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16時に仕事が終わり、会社から人がいなくなる…フィンランドが「世界一幸せな国」であり続ける納得の理由

プレジデントオンライン / 2024年7月19日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/scanrail

国連による世界幸福度ランキングで、フィンランドは7年連続で1位となった。51位の日本と何が違うのか。スウェーデン在住の近藤浩一さんは「16時、17時には帰宅して、家族と一緒に過ごす人は多く、残業をする人はほとんどいない。家族や友人、趣味に使える自由な時間が確保されているから皆が幸せでいられる」という――。

※本稿は、近藤浩一『北欧、幸福の安全保障』(水曜社)の一部を再編集したものです。

■幸福度の高い北欧はワーク・ライフ・バランスも優れている

フィンランドの幸福度が高いことはよく知られていますが、スウェーデンも国連の幸福度レポートで上位に位置し、2024年には世界4位にランクされています。

幸福度が高い要因の1つとして、ワーク・ライフ・バランスの取れた働き方があります。2023年に米雑誌フォーブスが発表したワーク・ライフ・バランスの取れた各国の都市ランキングでは、2位のヘルシンキの次にスウェーデンの首都、ストックホルムも3位にランクインしています。

一般的なスウェーデンの働き方を紹介すると、勤務時間は基本的に8時間です。通常、多くの人は朝早く出勤し、夕方の4時や5時頃に早く帰宅して家族と一緒に過ごし、残業する人はほとんど見かけません。

フィンランド出身の妻によれば、フィンランドでも、残業せずに家に帰り、家族との時間を大切にする人が多いそうです。これは、両国がヨーロッパ連合(EU)の労働規定を守り、労働者の良好な労働条件を確保する努力をしているためです。そのおかげで、多くの人が定時で帰宅できています。

また、スウェーデンやフィンランドでは、多くの企業が職場環境の改善に力を入れています。フィットネスジムやマッサージ施設を福利厚生として提供する企業もあり、労働時間内であれば施設を利用することも認められています。このような柔軟な働き方は日本の企業と比較して自由度が高いといえます。

■全ての社員に平等に出世の機会が与えられている

さらに、北欧では社員が自らキャリアを設計するのが一般的で、会社や上司による指示ではなく、個人による選択が尊重されています。たとえば、ほかの職務に関心がある場合、上司に相談することも可能ですが、社内のイントラネットの求人から、上司に相談せず直接応募もできます。採用されると、上司が異動を拒否することは困難であるため、ほとんどの場合スムーズに異動できます。

職務変更だけでなく、出世についても同じで、空いた上位職には自部署やほかの部署を問わず、自由に応募できます。ただし、採用は個々の職務経歴や人物を考慮して行われるため、もちろん誰もが採用されるわけではありません。それでも、出世の機会は全ての社員に平等に提供されています。

■日本と違い定期昇給も退職金もない

そうした職務スタイルである理由は、一般的に欧米の企業では、職務を特定の『役割』と見なし、その役割に適したスキルを持つ人材を採用する「ジョブ型」の雇用制度を採用しているためです。このシステムでは、日本企業のように会社がキャリアを決定するのではなく、個人が自分のキャリアパスを自主的に計画できます。

そのため、出世を望む場合、自分で進むべき道を探し、適切なポジションに応募できるのです。一方で、現在の職位に満足していれば、そのまま続けることも可能です。さらに、異動や転勤は強制されず、自由に選択できます。転勤を希望するなら、転勤可能な職を選択すればよいのです。スウェーデンもこのジョブ型制度を採用しているため、多くの人が自分に合ったキャリアパスを設計でき、ワーク・ライフ・バランスの取れた生活を実現できています。

しかし、このシステムには欠点も存在します。日本の企業のように会社の決定や年功序列で昇進や給与アップが保証されるわけではありません。そのため、自分でキャリアを設計できなければ、同じ職位に長く留まり、給与の上昇も限られる可能性があります。

また、キャリア志向が強い人や高収入をめざす人は、2年から3年おきに頻繁に職を変えることが多いため、業務知識の蓄積が難しくなります。さらに、退職金制度もないため、定年退職後の計画も個人の責任です。しかし、自分でキャリアをうまく設計できる人にとっては、ワーク・ライフ・バランスの取れた働き方ができるのです。

露出したコンクリートの床とたくさんの植物を備えたモダンなスタイルのオフィス
写真=iStock.com/mesh cube
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mesh cube

■高い幸福度の一因である「ジョブ型雇用」

最近、日本でも北欧式の働き方を導入する企業が増えてきています。たとえば、IT企業のサイボウズ社は、2007年にライフステージに応じて働き方を選べる人事制度を導入しました。2018年には、「働き方宣言制度」という新しい人事制度を開始し、各社員が自分の働き方を自由に定義できるようになりました。

同社によると、この取り組みの結果、サイボウズ社の離職率は3%前後に低下し、売上高は年々増加しています。しかし、スウェーデンと比較すると、日本ではこうした個々の働き方を広範囲に認める企業は少ない状況となっています。

もちろん、北欧型の職場スタイルが必ずしもベストというわけではありません。ただ、北欧諸国では個人の尊重が重要視され、さらに、ジョブ型の雇用制度であるため、個人は自分に合った働き方を実現できています。実際に、ワーク・ライフ・バランスを保ち、家族との時間を重視し、仕事にも満足している知人は多くいます。

