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「鬼滅はもうオワコン」の評価を180度変えた…海外のアニメファンが「歴史的傑作」と大絶賛した神回の内容

プレジデントオンライン / 2024年7月15日 17時15分

「『鬼滅の刃』吾峠呼世晴画集―幾星霜―」(手前)と、2冊の塗り絵帳=2021年5月 - 写真=共同通信社

日本のアニメは海外でどのように見られているのか。エンタメ社会学者の中山淳雄さんは「『鬼滅の刃』の人気がすごい。2021年ごろに人気のピークをむかえたと思っていたが、最新作で盛り返した。もはや日本エンタメ界全体を牽引する作品だ」という――。

■人気作品が目白押しだった2024年春で最も評価を得たアニメ

世界中にいるアニメファン約2000万人が集う「My Anime List(以下MAL)」は、アニメ好きのためのWikipediaのような存在だ。

3カ月ごとに60~70本放送される新作アニメのページが新設され、Members(アニメをリストインしている人)、Score(アニメ評価)、Popularity(Members数の歴代ランキング)、Ranked(Scoreの歴代ランキング)の4つがトップに表示される。当然海外のアニメファンのためのサイトであり、すべて英語。

ここはエンタメを研究する私のような立場の人間にとって宝の山だ。6~7割が10~20代の若者世代、5~6割が欧米ユーザー、あとはアジア・南米などで日本人はほんの1%未満、という純粋な「日本人以外のアニメファン」サイトだ。

ネットフリックスや海外における最大級のアニメ配信サイト・クランチロールによって世界中に配信されたアニメをどう受け止めているかのリアリティが、ここにある。

2024年春(4~6月)は長期・大型シリーズがそろい踏みした時期であった。

すでに5期目となった『鬼滅の刃』を筆頭に、『この素晴らしい世界に祝福を!(このすば)』や『転生したらスライムだった件(転スラ)』、『魔法科高校の劣等生(魔法科)』が第3期、『無職転生 II ~異世界行ったら本気だす~』『魔王学院の不適合者 II ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~(まおがく)』はともには第2期第2クール、『デート・ア・ライブ』は5期で、『僕のヒーローアカデミア』に至っては第7期である。

マンガ・ノベルの連載は10年以上、アニメだけでも5~10年といった単位で続いてきた“大御所”作品ばかりだ。

特にラノベ界においては15年前からの殿堂入り作品がこれでもかというほどに折り重なっている。「鬼滅」「このすば」「転スラ」「魔法科」「まおがく」「ヒロアカ」などアニメ開始前の時点ですでにMALの登録者10万人超えの作品が7本あり、新興には不利なタイミングでもある。

■「ラノベ黄金期」に健闘した2つの新作

この層の厚いレッドオーシャン期に、目立った新作は『怪獣8号』と『WIND BREAKER』だろう。それぞれ少年ジャンプ+(プラス)とマガジンポケットというウェブ発マンガで、3年以上継続してきた作品だ。

いずれもアニメ開始前のMALの登録者は、放送終了時には約3倍に膨れ上がり、最終登録34万人と23万人。通常のシーズンであればTOP5に入る成功ボリュームでも、今回の激戦区ではTOP10がやっとといった具合である。

さらにいえば今クールはラノベ無双のタイミングでもあった。

【図表1】2024年春アニメTOP20のMALメンバー増加数
筆者作成

「転スラ」「このすば」「魔法科」はシリーズ累計1000万部超えのラノベ殿堂入り作品群、そこに分け入ったのが『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』(講談社ラノベ、2019~、累計500万部)、『Lv2からチートだった元勇者候補のまったり異世界ライフ』(オーバーラップ、2016~、累計200万部)、『魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?』(HJ文庫、2017~、累計200万部)、『Re:Monster』(アルファポリス、2012~、累計170万部)といったラノベで6~7年以上連載作品の初アニメ化だった。

これらは10~20位にガッチリとランクインしており、十分に健闘した結果といえる。それぞれ揃えたように12~14万人ものMAL登録者を集めており、相変わらず日本のラノベは海外でも定番のアニメ化ジャンルであることの証明といえるだろう。

