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「出演させてやる」という殿様商売を変えられない…ホリエモンが語る「テレビ局は諸悪の根源」の本当の意味

プレジデントオンライン / 2024年7月19日 9時15分

CROSS FMが入居するJR小倉駅前の商業施設「セントシティ」。写真は2013年当時(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/winhorse

実業家の堀江貴文さんは宇宙ロケット開発や飲食店など、さまざまな分野で事業を手がけている。そのうちの一つがラジオ局の経営だ。2023年、経営破綻寸前だった北九州のラジオ局「CROSS FM」の全株式を引きとり、再建の道を模索している。なぜわざわざ赤字企業を買収したのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが聞いた――。(後編/全2回)

■「いい買い物だったと思う」

CROSS FMを経営するようになって以来、堀江貴文は「ラジオには可能性しかない」と言っている。

それはどういうことなのか。

AM局の経営に携わっていたことのある元経営者は「ラジオ局の可能性」についてこう言った。

「堀江さんにとってCROSS FMはいい買い物だったと思う。再生の可能性はあります。

ラジオにはAM局とFM局があります。AM局には新聞、テレビと同じように記者がいる。政治部、経済部といった具合に分かれて、少数でも記者がいるんです。、AM局には独自のカルチャーがある。

記者たちは新しい経営者が来て、合理化しようとしたり、従来のラジオがやらなかったような企画を立てたりしたら、反発するでしょう。つまり、AM局は買収しても経営が簡単ではない。

一方、FM局にはたいていの場合、記者はいません。元々音楽放送ですから。新しい経営者が来ても受け入れる素地があります。CROSS FMはJ-WAVEが中心のラジオネットワーク(JAPAN FM LEAGUE)です。平成になってからできた平成新局の集まりですから、TOKYO FMのネットワーク(JAPAN FM NETWORK)よりも保守的ではない。堀江さんの改革を受け入れますよ」

■ラジオ発の企画で東京ドームを満員にできる

元経営者はこんな話もした。

「今、ラジオを聴いている人ってradikoもしくは自分の車ですよ。うちにラジオがある人なんていません。ラジオ局って地域のものとは言ってますけれど、実際には全国の人が聴いている。面白い番組なら九州の放送局でも東京の人が聴く。堀江さんは全国区だから、CROSS FMは全国の聴取者が聴く可能性があります」

では、堀江貴文はラジオ局をどう再生、発展させていこうとしているのか。

――CROSS FMは北九州の放送局です。ですが、福岡市でも、その他の電波が届く町でも聴いている人に会いました。

【堀江】実際、多いんですよ。僕らがやるようになってから聴取者は間違いなく増えています。SNSのおかげだと思います。ラジオとSNSがつながってファンが増えている。ラジオ単体だと広がりがないのですが、SNSをからめると広がりができるんです。

――SNSとのメディアミックスですね。

例えば、ラジオ界で今年、話題になったイベントは、お笑いコンビ・オードリーの東京ドーム公演(2024年2月18日)でした。あれはオールナイトニッポンの企画です。ラジオとSNSがからんだことで東京ドームを満員にするくらいの人が来た。同じように人気のある番組がTBSラジオにもある。「ジェーン・スー 生活は踊る」というもの。これはSNSとからめた番組フェスを全国でやってるんですよ。

ジェーン・スーさんを知らない人もいるだろうけど、今、めちゃくちゃ人気なんですよ。「みんなで運動会をやろう」みたいな謎なイベントだけれど、そこに人が来ている。

■「ラジオは可能性しかない」の真意

――CROSS FMでもやらないんですか?

僕関連だとCROSS FMに番組を持っているし、また、フェスでは「ホリエキスポ」っていうのをやっているんです(HORIEXPO~グルメとビジネスの祭典。2024年3月に栃木で開催)。近いうち、番組発のフェスも始まりますよ。

インターネットがなかったらラジオはこんなふうには発達してない。僕は今、「ラジオは可能性しかない」って言ってます。可能性にはこうしたメディアミックスも入ります。オードリーもジェーン・スーさんも僕も、ラジオとSNSを上手に使うことで、地域限定だったラジオメディアを全国版にしました。

ラジオの世界には昔からその地方では人気を持っている人がいました。それがSNSをからませたことで、全国でイベント開催ができるようになったわけです。

――ラジオとSNSをうまく使いこなしている人の人気が高まっていると?

