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NISA制度"改悪"で譲渡益に課税の悪夢…エコノミストが「老後はNISAを使ってはいけない」と断言するワケ

プレジデントオンライン / 2024年7月15日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

老後にストレスフリーでお金を運用するにはどうすればいいか。エコノミストの崔真淑さんは「高齢者は一般口座や特定口座での投資に加えて、資産を『分散投資』することが大切。そのための具体的な対策がある」という――。

■運用資金は5年は使うあてのない金額にする

2025年の年金改正を控えて、「65歳まで保険料を支払う」、あるいは「支給開始年齢が70歳や75歳に引き上がる」といった案が出ていますが、今後、年金制度はどんどん“改悪”されていく可能性は高いです。前回も述べたように、おそらく年金だけで暮らすことは、非常に難しくなるでしょう。

年金だけで暮らせないとなると、働くほか、「運用する」ことを考えていかなければいけません。老後の運用について、大事な前提は、次の2つです。

前提①余裕資金で行う

80歳、90歳までカツカツで余裕資金がないといった高齢者は、そもそも株式投資をすべきか再考が必要だと思います。投資するなら、5年は使うあてのないお金を回しましょう。

かつて金融業界にいた私がつくづく思うのは、10年に一度は、大きい金融ショックがくる可能性が高いということです。今は景気がよくても、この先、何が起こるかわからない。だからこそ、せめて5年は手元になくても辛抱できるお金をあててほしいのです。

■老後はNISAを使ってはいけない

前提②NISA口座は使わない

今、新NISAが大流行ですが、高齢者の方にはNISAはお勧めしていません。なぜならNISAには「すべてが非課税ではない」「譲渡税が課税される可能性がある」「損益通算できない」といった落とし穴があるからです。一つずつ、説明していきましょう。

・すべてが非課税ではない

NISAを完全非課税だと思っている人は少なくありません。

ですが、NISAは完全非課税ではありません。

今、人気のアメリカ株式市場に上場しているような「S&P500」に連動するETF(上場投資信託)や、個別のアメリカ株式を購入する場合は注意が必要です。通常(一般口座や特定口座の場合)、海外からの配当金にはその国に税金を払ったうえで、日本でも20.315%が源泉徴収されます。確定申告をすることにより外国税額控除を受けられるしくみです。新NISAではこの20.315%が非課税になることで、二重課税でなくなるため、“海外に税金を支払う”必要が生じるのです。たとえば、米国株や米国ETFの配当には10%の税金がかかります。

・譲渡益が課税される可能性がある

政府は現在、将来の税制改正を見越して、NISAの配当金などインカムゲインには課税をしていません。ですが、譲渡益などキャピタルゲインには税金をかけようという議論が出ています。「安くなった株を買って高く売りたい」「含み益が出たら利益を確定して売りたい」などと、譲渡益狙いでNISAを使っている人にとっては寝耳に水。この先、制度変更される可能性があると考えるなら、NISAでキャピタルゲインありきの保有にのめり込まない姿勢が必要でしょう。

■NISAで予想される悪循環

老後のお金の設計にNISAが向いていない理由はまだあります。

・損益通算できない

「損益通算」とは、株式や投資信託を売却して利益や損失が出た場合、利益と損失を合算して合計が利益になっていれば、その利益に対して課税されるしくみ。たとえば、ある株式を売って50万円の利益が出る一方、別の株式で30万円の損失が出たら、50万円-30万円=20万円に税金がかかる、ということ。これが損益通算のしくみです。

また1年間の合算した損益が結果的に損失になった場合、翌年以降、最小3年間、繰り越せる「繰越控除」が適用されます。たとえば、ある年に30万円の損失で、翌年の利益が40万円であれば、繰り越した30万円の損失と40万円の利益を合算し、40万円-30万円=10万円に対して課税されるのです。

この損益通算と繰越控除が、NISA口座ではできません。株式投資は正直、これで儲かると思っても、なかなか理想通りに利益が出ることはありません。“塩漬け”になっているお金をさっさと損切りして、次の新しい運用に使いたいけれど、損益通算できないとそれもなかなか踏ん切りがつかない。こんな悪循環は多々起きます。

株式投資は、ある程度“損をする”ことが前提であれば、私は損益通算できるほうが結果的にオトクになると思っています。ですから運用するなら、NISA口座ではなく、一般口座や特定口座で行うことをお勧めします。

■資産を分散投資するときのポイント

高齢者は「一般口座や特定口座で投資する」ことに加えて、資産を「分散投資」することが大切になります。増やすより、とにかく今ある資産を目減りさせないことが先決です。

もちろん80代でも、特定の資産に集中投資して成功しているトレーダーの方もいます。しかし、そういう人は、ずっと昔から投資をしてきたベテランの人。私の知り合いにもいますが、そういう人は本当に株式投資が好きで、『会社四季報』を24時間見ていても飽きない。それほど好きな人であれば、集中投資もよいと思いますが、そうでなければやめたほうがいいというのが私の考えです。

では、どうやって分散させればいいか。

ここ数年、日経平均が最高値を更新したり、戦争で世界的に物価が上がったりと想像を超えることが起きています。こうした景気リスクや地政学リスクの“有事”に備えるには、それらに敏感に「反応するもの」と逆に「反応しにくいもの」といったように、感応度の異なるものに分散させるのがおススメです。

具体的には、株式、債券、不動産、金や原油などはのコモディティは、それぞれ有事や景気に対しての反応の仕方が違う傾向にあり、こうしたところに分散させるのが重要でしょう。

