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繊細な人ほど「仕事ができない自分」を責めてしまう…精神科医が「職場で心をすり減らす人」に勧める対処法

プレジデントオンライン / 2024年7月13日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jirapong Manustrong

職場でメンタル不調になりやすい人にはどんな特徴があるのか。精神科医の西脇俊二さんは「繊細な人ほど『自分は理解が遅い』『物覚えが悪い』と思い込む傾向がある。理解力や記憶力が足りないせいではなく、感受性が豊かだからだ」という――。

※本稿は、西脇俊二『繊細な人をラクにする「悩み時間」の減らし方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■「仕事ができる=マルチタスクができる」はウソ

「マルチタスク」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

複数(マルチ)のタスクを同時並行でこなすことを指す言葉ですが、仕事の現場などでは「マルチタスクが得意/苦手」といった表現はよくされているかと思います。

繊細な人にマルチタスクが得意かと聞くと、多くの場合「仕事の同時並行は不得手」という答えが返ってきます。それは感受性が高く、目の前のことに心を奪われやすいからです。その状態で、別の業務を同時にやるのは至難の業です。

しかし実は、繊細であろうとなかろうと、誰しもマルチタスクなんてできないのです。

人間の脳は、常に一つのことに注意が行くしくみになっているからです。

どんなにたくさんのタスクがあっても、そのとき取り組んでいる「第一位」は常に一つ。

「言われてみれば、たしかに」と思いませんか? どう頑張っても、同時に別の情報を取り入れることは不可能です。本を読みながらラジオを聴くのも、数行読んではラジオを聴いて、ラジオを聴いては数行読んで、と細かく切り替えているだけです。

つまり「マルチタスクが得意」という人も、実は「シングルタスクを素早く切り替えているだけ」なのです。そして不得意な人は、この切り替えが苦手なのです。

■注意が分散して、ミスが増える

今の世の中では、それが今一つ理解されないまま「マルチタスクができる=仕事ができる」という、大雑把なイメージが先行しています。「仕事は一つじゃないんだから、マルチタスクで進めなさい」と言ってくる上司もいると思いますが、その上司は、本来無理なことを部下に強いているとも言えます。

そう言われたら、切り替えが不得手な部下は、「マルチタスクができるようにならなくては」という、無用な焦りに駆られますが、その結果、取り組んでいる最中のタスクにまで、支障をきたすことになるでしょう。

作業中に、「あれもやらなくちゃ、そういえばあれも……」と注意が分散して、どの業務もうまくできないといった事態が起こるからです。

心当たりがあるなら、「本当は、マルチタスクなど存在しない」ということをまずは認識しましょう。そして、目の前にある一つのタスクに落ち着いて専念しましょう。

「落ち着いて専念する」ためには、「目と手の協応」がキーポイントになります。

浮き足立った状態になると、視線は手元から離れてフラフラとさまよいやすくなります。脳の指令も手に届きづらくなり、ミスも増えます。そんなときは、「手元を見る!」と念じてみましょう。それだけで、分散した思考が、一点に戻ってきます。

毎日、朝か夜に5分間、「ゆっくりと字を書く」など、手と目を同時に使う日課を持つのもおすすめです。編み物が好きな方はもちろん編み物でもOKです。それが習慣化すれば、忙しい仕事のさなかでも、落ち着き方を思い出せます。

■「仕事を同時にこなす」と考えないほうがいい

自分が落ち着いたところで減らない複数のタスクを相手にするための解決策も、ちゃんとあります。「シングルトラック」で段取りを組めばいいのです。

カレーを例に説明します。「カレーとサラダとプリン」を同時に作る場面を想定してみましょう。結構難しそうですが、どうでしょうか。次の図を見てください。

マルチトラックとシングルトラック
出所=『繊細な人をラクにする「悩み時間」の減らし方』

切り替えのうまい人は、マルチタスクならぬ「マルチトラック」で作業を進めます。「カレー」「サラダ」「プリン」という三つの走路があって、あるときはカレーのトラック、あるときはサラダのトラック、と左右に移動しながら走っていきます。

他方、切り替えが苦手な人は、左右移動がうまくできません。そこで、シングルトラックの登場です。3本のトラックを、1本にしましょう。調理なら、自分専用のレシピメモを書きます。

■「カレー」「サラダ」「プリン」を1本の線でつなぐ

マルチトラック方式では「カレー」「サラダ」「プリン」の手順を別々にメモして、それらを並行して眺めながら作業していきますが、シングルトラックは、三つの料理の手順を、時間軸に沿った「1本」の線にします。

ジャガイモを切る(カレー)→ニンジンを切る(カレー)→タマネギを切る(カレー)→レタスとトマトを洗う(サラダ)→レタスをちぎる(サラダ)→トマトを切る(サラダ)→それを冷蔵庫に入れる(サラダ)→肉を切る(カレー)→鍋で肉に火を通す(カレー)→ジャガイモとニンジンとタマネギも入れて炒める(カレー)→卵を溶く(プリン)→牛乳を加える(プリン)→……――という具合です。

作業内容自体は、マルチトラックとまったく同じです。

でも、3本で表現するのと1本で表現するのとでは、印象が大きく違いますね。

別々に書いてあると「いつ、どのタイミングで、何をやるんだっけ」と混乱しやすいですが、1本なら大丈夫。安心して、まっすぐに迷わずに走れます。

問題に直面しているビジネスマン
写真=iStock.com/Chong Kee Siong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chong Kee Siong

例ではカレーとサラダとプリンを作るという一大事業を挙げましたが、まずは「カレーとサラダを作る」とか「企画書作成と溜まったメールの返事をする」など、やりやすい内容でシングルトラックを引く練習をしてみてください。

慣れてくれば、3タスクでもシングルトラックに落とし込めるようになり、そしてそれを実行できるようになりますよ。

■繊細な人ほど「自分はダメ」と思い込む

繊細な人は「自分は理解が遅い」「物覚えが悪い」と思い込むことがあります。仕事の資料やマニュアルなど、初めて見る情報をインプットするとき、スムーズに頭に入ってこなくて「ダメだなあ」と落ち込んでいませんか?

