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「お客様は神様」の日本とは全然違う…北欧のスウェーデンで「自宅に届けない宅配便」が当たり前になった背景

プレジデントオンライン / 2024年7月21日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/brittak

なぜ北欧の国々は「幸福度」が高いのか。スウェーデン在住の近藤浩一さんは「スウェーデン人は、自分が少しの不便を我慢すればその分他人の時間を生むという考えを持っている。そのため、宅配物も自分で受け取りに行き、過度なサービスも要求しない」という――。

※本稿は、近藤浩一『北欧、幸福の安全保障』(水曜社)の一部を再編集したものです。

■「組み立て式」のイケアの家具はなぜ支持されるのか

スウェーデンの家では、シンプルで機能的な家具が目立ちます。ただ、スウェーデンに限らず、ヨーロッパ各地でも同様な家具をよく見かけます。そうした家具を持つ人にどこの家具か尋ねると、決まって「イケアの家具です」と返答されます。

イケアとは、1943年にスウェーデンの田舎町エルムフルトでイングヴァル・カンプラード氏によって設立された家具店のことです。「より快適な毎日を、より多くの方々に」というビジョンのもとイケアは創業されました。2024年において、イケアは、世界31カ国に482店舗、日本にも13店舗を展開しており、世界最大の家具量販店となっています。今もその原点である、カンプラード氏の意志が受け継がれており、たくさんの良質な商品が提供されています。

一方で、多くの商品では組み立てが必要で手間がかかります。ですが、スウェーデンではこの手間も気にされず、イケア家具は高い人気を誇っています。

■中には家を自作する人もいる

ただ、スウェーデンでは家具の組み立てだけでなく、家庭内のDIYプロジェクトに情熱を傾ける人も多くいます。たとえば、壁の塗り替えや床の張り替え、電気配線工事など、日常の修繕や改装作業も、自分たちの手で行うのが一般的です。そして、こうした作業は忙しい毎日のなかの、リフレッシュとしても楽しまれています。

こうした手間をかけた作業は、家具や内装だけではありません。なかにはなんと、一から家を建てる人もいて、家の土台づくりから外装、内装、そしてサウナやプールまで、あらゆる工程を自ら手がけ、理想の住まいを実現しています。

最近では、自宅建設のための「キット」も販売されていて、2階建ての家で、100万クローナ(約1450万円)ほどから購入できます。自分で家を建てる人の多くは、仕事後や休日に家づくりに励んでいます。そして、何年にもわたるプロジェクトを通じて、自分の手で夢の住まいを実現させ、自作した家での生活に喜びを感じています。

フィンランドでも自分で家を建てる人は多く、自分で家を建てたことに誇りを感じ、その家での生活に満足感を得ています。

■自分の「少しの不便」が他人の時間を生む

あるとき、知人のスウェーデン人に、自分で家を建てる人は多いか尋ねたところ、「普通とまではいえないけれど、時間があれば結構な人が挑戦しているよ。特に昔の人たちは、自分の手で家を建てることを夢にしていた人は多かったよ」と教えてくれました。また、実際に自分で自宅を建てた人と話したときは、「家づくりはとても大変だったけど、夢が叶って本当に嬉しかった」と、建築中の写真を見せながら、笑顔で語ってくれました。

日本では一般的に、自宅建設や大工作業は専門家に任せる人が多いかもしれません。確かに専門家に任せれば便利であり時間の節約ができます。これは効率性が重要視される現代社会では大事なことかもしれません。しかし一方で、自身の手で行った活動や経験、また、その過程における充実感や達成感は見逃されがちとなっています。

現代の便利な生活では、不便は悪いことのように見なされがちです。しかし、少し視点を変えてみると、その不便さからほかの人の時間を生むこともあります。

たとえば、スウェーデンでは、宅配物は基本的に自分で受け取りに行く必要があります。これは顧客にとっては煩わしいかもしれません。しかし、配達員の労働時間は短縮されるため、その人たちが家族や趣味に費やす時間は増え、その人たちの幸せにもつながっています。

こうしたスウェーデン人のDIYや自宅建築などの作業を通してみると、手間な作業からも、楽しみや達成感が生まれており、不便が一概に悪いとは言えないのかもしれません。また、あえて手間をかけることで、大切な自由な時間を見直す機会にもなり、新たな視点が開けることもあります。案外、不便のなかから幸せへのヒントが見つかるのかもしれません。

スウェーデンの住宅地
写真=iStock.com/AlionaKannesten
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AlionaKannesten

■礼節を重んじすぎると幸福に影響が出る

北欧諸国は、個人を尊重し、強要しない社会的特徴があります。特にスウェーデンでは、フラットな組織文化が根付いた横社会となっており、上司と部下の関係はとても緩やかです。そのため、上司と部下の間でも、自由に意見を述べることが通常となっています。

実際に、私の会社のミーティングでも、誰もが自由に意見を言い、上司に対してもほかの同僚と同じように率直に発言できます。また、発言したことで上司から、不快な対応を受けることはまずありません。

さらに、スウェーデン語には敬語というものがありません。そのため、年齢差にかかわらず気兼ねなく話せます。これは、同国の自由で寛容なコミュニケーションスタイルにも反映されています。

対照的に、文化的に儒教が根づく日本では、礼儀や礼節が重んじられています。これにより、日本社会は世界的に規律が正しい国として知られ、社会の規律と秩序を支えています。一方で、規律重視の文化は、人々の自由を制限するため、個人の幸福感の追求には影響が出ることもあります。

