「仕事のメールが返ってこない」はどうすべきか…営業コンサルがこっそり教える「最終手段」
プレジデントオンライン / 2024年7月14日 7時15分
※本稿は、高橋浩一『営業の科学』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■リマインドが負の感情を抱かせてしまう理由
ここまで、「検討しますの仮面」に対して、どのように助け舟を出すとお客様が動いてくれやすいかをお伝えしてきました。それでもなお、「検討しますのでお待ちください」とシャットアウトされてしまったらどうするかについて、本節で触れておきたいと思います。
お客様は、クロージングされると「まだ考えがまとまっていないうちに返答するのは怖い」という心理から「とりあえずお待ちください」と言いがちです。
では、「検討しますのでお待ちください」とシャットアウトしてくるお客様は、時間が経過していくと、どのような心理になるでしょうか。
クロージングへの返答を保留したまま時間が経過すると、以前に提案を受けた件は次第に忘れかけてきます。ただ、頭の片隅には「そういえば、あの件、まだ返事していないな。どうしよう……」と、気になっているはずです。
先日に提案を受けた内容は、だいぶ記憶も怪しくなってきていますから、今さら思い出してあれこれ考えるのも気が重たい。そのような状態です。
そんなお客様に対して「ご検討状況はいかがでしょうか?」という単純なリマインドは効果があるでしょうか。お客様のほうでも、「何か気まずいな」とは思いつつ、忙しいふりをしてなんとかやり過ごそうとするはずです。
それに対して、返事がないからといって、「ご検討状況はいかがですか?」という単純リマインドを繰り返してしまうと、お客様には「こっちも忙しいのに」という、マイナス感情が湧き起こるでしょう。こうなってしまうと、受注まで持っていくのは至難の業です。
■メールの件名は「お役立ち感」を出す
ストレートなリマインドに対してお返事がもらえればいいのですが、最大のリスクは「メールへの返信もない、電話にも出てもらえない」という状況が続いてしまうことです。
いったんこうなってしまうと、こちらとしてもさらなるリマインドはしづらいというのが心情でしょう。「お客様から検討します」と言われてしまい、少し時間が経過したらどうするべきか?
ここで鍵を握るのは「お役立ちメール」です。単純なリマインドには返信しないお客様も、「役に立つ」と思った情報にはリアクションを示す傾向があります。次のグラフ(図表1)をご覧ください。
![【図表1】「情報が役に立つ」と感じたら、約8割のお客様が「50%以上の確率で」返信をする](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/f/1200wm/img_5fae9173e7215c22c196055ba769add8447202.jpg)
お客様が「役に立つ」と思ってさえくれたら、返信が来る確率はグッと上がります。そこで、お客様にとって(読み飛ばさずに目を通す)意味を持つ情報を件名に入れるようにしましょう。
いろいろなやり方はありますが、一つの例を挙げます。
たとえば、「●●様が9月28日におっしゃっていた『XXX』の件」のように、お名前、日付、商談の会話に出てきたキーワードを件名に入れるのです。単なる簡潔リマインドはスルーされやすいものです。
そして、時間が経てば経つほど、お客様が提案に対して回答するインセンティブは落ちていきます。
そこで、「9月28日のMTGで、●●様が“年内にクイックヒットの成果が欲しい”とおっしゃっていました。成果が年内に報告されるには、逆算すると、10月中旬には施策開始の必要があるかと……」のように、提案への回答を急ぐメリットの文脈を明らかにし、件名に反映させるのです。
■“スルー状態”から挽回する方法とは
ただ、件名を工夫する以前に、単なるリマインドをすでに数回してしまい、スルーされた状態になってからかなりの時間が経過している場合、ここから挽回するにはどうしたらよいでしょうか。
目安としては、商談の会話に出てきたキーワードを出しても、お客様が忘れてしまっているぐらい時間が経っている状況です。このようなケースでおすすめしているのは、一見すると関係ないトピックについて情報提供するという「別件での価値訴求」です。
お客様の記憶からほとんど抜け落ちているぐらい時間が経っていたら、今度は逆に「まったくの別件」として、お役立ち情報のメールを送ります。
いったん直接的なリマインドは諦め、話題にも出さず、別件でのお役立ちを続けましょう。
以前に提案した件と切り離したお役立ちメールなら、純粋な貢献の行動になりますから、お客様としてもマイナスの感情は起こりにくいでしょう。そして、「お役立ちメール」にお客様のポジティブな反応があった場合、「情報がお役に立てて何よりです。ところで……」というように展開し、案件を復活させるのです。
以前の記憶が怪しくなっているお客様との案件では、これが「連絡する口実」という助け舟になるのです。
■大企業は「導入実績や実例」を好んで読む
では、どのようなお役立ちメールだと喜ばれるのかについて、お客様1万人調査の結果からご紹介していきます。
