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家にある体重計は捨てたほうがいい…「体重と体脂肪に一喜一憂するダイエット」が大間違いである理由

プレジデントオンライン / 2024年7月11日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/years

ダイエットのために毎日体重を量るのは効果的なのか。パーソナルトレーナーのmikikoさんは「体重は常に変動しており、1日の中だけでも数kgの幅がある。数字で一喜一憂するくらいなら、体重計なんて捨ててしまったほうがいい」という――。

※本稿は、mikiko『ニュージーランド式 24時間やせる身体をつくるベストセルフダイエット』(Gakken)の一部を再編集したものです。

■「太ももの隙間」はないほうが健康的

「太ももの隙間」こそ、実は人間の身体にとっては「あるほうが不自然なもの」です。

スラッと伸びた脚の間から光が漏(も)れる光景は多くの女性の憧れですが、人間の身体の構造や健康を考えたら、これは存在するべきではない隙間です。わざわざ隙間ができるようにダイエットすることに、健康へのメリットもありません。

骨格模型だけを見ると両脚の大腿骨(ももの骨)の間に大きな空間がありますが(図表1)、平均的な量の筋肉があればその隙間はほとんど埋まります。

【図表1】大腿骨の間には大きな空間がある
出所=『ニュージーランド式 24時間やせる身体をつくるベストセルフダイエット』

■筋肉が落ちすぎると膝や腰に負担がかかる

「筋肉と脂肪を落とせば隙間は大きくなるからダイエットすればいい」と思うかもしれませんが、隙間ができるほど筋肉が落ちれば、日常生活をこなすだけの筋力が足りなくなり、膝や腰などの関節に負担をかけるようになります。

また、隙間ができるほど脂肪が減れば、やせすぎによる生理不順や免疫不全で健康リスクが上がります。太ももの脂肪は女性ホルモンの働きが密接に関係するので、太ももの隙間を基準に減量を試みることは危険なのです。

しかし実際にはSNSや雑誌で、筋肉や脂肪がある程度ついているのに隙間がある人を見かけることがあります。桃尻同様に、見せ方7割で「それっぽく」見せることができてしまうのです。

■隙間は「つくる」ことができる

以下の①②は見せ方によってつくられる隙間、③④は健康上望ましくない体型・骨格によるもの、⑤はテクノロジーによる隙間です。

① 脚を開いて立っている【画像1】
→つま先をピッタリとはくっつけずに、隙間ができるくらい脚を広げて立っています。

② 脚が細く見えるポーズをしている【画像2】
→腰を後ろに引いたり、片脚だけ前に出したり、片方の膝を曲げるなどして、隙間ができるようなポージングテクニックを使っています。

③ O脚
→つま先がくっついている時に膝と膝がくっついていないO脚の場合、気をつけの姿勢をしていても脚の間に隙間ができやすいです。

④ 極度の痩せすぎ
→太ももの付け根から膝にかけてがまっすぐで、内もものふくらみがない人は、極度のやせすぎで生理不順や免疫力低下など、健康問題を抱えている可能性もあります(体質的に太れない人もいるので、見た目だけでジャッジはできませんが)。

⑤ アプリで加工して隙間を広げている【画像3】
→技術の発達による産物ですね……。

【画像】足の隙間の「見せ方」
出所=『ニュージーランド式 24時間やせる身体をつくるベストセルフダイエット』

■「太もも市場」で得するのは誰か

今ではスマホでも気軽に写真の加工をしたり、レンズを変えて印象を操作したりすることができてしまいます。太ももの隙間をつくるぐらいなら、数分で見分けがつかないほどできるのです。

なくてもいい隙間を、こうしたテクニックを使って「ないほうがおかしい」とでもいうかのように扱う環境は、多くの女性を間違ったダイエットに導き、心身共に苦しめています。

「太もも市場」で本当に恩恵を受けているのは、理想を追いかけるダイエッターではなく、人のコンプレックスを利用して注目を集めている人やビジネスなのです。

■体重計の数字は見た目を反映しない

体重計の数字を使ってダイエットの目標を設定するのはメジャーな方法で、トレーナーの教科書にも「数字を使って達成できたかどうかはっきり分かる目標を設定しましょう」と書いてありますし、ダイエットアプリでも体重を記録してグラフで見られるようになっています。