『狼と香辛料』『Unnamed memory』『デート・ア・ライブ』『転生貴族』も含めると、トップ20作品のうちなんと13作品がラノベ出自。6作品がマンガ、オリジナルアニメは1作品のみというラインナップで、「ラノベ黄金期シーズン」の3カ月といえるだろう。

■出だしが好調とは言えなかった「鬼滅」第5期

さて、今クールで最も注目を集めたのは『鬼滅の刃』、というところに異論はないだろう。

今回のアニメ放送はすでに5期目となる。

2019年の第1期からはじまり2020年の『劇場版 無限列車編』まで世界的な大ブームを巻き起こした本作は、言うまでもなく当時の熱狂が前例のないもので、全23巻の原作マンガも1.5億部も売れた。

そんな超大作であっただけに、正直なところ、熱狂から4年たった現在にいたって「色褪せた」感は否めない。

誰もが知っているストーリーをもう一度アニメ化しているのだ。ある意味、劣勢ではじまった今回の第5期目は、間違いなく「鬼滅」にとってのターニングポイントであっただろう。

■鬼滅と共に歩んだアニメ制作会社

手掛けるアニメ制作会社のufotable(ユーフォーテーブル)にとって、鬼滅はもはや社運を賭けた渾身の一作である。2000年設立の同社は『Fate』シリーズなどで一躍注目を集め、同業のAniplex(アニプレックス)とともに大きくなっていった。

2017年7~9月『活撃 刀剣乱舞』を最後に、ufotableは『鬼滅の刃』以外のアニメ作品は手掛けていない。

第1期『鬼滅の刃 竈門炭治郎 立志編』(26話、2019年4~9月)、第2期『無限列車編』(7話、2021年10~11月)、第3期『遊郭編』(11話、2021年12月~22年2月)、第4期『刀鍛冶の里編』(11話、23年4~6月)、第5期『柱稽古編』(8話、24年5~6月)、途中で日本映画史を塗り替えた『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』も含め、この7年近くもの期間を300人超いる大規模なアニメ制作会社の全精力がこの鬼滅に捧げられてきた。

ufotableが入居する新宿フロントタワー
ufotableが入居する新宿フロントタワー(写真=Mountainlife/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

■評価が一変した第8話

今回の「柱稽古編」は、敵である鬼とのメインストーリー展開もなく、バトルも少なく、正直滑り出しからの評判が良かったとは言えない。

欧米ファンがメインのMALでも「俺たちは一体何を見させられているんだ」「漫画読者としてすでに90%はルーティン、10%の何か新しいものを期待して見た」という表現がレビュー欄に踊っており、漫画には描かれないディティールを映像化した点では評価されてしかるべきだが「7話になるころには退屈を感じるようになっていた」など、シーズン全体への評価は辛めである。

だがすべては8話目に覆る。鬼殺隊の長・産屋敷耀哉(うぶやしきかがや)と鬼の総領・鬼舞辻無惨が対峙し、爆発とともに無惨が柱たちを無限城にいざなう最終決戦のバトル導入部。

命を賭して無惨と静かな戦いに挑んだ耀哉とその妻・あまね、子供2人のたたずまいと覚悟、ゆらめくような炎が人類の怒りを表現するがごとく無惨を巻き込んで爆発するシーン、そして集結した柱たちが一瞬魅せる剣技・技が折り重なる迫力。

8話目は、刮目せざるをえない次元のクオリティ表現で、セリフもストーリーもすべて把握している人間ですら、固唾をのんで目が離せなくなるような「説得力」に溢れていた。

「まさにその10%に喜びと希望で涙腺をあふれさせられた」「このシーズンがベストだったとは言えないが、終局に向かった導入部として次シーズンへの期待値を最大限に高めてくれた」など絶賛が並ぶ。

■世界最大級の映画・ドラマ情報サイトで最高得点

この8話は米国の映像レビューサイトIMDbでのスコアで9.9という最高得点をたたき出している。それまでの1~7話目のほとんどが7点台なのに!(スコアはすべて執筆時のもの)

「傑作」「アニメ世界の金字塔」「完全に思考をどこかに持っていかれた。思わず言葉を失った」「これこそが“映画”だ」「3作仕立ての映画が待ちきれない」。

日本のテレビアニメ、映画作品に対して、これほどの賛辞が並ぶことはかなり珍しい。IMDbは日本アニメ好きが集まるMALとも違い、あくまで欧米映画も横並びで比較される「一般映像レビューサイト」である。そこで1000人以上がレビューを残し、星9.9という最高評価を得られたということは、記録に残すべきことだろう。