それは、理解力や記憶力が足りないせいではありません。原因の一つは、感受性が豊かだからです。個々の情報が頭の中で響きすぎて、そこに自分の連想も加わり、雑然と混ざり合ってしまうことがあるのです。

もう一つ、さらに大きな原因となるのが、緊張です。リラックスした状態で読んだ本は、スッと頭に入ってきませんか? 反対に、「難しそうだ」などと身構えながら読んだ本は、集中できなくて投げ出してしまいませんか?

資料やマニュアルでも、同じことが起こります。マニュアルを読むということは、その仕事は初めてなわけです。つまり、緊張しやすい状況だということです。

「ちゃんと覚えないと」「早くできるようにならないと」と思いながら読むため、プレッシャーに頭を占領され、肝心の情報が入ってこないのです。

敏感でも緊張しやすくても、きちんと理解するワザは「自分マニュアル」です。もとのマニュアルを、自分用に書き直すという方法です。と言っても、内容を変えるわけではありません。自分がわかりやすい表現にアレンジする、ということです。

ビル内を歩くビジネスマン
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

■「自分マニュアル」のススメ

たとえば、ざっと駆け足で説明されている部分を、細かい手順に分けて書く。

逆に、繰り返し書かれた情報や、冗長と感じた表現はシンプルに省略する。

堅苦しい単語を、同じ意味のカジュアルな単語に替える。

文章が長くてわかりづらければ、箇条書きや図にする。

ほかにも、「自分なら、こう表現するけどな」と思ったことがあれば、どんどんアレンジしましょう。その過程で―つまり「自分マニュアル」完成前の段階で、早くも理解が深まっていくのを感じられるはずです。

この方法は、私が研修医時代に実践していたものです。病院備え付けのマニュアルがまったく頭に入らず、苦し紛れに始めたことでしたが、予想以上の大当たりでした。

この症状の患者さんにはこう対応する、この薬を処方する、などの情報を自分の書き方で手帳に記し、白衣のポケットに常備。困ったときはすぐに取り出して確認できるので、非常に安心でした。そしてやはり、書く過程で理解が深まる効果を感じました。仕事を早期に覚え、習熟できたのは、ひとえに自分マニュアルのおかげです。

「自分の手で書く」作業は、自分の外側にある情報を、自分に引き寄せることだと言えます。情報を自分の頭で再構築する作業は、初対面の相手と距離を縮め、親しくなるプロセスとも似ています。「人見知り」ならぬ「情報見知り」の特効薬とも言えるでしょう。

■書き出す作業で情報量が絞り込める

自分マニュアルは、仕事以外にも活用できます。わかりづらいと感じるものすべてに応用してみましょう。凝った料理のレシピ、煩雑な説明書、複雑な新聞記事、教科書、参考書などなど、「難しそうなものはとりあえず書く」習慣を。

少し目先の変わったところでは、「旅のガイドブック」を自分流にマニュアル化するという活用法もあります。繊細な人は「未知」に警戒心を抱きやすく、「旅してみたいけれど、おっくうで行けない」場所が多くなりがちですね。

観光用のパンフレットや市販の書籍は、人によっては情報が多すぎたり、やたらとテンションが高かったり、デザインが賑やかすぎたりして、今一つ頭に入ってこないこともあります。ならば、ガイドブックを自作してしまうのが吉です。

西脇俊二『繊細な人をラクにする「悩み時間」の減らし方』(KADOKAWA)
西脇俊二『繊細な人をラクにする「悩み時間」の減らし方』(KADOKAWA)

自作といっても、大掛かりにする必要はありません。見たい場所のみをピックアップした簡易メモを書くだけでも、情報量が絞り込まれて、イメージが明確になります。

方向感覚に自信のない人は、旅程の交通手段のみをひたすら書き出すのも良い方法です。知らない街では、駅が意外に複雑だったり、乗り換えが難しかったりして慌てることがよくあります。グーグルマップなどで得た情報を、自分用に組み直しておくと安心です。

そうした作業が好きならば、大掛かりになっても、もちろん構いません。絵が好きな方なら、「書く」ではなく「描く」のもおすすめです。旅行中はもちろん、旅の後も、その街の記憶がよみがえる思い出の一作となるでしょう。

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西脇 俊二(にしわき・しゅんじ)
精神科医
弘前大学医学部卒業。2009年よりハタイクリニック院長。2008年より金沢大学 薬学部 非常勤講師、2010年よりEuropean University Viadrina非常勤講師も務める。自身もアスペルガーであり、その苦労を乗り越えた経験を生かした著作も多い。テレビ出演のほか、ドラマ『僕の歩く道』『相棒』『グッド・ドクター』、映画『ATARU』等の医療監修でも活躍。

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(精神科医 西脇 俊二)

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