株式も日本株と外国株に分散させます。日本円の目減りがこわいならば外貨にする、または外貨で「外貨建て社債を買う」、あるいはインド株などこれから伸びそうなインデックスファンドを買う、といった対策をします。

SAFE
写真=iStock.com/Seiya Tabuchi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Seiya Tabuchi

■不動産投資信託を持つメリット

ちなみに私は、不動産ではなく、「REIT(リート)」と呼ばれる不動産投資信託にも注目しています。

不動産投資信託とは、投資家から集めたお金で不動産を所有し、そこから得られた賃料収入を分配するもの。ホテルリートや物流リート、オフィスリートなど、いろいろな商品があり、小口で投資できるのがメリットです。

木のテーブルの上のコインの山の上にミニ青い家
写真=iStock.com/watthanakul
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/watthanakul

現物の不動産投資は、借金して投資できるメリットがある一方、頭金を用意するのが大変だったり、手数料が非常に高くそれで損することもあるなどのデメリットもあります。そう考えると、不動産投資に興味があっても、そこまではしたくないという人は多い。私もその一人です。そんな人にリートはおススメといえるでしょう。

今は金利が上がったことでマイナスになっていますが、もともと不動産投資は、戦争や金融ショックで多少は変動しても、賃料自体は景気に左右されにくいもの。過去のデータからは、「平均的には長期でインカムゲインでしっかりとリターンが出やすい」ことも実証されています。ですから配当金狙いでリートを持つというのは悪くないと思います。

もちろん注意点もあります。歴史のあるリートは、想定外に修繕費用などのコストが出ることで、配当金が減る可能性もあります。リートの構成や中身を、しっかり確認してください。

■「仕組債」は様子見で検討を

注意すべきは「仕組債」と呼ばれるデリバティブ(金融派生商品)を利用することでキャッシュフローを生み出す債券です。

証券会社や銀行がすすめる仕組債については、手数料や格付けなど、商品の中身が金額に見合っているかどうか、いったん立ち止まって確認してほしいですね。「利回りがよい=リスクが高い」ので、飛びつくのは危険。いったん様子を見ましょう。

同じように株価は安いのに、配当利回りがいい銘柄も、様子見が必要です。

安いには、ちゃんとワケがある。業績が悪くて、会社の持続可能性が失われているのかもしれませんし、機関投資家が手放しているだけかもしれません。

■世界はアメリカ一極から多極化へ

株式投資の世界には「利大損小」という言葉があります。

これは100万円投資して、99万円損したら、残りの1万円から100万円にするのは非常に難しい。でも、100万円の損失を10万円に抑えて、90万円を原資にまた分散投資すれば、100万円を超えるかもしれない――そうした「いかに負けを小さく、そして利益を大きくするかが大事」といった意味です。

私自身、分散投資を徹底していますが、それは今後、地政学的に大きなうねりが起こり、これまでの世界のルールが変わるかもしれないと予想しているからです。

戦後80年、アメリカが世界の覇権を握ってきましたが、数々の戦争が重なり、アメリカはいよいよ体力が失われてきています。一方、中国が力をつけて、ロシアとタッグを組み始めている。つまり今は、アメリカ一極の世界から、多極化の世界への過渡期である。だからこそ、米ドルが今後も変わらず基軸通貨であり続けるかどうかはわからない――。私はこのように考えています。

実際、中東の石油は米ドルではなく、人民元で買えるようになったり、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)では、ドルを使わないしくみをつくろうという動きが起きています。また中国は、自国の通貨の価値を上げるためか、金をどんどん買い増しています。

つまり米ドルに今のように価値があるのは、ここ80年ぐらいの流れなのです。米ドル覇権がすぐに消滅することはないにせよ、リーマン・ショック級の経済ショックが頻発したら、アメリカ経済はどうなるかわかりません。

■自給自足は究極のリスクヘッジ

ここからは私の予想です。今後、アメリカ一極が衰えて、世界が戦争状態になってしまったら、かなりの確率でインフレが加速すると思います。そうなると資源を持っている国が強い。たとえば食料や鉄鉱石などの資源が豊富なオーストラリアなどは、しっかりと生き残れるだろう。だから私は今、オーストラリアドルやオーストラリアドル建の債券に関心を持っています。

もちろんアメリカも資源がありますが、覇権から衰退する過程で何が起きるかわからないことを考えると、米国債の追加保有は様子見したいと考えています。

もしも台湾有事が起きれば、真っ先に飢えやすいのは東京だという試算もあります。それぐらい日本の食料自給率は低い。その自衛策として私は、趣味も兼ねて畑作業での作物づくりの準備に動いています。「自給自足」の準備です。東京にも手放された農地はたくさんあるので、共同でそこを耕し作物をつくり続けるのは、次世代にも価値があることだと。

豆の苗を植えるガーデナー
写真=iStock.com/cjp
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/cjp

戦争を知っているお年寄りたちに話を聞くと、今も畑を耕し、赤字であってもいつも使えるようにしている方がけっこういます。なぜなら昔、餓死しそうになった時代も、畑で作物をつくって生き延びてきたから。まさに自給自足は、究極のリスクヘッジなのです。

自給自足に加えて、「英語」と「学位」を持っていれば、国を出たとしても生きていける。私は強くそう思っています。

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崔 真淑(さい・ますみ)
エコノミスト
2008年に神戸大学経済学部(計量経済学専攻)を卒業。2016年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。一橋大学大学院博士後期課程在籍中。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後は、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)でアナリストとして資本市場分析に携わる。債券トレーダーを経験したのち、2012年に独立。著書に『投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)などがある。

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(エコノミスト 崔 真淑 構成=池田純子)

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