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こんなにおいしい「ドル箱番組」は他にない…テレビ局が「警察密着」番組をやめられない"視聴率以外の理由"

プレジデントオンライン / 2024年7月10日 17時15分

画像=テレビ東京「激録・警察密着24時‼」公式サイトより

テレビ東京の長寿特番「激録・警察密着24時‼」(2023年3月28日放送)が、事実誤認や過剰演出があったとして、今年5月に制作中止を決めた。裏側にはどんな事情があるのか。元テレビ東京社員で桜美林大学教授の田淵俊彦さんは「警察密着番組はテレビ局に都合のいい『おいしいコンテンツ』になっている。これはテレビ東京だけでなく、どのテレビ局も直面している『企画不足』という深刻な問題の表れだ」という――。

■テレ東社長が「激録・警察密着24時‼」の制作中止を宣言

テレビ東京が2023年3月に放送した「激録・警察密着24時‼」が大きな波紋を呼んでいる。社長の石川一郎氏が「制作中止」を宣言したことで、2005年から20年近く続いた長寿番組に終止符を打つことになったのと同時に、他局の民放に横並びで存在する同じような「警察密着モノ」の存続にも影響する事態に発展しているからである。「警察密着モノ」は、各局が「ドル箱コンテンツ」として重宝している「マグロ漁」「大家族」と並ぶ不定期の特別番組である。

石川氏は日本経済新聞出身とあって危機管理意識が強いが、今回の事件は防げなかった。しかし、このような問題はテレ東だから起こったことではない。どこの局でも起こり得ることなのだ。それは、今回の事件がテレビ局の構造的欠陥に起因しているからである。

問題となっているポイントを整理してみよう。

番組内でアニメ「鬼滅の刃」に絡む不正競争防止法違反事件を取り上げた際、4人が「逮捕された」と放送したが、その後、3人が不起訴になったことには言及しなかった。不起訴ということは無罪どころか裁判にもなっていない。それをあたかも「犯人」であるかのように放送した。

この4人の行為を指して、「逆ギレ」や「今度は泣き落とし」といったナレーションをつけたり、捜査シーンの時系列に誤解を与えたりする演出は、「過剰演出」や「事実誤認」ではないかと指摘されている。

■BPOが「審議入り」を表明

さらには、番組に登場した会社が「鬼滅の刃」のキャラクターを描いた商品を中国へ発注していたと放送したが、そのような事実はなかった。また、強制捜査後もこの商品が通信販売などで売られ続けていると紹介したが、番組に登場した会社とは無関係だった。

関係者からの申立てを受けたBPO(放送倫理・番組向上機構)は6月18日、この番組を「審議入り」することに決めた。

BPOとは「放送における言論・表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するため、放送への苦情や放送倫理の問題に対応する、第三者の機関」である。その目的は「主に、視聴者などから問題があると指摘された番組・放送を検証して、放送界全体、あるいは特定の局に意見や見解を伝え、一般にも公表し、放送界の自律と放送の質の向上を促す」(HPより)ことである。

今後、BPOの第三者委員会によって徹底的な調査がおこなわれる。これは番組を放送したテレビ局や制作担当者にとって大変不名誉なことだ。また審議の結果、この番組が「放送倫理違反があった」もしくは「放送倫理上問題あり」と結論づけられれば、大きな「汚点」となる。

過去には以下のような事案がそのようなケースに該当する。どれも読者の皆さんがご存知の出来事ではないだろうか。

・2019年8月に放送されたTBSの番組「クレイジージャーニー」内で、事前に準備した動物をあたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出が放送された

・2021年3月に放送された日本テレビの情報番組「スッキリ」内で、アイヌ民族への不適切な発言が放送された

・2020年5月に、フジテレビのリアリティ番組「テラスハウス」に出演中だったプロレスラーの木村花氏がSNS等で誹謗中傷されたことを理由に自ら命を絶った

そのような事情から、今回のテレ東の「激録・警察密着24時‼」の成り行きを、当事者のみならず民放各社も固唾をのんで見守っているのである。

■なぜテレビは警察密着番組を好んで流すのか

今回の「激録・警察密着24時‼」の件には、「警察密着モノ」の番組が内包するさまざまな問題や「闇」が隠されている。その根底には、私がこれまでプレジデントオンラインの論考で指摘してきたテレビ局の「性癖」とも言える構造的欠陥があるのだ。

