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この国には「愛子天皇」が必要だ…私が「天皇陛下のスピーチ」で感じた昭和・平成の皇室との決定的な差

プレジデントオンライン / 2024年7月12日 9時15分

晩さん会で英国のチャールズ国王と乾杯される天皇陛下=2024年6月25日、ロンドンのバッキンガム宮殿 - 写真提供=PA通信/共同通信社

■陛下の留学経験がいきた英国訪問

Do you find it difficult? 天皇陛下が少女にそう語りかけていた。6月27日、イギリス・ロンドン市内にあるV&A子ども博物館での英語だった。国賓として訪英した陛下と雅子さまの映像を追いかけまくったが、スピーチ以外で英語がはっきり聞こえたのは、唯一この折り紙ワークショップだけだった。

画面には日本語訳「難しく感じますか?」がテロップで流れた。そうか”Is it difficult?”ではないんだな、などと思うほど英語音痴だから、バッキンガム宮殿での晩餐会をはじめ、陛下がスピーチをすべて英語で通した姿がまぶしかった。

陛下のオックスフォード大への留学体験が十分にいきた訪英だった。英語の習得はもちろんだが、英国を親しく思う気持ちが根底にあり、それを英国の人々は知っている。温かさがあふれる訪英だった。

最終日にお二人はオックスフォード大学に足を運んだ。陛下と同じく留学していた雅子さまは、名誉法学博士号を授与されとてもうれしそうに笑っていた。勉強が好きな努力家の小和田雅子さんが皇后になった。そのことを思い出させる笑顔だった。

陛下と雅子さまは、きまじめな優等生という点で「似たもの同士」だと思っている。バッキンガム宮殿での陛下のスピーチも、及第点以上だった。「過去」と「現在」と「未来」を語ることがマストだが、注目されるのは「過去」。そのことをのみこんだ上で陛下が示した「解」は、主語を「祖父」と「父」にするというものだった。

■陛下が紡いだ未来志向のメッセージ

日本の皇室と英国の王室の親交は、明治天皇と少年だったジョージ5世(エリザベス女王の祖父)にまでさかのぼる。だが第二次世界大戦で日本は英国人を捕虜にし、強制労働させた。死者も多数出た。

だから1971年、陛下の「祖父」、昭和天皇が訪英した時は記念植樹の杉が翌日、根元から切り倒された。98年に陛下の「父」、上皇さま(当時は天皇)が訪英した時は、美智子さまと乗った馬車に元捕虜たちが背を向け抗議の意を表明した。

その「過去」を陛下は、「日英両国には、友好関係が損なわれた悲しむべき時期がありました」と表現した(宮内庁HPから。以下、スピーチはすべて)。が、そのことへの評価その他は避け、次からは「祖父」と「父」のポジティブな言葉を引用した。

「私の祖父は、1971年の晩餐会で、日英両国の各界の人々がますます頻繁に親しく接触し、心を開いて話し合うことを切に希望し、また、私の父は、1998年に同じ晩餐会で、日英両国民が、真にお互いを理解し合う努力を続け、今後の世界の平和と繁栄のために、手を携えて貢献していくことを切に念願しておりました」。

戦後生まれの陛下が、自分を主語に戦争を語っても嘘になる。かといって、他人事として語るのも違う。だから「悲しむべき時期」とした上で、「祖父」と「父」の未来志向を語った。「正解」だったことは、河西秀哉名古屋大学大学院准教授の「次の世代の思いを強調した内容だ」という朝日新聞へのコメントからもわかる。

「現在」について陛下は、「(日英)両国が連携・協力して世界を牽引している分野」がたくさんあると述べ、すでに視察したところ、これから視察するところをあげつつ具体例を示していく。最後の「未来」を語る場面では日英関係が「かつてなく強固に発展している」とし、好きな「山」にたとえてこう締めた。「裾野が広がる雄大な山を、先人が踏み固めた道を頼りに、感謝と尊敬の念と誇りを胸に、更に高みに登る機会を得ている我々は幸運と言えるでしょう」。

■「英国王のスピーチ」の“攻めた表現”にどきり

陛下と雅子さまは29日に帰国、「ご感想」を公表した。それは「この度、英国政府から国賓として御招待を頂き、二人で同国を訪問できたことをうれしく思います」に始まり、「うれしく」と「うれしい」が合計7カ所。本当に良い訪問だったと思いつつ、少しだけ別な感想も持ったので、そのことを書く。

晩餐会では陛下より先に、チャールズ国王がスピーチした。「ハローキティ」や「ポケモン」や「英国におかえりなさい」が主に報じられていたが、全訳を毎日新聞HPで読み、少し驚いた。日英の「深い友情」に触れた部分が攻めていたのだ。

国王は深い友情を「歴史の教訓、とりわけ暗い時代の教訓から生まれた、国際ルールと制度の重要性に対する相互理解に基づくもの」だと述べ、こう続けた。「今日、私たちはこれらの原則がかつてないほど問われる世界に直面しています。私たちが共有している自由、民主主義、法の支配という普遍的価値観が今ほど重要になったことはありません」。

世界中で「自由、民主主義、法の支配」がないがしろにされている。その事実を述べていた。国王の「今」という時代への問題意識の表明で、攻めた表現にどきりとさせられた。陛下のスピーチにはないものだ。

