会議で「反対意見ばかり主張する人」にはどう対応すべきか…人間関係を悪化させる「二項対立」を避ける話し方
プレジデントオンライン / 2024年7月19日 16時15分
※本稿は、相原秀哉『結果を出す組織は、どんな会議をしているのか?』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
■反対意見を出す人の扱いは慎重にすべき
会議の内容や参加者、タイミングなどによっては会議の形式や進め方、内容などに反対意見が出るのは当然です。しかし、反対者への対応の仕方を誤ってしまえば会議で成果を出すのはおろか、最悪の場合には組織のチームワークや人間関係、日常業務に支障をきたす恐れがあるので注意が必要です(図表1参照)。
そこで、本節では会議で反対者が現れた際の効果的な対処法をお伝えします。前半では無益な争いを避けるためにすべきことを、後半では反対意見を活かして成果につなげる方法を解説します。
■反対者が現れる際の2つのパターン
そもそも、会議で反対者が現れる際には大きく分けて2つのパターンがあります。
それは「論理的な反対」と「感情的な反発」です。前者は通常の議論の延長線上にあるので特に問題にならないのですが、後者は会議で成果を出すどころではなくなってしまう恐れがあります。
また、厄介なのは万が一「論理的な反対」への対応の仕方を誤ってしまうと「感情的な反発」に移行することもあることです。なので、どちらのパターンにおいても慎重な対応が求められます。
■反対者への対応に失敗したケース
ここで、対応に失敗してしまった例を見てみましょう。
ある会社の営業本部の部長が集まって、売上や利益などの管理と報告にかかる作業負荷の削減案について検討しているとします。
【Aさん】
「皆さんもご存じの通り、売上・利益の管理・報告のための作業に時間がかかりすぎて、顧客訪問や提案活動に費やす時間を十分に確保できないという悲鳴が現場からあがっています。昨今の採用難で人員を増やすのが容易ではない中、会社のさらなる成長を実現するために売上・利益の管理・報告の手間を減らす打ち手を策定し、早急に実行に移すことが求められています。ぜひ忌憚(きたん)のないご意見をいただきたい」
【B さん】
「いや、打ち手以前の問題として、そもそも会社として求める数値が細かすぎるのが問題なのではないですか? たとえば……」
【C さん】
「会社として必要な数値は、過去に十分吟味したうえで設定していますよ。今さらそこを深掘ったところで何も出てきやしませんよ」
【B さん】
「そうですか、では、管理ツールについてはいかがでしょうか? 正直、現場からあがってくるデータのミスで差し戻すケースが多くなっています。管理ツールでの作業に転記と手集計の部分が多いのが原因ではないでしょうか?」
【C さん】
「そんなことより、報告会議のほうを優先して対応が必要ですね。報告会議が形骸化しているのではないかという意見が少なくありません。その点についてどう思われますか?」
【B さん】
「この会議、もう抜けていいですか?」
さて、このケースではAさんの問題提起に対してBさん、Cさんが意見を出し合っています。しかし、BさんとCさんのやり取りの末にBさんが「会議を抜ける」と言い出してしまいました。これでは会議で成果を出すどころか、今後Bさんの力が必要なときに協力してもらえなくなってしまうかもしれません。
なぜこのような事態になってしまったのでしょうか?
■どんな発言も最後まで聞く
おわかりになった方も多いでしょうが、CさんがBさんの最初の発言をさえぎってしまったうえに、次の発言を無視してしまっているからですね。
では、どのように対応すればよかったのでしょうか?
