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「加齢による物忘れ」と認知症をどうやって見分けるか…認知症専門医が診断室で問いかける"3つの質問"

プレジデントオンライン / 2024年7月20日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LightFieldStudios

認知症になると、どんな症状が現れるのか。認知症専門医で慶應義塾大学病院メモリーセンター長の伊東大介さんは「初発症状として、同じことを何回も聞いてくる、物の置き忘れが増えてよく探し物をする、お金の管理ができないといったものが挙げられる。また、本人に病気の自覚が薄く、質問されると取り繕う傾向がある」という――。

※本稿は、伊東大介『認知症医療革命 新規アルツハイマー病治療薬の実力』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

■認知症は体験を「丸ごと」忘れてしまう

Q.家族の物忘れが増えました。認知症でしょうか。

「最近、おじいちゃんから同じことを何度もくり返してたずねられることが増えた」

「さっき説明したのにおばあちゃんは覚えていないみたい」

多くのご家族は、親御さんのこんな変化に心配を募らせてメモリークリニックを受診されます。そのとき必ずあるのが「物忘れと認知症はどう区別するのか」という質問です。

物忘れとは文字通り、物事を忘れること。「年のせいか物忘れが激しくなった」などとよく言います。

確かに認知症にも物忘れは見られます。しかし、認知症による物忘れと、加齢に伴う心配の要らない物忘れはある程度区別できます。

認知症による物忘れの特徴の一つは、体験した出来事を丸ごと忘れてしまう点です。

たとえば、家族で前年に旅行へ出かけたとしましょう。「去年の旅行中に夕飯で食べた料理がおいしかったね」とあなたがおばあちゃんに話しかけたとき、おばあちゃんから「あら、旅行なんて行ったかしら?」という答えが返ってきたら、認知症が疑われます。旅行したという体験自体をすっかり忘れていると考えられるからです。

■ヒントがあれば思い出せるのは物忘れ

一方、加齢に伴う心配の要らない物忘れでは、体験した内容の一部しか忘れることはありません。

先の例でいえば、旅行したことは覚えていても、夕飯に何を食べたかまでは思い出せないといった具合です。

とっさには想いうかばなくても、時間を置いたり、何かヒントを与えて「あー、あれね」と思い出せたりすれば、加齢による物忘れで、答えまで与えてもまったく思い出す様子さえなければ、認知症による物忘れの可能性があります。

久しぶりに会った人の名前が思い出せないことはよくあります。それでも相手の顔を見れば、それが仕事仲間なのか、それとも友人なのかくらいはわかる。この場合は加齢による物忘れといえるでしょう。しかし認知症では相手の顔を見ても、自分とその人にどんな関係があるのか思い出せないことがしばしばあります。

【図表1】加齢に伴う心配の要らない物忘れと認知症による物忘れの違い
出所=『認知症医療革命 新規アルツハイマー病治療薬の実力』(扶桑社新書)

■もともと物覚えが悪いのは認知症ではない

認知症は脳の病気です。もう少し専門的にいえば、認知症は、「いったん正常に発達して機能していた知能が、脳疾患によって進行性に障害された状態」と定義されます。「進行性」ですから、もともと物覚えが悪く、その状態が悪化していないなら、認知症とはいえません。

生活面に注目した認知症の定義は、「物忘れを含む知的能力の低下により、仕事や社会生活に支障を来した状態」です。

したがって、最近物忘れが目立ってきたなと感じても、それまでできていた仕事や日常生活がトラブルなく営めているなら認知症とはいえません。

■日常生活に潜む認知症のサイン

Q.家族が認知症ではないか心配です。認知症のサインを教えてください。

認知症の初発症状には、

①約束したことを忘れ、同じことを何回も聞いてくる。
②日時、曜日がわからなくなる。
③物の置き忘れが増え、よく探し物をする。
④以前はできた家事がうまくできない。
⑤お金の管理ができない。
⑥ニュースなど周りの出来事に関心がない。
⑦意欲がなくなり、それまでやっていた趣味・活動をやめた。
⑧感情が不安定で、疑い深くなった。
⑨トラブルへの対応が適切にできない。

