「おじさんが遅刻するだけの動画」になぜ1万人も集まったのか…「インスタ映え」がウケないSNSの新潮流
プレジデントオンライン / 2024年7月26日 9時15分
※本稿は、鹿毛康司『無双の仕事術』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■「SNSの使い方」に悩んでいる
みなさんが話題づくりのために使える予算は限られていると思います。予算ゼロの方もいらっしゃるかもしれません。そんな中でも、今の時代は手軽に利用できるSNSがあります。
先日、ある地域の地方活性化プロジェクトのワークショップのお手伝いをしました。テーマは「SNS」の使い方です。参加者の顔触れはバラエティに富んでいました。例えば、ワイナリーを作り、ビジネスを軌道に乗せたいと考えている方や、漁業市場の事務局の方、野外映画の会を開催したい方………それぞれが違った立場、事情を持ち、「SNSの使い方」をブラッシュアップしたいと足を運んでくれたのです。
参加している皆さんのお悩みをお伺いしました。
「広告を打ちたいのはやまやまだけど、広告を打てるほどお金がない」
「限りある予算を使ってデジタルの広告を打ったけれど、何も結果が出ない」
「SNS発信や動画制作は専門家に頼むしかないが、お金がかかる割にうまくいかない」
「専門の広報担当者、SNS担当者に人をさくだけの余裕がない」
「担当者はいるけれど、素人で何をしていいかわからない」
「そもそも発信する情報、ネタがない」
■「4つのない」は工夫次第で解決できる
漁師さん、地域の復興ボランティアの女性、技術が専門の人など「世の中の話題」をつくる活動なんてされたことがないわけですから、当然のお悩みだと思います。
皆さんに共通していたのは次の4つです。
①ネタがない
②人がいない
③予算がない
④外注がうまくいかない
これらの「4つのない」は工夫次第で解決できます。
■「5W1Hがわかるように伝える」のが本来あるべき姿
「今日のワークショップについて、SNSに投稿するとしたら、どんなことを伝えますか?」
参加者の方たちに質問すると、こんな答えが返ってきました。
「みんなでディスカッションしている写真を撮って、『今日はSNSセミナーに参加してます』と投稿する感じでしょうか」
皆さん、自信がなさそうです。
この答えは決して間違っているわけではありません。起きた出来事をきちんと情報整理し、5W1Hがわかるように伝えるのはビジネスでの「報告」のあるべき姿です。
■「未完成だけれど味わい深い情報」のほうが届きやすい
ただ、「SNSでの情報発信」という観点で考えたときに惜しいのは、無味乾燥な情報になってしまっているという点です。
ワークショップに興味がある人以外は、おそらく興味を示さないはずです。
では、多くの人に興味を持ってもらうにはどうすればいいでしょうか。
ここで必要なのは「人間味のある情報」です。SNSの世界では、理路整然とした情報よりも、未完成だけれど味わい深い情報のほうが届きやすいのです。
![二人の演者を撮影するカメラ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/f/1200wm/img_afdd096aa4ed09618e2950335c9c1950243909.jpg)
そもそも、情報を整理整頓しすぎると、発信する情報の回数も少なくなってしまいます。
■「参加メンバーとツーショット」なら人間味がある
人間味のある情報とは、例えば、こんな投稿でしょう。
・ワークショップ前の会場の写真を撮影。「参加するのに緊張して早く会場に来てしまった!」というコメントと共に投稿
・名刺交換している様子を撮影。「みんなが集まって名刺交換している。さあ、始まるぞ」と実況投稿
・仲良くなった参加メンバーとツーショットを撮影。「今日お会いしたワイナリーの○○さんと意気投合! 私の推進している郷土料理プロジェクトと何かコラボできないかな」と投稿
・スケジュール表を撮影し、「今日のワークショップのスケジュールはこれ」と投稿
・「講師はエステーのCM作ってる人なんだって!」と、講師と撮影した記念写真を添付し、エステーのCMサイトのリンクも貼ってみる
・「SNSの勉強をしました。みなさん、どんなことを発信したら良いですか? 皆さんが知りたいことを教えてください」と呼びかけながら、自社サイトのリンクを貼る
■「私にとっての普通」は他人から見れば「非日常」
いかがでしょうか。「SNSの勉強会に参加した」という事実を整然とした情報として発信するのではなく、現場の刻一刻と変化していく景色や自分の感情、気持ちの動きを素直に切り取るだけで、“ネタ”は無限に生まれます。