それは、ほかの参加者の発言をさえぎらずに最後まできちんと聴くことと、聴いた話を踏まえたうえで議論することです。
ほかの参加者の発言をしっかり聴くことを「傾聴」といいます。
ただし、「しっかり聴く」といってもただ最後までさえぎらずに聴くだけでは不十分です。傾聴で押さえるべきポイントは、相手の主張が自分の考えとは異なっていたとしても、いったんは相手の言葉をそのまま理解しようと努めることです。間違っても自分の都合の良い方向に曲解してはなりません。
また、発言内容が長かったり複雑だったりする場合には、「あなたの発言内容をこのように理解しましたが、合っていますか?」と確認するのが効果的です。
その際、要点を文章で記述したり、もし可能であればホワイトボードやPowerPointなどのツールで図式化して確認すると理解の相違を防ぐことができるうえ、相手に自身の発言が真剣に取り上げられていることが伝わるので、感情的な反発を回避することにつながります。
■会議後に反旗を翻す人
さて、ここまでは会議での発言に着目して気をつけるべき対応の仕方を解説しましたが、これよりも厄介なのは「会議ではおとなしくしていたのに、会議後に反旗を翻(ひるがえ)す人」です。
この手のタイプの人は会議中、特に発言しなかったり当たり障りのないことしか言わなかったりするのでその場では特に問題視されないのですが、それゆえにあとから不意打ちを食らって会議の成果が泡となって消えてしまう懸念があります。
では、どのように対応すればよいのでしょうか?
■冗談や雑談に乗ってこない人は要注意
この手のタイプの人は、会議中はおとなしくしているのでうっかりすると気がつかずにスルーしてしまいがちです。しかしヒントはあります。それは表情と態度です。
そもそも会議の内容や形式に不満を抱いているので、そういう人は終始、固い表情を崩さないことが多いです。
特に、ちょっとした冗談や軽い雑談にもまったく乗ってこないようであれば要注意です。
また、意見を求められた際に「もろ手を挙げて賛成というわけではありませんが、まあいいんじゃないですか。別に」という感じの歯切れの悪い発言をするようならさらに危険です。
このような表情をしていたり態度を取ったりする相手は会議後に「私は賛成していなかった」とか「私は協力する気はさらさらない」などと言って、会議の成果を反故(ほご)にしてしまうリスクが高いです。
では、このような人にはどのように対応すればよいでしょうか?
■会議の閉会直後のフォローが大事
筆者の経験上、会議中に打てる有効な手はあまりありません。それよりも会議の閉会直後が肝心です。もし、表情や態度から「この人は危険だ」と察知したら、会議が終わってすぐに個別に話を聞きにいきましょう。
そういう人は会議が終わったとたん、会議中のオフィシャルな場では言わなかった反対意見や不満を饒舌(じょうぜつ)に話してくれるものです。
そこで得られる情報の中には会議の内容にかかわる重要なものが含まれていることもあります。もし、そのような情報がなかったとしても、あとから丁寧にフォローすることで、その人の態度が軟化する効果を得られる場合もあります。
正直な話、「言いたいことがあるなら会議の最中に言えばいいのに」と思う気持ちはよくわかります。しかし、会議の成果に悪影響を与えるリスクを少しでも減らすために、面倒がらずにフォローするようにしましょう。
■反対意見を成果につなげる方法
ここまでは会議の反対者が現れたときに無益な争いを避けるためにすべきことについて解説しました。ここからは、反対意見を活かして成果につなげる方法を解説します。
そもそも議論において、自分と異なる意見が出てくるのは歓迎すべきことです。むしろ、全員が同じ意見しか言わないのであればわざわざ会議を開いて議論する必要がありませんし、そもそも議論になりません。
それでは、反対意見が出てきたときの対応方法にはどのようなものがあるでしょうか?
②自分の意見を引っ込めて反対意見を採用する
おそらく多くの方は上記の2つを思い浮かべたのではないでしょうか?
自分の意見と相対する意見の2つであれば、どちらかより優れたほうを採用してもう片方は不採用、というのがシンプルな考え方です。
もちろんこのような考え方にも一理ありますが、ビジネスの場で行なう会議は基本的にはディベートではないはずです。大切なのは議論の白黒をはっきりさせることではありません。それよりも、参加者全員で1つの目的を達成するために協力することが重要です。
その考え方を踏まえると、反対意見はむしろ議論の質を向上させるために使うべきですし、反対意見を述べてくれる人は感謝すべき存在です。
とはいえ、いったいどうすれば反対意見を活用して議論の質を上げられるのでしょうか?