■日本型の働き方はスウェーデン人にはストレス

国連世界幸福度レポートによると、寛容度と自由度が幸福感に大きく寄与することが示されており、この観点から北欧諸国が高い評価を受けています。寛容度と自由度の高いフィンランドは2024年も再び1位、スウェーデンも4位にランクインしました。日本も上昇傾向でありましたが、昨年より順位を下げ、世界で51位と北欧諸国に比べるとかなり低いランキングとなっています。

スウェーデンの社会では、個人間の差異を最小限にし、個人の尊厳と平等が重視される風土があり、加えて、ストレスの少ない社会づくりが根付いています。企業でも年功序列が存在しないため、厳しい上下関係によるストレスを抱えることはまずありません。さらに、顧客と業者との関係も緩やかです。

一方、日本には「お客様は神様」という言葉があるほど、お客様の要望に答えようとする、お客様第一主義が定着しています。そのため、日本のサービスや製品は高品質であると海外からも評価されています。

近年では「リーン」と呼ばれる日本型の生産方式が多くのスウェーデン企業で採用もされています。しかし、リーンを採用する企業で働くスウェーデン人の中には、これまで以上のサービス提供に伴うストレスを感じる人もおり、「なぜ顧客サービスをここまで強化する必要があるのか」と疑問を持つ人もいます。

■「自分が働く側だったら」を常に考える

私の経験によると、スウェーデンの顧客サービスは日本ほど高くないものの、ほかのヨーロッパ諸国と比べると高いほうです。しかし、スウェーデン社会では、自分がサービス提供側に立った場合も考えているため、顧客側も過度なサービスを要求しません。そして、お互いを尊重しながら、極度なストレスをかけずに働くことが重要とされています。

そうした、お互いを尊重し強要しない社会のスウェーデンでは、ルールや規則を楽しんで守る方法を考案し実践しています。たとえば、ストックホルムのオデンプラン駅では、利用者にエスカレーターではなく、健康に良い階段を使ってもらうため、昇ると音が鳴る、ピアノの鍵盤に見立てた階段を設置しました。これにより普段より66%も多くの人が階段を利用するようになりました。

さらに、公園や道路でのゴミのポイ捨てを減らすために、ごみ捨て自体を楽しいものにするというアイデアから、音や声が出るゴミ箱が設置されている所もあります。実際に、私も子どもたちが面白がり、ゴミ捨てをする様子を何度も目にしました。このように、スウェーデンでは厳しい規律だけでなく、人々が面白がって自発的にルールを守る方法を模索しています。

■個人の尊重には短所もある

ただ、これまで個人の尊重や強要しない社会、ストレスの少ない働き方の長所のみを述べてきましたが、現実には問題も存在しています。自由な意見交換や個人の尊重が重要視される一方で、広すぎる個人の自由から、会社組織や社会の中で統制が難しくなる場面もあるのです。

近藤浩一『北欧、幸福の安全保障』(水曜社)
近藤浩一『北欧、幸福の安全保障』(水曜社)

たとえば、会社では上下関係が弱いため、上司からの指示通りに仕事をしない人もでてきます。また、新しい仕事に就いたとき先輩と後輩の関係もないので、仕事をしっかりと教えてくれる人もあまりいず、業務の引き継ぎが難しいこともあります。

別の例でいえば、コロナ禍においては、国民の自主性を重んじられ、マスクの使用は推奨されず、集団感染戦略を採用した国として注目されました。しかし、その結果、高い感染率と多くの高齢者の死亡という状況が生まれました。

最終的に政府のコロナ委員会は、自主性に頼る対策の難しさを述べ、高齢者コロナ対策は失敗だったと公式に発表しました。個人を尊重し強要しない社会は、個々の自由度や幸福感を増加させる一方で、行き過ぎれば統制が難しくなるジレンマも持ち合わせています。

■世界一幸せな国は自由と規制のバランスが絶妙

ですが、フリーダム・ハウスによる世界の自由度ランキングで、8年連続で1位であるフィンランドは、コロナ禍で自由を尊重しつつも、首都圏の閉鎖やマスク着用を推奨するなど、自由と規制のバランスを重視した対策をとりました。結果として、2020年のピーク時においても北欧の中で最も低い感染率であり、多くの高齢者の死亡も防げました。

知人のフィンランド人は、「個人の自由も重要だが、社会秩序を守ることも同じくらい大事です。コロナ対策で自由と規制とのバランスを両立させたマリン前政権は、国内で高く評価され信頼度も高かった」と話していました。

そうしたフィンランドはコロナ禍以降の2024年の世界幸福度レポート、また、世界の自由度でも依然として、世界の1位であり続けています。

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近藤 浩一(こんどう・こういち)
エリクソン社プロジェクトマネージャー
1975年生まれ。法政大学法学部政治学科卒業後、神奈川県警入職。その後オーストラリア留学を経てIT企業で数年間勤務後、世界屈指のスウェーデンの通信機器メーカー・エリクソン社へ転職。2007年よりドイツ・デュッセルドルフ勤務、2012年よりスウェーデンで勤務し、現在プロジェクトマネージャーとして世界の大手通信企業の大規模プロジェクトに従事。著書に『スウェーデン 福祉大国の深層』がある。

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(エリクソン社プロジェクトマネージャー 近藤 浩一)

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