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「前の住人が亡くなった部屋」でも知らされない場合がある…不動産鑑定士が明かす「事故物件」の意外な常識

プレジデントオンライン / 2024年7月19日 9時15分

出所=『悪魔の不動産鑑定』(クロスメディア・パブリッシング)

物件を探すときに注意したいのが「事故物件」かどうかだ。条件によって、不動産を借りる側・買う側に告知される場合と、告知されない場合があるという。不動産鑑定士の泰道征憲さんと中瀬桃太郎さんの共著『悪魔の不動産鑑定』(クロスメディア・パブリッシング)より、一部を紹介する――。

■自然死、不慮の死は「告知義務なし」

皆さんは、事故物件に住みたいでしょうか? 事故物件なんか絶対に住みたくない人、価格・賃料が安ければ住める人、はたまた全く気にしない人もいるでしょう。

このように、人の死に関する事案が起きた物件(事故物件)は、契約の判断に大きな影響を与える場合があるので、不動産業者は買主・借主に事故の事実を告知する義務があります(宅地建物取引業法第47条)。しかし、意外なことに告知しなくてもいいケースがあります。

国土交通省のガイドラインによると、自然死、日常生活での不慮の死、隣接住戸または通常使用しない集合住宅の共用部分での死については、告知義務はないとしています。

■不動産業者は聞かれたら答える義務がある

一方、告知義務がある具体例としては、自殺、他殺、火災等による事故死、特殊清掃や大規模リフォームが必要となった事案などです。

【図表1】告知義務の判断基準
出所=『悪魔の不動産鑑定』(クロスメディア・パブリッシング)

なお、賃貸の場合、死が発覚してから概ね3年経てば告知義務がなくなります(売買の場合は期限の指定はなく告知必須)。ただし、事件性や周知性、社会性の観点から何年経っても告知しなければいけないケースもあるので、この期間はあくまで目安としてお考えください。

また、不動産業者は買主・借主に人の死に関する事案について聞かれた場合、答える義務があるので、事故物件かどうか気になる人は業者に聞くようにしましょう。

■事故物件の価値は最大30%程度落ちる

事故物件は、価格・賃料にどの程度影響を与えるのでしょうか。

我々不動産鑑定士は、死亡時の状況、事件性、周知性、社会性等を考慮して下落率を査定するので一概に何パーセント下がるとは言えません。しかし、それだとつまらないので、不動産鑑定士の感覚として、一般的な価格・賃料の下落率をお見せしましょう。

賃貸の場合、賃料の下落率は人気エリアでは5~10%程度、不人気エリアでは20%程度。売買の場合は、人気エリアでは10~20%程度、不人気エリアでは30%程度、価格が下落するとみられます。

【図表2】事故物件の価格・賃料の下落率
出所=『悪魔の不動産鑑定』(クロスメディア・パブリッシング)

次に、①価格に大きく影響する場合、②標準的な場合、③価格への影響が僅少な場合に分けて説明します。

①事件性の高い他殺、火災事案

最も下落率が高い事案です。とくに「連続殺人事件」「放火殺人事件」などとしてニュースで取り上げられた場合、一般的な方法では売却できず、訳あり不動産の専門業者などに買取依頼をすることが多いです。価格も相場の半値程度を覚悟しておいた方がよいでしょう。

最近の事件だと「京都アニメーション放火殺人事件」「座間9人殺害事件」などが該当します。

■高齢化のいま、孤独死は決して珍しくない

②死後一定期間放置され、特殊清掃が必要になる

自然死特殊清掃とは、孤独死や事故死、ゴミ屋敷などの特殊な事情がある部屋を掃除・原状回復する作業です。昨今では孤独死が一番多いでしょう。一人暮らしをしていたご年配の方が室内で亡くなってしまい、発見が遅くなってしまうケースです。

たいていはドアや窓周辺にハエが飛んだり、外からでも分かる腐敗臭により、近隣の方から管理会社や警察に連絡が入ります。この場合、体液や臭いが床や壁に染み込んでしまい、通常の清掃では除去できないため、専門業者に特殊清掃を依頼します。なお、特殊清掃の費用は30万円~70万円程度です。

