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人生の質を上げるには「自分の機嫌をよくするスキル」が絶対重要…ごきげんの究極形「ゾーン状態」に入る方法

プレジデントオンライン / 2024年7月11日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Lacheev

幸福な人生を送るには何が必要なのか。産業医の辻秀一さんは「どんなにやりたいことをやっていても、心が“ごきげん”な状態でなければ人生の質は低下する。自分の機嫌を自分でとれる人は、周囲の人も幸せにする」という――。

※本稿は、辻 秀一『「機嫌がいい」というのは最強のビジネススキル』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

■「気分」と「機嫌」はどう違うのか

人間は心の生き物だ。つまり、何かを感じて生きている。さまざまな感情を抱いて生活し仕事をしているのだ。その心の状態をどう表現してマネジメントするのか?

日本では、心の状態を「気持ち」とか「気分」とかで表現してきた。ただ、「気持ち」も「気分」も心の状態だけでなく、じつは「考え」、つまり「思考」も入ってしまっているのだ。

今は休みたい気分。これは心の状態ではなく「考え」だ。みんなを喜ばせたい気持ち。これも明らかに「思考」のことをいっている。

そこで日本には、心の状態を表現する最適な用語の1つとして「機嫌」という言葉がある。

「機嫌」は間違いなく心の状態を示していて、わたしたち日本人なら、胸の辺に感じるものだ。

「機嫌がいい」とか「機嫌が悪い」という感じは、胸のあたりの心の状態を表現している。

■セルフイメージの大きさが心の状態の安定を示す

わたしがこうした勉強をはじめたころ、モントリオールオリンピックの射撃の金メダリストのラニー・バッシャム氏は「セルフイメージ」という言葉で心の状態をとらえようとしていた。心の状態の揺らぎを言い表すために、「セルフイメージ」が大きくなったり、小さくなったりするというように、理解し伝えていた。

ネガティブな感情が起こって心に揺らぎが生じていると、「セルフイメージ」は小さくなると。その「セルフイメージ」の大きさが心の状態の安定感を表すのだという説明だ。その大きさに応じて、パフォーマンスのレベルが決定する。

ラニー・バッシャム氏のその理論がわかりやすく、拙著『スラムダンク勝利学』でもその理論を使って心の状態とパフォーマンスの関係を描いている。がしかし、しだいに心の状態の表現は「揺らぎ」だけではなく、「囚われ」という概念もあると思うようになった。

■自分らしいパフォーマンスができている「フロー状態」

たしかに、「囚われ」の心の状態は自分らしさをなくしている。そんなことを考えているとき、シカゴ大学で行動科学を専門とするチクセントミハイ教授の「フロー理論」を目にした。仕事の職種や場面、地位に関係なく、またスポーツでも競技種目やポジションに関係なく、さらには音楽でも楽器や弾いている曲に関係なく、自分らしいパフォーマンスがインプットやアウトプットされているときは、みな同じ心の状態にあるという考えだ。

そのようなときは、「流れるかのごとく」と表現して説明した人がアンケートで多く、その心の状態を「フロー」と呼称した。まさに、その心の状態を「揺らがず囚われず」の心の状態とわたしは理解した。

チクセントミハイ教授は、そのような心の状態がどのようなときに生じるのかを研究され、たとえば自身のスキルレベルと自分の取り組んでいるパフォーマンスの課題のバランスが整っているときと述べていた。そして、「フロー」は無我夢中の状態でもあるとも。かなり、多くの人が知っている概念、「ゾーン(Zone)」に近い心の状態だ。

400年も前に、日本でも宮本武蔵が晩年したためた『五輪書』の、「心」のことを述べている「水の巻」に同様のことが書かれている。流れる水のごとしの心の状態でないと天下無双は手に入らないばかりか、真剣勝負の世界では死ぬと。たしかにその通りだが、わたしはもう少しライトにとらえることはできないだろうかと考えたのだ。日常的にだれにでも関心を持ってもらえる概念だ。

チクセントミハイ教授のようにフロー状態を条件によるもので、かつ究極なところの心だと解釈すると、メンタルトレーニングを進めていくうえで多くの人に汎用的に理解してもらうことは難しいと考えるようになった。

■機嫌が悪いとき、心は何かに囚われている

そこで、この「揺らがず囚われず」の心の状態を考えたとき、「機嫌」という言葉を思いついたのだ。揺らぎ囚われているときの心の状態をストレス以外に何かうまい表現はないかと考えあぐねていたときに、そうだ、それこそが「不機嫌」だと気づいたのだ。

機嫌が悪いときの心は、何かに揺らぎ、何かに囚われているのだとわかった。逆に、その視点で考えてみると「機嫌がいい」ごきげんな心は、まさに揺らぎや囚われのないときなのだ。そこで、心の状態を「機嫌」ととらえて、「機嫌がいい」状態を「ごきげん」、「機嫌が悪い」状態を「不機嫌」と表現するようになった。

