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「下向いてスマホ、猫背、長時間デスクワークの人がなりやすい」発症は20代が最多で女性に頻発する厄介な病気

プレジデントオンライン / 2024年7月24日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dore art

■口が半分しか開かなくなることも

突然だが、あなたは口を縦に4センチ(指3本分)程度、開けられるだろうか。人差し指、中指、薬指をそろえて伸ばし、上下の歯の間に縦に差し入れ、第2関節付近まで入るくらい開けられるなら問題ない。しかし口を大きく開けられない、口を開け閉めするときにカクンと音がする、あごを動かすと周辺が痛い……などといった症状があるなら、「顎関節症(がくかんせつしょう)」かもしれない。

東京医科歯科大学歯学部長で顎顔面外科学分野教授の依田哲也氏によると「日本人の10〜20%程度に顎関節症の疑いがあると推計され、女性が男性よりも2〜3倍多い」という。

「あごを動かすと痛い、音がする、口が開かないといった症状がありますが、まずは腫瘍など他の病気でないかを確認することが大切です。また顎関節症というのは総称で、日本顎関節学会では4つの病態に分類しています。1つ目はあごを動かす咀嚼筋(そしゃくきん)の痛みで起きる『咀嚼筋痛障害』。夜に歯を食いしばる、急に口を開ける、また使いすぎたときに筋肉に炎症やこりが起きてしまうのです」(依田氏)

2つ目は「顎関節痛障害」といって、耳の近くの顎関節の炎症などで痛みが出た状態。

「3つ目が顎関節症患者の半数を占める『顎関節円板障害』。下あごの骨の一部に、関節円板というクッションがあり、正常な口の開閉では関節円板が骨と一緒に動きます。それが主に前方に関節円板がずれ落ち、あごが動いた際に引っかかってカクンと音がします。

ずれが進行すると音が消えますが、口が半分しか開かなくなってしまうこともある病態です」(同)

そしてクッションが機能しなくなり、骨と骨がこすれて変形したのが4つ目の「変形性顎関節症」だ。骨の変形によってあごの動きが悪くなったり痛みが出たりする。

日本顎関節学会指導医で専門医の佐藤文明氏(佐藤歯科医院今戸クリニック院長)は、顎関節症疑いの患者が来院した場合、まずレントゲンを撮って、4つ目の病態に該当するあごの骨に変形がないかを確認する。次に口の開閉に異常がないか(顎関節円板障害)を見極め、それらが問題なかったときに「筋肉」か「関節」の状態(咀嚼筋痛障害か顎関節痛障害)をチェックして診断するという。いずれの病態にしても「原因は一つではない」と佐藤氏。

「たとえばスマホを見るのにいつも下を向いている、猫背、頬杖など、日常生活で顎関節症になりやすい動作がたくさんあります。就寝中はコントロールが難しいですが、歯ぎしりの習慣もそうですね。それらのリスク因子が積み重なっていき、その人が持つあごの耐久力を超えてしまうと、症状として出てしまうのです」(佐藤氏)

■「痛いから動かさない」でますます悪化する

治療は、口を大きく開けるトレーニング「運動療法」がメインだ。「ある朝突然、あご周辺が痛くなったとしたら、1週間程度は無理しないほうがいいでしょう。急性炎症が起きていますから、鎮痛剤(抗炎症薬)を服用してもかまいません。しかし、その後はリハビリを。クッションがずれてしまう顎関節円板障害の場合も、適切な指導でいったんずれを戻し、正常な状態を維持する訓練があります」(依田氏)

佐藤氏も「動かさないままでいると、痛みが悪化する」と補足する。「『痛いからあごを動かさない』という患者さんに対して、『最初は痛いけれど、動かすと徐々に痛みはなくなりますよ』と運動療法を勧めます。動かすことによって血流循環がよくなり、関節や筋肉の内部にたまる痛み物質や老廃物を排除できるのです」(佐藤氏)

加えて同院では、患者が質問票に答える形でリスク因子をチェックし、日常でその習癖を修正する指導も行うという。中でも佐藤氏が「よくない習慣」として挙げるのが、上下の歯と歯の接触。普段あまり意識しないが、背筋を伸ばして唇を閉じたとき、「上下の歯が離れているのが正常な状態」だ。

「本来上下の歯が接触するのは、食事や話すときだけ。食べるときもずっと上下の歯をくっつけているのではなく、リズミカルにタッチしている状態(咀嚼)ですね。古い研究ですが、食事時間を含め上下の歯が接触している時間は、一日で約18分程度と報告されています」(同)

ところがストレスを受けたときや、集中しているときに歯をぎゅっと噛み締めてしまう癖を持つ人がいる。「その習慣で顎関節症を発症してしまう可能性が高くなります。噛み締めまでいかなくても、歯と歯が接触しているだけで、本人の耐久力を超えれば痛みが出てしまうのです。ただ、リスクとなる癖を持っていても骨格的に丈夫なら痛みが出ません。顎関節症に女性が多いのは、女性は華奢であごが小さい傾向にあるため、ダメージを受けやすいのかもしれません」(同)

【図表】4つのタイプに分けられるあごの困った症状

以前ネイリストの女性が、客の爪に色を塗る際、集中してつい奥歯を噛み締めてしまい、仕事が終わる頃にはあごが痛くてたまらないと話していたことを思い出した。こういった日中の癖には、貼り紙をするといいそう。「集中して作業をする場所の近くに『リラックス』などと書いた貼り紙をし、それをきっかけに意識して上下の歯を離す。これを何回も繰り返すと、だんだんそれが身につき、歯をくっつける動作に向かうとパッと離せるようになります。習慣逆転法という癖の治療法の一つで、自身をコントロールする力が身につけられるのです」(同)

一方で就寝中の歯ぎしりなどで症状が起きてしまうなら、夜間のみマウスピースを装着することも。

かつては顎関節症の治療として「噛み合わせの悪さ」が指摘されていたという。だがこれは「間違い」と両氏が強調する。「発症に歯並びや噛み合わせが直接関与することはありません。いまだに歯を削るような顎関節症の治療を行っている医院もあるので、警鐘を鳴らしています」(依田氏)

発症は20代が最多であるものの、どの年代でも起こりうるという。現在痛くない人が予防のためにできることはあるのだろうか。「心配になると胃がキリキリと痛むように、咀嚼筋はストレスの影響を受けやすいので、まずは過度なストレスをためないこと。そして、普段から指3本程度の口を開ける習慣はあったほうがいいでしょう。患者さんには、楽しいことがあったら大きな口を開けて笑ってください。人が見ていなければ大きなあくびをしてみましょうと言っています」(同)

特に長時間のデスクワークでは、顔まわりの動きや姿勢が固定されがちだ。適度な休憩で気分転換を。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月19日号)の一部を再編集したものです。

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト
1978年生まれ。本名・梨本恵里子。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)など。新著に、『野良猫たちの命をつなぐ 獣医モコ先生の決意』(金の星社)と『老けない最強食』(文春新書)がある。ニッポン放送「ドクターズボイス 根拠ある健康医療情報に迫る」でパーソナリティを務める。 過去放送分は、番組HPより聴取可能。

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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)

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