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人間には「3つの脳」がある…精神科医が「イライラ、モヤモヤするのはあなたのせいじゃない」と言う理由

プレジデントオンライン / 2024年7月12日 10時15分

出所=『精神科医だけが知っている ネガティブ感情の整理術』P26

仕事へのやる気がなくなったり、周囲にイライラしたりするのはなぜか。精神科医の伊藤拓さんは「外部からのストレスで脳が疲弊している状態だと、身体や感情のコントロールをする脳内物質をバランスよく維持することができなくなる。しかも、遺伝子型によってネガティブ感情になりやすい人と、なりにくい人がいる」という――。

※本稿は、伊藤拓『精神科医だけが知っている ネガティブ感情の整理術』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の一部を再編集したものです。

■「爬虫類脳」「哺乳類脳」「人間脳」がある

人間の基本感情の研究は、進化論で有名なダーウィンの研究に端を発すると言われています。ダーウィンは感情を表す表情に着目し、そこにも進化がかかわっていると考えました。そして、彼の唱えた地域や文化の違いを超えた表情の普遍性が、現在の基本的感情論につながっていったようです。

ここで、脳の進化についても少し考えてみましょう。

アメリカの生理学者であり臨床精神科医のポール・D・マクリーンは、人の脳には「爬虫類脳」「哺乳類脳」「人間脳」の三層があり、進化の過程でこのような構造になったという「三位一体脳説」を提唱しました。とても有名な説ですから、みなさんの中にもご存じの方はいらっしゃるかもしれません。

現在は、神経科学や分子遺伝学などの分野で脳の研究がさらに進み、マクリーンの説に否定的な意見も見られます。私たち生物の進化は、これほど単純ではないということでしょう。ただ、学術的な面というよりも、脳の仕組みをより理解しやすいという点もあり、ここでご紹介する意味はあると思っています。

■好き嫌いや恐怖を司るのは哺乳類脳

では、「三位一体脳説」でいう三層の脳は、それぞれどのような役割を担っているのでしょうか。

「爬虫類脳」は、脳の中で最も原始的な部分で、生命活動の根幹となる部分にかかわっています。脳の部位で言うと「脳幹」と呼ばれる部分です。たとえば、呼吸や脈拍、体温などを調整する自律神経をコントロールしたり、本能的な反射を起こさせたりします。

その上にあるのが「哺乳類脳」で、「三位一体脳説」では人だけでなく犬や猫、馬といった哺乳類が持っているとしています。脳の部位では「大脳辺縁系」と呼ばれる部分です。感情や記憶にかかわりがあり、好き嫌い、恐怖といった基本感情のコントロールもこの部分が行っています。

そして、一番外側にある「人間脳」は、哺乳類脳よりもさらに高次な働きをします。脳の部位では「大脳新皮質」と呼ばれる部分です。論理的に物事を考えたり、理性を持って対処したりできるのも、この人間脳の働きによるものです。

■脳内では本能と理性が葛藤している

これら3つの脳の違いを身近な例で説明しましょう。

たとえば、目の前に大好きなスイーツを置かれたとします。

爬虫類脳は、「食べ物が目の前にあるのだから食べよう」と、大好きかどうかはあまり関係なく、躊躇なく食べようと判断します。本能として食べることを選ぶのです。

哺乳類脳は「このスイーツ大好き、絶対食べたい!」と判断し、自分がそれを好きかどうかという感情が行動に影響します。以前に食べておいしかった記憶や、「○○ちゃんと一緒に食べたい」といった気持ちも、さらに判断に影響を及ぼすと考えられます。

ここで「食べる」という判断に待ったをかけるのが、人間脳です。

人間脳は、「今、ダイエット中だよね」「健康のためには、ここは我慢したほうがいい」と、自分が欲望のままに突き進むことをいさめ、「食べない」という行動を選んだりします。理性的な判断ができるのは、人間脳が働いているからなのです。

「食べたい」という本能と「食べるべきではない」という理性の葛藤。一人の人間の頭の中でこのような調整が行われているわけです。一言で「脳」といってもさまざまな部位があり、異なる役割を担っています。3つの脳に分けて考えてみると、そのことがイメージしやすいのではないでしょうか。

■嫌いな相手に会うと不快を感じるメカニズム

さて、脳の中で私たちの感情を作っているのは、大脳辺縁系の「扁桃(へんとう)体」という部分だと言われています。扁桃体は外からの刺激を受け取ると、それを過去の記憶と照らし合わせて、「好き・嫌い」や「快・不快」「安全・危険」などを判断します。

たとえば、嫌味を言われて嫌な思いをさせられた相手に会ったら、不愉快な気持ちになりますよね。これは、脳が過去の記憶と照らし合わせることで「不快」という感情を抱かせているわけです。

しかも、扁桃体はストレスを受けると、ネガティブな感情を高めやすいとも言われています。最初はちょっとしたイライラだったのがだんだん大きくなり、相手に対して攻撃的になったりするのは、扁桃体の暴走が原因かもしれません。

■感情が次々と生まれ、脳は「過労状態」に

もちろん人はこの暴走をただ放置しているわけではありません。気に入らないからとむやみに人を攻撃していては、周囲との関係を築くことはできませんよね。社会的な立場を考えて大人の対応を取るわけです。

扁桃体が暴走しそうになった時に「まあまあ、落ち着いて」というなだめ役を担うのが、大脳新皮質の前頭前野という部分です。

このように、私たちのネガティブ感情は扁桃体で作り出され、それを前頭前野がコントロールしています。しかし、扁桃体と前頭前野がお互いに連絡を取り合いながら感情の折り合いをつけてはいますが、感情は好むと好まざるとにかかわらず、次々に生まれてきます。自分の意思で抑えようとすることが増えれば、それが新たなストレスになり、脳も疲れてしまうのです。