そのことにより、日常でのみなさんの理解が急激に高まった。「機嫌」は日本人には極めてとらえやすい概念と言葉だったのだ。今、機嫌悪くないですか? 機嫌がいいですね。あの人、不機嫌ですね。今日もごきげんでいきましょう。などなどだ。「機嫌がいい」ごきげんな心の状態には、いろいろなものがふくまれているが一括でこれで済む。

わくわくしているのも「ごきげん」だが、リラックスしているのも「ごきげん」だし、楽しいのも「ごきげん」だが、安心も「ごきげん」だ。

一方、「不機嫌」も同様だ。「不機嫌」にもいろいろあるが、私たち日本人は、イライラも、怒りも、落ち込みも、がっかりも、不安も、心配も、すべて「不機嫌」で事足りてしまう。

便利な言葉が日本には存在していて、これを使わない手はないと、わたしのメンタルトレーニングでは大いに利用させてもらい、たくさんの方も把握しやすくなっている。

人間の心の状態を図に表すと、以下のようになる。人には心の状態が必ず存在していて、その状態を示す矢印があるということだ。

人間の心の状態を示す矢印
イラスト=大野文彰
『「機嫌がいい」というのは最強のビジネススキル』(日本実業出版社)より - イラスト=大野文彰

■ごきげんの究極としての「ゾーン」状態

程度の差はあれ、この矢印は左右どちらかにしか傾かない。左に傾いていけば、何かに揺らぎ囚われてストレスを感じている状態。それが「不機嫌」「機嫌が悪い」感じだ。ノンフロー(Non Flow)な状態。この心の状態がひどくなってさらに左に傾き、戻れなくなった状態がうつ状態だ。心の病気の状態と表現できる。

一方、右に傾くと「機嫌がいい」状態だ。揺らがず囚われず、ごきげんで自然体だ。すなわち、フローな状態。チクセントミハイ教授のよりも範囲が広く、ライトな状態もふくんでいる。

その先の究極に「ゾーン」の状態がある。ボールが止まって見えるとか、一挙手一投足がスローモーションのようにとらえられるような究極の状態だ。スポーツでは、ときに体験可能な究極だ。『スラムダンク』でいえば、山王工業戦で湘北の三井くんがスリーポイントをバンバン決めて追いついていくときの感じだ。

ただし、日常やビジネスもゾーンである必要はない。とにかく、右のほうに心が傾いている状態、「機嫌がいい」状態を仕事の中で増やしていく。自分の機嫌は自分でとって、「機嫌がいい」状態で、せっかくやるなら、どうせやるなら、やっていけるスキルを有してほしいというのが本書の狙いにほかならない。

■限りある、生きている時間の質を高めるために

心の状態はとかく見えないので忘れがちだが、どんな人にも「機嫌」があって、仕事も人生も送っているのだ。しかし、ただ闇雲に「機嫌よくやれ」と言われても、なかなかピンとこないのもまた事実だ。

わたしがそれに気づけたのはパッチ・アダムスの「質」の概念があったからである。人生は死ぬことだけは決まっていて、その生きている間のすべてに「質」があるということの理解が、わたしをこの考え方に興味を持たせたのだ。

最初から直球で心の話だったら、もしかしたら抵抗感があったかもしれない。「心」というと、まず最初の印象は宗教だ。さらに、もう1つの印象は精神科。病んだ心についてだ。

わたしがパッチを通じて、心の状態に興味を持てたのは、それが人生の質、行動の質、思考の質、関係の質、時間の質に関わっているのだということを理解できたからだった。それで、これまでとはまったく違う視点で、心の状態への関心を素直に持つことができたのだと思う。

■機嫌をマネジメントしなければ人生の質が下がる

すべての人が「生きる」というパフォーマンスを死ぬまで行う。そこには何をするのかの「内容」がどの人にもある。なので、どの人もその「何を」するかを考えて実行し、生きることに全精力をかけている。それこそが人生だと思い込んでいるからだ。

しかし、それだけだと「どんな心の状態で」という「質」の概念を無視しているので、ストレスばかりがかかり不機嫌な人生になる。明らかに「well-being」ではない。何かをやってうまくいったらごきげんになれるとか、自分のしたいことができたら「機嫌がいい」自分でいられると思いながら、人生の試合に悪戦苦闘して、ひたすら量で勝負し続けることになる。

しかし、人生と仕事には「質」がある。すなわち、「機嫌」という心の状態が重要だ。ということは、その「機嫌」をマネジメントしてごきげんな心を整えることができないと、人生の大半を決めている「質」というところが台無しなのだと。

