しまれてきた。町の洋菓子店は、そういう需要を見込んで次々と誕生している。1950年代後半から1980年代初め頃までは、歴史上稀に見るライフスタイルの均質化が進んだ時代で、庶民も自由になるお金と時間を持てるようになった頃だ。今から考えれば、作れば売れた時代だったと言える。

しかし、平成になる頃から、再びライフスタイルの多様化が進む。人々は結婚するとは限らず、結婚しても子どもを産むとは限らない。変化に合わせて洋菓子店もホールケーキのサイズを小さくしたが、そもそもケーキが選ばれる場面が減少した。都会では家庭を訪問し合う機会が多くないし、大人中心の家庭訪問だと、手土産はワインかもしれない。

■「フランスの生ケーキ」の流行と定着

4つ目の要因は、洋菓子自体のトレンドが変化したことだ。1990年代後半から2000年代初め頃までパティシエブームになり、フランスの生ケーキが人気になった。

この頃、複雑な味の要素を組み合わせた、美しいフランスの生ケーキが流行し定着した。昭和時代のケーキは、シンプルなスポンジケーキが中心だった。しかし、フランスの生ケーキはムースやジャム、タルトなど味も食感も異なる多彩な要素を組み合わせる複雑なスイーツである。その味にハマった人たちは、以前ほどシンプルなスポンジケーキに惹かれないかもしれない。町の洋菓子店という同じ土俵で勝負するフランス菓子店が増えたのだ。

最後の要因は、ケーキの敷居の高さだ。ケーキは、テーブルと椅子がある空間で皿に盛り、お茶と共にいただくというシチュエーションも大事である。もちろん、片手で食べる、シチュエーションは気にしないという人もいるだろうが、きちんと場を整えてこそおいしいスイーツではないか。

一方、近年の専門店などで流行するスイーツには、手軽さが売りになるモノも多い。ドーナツしかり、ポップコーンしかり。スイーツブーム終了後に大ブームになったパンも、手軽さと価格の安さが魅力だった。流行を広げる若い世代はもちろん、中高年も経済的に余裕がない、と感じている人や、スイーツ以外にお金を使いたい人も多い。選ぶならより安いモノを、という人は多いだろう。

さまざまな種類のドーナツ
写真=iStock.com/viennetta
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/viennetta

もしかすると、外観が古びるに任せた老舗の洋菓子店に、入りづらさを感じている若者もいるかもしれない。コストを割けないなどの理由でリニューアルもできず、くすんだ印象を与えている店は多そうだ。

■昭和レトロブームに乗るのも一つの手だ

このように、今は洋菓子店が生き残るうえで、障害が山ほどある時代だ。町の洋菓子店は、生き残るために、自らのスタイルをはっきりさせる必要があるのではないか。昭和スタイルで愛され続ける店は、固定客を満足させつつ、昭和らしさを追求してレトロで売る方法もある。商品の魅力を押し出すラインナップ、内装や外観などにして、若い世代の昭和レトロブームに乗れば、新しい顧客が開拓できるかもしれない。

また、思い切って新しいジャンルの商品を増やす、内装や外観を変えて、アップデートする方法もある。海外では、日本の美しい生ケーキの評判は高い。観光地に近ければ、インバウンド客目当てにアピールを変える手もあるのではないか。

いずれにせよ、自店の特徴をアピールし、良質な商品を作り続けている店でなければ、生き残りが難しい時代になっている。残念ながら、時代が変わればなくなってしまう商売、文化はある。洋菓子店はその意味で、生き残るか消えるかの転換点を迎えていると言えるだろう。

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阿古 真理(あこ・まり)
生活史研究家
1968年生まれ。兵庫県出身。くらし文化研究所主宰。食のトレンドと生活史、ジェンダー、写真などのジャンルで執筆。著書に『母と娘はなぜ対立するのか』『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『「和食」って何?』(以上、筑摩書房)、『小林カツ代と栗原はるみ』『料理は女の義務ですか』(以上、新潮社)、『パクチーとアジア飯』(中央公論新社)、『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』(NHK出版)、『平成・令和食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)などがある。

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(生活史研究家 阿古 真理)

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