なぜ、テレビ局は「警察密着モノ」を流すのか。そして「警察密着モノ」がこんなに長い間続いてきたのはなぜなのか。それらの疑問を突き詰めることで、そのテレビ局の構造的欠陥に迫ってみたい。

テレビ局が「警察密着モノ」を好んで流す理由は、以下の3つである。

理由① 視聴者の留飲を下げることができる
理由② 視聴者の不安をあおることができる
理由③ 警察に「おんぶにだっこ」ができる

①と②は、視聴率を上げるためにおこなわれる。まず①「視聴者の留飲を下げることができる」についてだが、読者の皆さんは、テレビのニュース番組でよく「○○事件の犯人は○○でした」といった表現を目にするだろう。

凶悪な事件の結末をセンセーショナルに報道し、かき立て、世間の耳目を集めるのがその手法だ。これを見た多くの視聴者は「あの事件もついに解決したか」とか、「ようやく犯人が捕まった」と安堵の胸をなでおろす。同時に「ざまあみろ」や「結局、逃げ切れないで捕まったな」と思って溜飲を下げるのである。

問題はここにある。拙著『混沌時代の新・テレビ論』(ポプラ新書刊)でも述べたが、テレビの性癖について再度、押さえ直しをしておきたい。

【図表1】現在放送されている主な「警察密着モノ」

■あおり、演出で自由に味付けができる

テレビは被疑者が警察に逮捕された事実のみでその被疑者を犯罪者と決めつけ、事件はそれで終了したかのように扱う。

実際にはその被疑者が犯人かどうかは、その後の取調べや裁判などのプロセスを経て初めて判明するはずだ。被疑者の段階では、誰が犯罪者かは警察にすらわからないのである。

そうであるにもかかわらず、テレビは被疑者を犯罪者として扱って曖昧なニュースソースによる情報を発信することで世間の注意を引いて、勝手な解釈を押しつける。その結果、多くの視聴者はそれを信用してテレビの解釈を「事実」として受け止める。

今回の「警察密着モノ」もその手法で作られている。大げさなあおりや過激な演出で味つけされた番組を見せられると、視聴者は捕まった人間が単に被疑者であったとしても「こんな悪い奴は捕まってよかった」と思う。

完全に頭の中には「こいつは犯人だ」という意識しかない。しかも、その犯人を捕まえてくれるのは、「正義の味方」の警察だ。それが、勝手な解釈を「事実」に変えてしまう魔法たるゆえんである。

パトカー
写真=iStock.com/kuremo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuremo

■危機感をあおる巧妙な手法

そして次に②の「視聴者の不安をあおることができる」であるが、それは最近のテレビ番組の傾向からも見て取れる。人々の「不安」をあおるような報道や番組が増えているのだ。

それはコロナ禍で顕著に現れた。当時目立ったのは、ワイドショーなど情報番組における過剰に「危機感をあおる」報道だ。「対応が遅すぎる」「医療は崩壊の危機を迎えている」といった表現が多用された。このほとんどが高齢の視聴者が多い番組でおこなわれた。

危機感をあおるテレビの手法は巧妙である。不安をあおるだけあおって、そのあとにその「不安」を解消するかのような(本当に解消できているかどうかは誰にもわからない)番組運びをするのである。いわゆる「視聴者の期待に応えている」というアピールをしてゆくわけだ。

「みなさん、こんなに感染者が増えています。出歩かないようにしましょう!」
「なんでPCR検査を受けられないんでしょうね! 不安ですよね? いますぐ受けたいですよね!」
「お年寄りは気をつけているのに、若い人は自覚がないですねぇ」
「政府はどういう対応をしているんでしょうか!」

不安をあおるだけあおって、「だからこうしたほうがいい」と語る内容には何の根拠もない。視聴者は大衆心理の塊である。不安に思っていなかったことも、「不安ですよね?」と尋ねられると「そうだ」と答える。そして自分の不安を代弁してくれているのだと思い込むのである。

テレビのリモコン
写真=iStock.com/TOLGA DOGAN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TOLGA DOGAN

■視聴者の留飲を下げる

「不安ですよね?」と問われて、「いえ、私は何の不安もありません!」と言い切れる人はなかなかいない。そんな心理をよくわかっていて利用しているのが、テレビ番組なのである。

テレビで自分の不安をかたちにして放送してくれているのを確認できると、視聴者は「あぁ、私だけではない。みなも不安なんだ」と安心する。「赤信号みんなで渡れば怖くない」の心境だ。