心を整える自分と、何をしないといけないのか考え実行する自分。この両者を大事にすることが何よりも生き抜く力になるということなのだ。

■すべての人が機嫌よく生きられることを目指す

人生は、自分ひとりで生きているわけではない。必ず他者との関係性の中でわたしたちは生きている。家族との関係、仲間との関係、チームメイトとの関係、地域との関係、上司との関係、クライアントとの関係、部下との関係、お客さんとの関係、他人との関係などなど枚挙にいとまがない。

それらの関係する自分以外の人、すべてに「生きる」があり、彼ら彼女たちもまた何をするのかの「内容」とどんな心の状態かの「質」の両方でできた「人生」と「生きる」というパフォーマンスをやっているのだ。隣にいる人も、前にいる人も、一緒にいる人も、いない人もみんな同じ構造だということを忘れてはいけない。

何をするのか、何をしているのか、何をしなければならないのか、などの「内容」はそれぞれだが、この構造はすべての人、すべての瞬間で同じなのだ。そして、「機嫌がいい」でないと、その人の「生きる」の「質」も低下しているわけである。この仕組みを知らない人は、知らないからまわりでも平気で機嫌が悪くなっているわけなのだ。どんな理由があれ、「機嫌がいい」を手放したら、「質」は落ちていくということだ。

そこで、人と接するときも、この2つの軸を意識すればよい。人はそれぞれ複雑に生きているが、この構造がわかっていればシンプルに人と社会を見ることができる。

■他者の心の状態を良くするアプローチが支援になる

そこで、他者との関係において「内容」について触れるのを「指示」と呼び、どんな心での「質」かについてアプローチすることを「支援」と呼称する。「支援」とはおごってあげるとかではなく、「機嫌」や心の状態、あるいは「質」を大事に他者に接することをいう。

他人との関係は、人の仕組みがわかっていれば、この「指示」と「支援」でできているといっても過言ではないことを理解できるだろう。

「指示」は明確かつ具体的に、ときには厳しくてもいい。行動の内容に関しては、友だちでも悪いことをしようとしていたら、ダメだと言える関係が大事だ。上司や親やコーチは部下や子どもや選手に対して、行動の内容に対して「指示」の責任があるだろう。

一方でどんな人にも心の状態があり、質が存在する。それは部下や子どもや選手にもだ。

彼らはみな人間だから、当然だ。その心の状態に「機嫌がいい」をもたらすアプローチのことをあらためて「支援」と呼ぶ。ここでいう「支援」は助けてあげるとかボランティアや金銭的サポートではない。心の状態、すなわち「質」への配慮を他者にすることだ。

■人間は心のマネジメントがいまだに苦手なまま

人間関係は、この「指示」と「支援」のバランスで成り立っている。「指示」過多で「支援」がなくなればハラスメント傾向になる。「指示」がなく、ただ「支援」しかないとカウンセラーだ。他者を「機嫌がいい」状態に導く一番の鉄則は、自らが「機嫌がいい」という状態でいることだ。それが絶対的な社会的責任だということ。自分の機嫌を自分でとり、「機嫌がいい」を大事にしている人は、それだけでまわりをごきげんな空気にしている。

辻秀一『「機嫌がいい」というのは最強のビジネススキル』(日本実業出版社)
辻秀一『「機嫌がいい」というのは最強のビジネススキル』(日本実業出版社)

人間の仕組みをよくわかっているのなら、「機嫌がいい」は甘やかしの構造ではなく、人間社会の鉄則ともいえる重要なことだと理解できるはずだ。すべての人間関係は、この「指示」と「支援」のバランスの上に成り立っているのだ。ここにも、自分のみならず「機嫌」という心の状態への視点がなくてはならないことがわかる。

わたしたち人間は、認知的な脳が極めて発達したために、行動の内容に関しては高いレベルで関心があるが、自他ともに、人間の内側にある心の状態に対して、そのマネジメントが苦手だといわざるをえない。

しかし、それでは携帯電話でいえば、アンテナを無視して、電話をかけようとしていたり、SNSをやろうとしたりしてうまくいかないことと同じで、仕組みを無視した不十分な「生きる」をやっているにすぎないのだ。しっかりと人間の仕組みを理解して、「生きる」に責任を持って生き、そして自分と仲間で仕事もしていこう。

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辻 秀一(つじ・しゅういち)
産業医
北海道大学医学部卒業。慶應義塾大学スポーツ医学研究センターでスポーツ医学を学ぶ。1999年、QOL向上のための活動実践の場として、エミネクロスを設立。応用スポーツ心理学をベースに、個人や組織の活動やパフォーマンスを最適・最大化する心の状態「Flow」を生み出すため、独自理論「辻メソッド」で非認知スキルのメンタルトレーニングを展開。著書に『スラムダンク勝利学』『ゾーンに入る技術』『禅脳思考』『自分を「ごきげん」にする方法』他多数。

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(産業医 辻 秀一)

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