その答えが「弁証法」です。
■対立から新しい段階へ進化を導く弁証法
弁証法とは、対立する2つの要素である「テーゼ(主張)」と「アンチテーゼ(反対意見)」が衝突し、それによって新しい段階「ジンテーゼ(主張と反対意見を統合した新しい意見)」が生み出される進化の過程を指します。この考え方は、哲学、歴史、科学、社会学など、さまざまな分野で用いられています。
ちょっとわかりにくいかもしれないので、具体例を見てみましょう。
■弁証法を活用したケース
ある会社の商品企画部での会議のひと幕です。新商品開発のコンセプトを話しています。
【Dさん】
「今日は新商品開発のコンセプト案について検討を進めましょう。これまでに出てきているコンセプト案の中では、前回の会議でEさんから発案されたものの評価が一番高かったです。Eさん、振り返りがてら説明をお願いします」
【Eさん】
「はい、コンセプトは『最先端のテクノロジーと日常生活の融合』です。高速通信網とIoTデバイス、それにAIを組み合わせて日常生活のあらゆる不便を解決する商品を提案しました」
【Fさん】
「悪くないと思いますが、最先端のテクノロジーは子どもやお年寄りが扱えるのでしょうか? 特に国内では高齢化によってお年寄りの市場の重要度は増すばかりです。ここの需要を満たすものでなければ開発資金の回収は難しいのではないでしょうか?」
【Eさん】
「確かにおっしゃる通りですね。いくら最先端のテクノロジーを搭載していても、使える人が少なくては仕方ないですよね」
【Gさん】
「それならば、最先端のテクノロジーを搭載していても誰でも使えるようにUI/UXを工夫するのはどうでしょう? そうすれば、お年寄りや子どもはもちろんのこと、それ以外の機械オンチの方など、誰にとっても使いやすいものになるはずです」
このケースを弁証法の考え方でひも解いてみましょう。
アンチテーゼ:最先端のテクノロジーを子どもやお年寄りが扱うのは難しいのではないか
ジンテーゼ:UI/UXを工夫することにより最先端のテクノロジーを誰でも使えるようにする
このように捉えることができます。
■二項対立の発想から抜け出そう
Eさんからの話では、「最先端のテクノロジーを日常生活で活用する」という話がありましたが、それに対してFさんから、「最先端のテクノロジーは子どもやお年寄りが扱いづらいのではないか」という反対意見が出されました。
もし、ここで議論を単純な対立構造として捉えてしまえば、「お年寄りや子どもの市場を諦めて最先端のテクノロジーを活用する」か「お年寄りや子どもの市場を優先して最先端のテクノロジーの導入を諦める」のどちらを採用するか、という議論になっていたはずです。
しかし、Eさんの話とFさんの話を単なる対立構造として捉えるのではなく、そこから「UI/UXを工夫することで最先端のテクノロジーを誰でも使えるようにし、重要な市場をカバーする」という、より優れたアイデアをGさんが出しています。これが弁証法の威力です。
会議で反対意見が出たときには、議論を単純な二項対立にするのではなく、「弁証法を用いることでより高度な議論へと導くことができるのではないか」という可能性を探るようにしましょう。
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業務改革コンサルタント
株式会社ビジネスウォリアーズ 代表取締役。慶應義塾大学大学院法学研究科修士課程修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)入社。グローバルスタンダードの業務改革手法「Lean Six Sigma」を活用したコンサルティングを得意とし、2012年に日本IBMで初めて同手法の最上位資格「Lean Master」に認定される。業界・業種を問わずホワイトカラーの業務改革コンサルティングに従事し、業務生産性向上やDX推進、DX認定取得などの案件を手がける。著書に『リモートワーク段取り仕事術』(明日香出版社)、共著書に『研究開発者のモチベーションの高め方と実践事例』『研究開発部門の新しい“働き方改革”の進め方』(ともに技術情報協会)がある。
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(業務改革コンサルタント 相原 秀哉)
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