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ありもしない「氷河期世代」の低年金対策は必要か…大卒男性の非正規率「超氷河期」が最も低いという衝撃データ

プレジデントオンライン / 2024年7月9日 11時15分

記者会見する林官房長官=2024年7月3日午後、首相官邸 - 写真提供=共同通信社

厚生労働省は5年に1度行われる公的年金の財政検証の結果を公表した。年末に向け制度改革の検討が始まる。雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんは「検討課題の1つに就職氷河期世代を念頭にした低年金問題がある。前回の記事では非正規対策を公約にした蓮舫氏の的外れを指摘したが、都知事選の結果はその通りとなった。低年金対策も氷河期、非正規を念頭にすべきではない」という――。

■また「氷河期世代」のために大金が費やされるのか

ふと、ネットから、こんなニュースが流れて来た。

「氷河期世代」念頭に低年金対策 厚生年金活用、負担増で難航も(7/4時事ドットコムニュース)

「氷河期世代の年金額は老後も減り続け、生活保護に陥るリスクが高くなってしまう。40年ごろまでに改善効果が出る低年金対策を講じる必要がある」(慶応大学/駒村康平教授)とのことだ。

また大金が無為に費やされるのか……。私は少し頭が痛くなった。

私が厚生労働省の労働政策審議会委員を務めていた頃にも大規模な「就職氷河期世代支援プログラム(3年間の集中支援プログラム)」が実施され、大金が流れた。審議会で私は、データを尽くしてこの無意味な国費投入に反対し続けたものだ(が、何の足しにもならず、事業は粛々と実行されていった)。

その事業総額を厚生労働省ホームページで調べると「就職氷河期世代に関連する施策(内数表記となっている施策)も含めた合計額は、1473億円程度(令和3年 度予算:1262億円程度)」とのことである(令和4年度概算要求 就職氷河期世代支援予算の概要)。

はあ――政府にとっては微々たる予算額かもしれないが、世間的に見たら気の遠くなるほどの国費が、氷河期対策という名で垂れ流されている……。

大切な予算は、ありもしない「氷河期世代問題」ではなく、あらゆる世代の就労困難者のために使ってほしい。そのために、この記事を書く気になった。

氷河期世代者の就労状況とはいかがなものなのか。二回にわたり、じっくり示していく。

■氷河期世代非正規の大半は、「主婦パート」

まず、厳しい就職氷河期が騒がれた頃に就職した人たち(現在40代後半、現役ストレートなら1997~2001年大卒)の就労状況を2023年の労働力調査で確認すると、総雇用者692万人に対して、非正規就労者が204万(雇用者の29.5%)にもなっている。

すわっ! 働き盛りの年代層の3割が非正規か⁈ ――確かに、上辺の数字は大変なことになっている。

ただ、内訳を見て行くと、景色は全く変わっていく。

この非正規就業者の男女比は以下の通りだ。

男性30万人、女性175万人(端数処理で総数と1万人誤差あり)と、非正規の実に9割近く(85.7%)が女性なのだ。男性はというと、非正規数は30万人とかなり小さくなり、一方で、正社員就労数は331万人、実に91.7%が正社員となっている(これが他世代と比べてどうなのかは、後ほど考察する)。

対して、女性の正社員比率は47.3%であり、過半数の52.7%が非正規となる。

ここで一つ目の結論が出る。氷河期世代に非正規が多いというけれど、その大多数は女性なのだ。他のどの世代でも同様に、男性よりも圧倒的に女性の非正規就労数が多く、非正規割合も著しく高くなっている。

続いて、この大多数を住める女性の非正規就業者を婚姻状況で分けてみよう。

独身(未婚・死離別)37万人、既婚142万人。

そう、女性非正規の約8割が「既婚者(=主婦)」なのだ。そう、「氷河期世代の非正規」の中身は、圧倒的に「主婦パート」が多いということだ。

これが二つ目の結論となる。

【図表】「超氷河期世代」の非正規就労者内訳
※図表=筆者作成

■この世代の男性非正規は「非大卒」に偏っている

ちなみに今度は、少数派である男性非正規を「学歴別」で分けて見てみよう。

非大卒:正社員179万人(88.7%)、非正規25万人(12.3%)
大学・大学院卒:正社員139万人(96.5%)、非正規5万人(3.5%)

どうだろう。男性非正規は圧倒的多数の25万人が非大卒であり、大学・院卒に限って言えば5万人しかおらず、実に96.5%が正社員となっている。

ここで少し考えてほしい。就職が一番苦しかった世代(超氷河期世代)とは、金融危機(1997年秋以降)の不況期が学卒期にあたる年代を指す。今の40代後半というと、大卒者なら学卒時期がこの時期に重なる人が過半となる。が高卒であれば、1993~1997年が学卒期にあたるため、緩い氷河期でしかなかった。さらに中卒であれば、1990~1994年卒なので、半分は「バブル」に属する。いずれも「超氷河期」ではないにもかかわらず、非正規の主流になっている。

