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「雑菌入り目薬」で失明、最悪の場合は死に至る…眼科医が警告する「SNSで広がる手作り目薬」の重大リスク

プレジデントオンライン / 2024年7月10日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fotolgahan

SNSで広がる「手作り目薬」にはどんなリスクがあるのか。眼科医の平松類さんは「塩の入った番茶で目を洗ったり、点眼したりするのは絶対にやめたほうがいい。雑菌が目から全身に回り、最悪の場合、命を落としてしまうことさえある」という――。

■塩番茶、はちみつ、バター…なぜ自作目薬にハマる人が続出するのか

X(旧Twitter)を中心とした様々なSNSでは、時折、手作りの目薬がバズっています。例えば「塩」や「番茶」を原料にした目薬を自作して点眼するというもので、驚くことに多くの人に拡散されています。

実際に使った人からは「目がかゆいときにすっきりする」「炎症が抑えられる」などという声があがっています。自作目薬以外にも、目の中にはちみつやバターを入れたりなどの民間療法が話題にあがることがあります。

「そんなバカな」と思うかもしれませんが、定期的にこのような投稿がされ、多くの人の目に留まっているのです。ではなぜ人は自作目薬を作ってしまうのか? はたまた、自作目薬はなぜいけないのかについてご紹介しようと思います。

まずなぜ自作の目薬を使う人がいるのか? どういう心境なのか? もちろんそれは人にもよりますが、多くの人は「化学物質に対する恐れ」を抱いているために「処方された目薬」はもちろん「市販された目薬」も怖いと思っているようです。

実際に外来に来られる患者さんの中にも「化学物質は使いたくない」といって投薬を拒否される方もいます。特にもともと体が弱かった方やアレルギー体質の方の場合は、化学物質でこれまで痛い思いをしてきたので、このように思ってしまう傾向があります。

一方で自作の目薬というのは使った原材料が目に見えているわけです。例えば塩番茶の目薬であれば、塩と番茶と水なので、安心と考えてしまうようです。これは食品に置き換えると、「よくわからないお弁当だと添加物が心配」だから「自炊する」というのに発想が近いようです。

■SNSは「都合のよい情報」ばかり流れてくる

確かに自炊のお食事はいいものです。しかし、目薬はあくまで薬なので実際は「自作の薬剤を作る」に近いイメージを持ってもらった方がいいです。

そして直ちに問題が起きにくいという事があります。後述するように自作目薬には多くのリスクがあります。しかしそのリスクはかならず顕在化するものではありません。

例えば、海で塩水が目に入っても直ちに問題が生じないのと似ています。使えば必ず問題が生じるわけではなく、一定の確率です。しかし、継続して使ったり、取り扱いを誤ったりすることによっては、大きなトラブルを生んでしまうものなのです。

また、このような投稿を見たときは、SNSの特性も考えなければなりません。SNSが登場する前は、同じような考えの人が集まる場というのは今より限られていました。

しかし、現在は簡単につながることができます。自分と価値観が似た人たちどうしがフォローしあうことで、「作られた目薬は怖い」「自作の目薬の方が安心」と同じような考えばかりを目にしやすくなります。

しだいに、自分に都合が良い情報ばかりが沢山でてきます。すると「多くの人が自作目薬をしている。これは安全だし効果があるだろう」と勘違いしてしまうという現象がおきるわけです。エコーチェンバーといわれます。

普段は共感を得られない情報のはずが、どんどん拡散されるわけです。SNSの場合は自分の好みではない、見たくないものは表示されにくい傾向があることに注意が必要です。

■不衛生な目薬を使って4人死亡、失明したケースも

では、自作の目薬にはどんな問題があるのでしょうか? 一番は衛生面です。よく市販の目薬をカバンに入れている人がいますが、どのぐらいで廃棄しているでしょうか?

実は市販の目薬では2~3カ月、処方薬では1カ月たったら使用してはいけないとされています。それは点眼薬には雑菌が生えやすいからです。液体がそのまま保存されているという意味合いでは、ペットボトル飲料と似ています。

例えばペットボトルのお茶を口に付けて飲んで、そのお茶を1カ月後に飲んだら無事に済むでしょうか? 1カ月もすればカビやゴミが浮いているかもしれません。目薬だと薬液が少ないのでそれがわかりにくいのです。

市販薬や処方薬はかなり管理された状況で作られたものです。そこに防腐剤を添加しているからこそ、長期間使えるわけです。自作された目薬であればすぐに腐敗や感染原因となる事は想像に難くありません。

つらそうに目を押さえている女性
写真=iStock.com/Pheelings Media
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pheelings Media

感染がちょっと起こったぐらいでは、と思うかもしれません。

しかし、市販薬でも衛生管理が悪かったがために、2023年にはアメリカで販売されている「エズリケア」という目薬で大規模な感染症の事件が起きました。この目薬はいわば塩水の目薬で、特殊な成分は添加されていません。

日本にはほとんど入っていないのでニュースを目にしなかった人もいるかもしれませんが、その目薬に薬剤耐性緑膿菌というのが混入し、失明した人がいるのはもちろん4人の死者を出してしまう大事件となりました。