などが挙げられます。これらの症状が複数見られるようになったら、認知症のサインですので専門外来受診をおすすめします。

認知症の患者さんは病識、つまり病気の自覚がないので、通常、ご本人が一人で来院されることはなく、家族に連れられて診察室にいらっしゃることがほとんどです。物忘れが増えていると気づいている場合でも年相応のものだと見なし、困っているとおっしゃる方は少ないです。自分の症状を適切に評価できないことは認知症の特徴の一つです。

私どもが、認知症が疑われる方に診察室でよく質問するのは、「現在、困っていることはありますか?」「現在、楽しみはありますか?」「最近(3カ月以内)気になるニュース(政治、経済、国際情勢、芸能、スポーツなど)を挙げてください」の3つです。

■「困っていることはない」は黄色信号

この3つの問いに対する答え方で、認知症を患っている可能性を評価します。また、これら質問の最中に、患者さんがうまく答えられず周囲の人に手助けを求めようとしたり、付き添いのご家族のほうを振り向いて確認を求めたりする仕草を「振り向き兆候(head turning sign)」といい、認知症を示す重要なサインと考えられています。

さて、最初の質問項目「現在、困っていることはありますか?」は、病気の自覚(病識)の有無を問うています。「はい、日常生活で困っていることがあります」と答えればむしろ心配ありませんが、「特に困っていることはありません」もしくは「物忘れはありますが、年のせいで困ってはいません」という答えには要注意です。

認知症の人は、病識が低く、取り繕う振る舞いがあるため困ったことはないと主張するからです。

新聞を読む人
写真=iStock.com/Hanafujikan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hanafujikan

■時事的ニュースに関心が持てなくなる

次の「現在、楽しみはありますか?」に対して具体的な答えを得られた場合は正常です。たとえば「飼い犬にエサをあげたり、一緒に近所の公園に散歩に行ったりするのを楽しんでいます」といったはっきりした内容を伴う答え方をした場合です。

何も答えないか、答えたとしても「何でも楽しんでいます」といった抽象的で、曖昧な表現に終始する場合、あるいは1年以上やっていないゴルフや手芸の趣味について話す場合は要注意です。

最後の「最近気になるニュースを挙げてください」も、「先月○○大臣が辞任した」「先週○○県で大雨があった」などの具体的な最近のニュースを挙げられれば大丈夫ですが、3カ月以上前のニュースや具体性が伴わない内容の話をする場合は認知症の疑いありと判断します。

認知症の人は、多くの場合、意欲が低下して、日常生活を送る上での楽しみを持っていません。趣味をやめたり、物事への興味を失ったりするケースが多く見られます。時事的なニュースにも関心が持てず、記憶もできないので、最近どんなニュースに興味を持ったかを聞いても答えられません。

2つめと3つめの項目は、これらの特徴を評価する質問です。以上は、医療機関で行う問診ですが、ご自宅や施設でも簡単にできる質問としておすすめです。

■自分でできる診断・テストはあくまで目安

ご自宅で可能な検査は他にも、東京都福祉局が提供している「自分でできる認知症の気づきチェックリスト」や、日本認知症予防学会「認知症自己診断テスト」、iPhoneアプリの「認知症テスト Moffワスレナグサ(HDS-R)」などがあります。後者は長谷川式認知症スケール(HDS-R)です。

東京都福祉局の「自分でできる認知症の気づきチェックリスト」(一部)
東京都福祉局の「自分でできる認知症の気づきチェックリスト」(一部)

いずれもあくまで目安であり、医療につながるきっかけとして利用していただければと思います。

正確な診断には、神経心理検査、脳画像検査、髄液の採取などの専門的な検査を要します。特にレカネマブの治療を受けられるかどうかを決めるには、これらの検査は必須です。

■アルツハイマー病の中核症状と周辺症状

Q.アルツハイマー病の具体的な症状は何ですか?

