「いつでもポジティブな人」はむしろ危ない…カウンセラーが指摘する「ある日突然出勤できなくなる人」の特徴
プレジデントオンライン / 2024年7月17日 7時15分
■誰もが「ネガティブ感情」を抱えて生きている
・仕事がうまくいかなくて落ち込む
・将来を考えると不安になる
・人の発言に対して嫌な気持ちになる
・最近パートナーとの会話がうまくいかない
ストレスを感じやすい現代社会では、誰もがこうした「ネガティブ感情」を心のどこかに抱えて生きています。
心配、モヤモヤ、嫉妬、ねたみ、焦り、悲しい、寂しい、つらい、苦しい、物足りない、失望、孤独感など、感情のバリエーションを挙げればキリがありません。
■「ネガティブ感情=悪いもの」は誤解
多くの人はこうした「ネガティブ感情=悪いもの」だと思っていますが、カウンセラーの立場からすれば、それは大きな誤解です。まずはその誤解を解くことから始めていきましょう。
あなたの心に浮かんでいるネガティブな感情は、決して悪いものではなく、その感情を「なくしたい」「忘れたい」「どこかに行ってほしい」と考える必要はありません。
例えば、「明日の会議は遅刻できない。でも電車が遅れたらどうしよう」と心配になれば、「いつもより早く起きて、早い時間の電車に乗ろう」と前もって準備ができます。
つまり、ネガティブ感情は、視点を変えると健全な成長を促す「原動力」につなげられるということです。
しかも、心にネガティブな感情が生まれやすい人ほど、その先の成功を自らの力で掴み取るケースも多いと言われるので、ネガティブな感情をなくそうとする必要はないと言い切れるのです。
■いつも明るい人にもネガティブな一面がある
生きていれば、楽しいことや嬉しいことだけでなく、悲しいこと、つらいことがあって当然です。人の心にはポジティブとネガティブ、両方の感情が存在しているからです。
周りから見たらいつも明るく、悩みがなさそうなポジティブな人でも、実は人に話せない悲しい過去を抱えていることもありますし、ネガティブ思考になりやすい人でも1日の中でちょっとした嬉しい感情が生まれたりするのではないでしょうか。
■「いつでもポジティブな人」の方が実は危険
人の気持ちにはこうした両面があるはずなのに、「私にはストレスがないんです」「怒ることなんてありません」と本気なのか、演技なのか自分でもネガティブ感情に気づかないままでいる人に出会うことも多くあります。
しかし、このように、「いつでもポジティブな人」の方が実は危険です。
例えば、周りから「優秀な人」と期待されていた新入社員が、最初はバリバリ仕事をこなして成果を上げたのに、半年後には心がポキッと折れて休みがちになって出社できなくなる。これは本当によくあるケースですが、こうした状況に陥りやすい人こそ「いつもポジティブな人」の典型例です。
その原因として、「ネガティブ感情に気づけないほど心のセンサーが鈍感になっている」、もしくは「自分の気持ちにふたをして向き合えていなかった」のいずれが考えられます。
「今日も1日良いことばかりだった」ではなく、「悪いこともあったけど、1つだけ良いことがあった」と現実を受け止められる人の方が、幸福を感じやすいものなのです。
「ネガティブな気持ちになるのは、人間としてごく自然なこと」とまずは心に留めておきましょう。
■「適度なストレス」は良い効果をもたらす
この記事を読まれている方は「ストレスなんてゼロになればいいのに!」と望んでいるかもしれません。もちろん過重労働やストレス過多な生活は心身に悪影響をおよぼしますが、「適度なストレス」は人にとって良い効果をもたらします。
それを表すのが「ヤーキーズ・ドットソンの法則」という生理心理学の基本とされる法則です。
これは心理学者のR・ヤーキーズ博士とJ・D・ドットソン博士によるパフォーマンスとストレスの関係を示した理論で、「高すぎず・低すぎない」適度なストレスがある方が、最適なパフォーマンスにつながると言われています。
■「ストレスが低すぎる」と生きる気力が失われていく
そもそもストレスは物理学用語で、モノに刺激が加わったときに起きるあらゆる反応を意味します。これを「ストレス反応」と呼びます。
例えば、柔らかいボールがあるとして、ボールを凹ませる力がストレッサー(刺激)、その刺激に対する反応が「ストレス反応」です。
ストレスが低すぎる状態とは、この刺激がまったくないということを指します。例えるなら、誰にも会わない、仕事もしない、何の予定もないといった状態です。
これでは変化に反応しない=柔軟性を育めないので、パフォーマンスを発揮できないどころか、日々の生活が無気力・無反応になり、人として生きる気力が失われていきます。結果として、さらに深いネガティブ感情へと沈み込んでいくということを知っていただければと思います。
■感情に「良し悪し」は存在しない
心にネガティブな感情が生まれたとき、「こんな気持ちではダメだ……」とその感情を否定する人は多いでしょう。しかし本来、人の感情に「良し悪し」は存在しないというのが心理学の考え方にはあります。
