「エアコン節約で人がバタバタ倒れる国ニッポン」国民負担率約5割&物価高で"中流完全崩壊"という漆黒の絶望
プレジデントオンライン / 2024年7月5日 10時15分
■「適切にエアコンを使って」呼びかけに応じられず倒れる人々
熱中症で救急搬送される人が増える季節となった。消防庁によると、熱中症での救急搬送は最も多いのが年齢層別で高齢者、発生場所別で住居という。エアコンなどの冷房器具をためらわず使い、こまめに水分補給するなど、予防対策を呼びかけている。
福岡市は「熱中症情報」のサイトで住民に注意を喚起し、「冷房を控え過ぎたケース」として、市内の熱中症発生事例を紹介している。80代の男性は3日ほど前から食欲がなく、体のだるさを感じて室内にいたが、冷房器具の使用を控えていたところ、症状が悪化し、動けなくなったという。
熊本県益城町も熱中症予防を呼びかけるサイトで、過去の事例を紹介している。エアコンの使用を控えて生活していた高齢者が、のどの渇きや暑さを感じにくくなり、食欲不振となって体調不良で救急搬送されたという。重症化した熱中症とわかった。
熱中症が65歳以上の高齢者に多いのは、①老化で発汗量が減って体熱を放出しにくくなる、②暑さを自覚しにくくなる、③口渇中枢の機能低下で脱水症状でも、のどの渇きを感じにくくなる、などとされる。こうした加齢による体の変化のほかにも、年金生活者が多く、節約志向からエアコンなど冷房器具の使用を我慢するケースが少なくないとみられる。
なぜ、暑いのに我慢するのか。
パナソニックが今年5月に実施したアンケート調査によると、今年の冷房利用を我慢しようと思うという回答が43%もあったという。電気代が家計に負担と感じている人が81%もいたとも。エアコンを所有する20~60代の男女555人にインターネットで調査した。年金生活者の世代になると、生活費に余裕のない人が少なくないため、電気代の負担感はこの調査結果よりも、さらに大きくなるのではないだろうか。
一方、熱中症は人命にかかわる。政府広報サイトは「熱中症は命にかかわる病態で、近年、熱中症による救急搬送人員は毎年数万人を超え、死亡者数は5年移動平均で1000人を超える高い水準で推移しています」と注意を呼びかけている。
■中流を襲う貧困とインフレが重なった“スクリューフレーション”とは
熱中症が命にかかわっても、電気代を少しでも節約したいという切実な気持ちは、年金生活者など、最近の物価高の影響をまともに受けている人たちに少なくない。
日本にかつて「1億総中流意識」があったが、いまや「中産階級の貧困化」が指摘されている。日本で中産階級が崩壊しつつあることが、エアコン使用のつつましやかな節約などに表れているのではないか。
中産階級の明確な定義はないが、日本の世帯所得の「中央値」でみることがある。厚生労働省が公表する国民生活基礎調査の所得金額階級別の中央値は、この20、30年で大きく落ち込んでいる。1990年代半ばには550万円前後だったが、2000年代初頭に500万円を割り込み、2010年代には400万円台の前半で推移し、直近の2022年は423万円。この30年近くで、世帯所得の中央値は百数十万円も落ち込んでいる。
そこに、最近の物価高が追い打ちをかけている。賃上げの動きはあるが、物価高に追いついておらず、中小企業などは大手企業ほどの賃上げになっていないほか、年金生活者への物価高対策は十分といえない。
第一生命経済研究所・首席エコノミストの永濱利廣さんは、「インフレで深刻化する生活格差」というレポートの中でウクライナ戦争以降、日本国内における中産階級の貧困化とインフレが重なった「スクリューフレーション」が深刻化していると指摘する。
生活必需品の価格は急上昇している。生活必需品は低所得であるほど消費支出に占める比重が高く、高所得であるほど比重が低くなる。財務省の家計調査によれば、消費支出に占める生活必需品の割合は、年収1500万円以上の世帯で43%程度に対し、同200万円未満の世帯で58%程度になっている。生活必需品の価格上昇で、所得が伸び悩む低所得層を中心に実質購買力が低下し、富裕層との実質所得格差が一段と拡大していく。
こうした背景に、永濱さんは東西冷戦の終焉による新興国の台頭があるとみている。「新興国の安い労働力を求めて世界のグローバル企業が進出し、先進国の就業機会が新興国に出ていきました。これによって新興国が台頭して生活水準が向上し、世界的な生活必需品の需要が増えて、食料やエネルギーの価格がグローバルで上がりました」と解説する。
