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「地方自治体に潤ってもらっては困る」絶好調のふるさと納税に総務省が"嫌がらせ"を繰り返す残念すぎる事情

プレジデントオンライン / 2024年7月5日 10時15分

記者会見する松本総務相=2024年7月2日午前、東京都千代田区 - 写真=共同通信社

■総務省による「ふるさと納税」への嫌がらせ

総務省がまたしても「ふるさと納税」への嫌がらせを打ち出した。返礼品が寄付額の「実質」3割を超えているとして“問題自治体”の名前を公表したかと思えば、今度は「ポイント」を付与しているふるさと納税仲介サイトの利用を2025年10月から禁止するという。制度を監督する総務省はふるさと納税を振興するのが役割のはずだが、どうしてこうも邪魔をするのか。そこには地方への交付金分配権で自治体を支配したい総務官僚の利権がある。

「私どもから見ますと、やはりポイント付与による競争は加熱をしてきているのではないか」

松本剛明総務相は記者会見でこう語り、禁止によってふるさと納税の制度のあり方を「適正化」するとした。ふるさと納税を増やしたい自治体は、サイトの運営事業者と契約、寄付額の10%程度を手数料として支払っている。総務省の考えは、その手数料からポイントが出されていて、本来なら税金として自治体に入るものが寄付者の懐に戻っているというもの。ポイントを禁止すれば手数料が下がると考えているようだ。

これに対して「楽天ふるさと納税」を運営する楽天は真っ向から反発している。三木谷浩史・会長兼社長名で、新ルールに反対するオンライン署名を呼びかけ始めた。

■運営企業と自治体はウインウインの関係だった

楽天は、ポイントは楽天自身が負担しているとし、「民間原資のポイントまでも禁止し、地方自治体と民間の協力、連携体制を否定するものであり、各地域の自律的努力を無力化するもの」だと強く反発している。

確かに、こうした企業はふるさと納税で儲けていてけしからんと言われれば、一理あるようにも思われる。しかし、自治体からすれば、ふるさと納税を集めるために、自分たちでホームページを作成したり、寄付者の多い都心で宣伝広告するよりも、集客力のあるサイト運営企業に手数料を支払って委託する方が合理的というのは理解できる。サイト運営企業が元々持つ、広い顧客層にいっぺんにアクセスできるわけだから、自治体の利用が広がるのは当然のことだろう。

運営企業も手数料を稼ぐには、寄付者を多く集めることが重要だから、広告宣伝費代わりにポイントを付与する。民間企業ならば当然行う営業戦略だろう。ある意味、運営企業と自治体はウインウインの関係が出来上がっていたからこそ、ふるさと納税受入額がどんどん増えているわけである。

■ふるさと納税の受入額は2022年度に過去最高を更新

そんな民間企業の努力に役所がケチを付けたというのが今回の構図だ。ポイントを付けるサイトは禁止だと居丈高に命令し、民間企業がそれに従えば、次は手数料を「公定価格」にするとでも言い出すのだろうか。どう考えても、企業が営業の一環として付与しているポイントにまで総務省がケチを付けるのは行き過ぎだろう。

総務省がそこまでして仲介業者を抑えたいのは、ふるさと納税の受入額が増加の一途をたどっているからに違いない。

2023年8月に総務省が発表した「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)」によると、2022年度(令和4年度)の受入額は9654億円と前の年度の8302億円から大幅に増えて過去最高を更新した。2023年度の集計は2024年8月に発表されるが、初めて1兆円を突破したことはほぼ間違いない。さらに2024年1月には能登半島地震が起きて寄付への関心が高まったこともあり、さらに増えることが予想されている。東日本大震災が起きた2011年はまだふるさと納税が始まって数年目だったが、受入額は前年よりも一気に2割も増えていた。ふるさと納税の制度を使って被災地支援を訴える自治体も数多い。

寄付のイメージ
写真=iStock.com/pinkomelet
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pinkomelet