しかし、このSMARTゴールと呼ばれる方法は、ビジネスなどの場面で評価される目標設定の方法であり、これをダイエットで行なうとかえって混乱することになります。

その理由は、体重計の数字はその人の見た目を反映しないからです。力士とラグビー選手を比較してみると、同じ100kgの体重だとしても体型がだいぶ異なりますよね。骨の太さ・密度、内臓の重さ、筋肉の量、脂肪の量、胃腸の中のものの量など、身体の内容物の構成(体組成)によって、同じ体重でも見た目の印象が変わるのです。

■日々、変動する体重に翻弄されるだけ

筋肉は脂肪よりも重たいため、筋肉質な人は体重の割に締まって見える傾向があります。私自身も、見た目から予想される体重と実際の体重では+5~10kgほどの誤差がありますし、筋トレを始めて以来10kg増えても服のサイズはむしろ小さくなりました。見た目と体重は必ずしも一致しないのです。

また、体重は常に変動しており、朝起きてすぐ、トイレに行った後、ごはんを食べた後、夜寝る前など、1日の中だけでもけっこう変わり続けます。3食しっかり食べて水も1.5リットルくらい飲んでいれば、朝と夜で2kgほど変わっても珍しいことではありません。生理前後や断食だと、数日で3kgほど変動することもあります。

「体重」という1つの数字で表すものは、常にウロウロしている身体の重さのだいたいの値であって、本当は数kgの幅がある概念なのです。そのため、「見た目を変えたい」という目的でダイエットを始めたい人が体重計の数字を基準に進捗を確認していると、行ったり来たりする体重に翻弄されて、自分の進歩を正しく認識することができなくなってしまうのです。

■毎日、鏡の前に立つほうがずっといい

さらに、しょっちゅう体重を量ることで、自信の喪失と自分の身体の評価が落ちることが数々の研究で分かっています(※)。体重計に示された数字に一喜一憂して、その後にやけ食いや暴食に走ってしまうこともあります。

体重計の数字で目標を設定している限り定期的に体重を量ることになるため、仮に目標体重は達成できたとしても、明日は、明後日は、1カ月後は、そして1年後はと、ずっと気になるまま。その先の目的である「自信がつくこと」や「自分の身体をもっと好きになること」は遠のいてしまいます。これでは本末転倒です。

体重計に乗ってチェックし続けないと太ると思われがちなのですが、本当の問題は身体のことを気にする時間自体が少ないことにあります。体重計を使って進捗を確認するより、毎日同じ時間に鏡の前に立って自分の身体の見た目の変化を確認したり、自分の気持ちの変化を確認するほうが、ずっと「見た目を変える」「自信をつける」という目標にかなった方法でしょう。

鏡で体型を確認する女性
写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PonyWang

数字で一喜一憂するくらいなら、体重計なんて捨ててしまったほうがいい。プロボクサーや体重制限のある乗馬騎手でない限り、数字で目標を設定しなければいけない理由はないのです。

※ Jackson, Sarah E., et al. “Perceived Weight Discrimination and Changes in Weight, Waist Circumference, and Weight Status.” Obesity, vol. 22, no. 12, Sept. 2014, p. n/a-n/a, https://doi.org/10.1002/oby.20891.

■「体脂肪率」もあまりアテにならない

体重が示すのは「身体の重さ」だけであって、前日から1g増えたとしても、何が増えたかを示すものでもありません。1kg増えたら「脂肪が増えた」という勘違いをすることが多いのですが、脂肪が1日で1kg増えるというのは生理学的に不可能なこと。減る時も同様で、何が減ったかは体組成まで調べなければ分かりません。体重よりも体脂肪率を参考にするほうがよいでしょう。

とはいえ家庭用体組成計ですと、精度がまだそこまでではないようです。格安で手に入り家で気軽に体脂肪率を量れると人気になりましたが、その精度については話題になることはそんなにありません。実は±5%程度の誤差が出ることがあるといわれています。本当は25%の人でも、20%あるいは30%で表示されている可能性もあるということ。

1%の増減で悲鳴をあげるような私たちにとっては、この程度の精度ならば扱い方に気をつけなければなりません。入浴の前後で数%変わったり、汗をかいているだけでも数%の差が出ます。そのため、科学研究でも家庭用体組成計を使うことは推奨されていません。

■メーカーが体組成計の精度をアピールしない理由

正確な体脂肪率を量るためには、病院や大学機関にある1台で数千万円もするような機械を使う必要があります。これは私の勝手な想像ですが、本当に体組成計の精度が高いのであれば、売っている会社は自信を持って「○%の精度です!」ってセールストークに入れてくるはずですよね。実際に数字で精度を示していないのを見ると、「触れてほしくないところなのかなあ」と思ったりしています。