IMDbでの評価トップ作品は『Breaking Bad』(2008~13年、220万人が星9.5)や『Band of Brothers』(2001年、53万人が星9.4)。

過去の日本作でいえば『鋼の錬金術師』(2009~10、20万人が星9.1)が16位、『進撃の巨人』(2013~23年、53万人が星9.1)が23位。ほかにも『HUNTER×HUNTER』が34位、『ONE PIECE』が61位と並んでいる。これらの作品のなかでも、「星9.9」というのは一度もなかった快挙なのだ。

これは少年ジャンプにおけるマンガ原作としてではなく、あくまで「映像作品としてのアニメのコンペティション」だ。にもかかわらず、『鬼滅の刃』を制作したufotableは数々の成果を残してきた。

「立志編」19話(蜘蛛の鬼・累との闘い)、「無限列車編」最終話と「遊郭編」最終話が星9.7、「刀鍛冶の里編」最終話が星9.4だったことを前提にすると、今回の“お館様”の最後のシーンと無限城にいざなわれる最終話がいかに歴史的傑作として海外で受け止められたかということが理解できる。

■誰もが知っているアニメを続ける難しさ

2020~2021年のブームがあまりに巨大だった『鬼滅の刃』にとって、その後10年をかけたアニメ化というのは非常に難しいチャレンジだったと言える。

新しいものに目移りする人々に対し、いかに知られつくしたストーリーとキャラクターを「アニメの表現」で説得力をもたせるかという勝負だった。

MALを見てみると、第4期「刀鍛冶の里」編や今回の第5期「柱稽古」編では徐々に登録者数も減っており、実際に「柱稽古」の39万人は、第1期「立志編」の44万人も割り込んでしまっている。

【図表2】『鬼滅の刃』各シリーズのMALメンバー数変化
筆者作成

各エピソード別スコアでみれば、結局アニメとしても最も海外に伝わる部分は「バトルの終局面と感情の爆発」であり、やはりコミカルな表現や世界観の深みなどではない。

だから「ONE PIECE」や「HUNTER×HUNTER」、「進撃の巨人」といったバトル中心のアニメ作品がヒットする傾向が強いのだ。

あとはそのハイライトとなる部分にいかに技術の粋を集め、ほとんどが人件費といわれるアニメ制作の世界で「制作費」という資本をかけられるか。

■2029年に私が注目するワケ

ひと昔前まで1話20分強の映像に1500万~2000万円と言われていた時代が、この数年では3000万円が当たり前となってきている。それは、噂では1話に5000万円以上かけたという『鬼滅の刃』シリーズが、アニメの価値をひっぱっていったといっても過言ではないだろう。

日本アニメの世界的な評価を牽引するufotableが、引き続き「こんなアニメ見たことがない!」というエピソードを紡ぐことは、クールジャパン再起動に沸く日本エンタメ界全体に貢献するものだろう。

これから『鬼滅の刃』は、劇場版『鬼滅の刃 無限城編』が3部作で公開される予定である。個人的な予想だが、テレビアニメも組み合わせながら2029年のアニメ放送10周年あたりをターゲットに、終幕にむけて世界最高クオリティのアニメを送り出すことを考えているのではないか。

あと5年、日本のアニメは世界でどこまで昇り詰めることができるだろうか。その最右翼である『鬼滅の刃』の今後に強く期待したい。

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中山 淳雄(なかやま・あつお)
エンタメ社会学者、Re entertainment社長
1980年栃木県生まれ。東京大学大学院修了(社会学専攻)。カナダのMcGill大学MBA修了。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイトトーマツコンサルティングを経て、バンダイナムコスタジオでカナダ、マレーシアにてゲーム開発会社・アート会社を新規設立。2016年からブシロードインターナショナル社長としてシンガポールに駐在。2021年7月にエンタメの経済圏創出と再現性を追求する株式会社Re entertainmentを設立し、大学での研究と経営コンサルティングを行っている。著書に『エンタの巨匠』『推しエコノミー』『オタク経済圏創世記』(すべて日経BP)など。

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(エンタメ社会学者、Re entertainment社長 中山 淳雄)

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