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「名商店街は壊され分断される」タワマン建設を都知事候補小池百合子氏や首長がスイスイ認める恐るべき目論見

プレジデントオンライン / 2024年7月4日 10時15分

2人の候補 選挙ポスターから - 撮影=プレジデントオンライン編集部

7日に投開票される都知事選の争点のひとつが、再開発。現職の小池百合子氏はタワマンなどの建設に積極的だが、他の首長も推進派が多い。経済ジャーナリストの山下努さんは「自治体はタワマン建設のため1カ所だけで100億~200億円の補助金を出すこともある。こうした東京の富裕住民の優遇策は、日本の中流社会の分解を促進し、“階級化”を進めていく」と警鐘を鳴らす――。

■「大規模再開発1カ所で200億円の補助金が出ることもある」

7月7日に投開票される東京都知事選は、現職の小池百合子候補と立憲民主党などが擁立した蓮舫候補らが本命とみられている。

東京都内では、以前より23区を中心に国や都の補助金を推進力にしたタワーマンション建設事業が相次ぎ、再開発事業の柱となっているが、この再開発も選挙の争点のひとつとなっている。

小池候補は国際的な都市間競争を勝ち抜くため、東京の都市機能を強化し、3期目はさらにタワマンを含む「再開発」を推進するだろう。一方、蓮舫候補は、特に神宮外苑の再開発は東京都の都市計画や再開発の許認可権や裁量権が大きいことから、都政において再開発行政の見直しを訴えている。

再開発の最前線のひとつが品川区にある。後述する全長800mのアーケードからなる「武蔵小山商店街」(品川区)。これは東京特有の巨大商店街との連結効果を狙ったタワマンだ。

行政はこうした事業を「再開発」と称し、巨額な補助金を注ぎ込む。マイナス金利効果と相まって、コストの高い大手デベロッパーによる再開発プランの物件の高さは天を貫くほどだ。都心の大規模再開発においては「1カ所で100億円の補助金が出ることも珍しくない」(元文化庁技官)のであり、200億円規模の補助金の出た再開発も多数ある。

小池候補だけでなく、23区や多摩地区の自治体などの首長や議会、役所も同様の都市計画を支持することが多く、今後も、公園など公有地周辺における再開発規制の緩和に加え、巨大商店街などとの連結が社会現象となる可能性が高い。

なぜ、小池候補を筆頭に東京都や区・市などの自治体、その議会までタワマン再開発に公的な支援をするのか。

■「富裕層を住民にできるから」タワマン再開発へ公的支援する理由

それは、ひとことで言えば、「富裕層を住民にできるから」である。2023年の23区内のファミリー向け新築マンションの平均価格は1億1000万円を突破しており、タワマン物件の場合、分譲価格が「2億ション」も珍しくないという。購入者は外国人を含む投資家だけでなく、ともに正社員の夫婦のパワーカップルが億単位のローンを背負うことも少なくない。彼らはタワマンならリセールバリューがあると踏んで、いざとなったら売るのでそんな大借金もできるのだ。

一方で、自治体は都営住宅や区営住宅や市営住宅の維持や建物更新、新規建設には熱心ではない。そこに住む低賃料の住民は、住民税を支払う額が少ないうえ、福祉や医療費などで自治体にとって負担になるからだ。

このような弱肉強食の構図を強めるような行政運営をするメリットは何か。

巨額な再開発支援のうち、行政の「裁量」は建物の高層化や容積率アップをどの程度認めるかということだ。物件の中に、ホテルや国際会議場などを含めた準公的な施設を作ることなどを条件に大きな都市計画上の支援を与えるわけだ。

そうすると自治体の財布が痛まないだけでなく、自治体が増やしたい税収を増やす施設を民間に建設促進してもらえる。こうして、東京の富裕住民の優遇策は、日本の中流社会の分解を促進し、「階級都市化」はどんどん進んでいく。

ただ、日本は少子高齢化と人口減少で、タワマン開発で地域の人口が増えても日本全体の人口は減っているままだ。それは、他の自治体から富裕層をはがして自分の自治体に貼り付ける行為で日本全体から見れば困った「内戦」にも思える。しかし、こうした論点は知事選では問われていない。

東京のタワーマンション
写真=iStock.com/MASA Sibata
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MASA Sibata

前述したように、東京都の近年の東京都内のタワマン建設を促進しているのは補助金だ。東京都内で毎年約50カ所の事業が進んでいるが、少なくとも平均すると、その2割の額を補助金で支えている。

これは、一握りのデベロッパーしかそうした開発は参入できない現状においては、このうえない行政発の支援となっている。なかには事業費の7割近い支援を受けている上板橋駅南口駅前東地区(板橋区)もある。

国や自治体の説明では、「防火や耐震など防災事業を行うには多くの場合、再開発が最適解」(東京都元副知事)とされている。道路拡幅や建物の不燃化、細分化された土地建物の権利関係を解きほぐせるからだ。ただ、それは表向きの理由に過ぎない。