第4章「忙しさの仮面」のところでもご紹介した設問、「あなたが営業担当者から受け取るお役立ち情報として嬉しいものは何ですか。嬉しい順番に、1位から3位までお答えください」について、回答者の会社の規模を「1~300人」「301~1000人」「1001人以上」と3段階に分けているのが次のグラフ(図表2)です。
![【図表2】企業規模が大きくなるほど、お役立ち情報として「事例」や「レポート」を求められる](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/d/1200wm/img_4dbd7c003025e23c0b248d9a715c49c31003641.jpg)
本章では、大企業のお客様に見られる傾向についてすでに解説していますので、その観点から「喜ばれるお役立ち情報」を見てみましょう。
会社の規模が大きくなればなるほど、「導入実績や実例」「データの入った調査レポート」が喜ばれることがわかります。
「どの情報が響くか」については、お客様の会社の規模や相手のタイプ(論理・感情・政治)によっても変わってきます。メールに目を通し、役に立つ情報であると思ってもらえれば一定の確率で返信が来るので、もしお役立ちメールに返信が来ない場合は、件名と内容をいろいろと変えて試してみましょう。
■“それでも返信がこない”ときの最終手段とは
さて、ここでは「連絡を遮断し、リマインドにも応えない状況が続いている」お客様に対して、最終手段として取れるアクションをお伝えします。
まず、連絡を遮断し、リマインドにも応えないお客様によくありがちなのは、何らかの大きな社内状況の変化が起こり、下記3つのいずれか(あるいはすべて)が起こっているということです。
②その忙しさを説明することが面倒くさい
③検討の優先順位が落ちたことを伝えるのが心苦しい
①は、お客様からすれば「こっちはそれどころじゃなくて、ものすごく忙しいんだ!」という心理があります。たいてい、その忙しさが発生した理由は突発的な(かつ、お客様ご本人にコントロールできない)要因であることが多いでしょう。
「すでに、お客様は忙しさによってストレス指数が相当上がっている」という事実を認識しておく必要があります。
②の「忙しくなった事情」を社外の人物へ丁寧に説明するのは骨が折れます。
![高橋浩一『営業の科学』(かんき出版)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/2/1200wm/img_b2c4359d4e95f24195c94185a1f5b9b2211935.jpg)
社内状況については社外に出せること・出せないことがある(たいていは出せない情報が多い)ので、それを社外の営業担当者にわかりやすく説明するのは相当にエネルギーがかかるものです。状況を説明するメール1本書くのも憂鬱になるレベルでしょう。
③については、「これまでいい感じに進んでいた」案件であるほど、検討が暗礁に乗り上げたことを営業担当者に伝えるのは心苦しくなるものです。
誰でも相手をがっかりさせたくないものです。お客様心理を考えても、営業担当者が悲しむ顔は見たくないでしょう。だから、ついつい、営業担当者への連絡がおっくうになります。
■“あなたを理解している”と寄り添ってみる
お客様からの返信が来ない場合、①~③への想像をせずに「早くお返事いただけないと困ります」というクロージングをしてしまうと、プレッシャーが逆効果になります。
まず、メールで伝えるべきは、①社内状況の変化を理解していますというメッセージです。
●お客様がそれによって忙しくなっているのですよね
●検討ステータスもおそらく以前とは前提が変わっているのでしょう
さらに、この3つの要素を含んだ文章をお送りし、それを読んでいただいた後のタイミングで電話しましょう。
●それに、この提案は御社に~のメリットがあります(論理)
●そこで、XX様にご負担やご迷惑がかからないよう配慮しながら、社内文脈上ご無理のない形で、プランを練り直します(政治)
上記のメールを送ったうえで、それでも電話に出ていただけないときは、あなたの上司に依頼して「先般より、当社の●●(←自分)がご負担をかけてしまっており、誠に恐縮です」というメールをお客様に送ってもらうのがおすすめです。
そこまですると、お客様も「スルーはさすがに申し訳ないな」と思い、少なくとも、上司のメールに対しては返信が来ることがあります。以上のプロセスが、「リマインドにも反応のない状態が続いている」お客様に対する、最終手段の「助け舟」です。
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TORiX株式会社 代表取締役
外資系コンサルティング会社を経て25歳で起業、アルー株式会社に創業参画。2011年TORiX株式会社を設立、営業強化支援に携わる。著書は『無敗営業』『無敗営業 チーム戦略』(いずれも日経BP)、『なぜか声がかかる人の習慣』(日本経済新聞出版)、『気持ちよく人を動かす』(クロスメディア・パブリッシング)、『質問しだいで仕事がうまくいくって本当ですか?』(KADOKAWA)、『「口ベタ」でもなぜか伝わる東大の話し方』(ダイヤモンド社)などがある。
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(TORiX株式会社 代表取締役 高橋 浩一)
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