ここで三つ目の結論が出る。

非正規問題とは、学卒の時期よりも学歴差に起因する。

そう、氷河期世代の非正規問題というのは、性差・学歴差という、どの世代にも共通する普遍的な問題でしかない。

【図表】超氷河期世代の非正規就労者
※図表=筆者作成

■大卒氷河期世代は、30代前半までに多くが正社員化

ただ、「現時点で正社員だとしても、過去、長らく非正規就労をしていた人も多く、そのため貯蓄や年金の払い込みが足りないのではないか」と考える人もいるかもしれない。

この疑問にもお答えしておく。少なくとも、超氷河期世代の大卒男性たちは、30代前半までには多くが正社員になっていた。

2023年に40代後半の人たちが、30代後半(2013年)・40代前半(2018年)だった頃の就労状況を以下表にまとめてみた。

【図表】超氷河期世代の就労状況(30代後半からの推移)
※図表=筆者作成

やはり、どの年代にあった時でも非正規は女性が圧倒的多数であり、中でも既婚女性に偏っている構造は全く変わらないのが見て取れるだろう。

一方男性は、30代前半にはすでに正社員割合が9割に達し、非正規就労は30万人台と極めて少数派で、現在と状況に大差はない。

表中、2013年の女性就労数が、正規・非正規とも沈んでいるが、これは、彼女らが当時、子育て年代にあたったためと考えられる。全体を通していえる「大きな違い」とはこの点くらいだろう。

■氷河期世代の男性はとっくの昔に正社員になっている

さあこれでもう、説明は不要だろう。

「大卒就職でつまずいた氷河期世代は、正社員になれない」などという話がいかに間違っているか、彼らの多くはとっくの昔に正社員となっている。にもかかわらず、永遠にこの世代向けに特別な配慮が重ねられ、多大な国費が投入され続けている。

表中の2013年以降の男性の正社員数・非正規数がほぼ変わらず推移しているのを見れば、この間に行った政策投資がほとんど効果を出していないのがよくわかるだろう。にもかかわらず、2019年以降に「巨大な」氷河期対策が施行されたのは、冒頭書いた通りだ。

■氷河期世代の大卒非正規は他世代と比べて最も少ない

ただそれでも、他世代と比べた場合、氷河期世代の男性は非正規就労が多いのではないか、という疑問は残るので、今度はそこを見てみよう。

図表4で、超氷河期より6年前の世代、6年後の世代と比較している。

【図表】超氷河期世代と前後の世代「40代前半時の非正規率」比較
※図表=筆者作成

非正規就労人数は、前世代28万人、超氷河期31万人、ポスト氷河期28万人で、特に目立つほどの差はない。非正規率は、前世代7.4%、超氷河期7.8%とほぼ同率、後世代が8.6%と頭一つ高くなっている。少なくとも、ここまでは、超氷河期世代のみが不遇とは言えないのが分かるだろう。

これを非大卒/大・院卒と学歴で2分すると、面白いことが分かる。

大卒に関しては、人数・率ともに、超氷河世代が一番、非正規が少なくなっているのだ。前述した通り、超氷河期世代とは、該当年代の大卒時期が「超氷河期」にあたるわけで、だとすると、大卒が一番、割を食うはずなのに、これは見事に外れている。つまり、超氷河期に大学を卒業した世代が非正規雇用を続け、他世代よりも非正規割合が高くなっている、というのは、全く根拠のない話なのだ。

■「氷河期世代対策」ではなく全世代の就労困難者対策を

にもかかわらず、政府はこの領域に、人材育成支援や就労支援、待遇アップのための施策をせっせとつぎ込み続けている。もちろんそれは効果が薄い。

私は、今まで、就業困難者をサポートしている団体をいくつも見てきた。そのたびに聞かされるのは、「氷河期世代対策ではなく、もっと広く、就業に困っている人たちを助けてほしい」という言葉だ。本当にその通りだろう。どの世代にも就業に難渋する人はいる。ところが、「ありもしない」氷河期世代の不幸な人にばかり、政府は支援を続ける。

この過ちをそろそろどうにかしなければならないだろう。

以上、今回は主に現状分析に力点を置いた。

次回は、大卒時点での「超氷河期」だった人たちが、その後どのように就業していったかにスポットを当てることにする。

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海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト
1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。ヒューマネージ顧問。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。

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(雇用ジャーナリスト 海老原 嗣生)

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