そしてテレビは最終的に「政府の施策が悪い」「自治体の対応が遅い」と体制を責める論調に持ち込み、不安を解消するかのように思わせる。

かといって、テレビが政府や自治体に施策や対応を変えるように働きかけをすることはない。庶民とは次元が違う体制批判なので、批判をするだけで終わり。視聴者の溜飲を下げることだけが目的なのだ。

こういった「恐怖や不安をあおる番組」ほど、視聴率を獲る。しかし、「恐怖や不安をあおる番組」は、コロナ禍から始まったわけではない。これはテレビの特性なので、昔からあった傾向だ。それがコロナ禍で顕著になっただけのことである。

そして、「恐怖や不安をあおる番組」の最たるものが「警察密着モノ」だと言える。まさに視聴者感情とテレビ局の思惑が合致した、都合のいい番組だ。それが、テレビ局が「警察密着モノ」を好んで流す理由である。

■こんな「おいしいコンテンツ」はない

「勧善懲悪」を絵にかいたような番組で、警察が悪人を捕まえてくれるのでスカッとする。最新の犯罪手口を紹介することで、視聴者の不安感をあおることもできる。それで視聴率が獲れるのだからこんな「おいしいコンテンツ」はない。

しかも、取材対象は警察なので出演料や謝礼は不要だ。ギャラが高いタレントを出演させる必要もない。いや、かえってタレントがいないほうがリアリティを担保できる。これが③の「警察におんぶにだっこができる」を挙げた所以である。

ドキュメンタリーの撮影や番組制作の段取りで手間がかかるのが、出演者や取材対象者の交渉である。時間や内容の調整はもちろんのこと、コミュニケーションがうまくとれない場合には、もめごとに発展する場合もある。しかし、相手が警察だとそんな心配はない。

一方、警察側はPRになるから積極的に協力してくれる。不祥事が起こってもそれを帳消しにできるほどのイメージアップがはかれるからだ。現に、「警察密着モノ」は警察の不祥事が報じられた後のタイミングで放送されることが多いと囁かれるほどだ。

もうひとつの取材対象である「犯罪者」や「悪人」は、警察が捕まえたり取り調べをしたりする様子を撮影するなかで映るものなので、警察側が「OK」と言えば、局は「問題ない」と判断する。すべて「警察のせい」と押しつけることができるのだ。

道を歩く複数の警察官
写真=iStock.com/gyro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

■テレビ局が重宝する警察の「後ろ盾」

今回の事件の「闇」もそこにある。私は、「警察密着モノ」を制作したことがあるクリエイターに取材をした。彼ははっきりとこう言った。

「警察が言ったことをいちいち裏取りしたり、調べたりしませんよ。だって、警察が言ってるんだから間違いないでしょう。もし、間違っていても『われわれは警察からそう聞いた』と言えるじゃないですか」

そしてそのコメントを実名で紹介していいかと尋ねた私に彼は言った。「いや、絶対に身分を明かさないでほしい。そうでないとこの業界で生きていけないから」。その言葉が、この番組の「闇」を表している。

ニュースはその公共性や公益性、視聴者の「知る権利」を尊重して、逮捕や検挙などの通常は撮影が許されていない瞬間の映像を放送することができる。だが、「警察密着モノ」はニュースではない。であるにもかかわらず、ニュースと同じようにそれらの映像を堂々と流すことができるのはどうしてなのか。

それは、「警察」という「後ろ盾」があるからだ。

おそらく逮捕された4人中3人が不起訴になった件も、制作者側による裏取りや確認作業はおこなってない。警察が犯人と認定して逮捕した人間が「本当に罪を犯しているのか」と勘繰ることは、警察を信用していない、疑っていることになる。そんなことをすれば、長年築いてきた人間関係にヒビ入る。

ましてや「警察」は取材対象だ。私たち取材者側には取材対象である「被取材者」に対して「遠慮」や「忖度」をしてしまう習慣がある。これは「業界の不文律」と言ってもいいだろう。

■警察情報を鵜呑みにする

実際に私がドキュメンタリーの取材をおこなっているときに、「これはもっと突っ込んで確認したい」と思っても、相手に「失礼になる」ことを恐れてあきらめたことがあった。被取材者が「こうだ」と言えばそれを信じざるを得ない状況もあった。

