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あまりにも左派色が強すぎる…刑務所の受刑者たちが口を揃えて「もう見たくない」と話すテレビ番組

プレジデントオンライン / 2024年7月17日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/da-kuk

刑務所の中ではどんな生活が行われているのか。元法務大臣で、刑務所で服役していた河井克行さんは「受刑者の居室にはテレビがある。だが、視聴できるのは刑務所の教育部門が選ぶ番組のみ。それに不満を持つ受刑者は多かった」という――。(第1回)

※本稿は、河井克行『獄中日記 塀の中に落ちた法務大臣の1160日』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

■元法務大臣はどんな刑務所生活を送っていたのか

さて、刑務所では思っていた以上に自主的に学習する時間を確保することができる。月曜から木曜までは、作業を終えて共同入浴(週3回15分間)の後は居室へ戻る。一番風呂の日は15時過ぎだ。それから17時前の夕点検までは自主学習の時間だし、夕食が終わる17時過ぎから21時の減灯までは自由時間だ。金曜日は矯正指導日といって、房で視聴覚教材を2時間ほど見たり、ワークブックなどを記入したりするほかは、ずっと自主学習が義務付けられている。

土日・祝日は、点検や食事を除き、房でまるまる自由な時間となる。問題は、その潤沢な時間を受刑者はどう過ごしているのかだ。

僕は妻に勧められて、英単語を覚えたり、外交・安全保障に関する博士論文の作成を目指して勉強に追われたりしているので自由時間が足りないくらいなのだが、仲間たちに尋ねて浮かび上がってくるのは、時間を持て余している実態と、刑務所が施す「良き教育機会」の絶望的な少なさだ。

差し入れもなく、自費で本を買う余裕にも乏しい受刑者にとって、頼みの綱は各工場に400冊ずつ備えられた官本(貸出図書)なのだが、本が非常に古い。実に古い。大体、主流は15〜30年前の出版物だ。1960〜70年代に出た本も珍しくない。

■受刑者に人気のある貸出図書の名前

そんな本たちが、セロテープやボンドであちこち修理されて懸命に頑張っている姿を見ると、ホロリとなる。古い本の小さい活字は中年を過ぎたら読みづらいし、情報も古い。僕が一人で担当する特別貸与本(辞書、六法、語学、資格取得など)は、さらに年季が入っている。

少しでも新しい版の辞典を使ってもらいたい僕は、貸出請求が来ると新しい順に貸し出すようにしているのだが、大半を占めるのはやはり数十年前のものだ。1972年刊行の和英辞典があるのにはめっちゃ驚いた。辞書は小説と違い、情報の更新が必要なのに。これで受刑者たちの向学心を誘うことができるのだろうか。

このセンターでは日商簿記試験を無料で受けられるので、その参考書、問題集は特に人気が高い。でも在庫はたった1冊ずつだけ。請求されるたび、「貸し出し中」と断らなければならない僕は、いつも心苦しさに駆られる。

少しでも受刑者の皆さんの役に立つならば、と自分が読み終えた私物の本を寄贈したいと、東京拘置所でもこのセンターでも刑務官に相談したけれど、「それはできない」との返答だった。

ここには、「社会貢献本」といって、受刑者の私本を募って業者に売り、そのお金を福祉施設に寄附する仕組みがある。僕はその処理も担当しているのだが、ほとんど新品の辞書や最新版の簿記の本をはじめ、人気の高い小説や人生を考える良書などが毎月800冊以上も集まってくるのだ。

社会貢献本の真新しい表紙を横目に、同じ表題の古い官本を修理していると、なんでこの本を官本に編入できないのか、と思えてしまう。社会に貢献する前に、まずは自分たちの仲間に貢献させてくれよと思ってしまうんだけどなあ。

河井克行氏
首相官邸ホームページより
第4次安倍第2次改造内閣時の河井克行氏 - 首相官邸ホームページより

■「河野太郎さんが知ったら怒るだろうな」

もう一つ、今春から借りられる冊数が減ったことも課題だ。喜連川は開設以来、官民が協働し、効率的に質の高い公共サービスを提供するPFI方式がウリだったのに、4月から民間企業が手を引いて、純然たる国の管理運営に変わった。

その影響は僕のいる図書計算工場に色濃く及んだ。それまで貸し出しを管理していたのは、全ての官本に貼付されたバーコードだったんだけど、それがなんと、昔懐かしい手書きの図書カードに変わったのだ。

「普通、アナログからデジタルに進化するもんやのに、その逆や。ケッタイなことや」

大先輩をはじめ、工場のみんなは首を傾げながら、図書カードに題名を書き写す作業を行った。その数、2万冊。

河野太郎デジタル大臣――僕の直前の法務副大臣でもある――が知ったら怒るだろうなあ。

こうして、令和のデジタルから昭和のアナログに“退歩”した結果、1回最大3冊、次の日に返せば毎日でも借りることができた官本は、週に1回の貸し出しのみとなった。単純計算で、読める冊数が4分の1に減ったのだ。それは、読書を通じた教育機会がそれだけ失われたことを意味する。