日本の個人消費は、物価高のなかで節約志向もあり、低迷が続いている。賃上げが物価上昇に追いつかず、実質賃金がマイナスで、多くの人たちが節約生活を余儀なくされているためだ。個人消費は国内総生産(GDP)の約6割を占めており、個人消費が回復しないと、日本経済の本格的な回復は難しい。
■G7のなかで日本の国民負担率は断トツの上昇幅
日本で一般人の生活が、いかに厳しくなっているのかを見る指標はほかにもある。永濱さんは次のように話す。
「過去20年間の国民負担率の推移をみると、日本は先進諸国G7のなかで断トツの上昇幅となり、8%ポイント近く上がっています。2位のドイツでも3%ポイントくらいの上昇にとどまっています。これでは日本の景気が良くなるはずがありません」
国民負担率とは、租税負担と社会保障負担を合わせた義務的な公的負担の国民所得に対する比率のこと。財務省によると、昨年度は実績見込みで46.1%、今年度の見通しで45.1%となっている。これに財政赤字を加えた潜在的な国民負担率は昨年度が54.6%、今年度見通しは50.9%という。
日本の中産階級や低所得者層は、この30年くらいの経済の低迷に、最近の物価高に大きな打撃を受けている。消費生活は節約志向を強めるばかりだ。「貧困化」の進行を止めようがない。
永濱さんはレポートで、「地域格差も広げる可能性」を指摘している。地方では自動車の移動が多く、家計支出に占めるガソリン代は都市部に比べて高い。田舎へ行くと、冬場は暖房のために多くの燃料が必要で、灯油代の高騰は打撃となる。これが地域格差を広げる可能性につながるとみている。
中産階級が貧困化する日本は、これからどうなるのだろうか。永濱さんは、格差の拡大で犯罪の増加や優秀な人材の海外流出の可能性があるとみている。
実際、手っ取り早くお金を稼ごうと、凶悪で悪質な犯罪はすでに日常的に起きている。日々のニュースでは、お金を盗むため、人を簡単に殺している事件や、銅電線や水道蛇口などの金属類の窃盗事件も絶えない。
これまでは優秀な学生が国内の有名大学に進学することが多かったが、最近は米国などへ留学する人も少なくない。優秀な頭脳を代表する大学教授職の年間給与は、日米で2倍以上も格差がある。優秀な頭脳の海外流出は避けられない。
たとえば、東京大学が公表する2021年度の教授1200人の平均年間給与額は約1192万円で、その分布は約905万円~約1890万円と幅がある。一方、米国大学教授協会による2021~22学年度の大学教員給与調査で、教授の平均年収は14万3823ドルと、1ドル=160円で約2300万円。私立博士課程大学教授の平均給与で最高はコロンビア大学の28万800ドル(同約4500万円)で、スタンフォード大学の26万9100ドル(同約4300万円)、プリンストン大学の26万6100ドル(同約4250万円)などとなっている。
このままでは、日本の経済はじり貧になり、一般人の貧困化が進んでいく。永濱さんは「日本のデフレマインドを払拭するためには、それなりの政策を打つ必要があります」と話す。日本では最近まで、物価が下落するデフレ経済が続いてきたため、日本人は安いものを求める生活に慣れてきた。そこで、「お金を使った人が得をする必要があります」とみている。
給付金のばらまきだと使わないで貯金する人もいるため、とにかく支出してもらうことが大切になる。たとえば、韓国はキャッシュレス普及率が九十数%に達しており、クレジットカード決済は一定限度で所得控除を受けられる税制上の優遇措置を導入した。こうした支出を優遇する施策で、個人消費を促し、日本経済の回復を図る必要があるのかもしれない。
もちろん賃上げも大事だが、企業などの事業者は稼いだ以上に賃金を上げることが難しい。経済が好循環するためにも、消費を促す必要がある。何も手を打たないと、日本の貧困化が続いていく。
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ジャーナリスト
米国証券会社調査部を経て東洋経済新報社、米通信社ブルームバーグなど国内外の報道機関で30年以上にわたり取材・執筆。森林文化協会の月刊「グリーン・パワー」で森林ライターも続ける。
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(ジャーナリスト 浅井 秀樹)
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