それなのに、なぜ私たちは感情を良いもの、悪いものと考えてしまうかというと、過去にあった悪い出来事に対する刷り込みが影響しているからです。
例えば「後ろ向きな発言はしてはいけない」「マイナスなことはできる限り考えない方が良い」といった周りの人からの教えや、ご自身の体験などにより、「ネガティブなことは感じてはいけない」と脳にインプットされているのです。
■「ネガティブ感情」は自然なこと
しかし、メンタル不調が始まる1つのケースとして、このような感情の否定から「自己肯定感」が低くなってしまうことがあります。だからネガティブ感情の視点を変える必要があるのです。
ポジティブ感情も、ネガティブ感情も、湧き上がってくるのは自然なことで、抑えられなくて当然です。だから、それを自分で否定する必要も、人から否定される不安を感じる必要もありません。
ネガティブ感情の「置き場所」を変えるには、自分の感情というものを事実として認識した上で、良し悪しを判断せずに「受け止める」ことが大切です。
湧き上がってくる感情に対して「悪いこと」「良いこと」と区別するのは、今日からやめましょう。
「今日の私は落ち込んでいる」
「昨日の上司に対して、私は今もモヤモヤしている」
「夫の発言で私は悲しくなった」
例えばこんな感じで、感情を事実として受け止める習慣を意識してみてください。
■自分の感情にふたをしてしまっている
私が行っているコミュニケーション研修には、「喜怒哀楽」の4つの感情ごとに、最近の出来事を書いてもらうワークがあります。
この研修を続けていく中で気づいたのは、長く自分の感情にふたをしてしまっている人ほど、ワークの記入ができないということです。
その理由は明確で、自分の感情に向き合わず、見て見ぬふりをし続けてしまっていたからです。
また、20〜40代にカウンセリングをしていると、「仕事が嫌い」「上司が嫌」「なんとなくモヤモヤ、イライラする」とはいうものの、具体的にどんな気持ちなのか、自分はどうしたいのかを聞くと、「自分でもよくわからない」という人が多くいます。
変化の激しい社会を生きる私たちは、無意識に心に鎧をまとい、自分の弱さを周りに見せないようにしてしまいがちです。
この「自分の悪い部分、恥ずかしく醜い部分を見られたくない」という思いが強くなりすぎると、自分の感情を抑え込んでしまい、その反動として最近では、SNSに本心と違うことを発言してしまうケースにつながっているのです。
特に、「我慢強くてまじめな人」「自分よりも他人を優先してしまう人」がこのパターンに陥りやすい印象があります。
こうして、私たちは自分の本当の感情は何かを見失ってしまうのです。
■「今どんな気持ちなのだろう」と問いかける
私もカウンセリングの勉強を始めた頃は、相談者さんの気持ちと自分の感情が混ざってしまい、カウンセリング中に自分の感情を見失うことがありました。
相談者さんが悲しい話をしていると自分も悲しくなる、怖い話をしていると自分も恐ろしくなるといったように、感情が引っ張られてしまうのです。
そこで私が訓練したのが、自分の感情を確認することでした。
カウンセリング中に「今は嫌な気持ちになっている」「話を聞いて恐怖を感じている」など、自分の感情を客観的に認めることで、相手の感情と分離ができるようになったのです。「自分の感情を認める」ことは、カウンセリングにおいても基本中の基本の考え方です。
自分の気持ちがよくわからないという人は、ネガティブ感情の克服、心のリカバリーに少し時間がかかるかもしれません。そんな人は、なんとなく嫌な気持ちになったときに、立ち止まって「今どんな気持ちなのだろう」と心に問いかけてみてください。
もし考えてみても、自分の感情がわからないという人は、それでも大丈夫です。
どんな感情が浮かんだとしても捨て去ろうとせず、ありのままの感情を受け止めていきましょう。
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日本メンタルアップ支援機構代表理事、公認心理師
企業内カウンセラーをはじめとする相談業務において2万人以上のカウンセリングを担当。また長年の現場経験を生かし、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメント教育を得意とする。官公庁・企業・大学などで講演・研修を6万人以上に実施。著書にシリーズ51万部を突破した『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)ほか、『世界一受けたい授業』などメディア出演多数。
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(日本メンタルアップ支援機構代表理事、公認心理師 大野 萌子)
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