「でも、僕のような中年オトコが、そんなことを発信して喜ばれるでしょうか?」
心配そうな顔で質問してくれたのは、漁業市場に勤める男性です。もちろん喜びますよ! その男性に、「大きな魚が水揚げされたとき、引っ張るときの様子を演じてみてもらえますか」と頼むと、彼は「お安い御用です」と笑いながら、すぐその場で演技をしてくれました。
私はその様子をスマホで動画撮影しました。「この動画を『#大物とれた』とハッシュタグをつけて、X(旧Twitter)やInstagramに投稿したらウケますよ」と解説すると、キョトンとされています。
それもそのはず、ご本人にとっては日常のありふれたワンシーンだからです。
でも、私を含めた多くの人からすれば、「大きな魚が水揚げされた瞬間」は決して、平凡な日常の一コマではありません。
「私にとっての普通は、皆さんにとっての当たり前じゃないんですね」
![SNSの通知を表示するノートパソコン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/1/1200wm/img_e10e19e60d30562caec18ceb4294e068288757.jpg)
男性は気づいてくれました。その通りです。私たちにとっての“当たり前”は、他人から見れば、非日常です。それを冷静に吟味するだけで、ネタはいくらでも見つかるということなのです。
■「情報発信は業者に任せる」はもったいない
「情報発信をしたいけれど、担当できる人がいないので難しいんです」
「私にはSNSのことがよくわからないので、得意そうな若手社員に担当してもらっています」
「情報発信は業者に任せるしかないのかなと思っています」
こんな声を聞くたびに、もったいないなと感じています。
情報発信をする上で、なにより重要なのは「熱量を伝えること」です。手がけている仕事をプロジェクトについていちばん詳しいのは、あなた自身ではないでしょうか。
熱量を伝えるには、ご自身が担当者になるのが一番手っ取り早い。下手でも構わないので、動画や写真を撮影し、文章を書いて発信すればよいと思うのです。そうすれば、「予算がない」という問題もクリアできます。
■大事なのは「何人がいいねを押してくれたか」ではない
幸運にも予算がある場合には、「自分が考え、実践したいこと」をより効果的に発信するために、外部の専門家に手伝ってもらえば良いのです。
外部の専門家の力を借りるときに気をつけたいのは、任せきりにしないということです。
というのも、もともとの仕事に関わっていない人にすべてを託すと、「伝えること」が手段ではなく、目的になってしまいがちです。
何人が「いいね」を押してくれたか、フォロワーさんになってくれたか……といった数字だけが独り歩きし、いつのまにか大切な熱量が消えていきます。その結果、誰も心を動かされない発信が量産されていくことになりかねないのです。
![サムズアップするビジネスマン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/e/1200wm/img_0efc5556dad63d045a0babf043a9bcc6115563.jpg)
「いいね」を押したら抽選で景品差し上げます、とキャンペーンを打ち、フォロワー数を集めようとするのが典型例です。
景品欲しさの人が集まってくることで、何人が見たか(インプレッション)などの通知は増えますが、そこに実態は存在しません。
何のムーブメントにもつながらない、見かけ倒しの活動に過ぎません。
そんな風にまやかしの数字を追いかけるのではなく、堂々とご自分のやっていることを熱量を持って届けることのほうが、よほど重要で意味のある発信につながります。
■若い世代の教えに従う
自分でやろうと覚悟を決めたはいいものの、あまりに初心者すぎて「情報発信のためのSNS自体がわからない」という悩みも珍しくありません。そんなときはそれを使いこなしている人に教えてもらうとよいでしょう。
SNSでの発信の指南役はなるべく若い世代にお願いするとよいでしょう。
Z世代と呼ばれる、1990年代半ばから2010年代序盤生まれの人たちは、私にとっては超能力者のような存在です。生まれたときからインターネットやスマホがあって当たり前。私のような昭和生まれの人間でも、SNSを使い、何らかのブームをつくってこられたのは、彼らの教えに従ったからです。
■「インスタ映え」もう求められていない
ここで、教えの一例を紹介します。