こうしたバランスの取れた働き方は、家族との時間を増やすだけでなく、職場での信頼感や安心感も高めます。これが社会全体の信頼感の向上に貢献し、北欧諸国が世界でも幸福度が高い国々として知られる一因にもなっています。

■なぜフィンランドは世界一幸せなのか

首都ヘルシンキは「バルト海の乙女」とも呼ばれる美しい港町です。市内の中心には白い外観が美しいヘルシンキ大聖堂があり、そのすぐ近くに玄関港である「エテルサタマ」があります。この港はストックホルムやエストニアの首都タリンなどへ向かうクルーズ船や、近距離フェリーの発着地となっています。そして、この港を訪れた人たちは、このバルト海の美しい景色を満喫しています。

さらに、ヘルシンキは首都であるにもかかわらず、街中には緑にあふれる公園が沢山あります。夏になると、公園の芝生で寝転がり日向ぼっこする人や、ジョギングやサイクリングする人、家族でバーベキューする人たちをよく見かけます。年間を通して日照時間が短いフィンランドでは、太陽の光を浴びられるこの夏を楽しむ人が多くいます。そのため、夏に長い有給休暇を取り海外旅行へ行き、趣味に時間を費やすことが当たり前となっています。

フィンランド人の妻に以前、なぜフィンランドの幸福度が高いのか尋ねてみたところ、「フィンランドでは夏などの休みの季節に長い休暇が取れて、家族や趣味などの自由な時間が取れるからではないかな」とも話していました。

■12日間連続の休暇を取ることが義務

こうした長く休暇の取れるフィンランドの労働法では、フルタイム勤務の場合、1年目は24日、2年目以降は30日の有給休暇が与えられます。また、公務員は15年勤務後には36日間の有給休暇を取得できます。

ほかの先進国の法定年次有給休暇日数は、スウェーデン・デンマーク・ノルウェー(25日)、ドイツ(20日)、フランス(30日)、日本(10~20日)、アメリカ(0日)なので、フィンランドはほかの先進国に比べても、有給休暇日数が多くなっています。

さらに、有給休暇をしっかりと消化する必要もあるため、労働法で夏季(5~9月)の間に24日間の休暇を取ることを定めています。実際には夏季中に24日全て取る必要はありませんが、少なくとも夏季中に12日間の連続した休暇を取ることが義務となっています。

■有休を取ると給料が50%上乗せされる

また、日本人にとっては少し驚きかもしれませんが、フィンランドでは有休を取ると休暇手当も支給されます。これは法律ではありませんが、多くの企業で有休を取ると、1日の賃金の50%に当たる休暇手当を支給しています。社員は有休を取れば給料が普段より増えるため、有休取得率は100%近くとなっています。こうした積極的な休暇取得政策により、多くの人たちは夏に長い休暇が取れ、充実した幸せな時間を過ごせています。

近藤浩一『北欧、幸福の安全保障』(水曜社)
近藤浩一『北欧、幸福の安全保障』(水曜社)

実はこうした休暇と幸福の関係について、2009年のスティグリッツ委員会の報告書ではすでに示されています。スティグリッツ委員会とは、2008年にフランスのサルコジ大統領が招集し、ノーベル経済学賞受賞のスティグリッツ教授を中心にGDPに代わる幸福への新しい指標を提案するため組織されたものです。

最近よくSDGsという言葉を耳にしますが、国連の持続可能な開発目標であるSDGsは、この報告書の提案に大きな影響を受けて作成されました。そして、この委員会の報告書では、幸福には余暇も大きく影響しているため、幸福度を示す指標として「余暇の量」を含める必要が示されています。このことからも、フィンランドの長い休暇は、同国の幸福度の高さにも大きく影響しているといえます。

■余暇の量と社会利益のバランスには課題もある

一方で、夏の長い休暇は良い面ばかりでもありません。夏になると官公庁の職員も休暇を取るため、執務時間が短くなり休館するところも多くなります。また、病院も普段と比べて稼働しなくなってしまいます。そのため、余暇の量と社会利益のバランスは今後の課題にもなっています。

それでも、フィンランド人にとって自由な時間の確保はとても重要です。こうした背景からも、法律で厳格に有給休暇の権利を保障し、企業も休暇取得を積極的に勧めています。そのため、有休取得率は100%近くと非常に高い値となっています。

このような官民の積極的な休暇取得サポートから、人々は家族や友人と過ごす時間や、趣味などに費やす余暇の時間が確保でき、ストレスの軽減、心身の健康維持、家族とのつながりが強まります。これが、社会全体として高い幸福度の生まれる一因にもなっています。

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近藤 浩一(こんどう・こういち)
エリクソン社プロジェクトマネージャー
1975年生まれ。法政大学法学部政治学科卒業後、神奈川県警入職。その後オーストラリア留学を経てIT企業で数年間勤務後、世界屈指のスウェーデンの通信機器メーカー・エリクソン社へ転職。2007年よりドイツ・デュッセルドルフ勤務、2012年よりスウェーデンで勤務し、現在プロジェクトマネージャーとして世界の大手通信企業の大規模プロジェクトに従事。著書に『スウェーデン 福祉大国の深層』がある。

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(エリクソン社プロジェクトマネージャー 近藤 浩一)

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