1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

待ち時間を短くするための"滑り込み受診"はダメ…現役医師伝授「質の高い医療を受けるちょっとしたコツ」

プレジデントオンライン / 2024年7月18日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokoroyuki

同じ病院を受診するにしても、より質の高い医療を受けるにはどうすればいいか。内科医の名取宏さんは「受診のタイミングや問診への答え方などに、いくつかのポイントがある」という――。

■公平で質の高い医療が受けられる日本

日本は諸外国と比べ、質の高い医療を公平に受けることができる国です。なぜなら、すべての人が公的医療保険に加入することで支え合う「国民皆保険制度」があり、医療サービスの値段が公定価格で定められているから。

それに対して、例えば公的医療保険が限定的なアメリカ合衆国では病院が自由に値段を設定できるため、医療費が高くなりがちです。医療費が支払えないために自己破産する人が多く存在するほど。イギリスでは医療費の自己負担はなく無料で受けることができますが、その代わり受診先は選べず、まずはGPと呼ばれるかかりつけ医を受診し、必要があれば専門医に紹介される仕組みです。近年は医療従事者が不足しており、この時点で数週間の待ち時間が生じることもあります。

日本では全国どこでも同じ値段でクリニックを選んで受診でき、待ち時間があるとしても長くて数時間。このような国は世界でもめずらしいといえます。しかし、すべての患者さんが満足できているわけではありません。医療者側も常に努力していますが、患者さん側のご協力があれば、よりいっそう質の高い医療を提供することができます。そこで今回は、よりよい医療を受けるためのちょっとした秘訣についてお話ししたいと思います。

■受付終了時間ギリギリの受診はよくない

まずは、受診する時間帯について。待ち時間が少なくなると考えて受付終了時間ギリギリに受診される患者さんもいますが、あまりおすすめできません。仕事の都合や急な症状でどうしても時間が取れない場合は仕方がありませんが、ゆとりをもって受診していただいたほうがよい医療を受けられる確率が高くなります。

常に最善の診療をするのが理想ですが、医師も人間です。十分な時間が取れないと焦ってしまい、いつものような診療ができるとは限りません。また採血や画像検査の結果が出るのを待っていると完全に時間外になります。そうなると、検査結果などは翌日に持ち越しになるかもしれません。

また、転院が必要な病状だったとしても、遅い時間だと多くの病院が業務を終了してしまうために選択肢が狭まります。同様の理由で、連休直前や連休の合間の平日には、急を要さない受診は避けたほうが賢明です。

■問診では具体的に話したほうがいい

次に、患者さんから病状を聞き取る「問診」では、ほんのちょっとしたことがよい医療につながります。とても簡単なことなのですが、医師の質問に対して可能な限り具体的に答えていただくことです。

たとえば胸の痛みを主訴として受診したとしましょう。胸痛といっても原因となる疾患はいろいろありますから、問診によって鑑別疾患を絞り込まなければなりません。胸痛はいつから、どのような頻度で、どれくらいの持続時間なのかを尋ねられたら、できるだけ詳しく教えましょう。

つまり「最近になって、ときどき胸の痛みを感じます。痛みはちょっとの間だけ続きます」よりも、「3週間ほど前から1日に1回か2回、胸の痛みを感じます。痛みの持続時間は数秒から長くて1分間ほどです」と説明してくださると、より正確な診断につながりやすくなります。よく言われていることですが、受診前からの症状の経過、質問したいことなどメモしておいていただくと、伝え忘れや聞き忘れもなくなりますよ。

胸を押さえる男性
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

■問診なしの検査や薬の処方は不可能

ときに「問診はいいから検査をしてほしい」と言う患者さんもいます。胸痛の場合は「胸部CTを撮ってほしい」と指定されることも。しかし、胸部CT検査を行ったからといって、必ずしも胸痛の原因がわかるわけではありません。胸痛は「心筋梗塞」や「逆流性食道炎」によっても起こりますが、これらの病気はCTではわからず、それぞれ心電図検査や上部消化管内視鏡検査が必要です。つまり、問診によってどの検査が必要なのかの判断が変わります。

また同様に「問診はいいので薬をください」と言う患者さんもいます。でも、例えば風邪だった場合、薬は風邪そのものを治すのではなく、症状をやわらげる効果しかありません。つまり適切な薬を処方するには、いつごろからどのような症状(発熱、鼻水、のどの痛み、咳など)があるのか、具体的に教えていただく必要があります。患者さんがどのような症状に困っているかによって処方内容が違うのです。

それでも普通の風邪程度なら、処方が少々不適切でもそのうち自然に治ります。でも、もしかすると風邪ではなく肺炎などの重篤な病気かもしれません。まれに問診や診察を省いて患者さんの希望通りに薬を処方する医師もいますが、重篤な病気を見落とされるリスクがあることを知っておきましょう。

■診察室で上手く話せない場合

もちろん、問診時に緊張してうまく話せない方だっているでしょう。ただ、医師は問診に慣れていますから、順序立ててお尋ねします。大事なのは、この医師からの質問をきちんと理解して、答えようとしていただくことです。