■人気のテレビ番組

受刑者の居室にはテレビがあって、録画放送が月〜金は18時〜21時まであり、土日祝日はそれに9時〜11時が加わる。番組は刑務所の教育部門が選んでいるのだが、番組選択への受刑者たちの不満は根強い。

大食いとか、芸能人が食べる料理の皿の順を当てるとか、とにかく食い物番組が異常に多いのだ。工場のみんなからは、「受刑者だと思ってバカにするなよ」との声が渦巻く。ディズニーアニメが続いた時は、「俺たちを小学生と思ってんのか!」との声が上がった。

ここでは大河ドラマも朝の連ドラもない。ブラタモリもNスペもないし、チコちゃんに叱られることもできない! ストレスに溢れた服役生活だから、時に息抜きできる番組を見たいこともある。「マツコの知らない世界」とかね。

1本の映画の一つのセリフが人生を変えることや、ドキュメンタリーを見て職業を決めることだってあるのだ。挫折からの復活劇に勇気を得たり、美しい自然で心を穏やかにしたり、人情ものに涙を流したり、歴史に人間関係を学んだり……。

そういう番組を見せて立ち直りのきっかけを提供することが、テレビ放映の本来の目的だと思うんだけどなあ。

矯正指導日に放送される視聴覚教材が「カンブリア宮殿」や「ガイアの夜明け」のような社会の最新情報の紹介番組だと、みんなは喜ぶ。受刑者たちが教養的番組をいかに渇望しているかということだ。僕たち受刑者にはチャンネルを選ぶ権利がないのだから、テレビ番組が生活に及ぼす影響をよく考えて、教育に資する番組を流してほしい。

レトロなテレビ
写真=iStock.com/pxel66
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pxel66

■大不評だったTBS​の報道番組

テレビの話が出たついで。同衆たちが「もうあの番組は見たくない」と槍玉に上げるのが「サンデーモーニング」だ。日曜の放送が月曜夜に録画で流れると、決まって次の日の休憩時間に誰かが「昨日も酷かったなあ」と口火を切る。なにも「反安倍」だから指摘しているのではない。

この種の情報番組には、何かしらの政治的傾向がついて回る。週末に放送される同種の番組は10を超えるのに、なぜ「サンデーモーニング」という、それらのなかでも極めて政治性が高い番組だけを放送し続けるのだろうか。

河井克行『獄中日記 塀の中に落ちた法務大臣の1160日』(飛鳥新社)
河井克行『獄中日記 塀の中に落ちた法務大臣の1160日』(飛鳥新社)

先輩によると、3、4年前から変わらないという。社会への多様な見方、考え方を養うのも刑務所の役割だ。受刑者の思考を固定化しようとしているとの疑念を抱かれることは、不偏不党の観点から慎むべきではないだろうか。

もう一つ、同衆から「あれもおかしいですよね」と言われる番組がある。受刑者が全員潜り抜けなければならない新入訓練の教育プログラムとして視聴する、NHK総合の「たったひとりの反乱」という番組だ。

番組内容そのものは心を強く揺さぶられるもので、僕も何度も泣いてしまった。ただ問題は、進行役がれいわ新選組代表の山本太郎参議院議員であることだ。いくら収録時にはタレントであったとしても、いまはれっきとした国政政党の代表だ。法務省は与野党に関係なく、政治的中立性を遵守することに敏感になるべきだと思う。

■「マイナンバーってなんだ?」

仮釈放直前の社会復帰プログラムにも工夫を加えるべきだ。仮釈放される前の2週間は「仮釈放前班」に異動するのだが、社会貢献のためとして人工呼吸の救命講習があるらしい。でもね、長年、娑婆と隔絶された受刑者にもっと急務なのは、最新の社会動向についての講習ではないか。たとえば、いま話題の「マイナンバーカード」だ。

「マイナンバーってなんだ? 俺が入った頃はなかったぞ」

5年半服役してきた大先輩は不安そうだ。回覧新聞を日々10分間眺めるだけでは、コンビニの電子決済も、メタバースも、Web3.0も分からないことだらけだ。

「俺、現金でしか買い物したことないんや」と心配げに呟く大先輩の声に応えるためにも、社会の情報を懇切丁寧に伝える講座が有用と考える。

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河井 克行(かわい・かつゆき)
元法務大臣
1963年、広島県生まれ。慶應義塾大学卒業後、松下政経塾に入塾。広島県議を経て、96年、衆議院選挙に初当選(広島3区)。外務大臣政務官、自民党国防部会長、法務副大臣、自民党副幹事長、衆議院外務委員長、内閣総理大臣補佐官(外交担当)などを務める。当選7回。第4次安倍第2次改造内閣では法務大臣を務めた。2019年の参院選で地元政治家らを買収した大規模買収事件で公選法違反に問われて実刑判決を受け、2023年11月に仮釈放された。

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(元法務大臣 河井 克行)

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