このように衛生状態が悪い事によって目に問題が生じるだけではなく、菌が全身へと回り命を落としてしまう事さえあるのです。

■「浸透圧」の調整は製薬会社でも難しい

もう一つは浸透圧という問題があります。飲み水では「これはしょっぱい」という風にわかります。けれども目薬では、塩分など添加したものの濃度が濃くても気づきません。

しかし、薬液などには浸透圧という概念があります。理科の授業でやったかもしれませんが、浸透圧は低いものの方から高いものの方に水分が移動してしまうという現象が起きます。

濃く調整してしまった目薬を点眼すると眼球から水分を吸い取ってしまうわけです。目の中にティッシュを入れたら水分を全部とられて乾いて痛くなるような現象がおきるのです。

そのため、目薬は浸透圧というものの調整が必要になります。市販薬でも処方薬でも、効果のあるものを入れたいけれども、浸透圧のことを考えて入れすぎるのもよくない。ですので程よい濃度に調整するのが大変なのです。それなのに自宅で、自分で調整してしまっては浸透圧がいい値になるはずがありません。

pHという問題もあります。pHというのはよく子供の頃リトマス試験紙とかを使ってはかったものです。

酸性・アルカリ性などをしめすのにこのpHが使われます。pHも適正な値にしておかないと目には刺激となりダメージを与えてしまうのです。濃度だけではなくてpHも程よい範囲に調整しなければいけません。つまり目薬というのはそもそもがいろいろな成分などを入れにくい製剤なのです。

■「雑菌」は至るところにあふれている

そして容器と保存の問題もあります。通常目薬をさすときは、ボトルを押して中の水をだします。そしてその後に自動的に空気が入るというつくりになっています。構造上、圧をかけないとボトルの中から外、外から中へと液体が移動しにくいのです。

ぜひ、目薬の蓋を取って逆さにしてみてください。確かに漏れはするけれどもドバドバ全部出てしまうという事はないはずです。こうやって外にある雑菌を入れないようにしているのです。

「雑菌なんてうちにはない」という人がいますが、雑菌は世の中にあふれています。自作の目薬でこのような構造の目薬容器を作るのは困難です。となると、外気など、外の菌を容易に取り込みやすい構造のものを使う事になってしまうのです。

このようにお話しすると「それでも私は自作目薬で○○が治った!」という方がいます。まず、本当にそれはその目薬の効果だったのか? というのを考える必要があります。

プラセボ効果と言って、仮に何であっても「この目薬は効く」と思って使うと効果が多少は出るという事がわかっています。ですから、その自作目薬を使わなくても同じような信じる気持ちを持っていれば、市販薬でも同等の効果があったかもしれません。

■「バズる目薬」のリスクはあまりにも高い

1人だけが治ったという場合は「たまたま」という可能性が否定できません。例えば処方薬として承認される場合は、このような検証が何度か行われます。

同じような状態の人(ドライアイや目の不調)で「Aの目薬」と「Aの目薬ではない偽物」を作ります。医者側も本物か偽物かをわかっていません。もちろん目薬を渡される患者さん側もわかりません。

そしてしばらく使い続けて、その後に偽物と本物を使った人でどのぐらい差が出たか? というのを見るのです。こうしてやっと「この目薬には効果がある!」と言えるのです。

例えば風邪をひいて熱がでている際に、2~3日してレモン水を飲んだら熱が下がることがあるかもしれません。ただ、たまたま熱が下がるタイミングだっただけという事もあるので、多くの人を無作為に分けて検証する必要があるのです。

こういうことをしないで「自作目薬はいい!」と発信する人がいるわけです。一方には、そのような投稿をすることで多くの人に見てもらえるため、承認欲求を満たしたり、はたまたそこから他のビジネス(例えばサプリや、教材の販売)をするという業者さんもいます。

ではお金儲け目的の人ばかりかというと、そうでもありません。こういう科学的な考察なく「私がよくなったのだから他の人にも勧めたい」という悪意のない無邪気な気持ちで、根拠のない治療を勧めてしまう方がいます。

あくまでも善意であり、「何が悪いの?」と思われるかもしれません。しかし、もしあなたのススメで自作目薬を使い、その人に感染症が起きてしまったらどうなるか、というのを考えてほしいのです。

一般に認証されている医療行為でさえリスクがあります。自作目薬の場合は、リスクがあることが明確です。何やら効き目のありそうな手作りの目薬がバズっているのを見た際は、「効果については科学的検証はなし」という現状を理解した上で、行動していただければと思います。

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平松 類(ひらまつ・るい)
眼科医 医学博士
愛知県田原市生まれ。二本松眼科病院副院長。「あさイチ」、「ジョブチューン」、「バイキング」、「林修の今でしょ! 講座」、「主治医が見つかる診療所」、「生島ヒロシのおはよう一直線」、「読売新聞」、「日本経済新聞」、「毎日新聞」、「週刊文春」、「週刊現代」、「文藝春秋」、「女性セブン」などでコメント・出演・執筆等を行う。Yahoo!ニュースの眼科医としては唯一の公式コメンテーター。YouTubeチャンネル「眼科医平松類」は20万人以上の登録者数で、最新情報を発信中。著書は『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』『老人の取扱説明書』『認知症の取扱説明書』(SBクリエイティブ)、『老眼のウソ』『その白内障手術、待った!』(時事通信出版局)、『自分でできる!人生が変わる緑内障の新常識』(ライフサイエンス出版)など多数。

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(眼科医 医学博士 平松 類)

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