また、アパート経営では建物の築年数が古くなったり家賃が安くなると、入居者の年齢が高齢化するため、特殊清掃が必要な自然死に遭遇する確率は必然と上がります。筆者のひとり、泰道の所有しているアパートでも2回ほど孤独死の経験があるので決して珍しいことではありません。

この時の賃料の下落率としては、不人気エリアで20%程度、人気エリアだと5~10%程度の下落です。また、泰道が所有しているアパートで孤独死があった部屋は家賃を6万円から5.5万円に下げて入居してもらいました。

■在宅看取りの場合は告知義務がない

③誰かに看取られた自然死

室内で死亡しても、その物件の価値がマイナスにならないケースもあります。それが、家族などに看取られながらお亡くなりになるケース(在宅看取り)です。

この場合、国土交通省によるガイドラインにおいても告知義務はないため、事故物件には該当しません。価格・賃料への影響は0~5%未満の下落率と考えてよいでしょう。

【図表3】事件等の経過年数と裁判例における心理的瑕疵の判断の状況
出所=『悪魔の不動産鑑定』(クロスメディア・パブリッシング)

■50年後に殺人事件があったと発覚したケースも

不動産業者が告知義務を回避する方法はないのでしょうか。

かくいう泰道が所有している物件で自殺があった際に、「どうにか価格が落ちない方法はないか⁉︎」と資料を読み漁った経験があります。

泰道征憲、中瀬桃太郎『悪魔の不動産鑑定』(クロスメディア・パブリッシング)
泰道征憲、中瀬桃太郎『悪魔の不動産鑑定』(クロスメディア・パブリッシング)

結論、ないです。告知事項に関する法律や判例を読み漁り、数多の不動産会社にヒアリングしてみましたが、ダメでした……。

最終的には「建物を取り壊せば告知義務はなくなるのでは?」と考えたのですが、この場合も「隠れた瑕疵」の存在が認められる場合があり、隠していると後々トラブルになる可能性があります。

事故物件の判例については国土交通省がまとめてくれているのでご紹介しましょう。「耳目を集めた殺人事件」が事件から50年後に心理的瑕疵として認めた以下の事例なんかは、ゾッとする事件ですね。

心理的瑕疵の有無・告知義務に関する裁判例について(2020年2月5日)

約50年前に本物件上の建物で凄惨な殺人事件が発生、その後建物は取り壊され40数年にわたり放置されていた。本件事件の存在を知った買主は、その事実を知っていた売主・仲介業者に対し、説明義務違反を理由として損害賠償請求した。

【裁判所の判断】
農山村地帯における本件事件は、約50年経過していたとしても近隣住民の記憶に残っていると考えられ、買主が居住し近隣住民と付き合いを続けていくことを思えば、通常保有すべき性質を欠いている隠れたる瑕疵であるとし、売主らは当該瑕疵を告げなかった説明義務違反があることから、売主の請求につき、売主に対しては信頼利益の損害として売買代金を、仲介業者に対しては仲介報酬等を認めた。

(東京地裁八王子支部H12.8.31)

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泰道 征憲(たいどう・まさのり)
不動産鑑定士
1988年千葉県市川市生まれ。日本大学理工学部卒。地主家系(長男)として生まれ、大学生の頃から「アパート建築による相続対策」「不動産の売買」「土地の有効活用」等に携わる。大学卒業後、不動産仲介業者・鑑定・デューデリジェンス会社で修行した後、(一財)日本不動産研究所入所。研究所時代は土地の有効活用や不動産評価を軸とした鑑定評価業務を担当。現在は不動産の専門家として法人の顧問や資産家からの不動産相談を受けつつ、桃太郎オフィスの共同代表として実務面や契約周りを担当。

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中瀬 桃太郎(なかせ・ももたろう)
不動産鑑定士/YouTuber
1995年3月21日、京都府京都市生まれ。立命館大学経営学部卒。大学卒業後、業界最大手の(一財)日本不動産研究所に約5年間在籍。平日はサラリーマン鑑定士として働き、土日はYouTubeで動画投稿をする。2024年6月時点で桃太郎オフィスのチャンネル登録者数は67万人、不動産事業部の登録者は16万人。サラリーマン時代に培った鑑定士としてのスキルとYouTubeの拡散力を活かし、現在は不動産相続・不動産売買に関する事業を展開中。

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(不動産鑑定士 泰道 征憲、不動産鑑定士/YouTuber 中瀬 桃太郎)

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