もちろん、メディアとして情報の裏取りをしなければならないので、できるときにはそういった努力も惜しまないが、どうしても当事者や被取材者、また情報提供者にしかわからないこともある。裏取りができない場合には、「放送を断念するか」もしくは「相手の言うことを信じるか」しかない。

今回の「警察密着モノ」の場合には、犯罪や逮捕、検挙などといった大変ナーバスな内容を扱うため裏取りがしにくいという特性もある。そんなときに、「つい相手の言うことだけを鵜呑みにしてしまう」ことはあり得ない話ではない。

だが、警察の「宣伝」一辺倒の番組を作り続けることは、「権力監視」の役割を持つメディアとしていかがなものだろうか。テレビは、権力の監視を放棄し、警察のプロパガンダを垂れ流す装置に成り下がったのか。もちろん、「警察密着モノ」が警察の不祥事をネタとして取り上げることはあり得ない。警察の威信を落とすような内容や「お蔵入り」の事件の深掘りもご法度である。

■制作会社に丸投げする「外注番組」

今回の事件には、もっと大きな問題が隠されている。テレビ局の「人事構造」の欠陥である。

テレビ局員は人数が限られている。また、昨今は働き方改革の影響で労務管理も厳しく問われるようになってきた。警察官への密着は撮影に多くの時間を要し、テレビ局員には担当させられない。現在放送されている「警察密着モノ」は、日本テレビ系は「悪い奴らは許さない‼警察魂」、テレビ朝日系は「列島警察捜査網 THE追跡」、TBS系は「最前線!密着警察24時」、フジテレビ系は「逮捕の瞬間!密着24時」などがあるが、いずれも下請けの制作会社によって作られている「外注番組」である。

制作会社はギリギリの制作費や人繰りで番組作りをおこなっている。制作者は「テレビが好きだから」「映像制作が楽しい」という理由で、過酷な条件でも撮影し、番組を完成させる。

制作会社にとって、番組が続くか終わるかは死活問題だ。レギュラー番組ではないにせよ、「特番(特別番組)」は売り上げが立つ貴重な収入源になる。特に今回の「激録・警察密着24時‼」は20年近く続く長寿番組である。打ち切りとなればその制作会社のイメージも悪くなる。

ビデオカメラで撮影をするカメラマン
写真=iStock.com/okugawa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/okugawa

■視聴率を取るための仕掛け

番組の終了・存続の判断基準は、一にも視聴率、二にも視聴率である。

しかも、「警察密着モノ」はなかなかインターネットの配信には回せない。その場限りの勢いで放送するにはいいが、裏取りもしっかりとおこなわれていない番組がインターネット上にいつまでも残っているのは都合が悪いからだ。だから、なおさら地上波における視聴率だけが終了・存続のバロメーターになるのである。

そんな枷(かせ)があるため、視聴率を獲るためにさまざまな仕掛けが用意される。今回の件で問題視されているセンセーショナルなナレーション、捜査シーンの並びかえは、視聴者を惹きつけ、視聴率を稼ぐために他ならない。

テレ東は記者会見で、この番組を「枠組みとしては情報バラエティ」と説明したというが、この発言はまずかった。ドキュメンタリーであれば許されないことも、情報バラエティであれば許されると言い訳しているように聞こえてしまう。

ドキュメンタリーであろうが、バラエティであろうが、作り手や局側が越えてはならないガイドラインがあるはずだ。

■テレ東は「確認漏れ」と謝罪したが…

そして私が今回の事件の根本的な問題として指摘したいのが、「コミュニケーションの断絶」である。私がこれまでもドラマ「セクシー田中さん」問題などでも述べてきた、制作現場におけるコミュニケーションの断絶が深刻化している。

テレ東は記者会見で、「確認ミス」でさまざまな事実誤認が起こったと釈明し、捜査の映像は事後に撮影したものだと認めたうえで、「再現」というテロップを入れなければいけなかったが「確認漏れ」だったと謝罪した。

これは、現場の制作会社側と局のプロデューサー間の意思疎通、コミュニケーションが取れていなかったからである。さらなる記者会見での説明では、番組内で施された演出は「リアルな状況をお伝えする」「分かりやすさ」の上でのものだったと述べたというが、これも単なる「言い逃れ」に過ぎないと思われてしまった可能性がある。「『再現』というテロップを入れたら『リアルさが損なわれ』『わかりにくく』なるのか」という反論が成り立つからだ。