■具体的な言及には「テーマ」が必要

陛下と雅子さまのお誕生日などの文書を読んでいつも思うのだが、お二人は「具体」を避ける傾向にある。天皇は「日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴」であって、「国政に関する権能を有しない」と憲法に定められている。

そのことが、何か個別具体的なことへの言及にブレーキをかける。きまじめな優等生だから、拍車がかかる。そう理解はしている。だが具体がないと、一般論になる。

晩餐会でのスピーチで陛下は「現在」について、「我々の社会は、ますます多様化・複雑化し、地球規模の各種課題に直面しており、世界全体で一層英知を結集しこれらの重要課題の解決に努める必要があります」と述べた。その通りです、という以上の感想は浮かばない。

テーマがあればいいのに。陛下と雅子さまを見るたび、そう思う。上皇さまと美智子さまは平成の時代に「慰霊の旅」をテーマとした。戦争という昭和が積み残した問題を清算する。そういう問題意識がはっきりと見てとれた。切実さが気迫となって伝わってきたから、国民は高く評価した。

現在の陛下はライフワークとして「水問題」に取り組んでいる。今回も世界最大の可動式防潮施設「テムズバリア」を視察した。英国訪問に先立っての記者会見では、「水の恩恵を享受しつつ、災害に対応することは、歴史を通じた人類共通の歩みでもあり、各国の水を巡る問題を知ることは、それぞれの国の社会や文化を理解することにもつながります」と述べていた。これもその通りなのだが、やはり「ご研究」だと思うのだ。

ロンドン市内を流れるテムズ川に架かるタワーブリッジ
写真=iStock.com/Alihan Usullu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Alihan Usullu

■令和の皇室に「テーマ」が必要なワケ

テーマの代わりに令和の皇室と国民をつないでいるのは、天皇ご一家の仲睦まじさだ。その中心にいるのは愛子さま。

その証拠に、というほどでもないが、4月から開設された宮内庁のインスタグラムでこれまでに一番「いいね!」を稼いだのは6月13日にアップされたご一家のプライベート写真だ。

5月に御料牧場で撮影されたもので、愛子さまが筍を掘るキュートな写真は陛下が撮影、「いいね!」は7月1日現在で66万9000だ。

英国訪問時、宮内庁はこまめにインスタグラムを更新していた。最も「いいね!」がついた投稿は、晩餐会での国王ご夫妻と陛下と雅子さまの4人の記念写真で、同じく7月1日現在で19万6000。訪英という意義あるイベントより、ほのぼのとした日常ということか。

訪英中のご様子を追いかけまくって、ほのぼのは陛下の雰囲気そのものだ、としみじみ感じた。

だからこのままでいいかと言われると、やはりそうとは言えない。今のうちに令和の「テーマ」を打ち出すことだと思う。次代を担う男子が秋篠宮家の悠仁さまだけという待ったなしの皇室が続いていくためには、「ほのぼの」に加え迫力が必要に思う。現実とつながる問題意識、それを感じさせてほしいのだ。

■ジェンダー平等の特効薬は「愛子天皇」

突然だが、それは「愛子天皇」だと思う。平成のお二人が、昭和の積み残しである「戦争」をテーマにした。平成が積み残したものは、「ジェンダー平等」だ(と言い切ってしまう)。6月に発表された日本のジェンダーギャップ指数は世界118位で、G7(主要7カ国)では最下位だ(ちなみに英国は14位)。政治と経済の分野が足を引っ張っている。

特効薬は「愛子天皇」だと思うのだ。実現すれば、ジェンダーを取り巻く空気が一変する。「男系男子」の壁を破ることが生み出す効果は、計り知れない。女性がいる会議は長いとか、管理職になりたがる女性が少ないとか、そんなことを口にする人はいられなくなる。本気でそう思う。

天皇皇后両陛下と愛子さま
天皇皇后両陛下と愛子さま(写真=在フィリピン日本国大使館/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

と、最後にV&A子ども博物館の話に戻る。英国のジュリア・ロングボトム駐日大使(前職は英国外務省コロナ対策本部長、ジェンダーギャップ指数14位!)は6月12日、国賓を迎え入れるにあたっての記者会見をした。記者から出た質問に「英国の40年における変化」があった。

陛下がオックスフォード大に留学していたのが40年前、その間の英国社会の変化をどう感じとってほしいかという趣旨だった。大使は「英国社会は変貌を遂げた」とし、その第一は「多様な社会になった」ことだと答えた。「人種、バックグラウンドがさまざまな人が集まり、仕事をし、生活する社会になった」と。

それを感じられる場所としてあげたのが、V&A子ども博物館だった。それはロンドン市内でも人種的にさまざまな人が住んでいる地域にある。この博物館がそのコミュニティーで重要な役割を果たしていることを陛下に感じていただけたら幸いだ、と語った。

Do you find it difficult? そう陛下が話しかけた少女は、ヒジャブをつけていた。折り紙ワークショップに参加していたのは、さまざまな国にルーツがある子どもたちだった。ヒジャブの少女は陛下の問いかけに、「No」と答えていた。そうだ、難しいことはない。愛子天皇への道も、必ず見つかるはずだ。

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矢部 万紀子(やべ・まきこ)
コラムニスト
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長。著書に『笑顔の雅子さま 生きづらさを超えて』『美智子さまという奇跡』『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』がある。

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(コラムニスト 矢部 万紀子)

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