扁桃体と前頭前野が連絡を取り合って感情をコントロールしている
出所=『精神科医だけが知っている ネガティブ感情の整理術』P28

■脳内物質のバランスが崩れてしまうと…

「これからどうなってしまうのかな……」
「なんでうまくいかないのだろう」
「どうして私だけ?」

こんなふうにイライラ、モヤモヤしながら考えている間、脳はずっと稼働状態です。なんとかコントロールしようと頑張り続ければ、脳もだんだん疲弊してくるでしょう。

スマートフォンもバッテリーの充電が少なくなると、インターネットの速度が遅くなったり、うまく接続できなくなったりすることがありますよね。脳も同じです。使いすぎやエネルギー不足によって、正常な働きができなくなってしまいます。

外部からなんらかのストレスを感じると、脳内では扁桃体の判断によって、次のような神経伝達物質が分泌されます。

神経伝達物質の一例
セロトニン:精神を落ち着かせて安定させる脳内物質。ノルアドレナリンやドーパミンをコントロールする。
ノルアドレナリン:興奮性の脳内物質。やる気や集中力、怒りをコントロールする。
ドーパミン:興奮性の脳内物質。快楽や意欲をコントロールする。
GABA:神経を落ち着かせ、ストレスを抑制する。
オキシトシン:神経をリラックスさせ、幸福感をもたらす脳内物質。鎮痛効果のほか、食欲をコントロールする働きも期待されている。

これらのバランスを取りながら、身体や感情のコントロールをしているのですが、しかし、脳が疲弊すると、脳内物質をバランスよく維持することができなくなるのです。

■イライラ、モヤモヤの原因はセロトニン不足

たとえば、セロトニンという脳内物質は精神を安定させる働きを持っています。ストレスが続くとそれを鎮めるために多量に消費され、脳内はセロトニン不足になります。ノルアドレナリンとドーパミンの分泌をコントロールしていたセロトニンが足りなくなると、この2つの脳内物質の分泌が制御できなくなってしまいます。

・ ノルアドレナリンが不足⇒「どうでもいい」など、物事へのやる気や興味が低下。
・ ノルアドレナリンが過剰⇒「いいかげんにしろ」と周囲に攻撃的になったり、「心配で眠れない」と不安や恐怖を抑制できなくなったりする。
・ ドーパミンが不足⇒「何もしたくない」と意欲が低下。
・ ドーパミンが過剰⇒「もっとやれ!」と行動がいきすぎたり興奮状態を抑えられなくなったりする。

セロトニンが不足しているだけで、このような影響が出てきてしまうのです。

もしネガティブな感情から抜け出せずにいるとしたら、脳内の神経伝達物質のバランスが乱れているのかもしれません。「ちょっとセロトニンが足りないのかも……」などと視点を変えて考えてみると、気持ちを切り替える方法も探しやすくなるでしょう。

肘をついて考える女性
写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

■ネガティブ感情になりやすい人、なりにくい人

ネガティブ感情に特にかかわりのある脳内物質が、セロトニンとノルアドレナリンです。

伊藤拓『精神科医だけが知っている ネガティブ感情の整理術』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
伊藤拓『精神科医だけが知っている ネガティブ感情の整理術』(ハーパーコリンズ・ジャパン)

うつ病などの治療では、脳内のセロトニンやノルアドレナリンの濃度を高めるための薬剤を使用するのですが、それほどこの2つの脳内物質は感情と深いかかわりがあるのです。

特に、「幸せホルモン」の1つとして紹介されることも多いセロトニンは、外からの刺激(ストレス)に抵抗する力ともかかわりがあるので、ネガティブ感情の生まれやすさにもつながると考えられます。

脳内に分泌されたセロトニンは、「セロトニン・トランスポーター」というタンパク質によって運ばれます。セロトニン・トランスポーターには、運べるセロトニンの量によって3つの遺伝子型があると言われています。それぞれの遺伝子型が持っているバケツの大きさが違うと考えると、わかりやすいかもしれません。

■日本人は「小さなバケツタイプ」の人が多い

大きなバケツタイプは、一度にたくさんのセロトニンを運ぶことができます。ストレス耐性が高く、ストレスを感じる環境でも精神的に安定した状態を保つことができます。

小さなバケツタイプは、運べるセロトニンの量が少ないため、ストレス耐性が低く、物事をネガティブにとらえがちになります。

その中間、普通のバケツタイプは、ごく平均的な量のセロトニンを運ぶことができると考えられます。

セロトニン・トランスポーターの型は3種のバケツサイズで考えるとわかりやすい
出所=『精神科医だけが知っている ネガティブ感情の整理術』P34

ちなみに、アメリカ人やアフリカ人には「大きなバケツタイプ」の人が多く、日本人やアジアの人には「小さなバケツタイプ」の人が多いと言われています。ちょっとしたことで、イライラしたり、落ち込んだりするという方は、このバケツの大きさが影響しているのかもしれません。

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伊藤 拓(いとう・たく)
精神科医
東京都西東京市出身。東京大学理科二類(薬学部)を卒業したのち、医師を目指して横浜市立大学医学部に再入学。卒業後、平成5年に医師免許、平成10年に精神保健指定医資格を取得。現在は東京都足立区の大内病院勤務。これまでに精神科医としてのべ10万人以上を診てきた。著作に『精神科医が教える後悔しない怒り方』(ダイヤモンド社)、『精神科医だけが知っている ネガティブ感情の整理術』(ハーパーコリンズ・ジャパン)がある。

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(精神科医 伊藤 拓)

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