再開発事業は用地確保において道路、住居や私有不動産が絡み、事業費も膨大となりやすい。このため、補助金をテコに建物を高層化・大型化して、再開発に参加するデベロッパーが外部に売れる保留床といわれる部分を作りたい。こうした構図が結果的に補助金漬けを招いている。さらに郊外の物件では保留床の価格が安いこともあり、そうなると税金依存率は最高7割まで高まることもある。

タワマン建設を柱とした再開発では、道路の新設や拡幅もセットとなる。道路に用地を売る地主は、笑いが止まらない場合もある。こうして不動産を持てる富裕層は優遇され、都市の「階級化」が進んでいる。

■タワマン誘致理由「財政安定で税金確保して公務員の地位を守りたい」

自治体は、こうしたマンションを買える富裕層や高齢者、パワーカップル、外国人を引き付け、自治体の財源を安定させたい。裏には「財政を安定させて、給与を払う税金を確保して、公務員の地位を守りたい」という本音も見え隠れする。

ちなみに、高額にもかかわらず都内のタワマンが完売する背景には、「高校生の授業料の無償化(所得制限設けず)や子供の医療費無償化」も一役買っている。

東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の知事と1都3県の5つの政令都市の市長でつくる9都県市首脳会議は、4月の会合で税収が豊かで不交付団体の東京都の独り勝ちが問題になった。

24年度から始める東京による東京都の授業料実質無償化(親の所得制限撤廃)のような手厚い支援は東京都以外の8自治体では難しい。このため、子育て層が東京から地価や住宅の安い東京都以外の8自治体に転居する流れを抑制してしまう。

埼玉県の大野元裕知事は、「本来無償化は国が全国一律で実施すべきだが、一部の自治体が単独で行い不均衡が生じていることは強く懸念している」といい、他の知事らも同調した。

再開発を巡っては、東京都に残る都内有数の大規模商店街が反対を始めている。板橋区にある「ハッピーロード大山商店街」(560m)は、アーケード街をかなり前に都市計画決定された都道建設により分断され、タワマンを造られるため、有力スーパーの社長が先頭に立って反対運動を起こしている。このように、大型商店街の再開発はタワマンの建設の是非が問われる。

前述した武蔵小山商店街の入り口部分の東急目黒線武蔵小山駅前には、近年、三井不動産と住友不動産がタワマンを建設し、駅前の風景が一変した。

さらに現在、商店街の中ほど近くに3棟のタワマンを建てる計画が進んでおり、品川区も推進している。いずれの計画も100億円前後の補助金が支出、または今後の支出が見込まれている。

タワーマンション
写真=iStock.com/wat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wat

マンション価格が10年前の2倍程度となり、開発者が大手不動産会社(デベロッパー)であり、その売上高は伸び、採算も改善している。湾岸エリアだけではなく、大規模商店街とタワマンを連結させれば、これまでにない相乗効果が見込めると事業者は考えているようだ。

武蔵小山の商店街のタワマンに長年反対してきた元品川区議の佐藤弥二郎氏によると、商店街は戦前からの歴史があり、かつては桑畑が目立った入り口部分は大森海岸などで海苔をつくっていた山本海苔店(中央区日本橋)などの海苔を干す場所だったという。

戦後の人口増加で建物が建ったが、所有者は山本海苔店のグループ会社の山本保全がもち、同社が今回の駅前タワマン再開発の用地の9割以上を用意したといわれる。実は、山本海苔店の副社長だった山本泰人氏は現在、中央区長を務め、同区の再開発は日本橋に本社がある三井不動産が主に担当している。武蔵小山でも、中央区長就任後は、直接的に武蔵小山再開発案件とのかかわりがなくても、中央区の再開発と似たような形になったわけだ。

商店街の衰退を懸念する声がある一方、商店街にタワマンができると富裕層が数多く居住するため、商店街の売り上げ増につながるという見方もある。店主が高齢化や売上高の低迷に直面し、後継者がいないケースはタワマンや道路建設に賛成しやすいムードが高まる。

もし、小池候補が当選すると、地域のタワマン化が都内いたるところで発生するということになるのだろうか。

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山下 努(やました・つとむ)
元朝日新聞経済部記者、経済ジャーナリスト
1986年朝日新聞社入社、大阪経済部、東京経済部、『ヘラルド朝日』、『朝日ウイークリー』、「朝日新聞オピニオン」、『AERA』編集部、不動産業務室などに在籍。2023年朝日新聞社退社。不動産業(ゼネコン、土地、住宅)については旧建設省記者クラブ、国土交通省記者クラブ、朝日新聞不動産業務室などで30年以上の取材・調査経験を誇る。不動産をはじめとする資本市場の分析と世代会計、文化財保護への造詣が深く、執筆した不動産関連の記事・調査レポートは1000本以上に及ぶ。『不動産絶望未来』(東洋経済新報社)、『「老人優先経済」で日本が破綻』(ブックマン社)、『世代間最終戦争』(立木信名義、東洋経済新報社)、『若者を喰い物にし続ける社会』(立木信名義、洋泉社)、『2030年不動産の未来と最高の選び方・買い方を全部1冊にまとめてみた』(東洋経済新報社)など多くの著書がある。

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(元朝日新聞経済部記者、経済ジャーナリスト 山下 努)

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