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なぜ全国1位だった沖縄県民の平均寿命は短くなったのか…和田秀樹が指摘する脂肪と健康の意外な関係

プレジデントオンライン / 2024年7月11日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/cf2

かつて沖縄県は「平均寿命全国1位」だったが、直近では男性が43位、女性が16位となっている。医師の和田秀樹さんは「沖縄県民が長寿だった最大の要因は、全国平均に比べ脂肪摂取量が多かったからだ。食生活が粗食に変化してから平均寿命の順位は下がった」という――。(第2回)

※本稿は、和田秀樹『コレステロールは下げるな』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

■「コレステロール=害悪」は本当なのか

「コレステロール害悪説」を世界に広めた有名な研究があります。1948年に始まったアメリカのフラミンガム研究です。

当時、アメリカではいちばんの死因が心筋梗塞でした。心筋梗塞を減らすために様々な研究が行われ、「どうやらコレステロールが関係している」ということが見えてきたのです。アメリカは医学の最前線と思われてきましたから、日本の医学会が大きな影響を受けたのは当然と言えるでしょう。

図表1は、1993年に出されたフラミンガム研究の最終的な結果です。

【図表1】血清総コレステロール1mg/dl上昇各の死亡率の年齢による差異
『コレステロールは下げるな』(幻冬舎新書)より

「血液中のコレステロールが1mg上がると死亡率はどう変化するか」を年代ごとに調べたものです。

心筋梗塞は、図の中の「冠動脈性心疾患」に該当します。このデータを見ると、40歳代から70歳代に至るまで、コレステロールの上昇とともに心筋梗塞による死亡率が上がっていることがわかります(80代はマイナスになっているので、むしろ下がっています)。

■コレステロールが増えるとがんの死亡率は下がる

では、他の病気はどうでしょう?

「非冠動脈性心疾患」は、40歳代では若干(0.1%)上昇しましたが、50歳代以上では、死亡率はマイナスになっているので、むしろ下がっています。

「がん」は、40歳代から80歳代まで、すべての年代で下がっています。

「総死亡率」は、40歳代は0.5%、50歳代は0.1%と若干の上昇を見せましたが、60歳代で横ばい、70~80歳代では下がっています。

つまり、フラミンガム研究の一部を切り取って「コレステロール害悪説」が広まってしまったのです。

高齢者にとっては、コレステロールは害悪であるどころか必要不可欠。このことは、様々な研究によっても明らかにされています。しかし日本では、いまだに70年以上も前の研究にミスリードされたまま、軌道修正できずにいるわけです。

■アメリカの研究結果を鵜吞みにしてはいけない

アメリカは心筋梗塞で死ぬ国です。

日本はどうか?

がんで死ぬ国ですよね。ですから、そもそもアメリカの研究結果を鵜吞みにしてはいけないのです。しかも、フラミンガム研究では「コレステロールが増えるとがんの死亡率は下がる」という結果が出ていたわけです。

とんちんかんな参考の仕方をしたとしか思えません。しかも、いまだに初期の間違いが尾を引き、「コレステロールは害悪」という風潮が蔓延している。やはり、事実と異なる見解は訂正されるべきだと私は思っています。

古いフラミンガム研究を持ち出すまでもなく、近年の日本の研究でもそれは明らかです。『コレステロールは下げるな』27ページで紹介した図をもう一度掲載します(図表2)。

【図表2】総コレステロール値と死因(J-LIT一次予防群)
『コレステロールは下げるな』(幻冬舎新書)より

本来は下げる必要のないコレステロールを下げたことで、がんの死亡率は上がっています。日本はがんで死ぬ国ですから、これはもう支離滅裂な話だとわかるでしょう。

みなさんは、この現実をどう思いますか?

私は高齢者医療の現場にいて「コレステロールは下げなくていい」と実感し、それを伝えているに過ぎません。また「実態調査の結果はこうですよ」と事実を伝えているだけなのです。

■沖縄県民が長寿だった最大の理由

とてもショッキングな話を、さらにします。沖縄県の話です。

沖縄県は、戦前から長寿県として知られていました。

なぜ長生きなのか? というのは誰もが興味を持つことでしょう。前出の柴田博先生もその一人です。そして長期の追跡調査を行いました。その結果、以下のような結論に行き着きました。柴田先生の著書から引用させていただきます。

「沖縄の長寿のもっとも大きな要因は、日本全体がまだ肉不足にあえいでいた頃から肉をよく食べ、また脂肪摂取量が全国の平均を1日5gくらい上回っていたことです。冷蔵庫の普及の遅れた沖縄は、腐敗を防ぐためもあって油をよく使っていましたが、その分、食塩摂取量は全国一少なかったのです。

沖縄の食文化は、日本の他の地域と大きく異なっていました。それは長期間琉球王国として独立していて、日本の古代から始まった仏教の影響による肉食タブーの洗礼を受けずに済んだからです。(中略)

また、野菜やコンブを食する沖縄の食習慣も長寿に貢献しましたが、副次的と考えるのが妥当でしょう」

柴田先生は、寿命の短い秋田と比較するなどして丹念に実態調査を行い、以上のように結論付けたわけです。

沖縄料理のテビチ
写真=iStock.com/GI15702993
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/GI15702993

■粗食を真似させてしまった

ところが、沖縄にとって不運なことがありました。それは他の研究者も沖縄を調べていたことです。彼らは、沖縄の長寿の要因を「野菜と大豆と米の豊かな摂取にある」と断定しました。

全国平均をはるかに上回っていた「脂肪の摂取」については評価せず、取り上げもしませんでした。それどころか「沖縄は肥満度が高い」と断じ、栄養指導をし始めたのです。

その結果、どうなったと思いますか? それが図表3です。

【図表3】沖縄県民(県民栄養調査)と全国民(国民栄養調査)の脂肪摂取トレンド比較
『コレステロールは下げるな』(幻冬舎新書)より

沖縄県民の脂肪摂取量は減り続け、全国平均を下回ってしまいました。そしてそれと比例するように、平均寿命の順位もぐんぐん下がっていきました。2020年には男性の平均寿命が、全国43位にまで落ちてしまったのです(女性もかつて1位だったのが16位)。

本来なら、長生きしていた当時の沖縄の食生活から学ぶべきです。ところが、あろうことか日本人の粗食のほうを真似させてしまいました。その結果、沖縄の人たちは早死にすることになったのです。

■コレステロール値を下げる「大きなデメリット」

ここまで読んできて、どう思われたでしょうか? 「コレステロールが悪い」と一方的に決めつけるのはよくないな、と思った人も多かったと思います。

コレステロール値を下げたほうがいいのか、そのまま放っておいていいのか?

もしそんな疑問を持ったのなら、メリットとデメリットを比べてみるといいでしょう。コレステロール値を下げることで「得られるメリット」と「失うデメリット」を考えるのです。

和田秀樹『コレステロールは下げるな』(幻冬舎新書)
和田秀樹『コレステロールは下げるな』(幻冬舎新書)

メリットは、心筋梗塞や動脈硬化のリスクを減らすことができる点です。

デメリットは、がんになりやすい、免疫力が下がる、病気になりやすい、意欲が低下する、うつ病や認知症になりやすい、お肌の潤(うるお)いやハリがなくなる、性機能も低下する、筋肉も低下する……など、キリがありません。

さらにデメリットを考える際には、薬による副作用も覚悟しなければならないでしょう。

第4章でくわしくお話ししますが、コレステロール低下薬の「スタチン」など、脂質低下薬は、副作用が多いことが知られています。服用後、ひどい筋肉痛に襲われ、我慢しながら生活している人も少なくありません。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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