あるとき、私は20代の女性社員にSNSに投稿しようとしている動画を見せました。すると、彼女は即座に「動画をしっかり編集しすぎていますね。作り込みすぎています」とコメントをくれました。
これまでクリエイターとして、じっくりと細部に気をつけながらCMを作ってきた身としては、最初は彼女のアドバイスの意図がわからず、戸惑うばかりです。
彼女はさらに、こう教えてくれました。
「世の中はもっと気軽なものを欲しがっているんです。かつてのように“インスタ映え”も、求められていません。今は“盛っちゃダメ”なんです」
![Instagramを見るユーザー](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/0/1200wm/img_f02be5ac2548dcf90c5933da5a8fe369226788.jpg)
■「おじさんの遅刻」を1万人もの人が見てくれた
彼女が言うには、世の中の人が興味を抱くのは「他の人が何をしているのか」ということ。例えば、朝起きたばかりの顔を見せるようなもののほうがよほど関心を持ってもらえると言うのです。
あるとき、私は大寝坊してイベントに大幅に遅刻するという失敗をやらかしてしまいました。そのとき、焦りながら現場に向かう途中、ふと彼女の助言を思い出し、あわてふためく自分を撮影し、その様子をInstagramとX(旧Twitter)に投稿しました。
結果、1万人もの人たちがその動画を見てくれることになったのです。
「おじさんの遅刻」という、ある意味どうでもいい動画を、これほど多くの人たちが見てくれるという状況はなんとも不可解ですが、現実に起こっています。
![腕時計をチェックするビジネスマン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/b/1200wm/img_9bad9b3cad469368d8a991fb1b0ad799192418.jpg)
■SNSの文脈に合わせた言葉づかいを
その驚くべき経験をして以来、Xを投稿するときは事前に、部下の花子(20代)に添削してもらうようになりました。
エステー時代は役員だった私が、一般職の社員に添削を受けるというのは一昔前には考えられない光景だと思います。
「もっと言い回しを柔らかくして」
「ちょっとまわりくどい」
と、びしばし問題点を指摘され、「やば! 昭和! 爺さんくさ!」と厳しく叱咤激励されます。
でも、この感覚に素直に従うことで、Xの拡散力は格段に上がります。確実に「いいね」を押される数が数倍に増えるんです。
![鹿毛康司『無双の仕事術』(クロスメディア・パブリッシング)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/4/1200wm/img_a4aeb4bf0d42cb1b21b1705d057d1f8b106733.jpg)
私たちがこれまで学校で教わった文章力や、入社後に知ったビジネス文書の作成スキルも、それはそれで重要な財産です。
他方、SNSではSNSの文脈に沿った言葉使いが大切です。日頃、SNSに親しみ、使い慣れている人たちに聞くのが近道なのです。
例えば、XやInstagramで私がよく使うハッシュタグは「#ウッカリ」。これは前述の花子が、私がよく道を間違えたり、ものを忘れたりするのを見て、「使ったほうがいいよ」と教えてくれたものです。
親近感があって、皆さんに喜んでもらえる、お気に入りのハッシュタグです。
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クリエイティブディレクター
株式会社かげこうじ事務所代表、マーケター。早稲田大商学部卒業後、雪印乳業を経て、2003年にエステー入社。同社を日本有数のコミュニケーション力のある企業に導く。同社執行役を経て、2020年に独立、かげこうじ事務所を設立。代表作は消臭力CM。11年震災直後の「ミゲルと西川貴教の消臭力CM」で一大社会現象を起こす。現在、グロービス経営大学院 教授、エステー コミュニケーションアドバイザー、日経クロストレンド アドバイザリーボードメンバー/Ad-tech 東京ボードメンバー。著書に『愛されるアイデアのつくり方』(WAVE出版)、『「心」が分かるとモノが売れる』(日経BP社)などがある。
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(クリエイティブディレクター 鹿毛 康司)
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