■「寄付文化は日本には根付かない」と言われていたのが…

かつては「寄付文化は日本には根付かない」と言われ続けてきた。だが、ふるさと納税制度ができたことで、確実に寄付の輪が広がってきたことは間違いない。さまざまな分野でクラウドファンディングが呼びかけられ、資金を集めることができている。2023年には「地球の宝を守れ」をキャッチコピーに、国立科学博物館が1億円の支援を求めるクラウドファンディングを実施したが、8月7日の開始からわずか9時間で目標の1億円を突破、11月5日の期限までに9億2000万円を集めた。寄付に応じた人は5万7000人に達した。国が予算をなかなか付けず困窮していた国立科学博物館の訴えに賛同し、寄付する人々が多くいたのだ。

もちろん、さまざまな返礼品が用意されていたが、これだけ多くの人の善意を「返礼品目当て」だと批判できるはずもない。また、仲介会社のレディーフォーは手数料をとって運営する民間会社だが、寄付の一部が手数料に回るのは問題だという人も少ないし、レディーフォーに寄付するにあたってポイント付与サイトから申し込んでポイントをもらう方法も広がっているが、それを批判する人はいないだろう。要は民間の創意工夫で資金集めを行い、成功しているのだ。

■「返礼品なし」を選択する人も増えている

ふるさと納税も「納税」と言う言葉を使うから、税金で返礼品をもらうのはおかしい、という論理になるが、寄付をして、それが税額控除されている。寄付を受ける自治体の側が創意工夫して返礼品を用意したり、窮状を訴えて寄付を募るのは、批判される話ではないはずだ。

最近では、ふるさと納税の仕組みを使うが「返礼品なし」を選択する人も増えている。特に災害支援などの場合には返礼品を求めない人がかなり多い。前出の現況調査では、受入額9654億円に対して住民税控除額は6796億円。所得税の控除もあるが割合は小さいので、「実質負担2000円」の範囲を超えて寄付をしている人がかなりいることを示している。

とっかかりは返礼品だったかもしれないが、その地域を応援しようという人的ネットワークが着実に広がっている。各自治体も決まった返礼品だけでは飽きられるので新しい地元の特産品を加えるなど創意工夫している。

ふるさと納税の定着で、自治体の意識も大きく変わった。返礼品の人気が出ればその製品の生産者に大きなメリットになる。全国に知られることで、返礼品以外の受注も増える。事業者も返礼品に加えてもらえるよう、製品開発に力を入れる。従来、自治体が行ってきた産業振興よりもはるかに効果的なのだ。

桃
写真=iStock.com/kazoka30
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazoka30

■総務省が握る「地方交付税交付金」の権限

もうひとつ、納税者意識を覚醒させることにつながっている面も大きい。ふるさと納税を募集する際に、その使途を選択できる自治体は1745団体と全体の97.7%に達している。「地域産業振興」だけでなく、「健康・医療・福祉」や「子ども・子育て」などを指定できるのだ。納税する側が税金の使途を指定できるのは、自分が納める税金がどう使われているかに関心を持つきっかけになる。自治体側も力を入れたい政策をアピールすることで、そこにふるさと納税で予算確保することができる。

総務省は、国民が納税意識に目覚めるのを恐れているのだろう。というのも、総務省は自治体に「地方交付税交付金」と呼ばれるお金を配分する権限を握っている。その権限を背景に、地方自治体の運営や財政に口を出し、自省の官僚が副知事や副市長、部長などとして出向するポストを得ている。副知事を務めた官僚が知事選に出て知事になるというケースも少なくない。

■地方自治体に財政的に自立されるのは困る

地方交付税交付金の目的は、財政力の弱いところを強いところの税収で補うことだが、1788ある自治体のうち、交付金をもらっていない財政的に自立しているところは、わずか77しかない。財政赤字だと交付金が国から来るが、努力して黒字になると交付金が打ち切られるという仕組みになっている。だからふるさと納税が導入される以前の自治体は、財政を立て直す努力はせず、霞ヶ関を回って総務省の言いなりになる方が得だと考えていた。

ところが、ふるさと納税は、総務官僚の意図とは関係なく、自治体に税金が移動する。自治体は初めて努力することで財源を増やせる手法を持つことができたのだ。

地方交付税交付金は2023年度で17兆2594億円。ふるさと納税の受入額はまだまだ小さいとはいえ、1兆円を超えてきたことで、地方が財政自立に向けて動き出す「懸念」が出てきている。地方自治体に財政的に自立されるのは困る、というのが総務省が嫌がらせを繰り返す本当の理由だ。

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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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