まあ、そうですね。本の世界でもSNSの影響は大きいんじゃないですか。うまく使っている人の本は売れる。僕の本も売れます。

実業家の堀江貴文さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
実業家の堀江貴文さん。地元・福岡県のラジオ局「CROSS FM」を買い取って何を始めるのか - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■なぜ破綻寸前のラジオ局を買収したのか

――CROSS FMを堀江さんが買収したのはどうしてでしょうか?

CROSS FMは最初、北九州の経済界が共同出資して作ったんですけど、ありがちなパターンですぐにダメになっちゃって、一度はファンドが買収して経営を立て直した。ファンドは売り先を探していて、たまたまそこに化粧品・健康食品のDHCが手をあげた。かつては田母神俊雄さんの番組とかやってたんですよ。

CROSS FMはDHCが支えていたのですが、オリックスがDHCを買収してしまう(2023年)。すると、CROSS FMを支えられなくなる。そこで、DHCはファンドに「負債や借金を全部帳消しにするから経営を引き継ぐ先を探してくれ」と。ファンドは「堀江さんなら九州出身だし、買うかも」と僕のところに話を持ってきた。

それで、僕はDHCのオーナーから局を買いました。

――堀江さんが買わなかったらCROSS FMはどうなっていたのでしょうか?

経営破綻ですよ。

――ですよね。

同時期、北海道のFM NORTH WAVEも売りに出ていました。でも、それを知ったのはすでに買収された後だった。

――FM NORTH WAVEのほうが魅力的だった?

いえ、FM NORTH WAVEも一緒に買収できればふたつともに再生できると思いました。番組も共通化できるし、ちょうどいいと思ったのだけれど、でも、気づいたのが遅かった。

ただ買収した人は苦労しているかもしれない。北海道って広いし、雪が降るから放送設備のメンテナンスにお金がかかる。それでも、ラジオはやり方次第です。オールドメディアじゃないです。これからのメディアですよ。

■テレビ局が日本のメディアをダメにしている

結局、日本メディア界の諸悪の根源は地上波テレビ局なんです。それはテレビ局が持つ権力、「テレビに出られるか出られないか」みたいなものを駆使して食べている人たちがこれまで大勢いたから。

ただ、ここへきて、少しずつ変わってはきています。

これまでジャニーズ(現SMILE-UP.スマイルアップ)や吉本興業をはじめとする大手の芸能事務所って、テレビに出してやるという力でタレントを集めていた。

「テレビに出してやるからうちの事務所に入れ」と言っていたわけです。テレビ局がメディア界に君臨していたから、そこの番組に人を登場させる力が利権のようになっていた。

でも、変わってきました。近頃、芸能事務所のまあまあの大手がつぶれたり、閉業したりしてます。なぜつぶれたかというと、要は芸能事務所が持っていた「テレビに出してやる」という強みが通用しなくなったから。かつては「テレビに出られる」と、タレントの卵は芸能事務所に入った。でも、テレビに出ることに価値がなくなったとたんに、それがまったく意味がないことにみんなが気づいた。

「芸能事務所なんかに入らなくても自分で稼げばいいじゃん、SNSもあるし」って。新世代の人たちはそう思っている。

堀江貴文氏
撮影=プレジデントオンライン編集部
「出演させてやる」というテレビ局の姿勢が、日本のエンタテインメント業界の構造を歪ませてきたと語る - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■テレビ局は「自然死に向かっている」

新世代の人たちはそもそもテレビを見ないから、テレビに対するあこがれはない。今の20代はまだテレビ見ますけど、10代はすでにテレビを見ていないから、テレビが何なのかもよくわかってない。

「リアタイ(リアルタイム)でしか見られないっておかしくない?」っていう感じなんですよ。

テレビに出すための仕事しかしない芸能事務所はつぶれていくしかない。一方で、テレビ以外のメディアやSNSをうまく使いこなしている事務所、企画会社は伸びている。

例えば有名なところだとアソビシステム(ブームを作ることよりも、カルチャーを創るを標榜する企画会社)です。アソビシステムは、きゃりーぱみゅぱみゅを売り出した。最近だと、新しい学校のリーダーズ、FRUITS ZIPPERがいます。

――つまり、諸悪の根源、地上波テレビ局は自然死に向かう、ですか?

向かっている、です。

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野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。

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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)

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