家庭用体組成計は、身体に電流を流して、その速度を基にその人の年齢、性別、運動量、体重など統計データを参考にして、体脂肪率を「推測」しています。5%の誤差があるとはいえど、科学的データを使っており、適当な数字を出しているわけではありません。

そのため、参考にすること自体は悪いことではありませんが、この誤差のことを知らずに数値を鵜呑みにしていると「昨日は25%だったのに、今日は27%に増えてしまった……」と、2%の脂肪増加にガッカリしてしまいます。ちなみに生物として、1日にこんなに増減することはあり得ません。短期間で起こる上がり下がりをあまり真に受けすぎないようにしましょう。

しょっちゅう体重を量るのと同じで、毎日のように体脂肪を量ることは精神的にもよくありません。気になって毎日量ってしまうような人は、家に家庭用体組成計を置かないほうがいいかもしれません。

■疑問視されている世界の「BMI」基準

医療現場やダイエットで頻繁に使われるBMIですが、実はこの基準を疑問視する声も現場から上がっています。

BMIの基になった考え方は、1830年代にベルギーの数学者によって提唱されました。もともと、肥満度を見るために考案されたものではなく、医学的なルーツがありません。その時にデータを集めるために参考にされたのも、ヨーロッパの白人男性のみ。その100年以上後の1970年代に、アメリカの生理学と栄養学の専門家グループによって現在のBMIとして確立されましたが、この時も参考にされたのは健康的な男性でした。

つまり、現在の世界中の色々な人種の男女が、200年前の白人男性や50年前の健康的な男性をベースに考案された方法で肥満度を測定しているのです。

「BMI」の項目にマーカーを引いた健康診断シート
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■185cm、100kgのラグビー選手は肥満?

ですから、年齢・性別・居住する国・人種などあらゆる要素が共通する集団の中で、自分がどの程度なのかを知るには有効かもしれません。ただし、個人レベルのダイエット目的にBMIを用いるのは、あまり有効的な活用にはならないでしょう。

その粗さが表れる個人レベルの例を挙げてみましょう。例えばアスリート。先ほどのラグビー選手の例を使うと、身長が185cmで100kgの選手は日本の基準では肥満の扱いになります。

体重計の数字がその人の体組成を反映しないため、脂肪よりも重たい筋肉をたくさんつけた選手は、肥満とはかけ離れた体組成をしていても肥満扱いになってしまうのです。同じ身長185cmで100kgの運動不足の人と、区別されることなく同じ肥満のカテゴリーに入ります。

■BMIに頼るダイエットにメリットは少ない

また、人種による問題もあります。人類の発展の過程で航海の長旅を可能にするために大きな体格に進化した太平洋諸国の人々は、遺伝的に体格が大きいだけで健康体なのに、肥満としてカウントされてしまうことが医学の領域で問題視されています。

mikiko『ニュージーランド式 24時間やせる身体をつくるベストセルフダイエット』(Gakken)
mikiko『ニュージーランド式 24時間やせる身体をつくるベストセルフダイエット』(Gakken)

肥満のランキングは上位10カ国のほとんどが、太平洋諸国の国々となってしまっています(生活習慣の悪化による肥満も存在するので、この全てがBMIの誤差によるものではありませんが)。

反対に、遺伝的に体格の小さい日本のような国では、BMIによる基準を調整する必要が出ています。国際基準では30以上が肥満ですが、日本では25以上を肥満という分け方がされています。

しかし、身体の構成が異なる男女・年齢で区別することもない指標であることから、身長と体重の数値だけで出すBMIに頼ってダイエットをすることは、個人レベルにおいてはあまりメリットのあることとはいえないでしょう。

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mikiko(ミキコ)
ニュージーランド公認パーソナルトレーナー
筑波大学人間総合科学研究科博士前期課程体育学専攻(健康増進学)修了後、2017年にフィットネス先進国のニュージーランドへ移住。現地の最先端の方法と考え方を取り入れながら、西洋と東洋の知識を融合させた独自の方法に行きつく。日本・香港・英国・カナダ・アメリカ・オーストラリアなど世界各国からレッスンの依頼が殺到し、医療従事者、アスリート、ハリウッド俳優など身体の専門家からの質問も多く受けている。ニュージーランド大使館に「NZで活躍する日本人」として紹介、TBSラジオ「アシタノカレッジ」に出演、杏林大学医学部や筑波大学体育専門学群で講演、「ヨガジャーナルオンライン」で記事執筆など、各方面で活躍している。

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(ニュージーランド公認パーソナルトレーナー mikiko)

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