伊東大介『認知症医療革命 新規アルツハイマー病治療薬の実力』(扶桑社新書)
伊東大介『認知症医療革命 新規アルツハイマー病治療薬の実力』(扶桑社新書)

病識(病気の自覚)の有無以外にもアルツハイマー病を特徴づける症状があります。

アルツハイマー病の症状は大きく「中核症状」と「周辺症状」の二つに分けられます。中核症状は、脳の細胞が死滅したり、脳の働きが低下したりして直接起こる症状。一方、周辺症状は、ご本人のもともとの性格、環境、人間関係などが複雑に絡み合って生じる精神症状です。うつ状態、不安、焦燥、徘徊、興奮、暴力、不潔行為などが含まれます。

周辺症状は先行して中核症状があり、それに派生して起こります。それでは脳がダメージを受けて生じる中核症状とは具体的にどのようなものでしょうか。

中核症状には「記憶障害」「見当識障害」「処理能力の低下」「実行機能の低下」などがあります。一つずつ説明しましょう。

■コップから記憶がこぼれ落ちていく状態

アルツハイマー病の記憶障害は、コップに注ぐ水によくたとえられます。

コップの底にある水は古い記憶、上のほうにある水は新しい記憶であると考えてください。正常な人はコップの背丈が高く、新しい記憶をどんどん注いでもコップからあふれ出ることがありません。

一方、アルツハイマー病ではコップの背丈が低くなり、新しい記憶がこぼれ落ちてしまいます。症状が進行すると、さらにコップの背丈が低くなり、新しい記憶を留めることが難しくなるのですが、コップの底に溜まっている古い記憶は最後まで残ります。

【図表2】認知症(アルツハイマー病)の記憶障害
出所=『認知症医療革命 新規アルツハイマー病治療薬の実力』(扶桑社新書)

アルツハイマー病では5分から数日以内の記憶「近時記憶」が障害を受ける症状が初期から見られますが、ご本人が子どもの頃や若い頃の記憶「遠隔記憶」は長く保たれるのが普通です。

一口に記憶といっても、いろいろ種類があり、アルツハイマー病で最初に障害を受けるのは、自分が体験した事柄の記憶「エピソード記憶」です。一方、「意味記憶」と呼ばれる、知識や一般常識は保たれます。昨日の夕飯に何を食べたかとかどんな交通手段で病院に来たかといったことは忘れるのですが、過去に勉強して覚えた知識は比較的長く保たれます。

■日時、季節、場所の順にわからなくなる

見当識障害とは、時間、場所、人間関係がわからなくなる症状です。初期には日時、季節がわからなくなり、次に地理感覚が障害を受けます。馴染みがあるはずの場所で迷子になったり、家に帰れなくなったりするのは見当識障害のためです。症状が進むと、人間関係がわからなくなり、自分の配偶者や子どもまで認識できなくなります。

処理能力の低下は、環境への適応能力の低下と言い換えてもよいでしょう。引っ越しや旅行など、それまで過ごした場所から移動したときに新しい環境に対応できず、パニック状態になることがあります。冠婚葬祭で適切な行動がとれなかったり、ATMや電化製品を操作しにくくなったりする症状です。

実行機能とは、計画を立てて、物事をスムーズに遂行する能力です。よく見られるのは、料理ができなくなることです。料理が得意だった人が簡単なメニューしか作れなくなった、味付けがおかしくなった……こんな出来事をきっかけにアルツハイマー病を疑い、受診されるケースは少なくありません。

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伊東 大介(いとう・だいすけ)
慶應義塾大学医学部特任教授、慶應義塾大学病院 メモリーセンター長
1967年生まれ。1992年、慶應義塾大学医学部卒業。同年、同大大学院医学研究科博士課程(神経内科学)入学。1996年、慶應義塾大学医学部(内科学)助手。2001年、米国シカゴ大学リサーチフェロー。2024年より、慶應義塾大学医学部内科学(神経)特任教授。総合内科専門医、日本神経学会専門医、日本認知症学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本医師会認定産業医。日本内科学会、日本神経学会(代議員)、日本認知症学会(代議員)、日本脳卒中学会、日本神経化学会、Society for Neuroscienceに所属。2012年、日本認知症学会学会賞受賞。

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(慶應義塾大学医学部特任教授、慶應義塾大学病院 メモリーセンター長 伊東 大介)

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