テレ東は他局に比べて正社員である局員の数が6割くらいしかいない。そのため制作会社などの外の力を借りないと番組制作を維持してゆけない。それだけに制作会社との意思疎通は密におこなっているほうだと、OBの私には充分に理解できる。

しかし、今回のテレ東の記者会見の様子からは、苦し紛れの方便を重ねているようにしか感じられなかった。

■テレビ局と制作会社の関係を見直す必要がある

テレビ局と制作会社の関係は早急な見直しが必要だ。外注番組はどうしても責任の所在があいまいになる。ともすれば、現場である制作会社に責任を押しつけてしまうきらいがある。「局員がその場にいなかったから、真相はわからない」と言えてしまうからだ。

しかし、テレビ局は「電波を発している」という責任と自覚を持たなければならない。仕事がなくなったら困る制作会社が張り切りすぎて、過剰な演出をおこなってしまうこともある。そんな可能性を想像する必要がある。

もしコミュニケーションを密に取っていれば、現場がいまどんなことに悩んでいるのか、どんな問題にぶち当たっているのかがわかる。そうすれば、度が過ぎた表現や演出にも気がつくはずだ。

これら両者の関係については、私は「補償制度」という提案をしたい。もし何らかの理由で考えていたような映像が撮れなかったり、話の流れが思い通りにいかなかったりしたときには、かかった費用をちゃんと補償してあげるというふうにすれば、制作会社も無理をして制作を進めようとしないだろう。それこそ、本当の意味での「共存共栄」ではないか。

テレビ局のビデオミキサー
写真=iStock.com/Yasin Cobanoglu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yasin Cobanoglu

■コンテンツ不足を招いたクリエイター軽視の結果だ

最後に、「今回の事件の際のテレ東の記者会見から見えてくるものは何なのか」という考察をおこなって、本稿を終えたい。苦し紛れの発言が続いた記者会見。その様子から見えてきたのは、とっくにこの番組が消費期限を過ぎていたということだ。

いま、テレビ業界は未曽有のコンテンツ不足に陥っている。なかなか新企画が生まれず、ヒット番組も出にくくなっている。そのため、多少番組に無理が生じてきても「延命措置」をはかって長続きさせようとする。

それは新しいモノを生み出そうとする現場のクリエイターを大事にしてこなかったテレビ局がいま背負わされている大きな「ツケ」だ。番組の終了は致し方ないとはいえ、番組担当者及び監督責任者の計2人に対して減給等の社内処分をくだしたとテレ東が「処分」に関して発表したことには強い違和感を抱いた。

本来、社内処分はその会社の人事的な内情であって、公の場で明らかにする必要はないはずだ。「トカゲのしっぽ切り」と感じた読者も多かったのではないだろうか。

「警察密着モノ」の始まりは、1978年から1992年にかけて放送されたテレビ朝日の「警視庁潜入24時‼」だと言われている。それから半世紀近くがたった。

逮捕される側の人権を無視し、権力におもねるような番組はいまの時代には相応しくない。コンプライアンスや人権、個人情報保護の観点や考え方がまったく違ってきているからだ。

そして何より、一番「浦島太郎化」しているのはテレビ局自体なのではないだろうか。その錆びついた構造や旧態依然とした考え方を改めないと、また同じような事件が繰り返されることになる。そう、警鐘を鳴らしたい。

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田淵 俊彦(たぶち・としひこ)
元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授
1964年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、テレビ東京に入社。世界各地の秘境を訪ねるドキュメンタリーを手掛けて、訪れた国は100カ国以上。「連合赤軍」「高齢初犯」「ストーカー加害者」をテーマにした社会派ドキュメンタリーのほか、ドラマのプロデュースも手掛ける。2023年3月にテレビ東京を退社し、現在は桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授。著書に『混沌時代の新・テレビ論』(ポプラ新書)、『弱者の勝利学 不利な条件を強みに変える“テレ東流”逆転発想の秘密』(方丈社)、『発達障害と少年犯罪』(新潮新書)、『ストーカー加害者 私から、逃げてください』(河出書房新社)、『秘境に学ぶ幸せのかたち』(講談社)など。日本文藝家協会正会員、日本映像学会正会員、芸術科学会正会員、日本フードサービス学会正会員。映像を通じてさまざまな情報発信をする、株式会社35プロデュースを設立した。

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(元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授 田淵 俊彦)

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