ご自身の治療中の病気や服用中の薬、過去の病気である「既往歴」、親族の治療中の病気や既往歴である「家族歴」も重要な情報ですので、忘れずにお知らせください。薬に関しては正確な名前がわからないといけませんから、お薬手帳を持参しましょう。

一方、逆に話が長すぎるのもよくありません。病気に関係していることならまだいいのですが、まったく関係ない世間話を長々とされることがあります。もちろん、患者さんの話に耳を傾けることは医師としての大切な役割の一つですし、雑談の中から重要な情報を得ることもありますから、お話をすること自体が患者さんのケアになるのはよくわかっています。それでも外来では他の患者さんが待っているので、ある程度の時間しか取れません。他の方をずっとお待たせするわけにはいかないのです。

おくすり手帳
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■家族が入院したときに大切なこと

さて、ご家族が入院した場合にも大切なことがあります。それは治療全般、いざというときの胃瘻(いろう)造設や延命処置についてどうしたいか、ご本人や主要な親族と話し合っておくことです。またご本人の意思決定がすでに難しい場合、ご家族の代表一人を決めましょう。複数のご家族の意見が異なる場合、治療方針が定まらず、患者さんのためにならないからです。

以前、脳梗塞後の嚥下障害から誤嚥性肺炎を起こして入院した高齢女性を担当したことがあります。肺炎は治癒したものの、リハビリを行っても嚥下機能は回復せず、十分な経口摂取ができなくなりました。本人は高度認知症で意思表示はできません。胃瘻を造って経管栄養を行えば当面の必要カロリーは補充できますが、自然なかたちでお看取りするという選択肢もあります。胃瘻を造るか造らないかは価値観の問題で、医師が決めることはできません。本人が意思表示できない以上、ご家族に決定していだたかなければならないのです。

患者さんには息子さんが二人いて、一人は胃瘻造設に賛成、もう一人は反対でした。「胃瘻を造って少しでも長生きしてほしい」、「体に負担になることはせず安らかに見送りたい」、どちらのご意見もよくわかります。説明の時間を十分に取って意思決定の支援をしましたが、かなり揉めて治療が遅れ、スタッフも疲弊しました。

■「カリフォルニアから来た娘症候群」

このほか近くに住んでいるご家族と十分な時間をかけて話し合い、決まっていたはずの治療方針が、遠くから来たご家族にひっくり返されることもあります。海外でもこうした事例はあるようで、「カリフォルニアから来た娘症候群」と呼ばれています(※1)

当然、遠くの家族は娘とは限りません。九州で勤務医をしてきた私の経験では、治療方針に異議を唱える遠くの家族は、たいてい「東京から来た息子」でした。九州在住の娘がずっと親の介護をしてきたものの病状が悪くなり、積極的な延命処置はせずに自然にお看取りしましょうという方針だったものの、東京から帰ってきた息子が反対して人工呼吸器の装着や大学病院への転院を要求するのが典型的なパターンです。

息子さんの気持ちもわかります。久々に会った親が弱っているのに、積極的な治療はしないというのですから、何かしたいと考えてしまうのは無理もありません。ですが、現場は混乱します。しかも、お看取りが選択肢に入るような高齢者に高度医療をほどこしても効果は乏しく、かえって本人の苦痛を増やすことになりかねません。こうしたことを避けるため、私は「他に主治医の説明を聞きたいというご家族がいらっしゃれば、ご説明の用意があります。電話でもかまいません」などと説明しておくようにしています。

※1 The Daughter from California syndrome

病院のベッド
写真=iStock.com/LightFieldStudios
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LightFieldStudios

■医療の質を上げるコスパのいい方法

最後に、質の高い医療を受けるために、きわめてコストパフォーマンスがよい方法をお教えします。それは、患者さんも医師もお互いに丁寧な挨拶を心がけることです。

当たり前のことだと思う人も多いと思いますが、現実では必ずしもそうではありません。医師にも横柄な態度をとる人がいるように、患者さんにも横柄な態度をとる人もいます。かつては医師が高圧的で威圧的な態度をとることが問題とされていましたが、今では医師と患者の関係が対等になってきていることの表れかもしれません。対等な立場になるのはとてもいいことですが、そうであっても挨拶をしないのは礼を欠いています。

医師には礼儀正しくする一方で、看護師やそのほかの職員には横柄な態度を取る患者さんもいます。看護師もプロフェッショナルですから、そんなことで看護の手を抜いたりすることはありませんが、信頼関係を築くのは難しいでしょう。丁寧な挨拶をするだけで信頼関係を築けるのなら、やって損はありません。

患者さんとご家族、そして医師とさまざまな医療職が協力し合うことで、よりよい医療を提供できます。みなさんのご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

----------

名取 宏(なとり・ひろむ)
内科医
医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。ハンドルネームは、NATROM(なとろむ)。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』『最善の健康法』(ともに内外出版社)、共著書に『今日から使える薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)がある。

----------

(内科医 名取 宏)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください