学歴詐称を気にするのは"学歴バカ"だけ…疑惑ありで公約不履行でも小池百合子氏が圧倒的に女性ウケする訳
プレジデントオンライン / 2024年7月6日 10時15分
現職の小池百合子さんと前参議院議員の蓮舫さんへの男性からの支持は各3割なのに対し、女性の支持は小池さんが4割あまり、蓮舫さんが約3割――。都知事選の投開票が7月7日に迫る中、このような調査結果が報じられた(JNNによる電話調査、6月29~30日)。
なぜ、小池さんは女性ウケがいいのか。
彼女は学歴詐称疑惑を抱えるとともに、公約も7つのゼロ化未達成で不履行も多いといった声もある。反小池派はこれを攻撃材料としているが、総じて女性有権者はそれらをあまり気にしていないように見える。
理由は大きく2つある。まず、「女性は学歴社会で生きていない」ということだ。もうひとつは女性が共感できる政策を一定程度実行したことへの評価があるからということだ。2つの理由の背景にあるものを順番に解説しよう。
■学歴詐称疑惑に無関心な女性たち
小池さんは過去に何度も学歴詐称疑惑を指摘されている。この質問を受けるとき、彼女は「またですか?」といらだちを隠さない。そうした言動に反発するのは主に男性ではないか。もちろん、学歴にウソを書いてはいけない。だが、そんなに毎回大騒ぎすることなのかどうか。
筆者の母親(76歳)は先日、言っていた。
「だって、小池さんがカイロ大学を出ているかどうかって都知事の仕事をするのに関係ないじゃない」
まあ、その通りだよな、と思う。ネット上でも、「どんな噂があれ、大学が証明しているのだから問題ない」「失政がないから、こうした批判材料を探してくるのだろう」といった声が少なくない。ところが、学歴に固執する人々がいる。批判を覚悟で言うが、中高年の男性だ。なぜ彼らは学歴にうるさいのか。
■学歴社会の男社会
日本社会は昔も今も学歴社会である。かつて霞が関では、「東大法学部出身」は当たり前で、「どこ出身?」というのは、あくまでも「どこのゼミ出身か?」という質問だ。趣旨を理解せず質問に東大以外の大学名を答えた瞬間、苦笑されるという話もあった。
ジェンダーギャップ指数118位の「ザ・男社会」の日本で、世に働く男性にとって学歴というのはとても重要なものなのだろう。事実、戦後の日本の経済成長を支えたのは、戦中・戦後と教育を受けることができなかった親の子ども達、いわゆる団塊の世代である。
団塊の世代は平和の中で学びを得、いい大学に入った者は経済成長を支える大手企業に入ることで、いい給与といい年金を保障され、一生が安泰であった。そして、その子ども達もまた、学歴で大手企業に入れるかどうかが決まった団塊ジュニアたちだ。
企業のエントリーシートに大学名を書かなくなった現代でも、学生間では企業がどこ大学出身かわかる仕組みがあるらしいとまことしやかに言われる。就活が終わって蓋を開けて見れば、結局、大手企業はみな高学歴出身者ばかりだからだ。
そうした“学歴バカ”もしくは“学歴コンプレックス”の男性が小池さんを執拗に叩いているのではないか。では、女性は学歴をどう考えているのか。
戦後の日本経済の原動力は、朝から晩まで働く猛烈サラリーマン。そして夫を支え、子育てや介護といった家庭での仕事を無償でおこなってきた専業主婦の妻だちだ。専業主婦世帯と共働き世帯数が逆転したのは1997年である。そう遠い昔話ではない。
結婚・出産時に仕事を辞め、子どもが小学校、中学校になったら働くいわゆる「M字カーブ」は解消されつつあるが、30歳を超えると一気に正社員率が下がる「L字カーブ」は現代の女性の働き方を示している。
そのため、男性が家計の多くを担い、女性はパートや契約社員として家計を支えるという構図が続いている。高学歴の女性でも、途中で仕事を辞め家庭に入って、子育てや介護を担いながらフレキシブルに働ける非正規雇用での働き方を選択する人は現在でもとても多い。女性にとって、学歴は必ずしも自分を“高見え”させてくれるものではなかったのだ。
■日本社会における女性の学歴の価値
「女性に学は必要ない」という理由で大学進学させないという親は今もいる。東大では、他大学の女子学生は入れるのに、東大女子の入れないサークルがいまだに存在し、東大や早慶出身だと「結婚相手の幅が狭められる」と言われる。
結婚した女性たちは高学歴の旦那を持つママたちの会では、こちらから聞いていないのに「うちの主人は慶應出身で、商社に勤めている」とか「うちのパパは東大出たけど、その後起業して」といった旦那の学歴を使ってのマウンティングが盛んに行われているとも聞く。一方、ママ友会では、自分の学歴を言ったり、相手に聞いたりしてはいけないという暗黙のルールがある。学歴は女性にとってタブーなのだ。そのため小池さんの「カイロ大学を卒業しているかどうか」問題にも無関心になるのも必然なのかもしれない。
■女性国会議員の肩書は学歴より職歴
では、政治家にとっての学歴はどうか。衆議院で男性国会議員は9割を占めるが、その内訳は東大出身者が最多で、早稲田、慶應と続く。一方で、女性国会議員で、東大出身者としては上川陽子外務大臣や片山さつきさんなどが知られているが、少数派だ。
それよりも「世襲、キャスター、タレント」といった肩書のほうが強い。世襲議員としては、小渕優子さん、野田聖子さん、加藤あゆ子さん。キャスターとしては小池百合子さん、高市早苗さん。タレントとしては、三原じゅん子さん、今井絵理子さん……。学歴よりも出自や職歴が大事なのだ。女性議員は女性議員の学歴を知らないケースも多い。
小池さんの学歴問題が話題になるのも、彼女が都知事に出て以降であり、国会議員時代にはこうした話が出なかった。一方、男性国会議員に対しては、マスコミも「東大出身の総理は○年ぶり」といったフレーズを好み、岸田文雄総理就任時も、「開成高校を出て、東大受験に失敗して3年間の浪人生活をへて早稲田大学入学」、菅義偉前総理も「集団就職で上京し、法政大学の夜間で学位を取った苦労人」とかいった話題に事欠かない。そもそも内閣に入る際、最終学歴を紙面に掲載する必要があるのか疑問だが、そこにも如実に男性社会での学歴主義が表れているといえよう。
■公約未達成より時代を先んじた女性目線の政策
小池さんの7つの公約について「待機児童」「残業」「満員電車」「ペット殺処分」「都道の無電柱化」「介護離職」「多摩格差」をそれぞれデータで見ると、待機児童は8466人から286人へ大幅減少。残業時間は13.5時間から16.8時間に増加、満員電車は164%から123%に減少、ペット殺処分については、203匹から0匹。都道の無電注化率38%から46%へ。介護離職は7800人から1万4200人に増加。といった具合に7つのゼロ化のうち、達成されているのは、「ペット殺処分」だけであり、公約はクリアされていないが、多くの女性にとって共感できる政策を打ち上げた小池さんを信頼しているようだ。
不妊治療の先進医療や卵子凍結への支援、妊娠・出産・育児への切れ目のない支援、特に家事支援サービスやベビーシッターサービスの拡充といったこれまでの政策に加え、月5000円の児童手当などの子育て世帯への経済的支援や私立高校授業料の実質無料化といったものである。
私は議員(参議院)に当選して初めての厚生労働委員会で、「日本にはなぜ乳児用液体ミルクがないのか」という質問をした。その後、小池さんが会長となる乳児用液体ミルクの勉強会ができたのだが、その勉強会は主に衆議院議員のメンバーで構成されており、私は参加できなかった。ところが後日、「乳児用液体ミルクの必要性を初めて国会で取り上げたのは大沼みずほさんだから彼女もこの勉強会に入れてあげて」と事務局スタッフが小池さんから言われ、次回以降は参加ができるようになった。 そしてその勉強会のおかげで、自身が厚生労働大臣政務官時代の2018年に日本で初めての乳児用液体ミルクの製造解禁を実現できた。
私はそのことを恩に着ているわけではない。実は、自民党でも野党でも、女性が子育てしながら働きやすい環境の整備について一生懸命な議員ばかりではない。むしろ男性議員顔負けの業界団体のための仕事だけをがんばる“マッチョ”な女性議員も多く、彼女たちはこういった課題に関心がない。女性議員が女性議員にやさしいわけではない。もし女性議員が増えれば、自分の優位性が崩れてしまうことを恐れている人もいる。
それに比べると、小池さんは一貫して、女性が活躍できる社会が日本をよりよく成長させ、発展させるという信念を持っていた。そのため、女性の管理職の割合を高めようとか女性議員を増やそうとかそういった政策に熱心に取り組んだ。都知事になってからも、それを実践しているからこそ、女性の支持者が多いという結果につながっているのだろう。
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大正大学地域創生学部公共政策学科准教授
慶応義塾大学法学研究科(修士号)修了、NHK報道記者、外務省専門調査員、東京財団研究員、内閣府上席政策調査員を経て、2013~2019年まで参議院議員(山形選挙区)。
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(大正大学地域創生学部公共政策学科准教授 大沼 瑞穂)
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