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家具を捨て、結婚も子供も車も時計も諦めた…年間800食、世界を舞台に食べ歩く50歳"フーディー"の生き様

プレジデントオンライン / 2024年7月23日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Gins Wang

レストランレビュアーランキング世界1位になった日本人がいる。浜田岳文さん。世界中のレストランを食べ歩き、年間の外食回数は800回に上る。そのライフスタイルを選ぶために浜田さんが捨てたものとは――。

※本稿は、浜田岳文『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

■好奇心の赴くままに世界中で食べる

フーディーという言葉をご存じでしょうか。

平たくいえば、世界中を飛び回り、現地の美味しい店で食べる、これを日常的に繰り返している人たちのことです。僕自身、まさにこのフーディーという生き方をしている1人です。

これまで南極から北朝鮮まで、世界127カ国・地域で食べ歩いてきました。その体験を、自分のSNS含む国内外のメディアで発信しています。

2017年度には「世界のベストレストラン50」(The World's 50 Best Restaurants/1000人強の投票によって世界ベスト50のレストランを選ぶアワードです)のすべての店を訪れたのですが、翌2018年度から6年連続で、「OAD世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキングで、第1位にランクインされることになりました。現在でも、好奇心の赴くままに世界中を旅して食べ歩いています。

今年6月に米・ラスベガスで行われた、2024年版「The World's 50 Best Restaurants(世界のベストレストラン50)」受賞式の様子。日本のレストランからは「セザン」「フロリレージュ」「傅」がランクインした。
写真提供=50 Best
今年6月に米・ラスベガスで行われた、2024年版「The World's 50 Best Restaurants(世界のベストレストラン50)」受賞式の様子。日本のレストランからは「セザン」「フロリレージュ」「傅」がランクインした。 - 写真提供=50 Best

■外食を求めて、家具を捨てた

食についての考え方は、人それぞれだと思います。栄養補給ができればいい、お腹がいっぱいになればいいという人もいるでしょう。僕は今、サービスアパートメント(家具家電付き・清掃サービスありのアパート)に住んでいますが、入居するときにすべての家具を処分しました。元々家具は好きで、オーダーで作ってもらったりするくらいだったのですが、今のライフスタイルになって自分で部屋の維持管理が不可能になったので、好きな家具に囲まれた生活を諦めました。何かひとつのことを追い求めようと思うと、他のことを犠牲にせざるを得ないこともあります。なので、食事を楽しむ時間があれば、自分が熱中している他のことに使いたい、というのはある意味共感できる生き方です。

■食事の理由は人それぞれでいい

食べるのが好きという人でも、その多くは、「うまい」がプライオリティになっているのではないかと思います。高級だったり希少だったりする食材や、まずくなりようがない旨味の強い食材。そして、それらをふんだんに使った料理に興味がある。音楽でいうと、いかに耳当たりがよいか。ビジュアルアートでいうと、いかに美しいか。普段本業で疲れているのだから、おいしいものを食べるときくらい、何も考えずに楽しみたい、こういう向きもあるでしょう。

あるいは、食事は、友人と豊かな時間を過ごすためのお供だったり、接待で取引先を喜ばせて商談につなげるためのツールかもしれない。僕の周りには、何を食べるかではなく、誰と食べるかが大事、という人も多いです。これも、ひとつの考え方としてありだと思います。

食事に興味がある人の中でも、自分で作って食べるのが好きだったり、誰かに料理を振る舞うのが好きという人もいます。これもまた、料理をしない僕からしたら素敵だと思います。その他、外食するとしても、お店の雰囲気で選ぶ人がいれば、価格帯で選ぶ人もいる。同じものを食べ続ける人もいれば、未知のものを食べてみたい人もいる。いろんな食への関わり方があっていいと思います。

オープンキッチンで盛り付けをしているシェフ
写真=iStock.com/FilippoBacci
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FilippoBacci

■料理人が作る、外食にしか興味がない理由

僕自身は、食の中でも外食に興味を持っています。そして、食を通して料理人というクリエイターの作品を鑑賞し享受することを目的にしています。僕は音楽も食と同じくらい好きなのでよくライブやフェスに行くのですが、アーティストのパフォーマンスを鑑賞して楽しむのと同じ感覚で、レストランで料理人の料理をいただいています。食だけじゃなく音楽でもビジュアルアートでも同じですが、自分にはないオリジナリティを自分自身が作った作品から感じるということは、偶然の産物でない限りありませんよね。なので、誰かが作る食事にしか興味がありません。

端的にいうと、僕は外食に特化していて、料理からクリエイティビティを享受するために食べている。同時に、人それぞれ人生の優先順位が異なり、食をどう位置づけるかも違うので、そうでない食との接し方を否定するものでは全くありません。いずれにしてもいえるのは、食は生物として生まれてきた限り、関わらざるを得ないものだ、ということです。そして、一生のうち、食べられる回数は限られています。僕は、その1回1回を大切にし、好奇心が満たされる文化的にも有意義な体験にしたいと思っていますが、あなたはどうでしょうか?

■フーディーのリアルな懐事情

フーディーは、レストランで食べることを目的に、世界中を旅しています。食べたものやレストランなどについてメディアで発信することもあり、それで対価をもらうケースもあるかもしれません。しかし、1食数万円という食事も珍しくなく、食べるための出費を考えると、入りと出は間違いなくバランスしていません。

したがって、自分自身が飲食業に携わっている人以外は、収入は他で確保している、というケースがほとんどです。その意味では、職業というよりもウェイ・オブ・ライフ、「生き方」ということになるかと思います。

レシートとスマホを手に計算している人の手元
写真=iStock.com/Khanchit Khirisutchalual
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Khanchit Khirisutchalual

僕はアメリカの大学を卒業後、外資系の投資銀行に入社。投資ファンド2社を経て独立し、現在はエンターテインメントやホテルグループ、フードテックなど複数の企業のアドバイザーやスタートアップへの投資を行っています。

東京に家はありますが、オンラインでの仕事も多いため、まとめて海外や地方都市に出かけることが少なくありません。1年間をトータルで見れば、おおよそ海外が5カ月、地方都市が4カ月、東京の滞在は3カ月程度になります。

そして、ほとんど毎日、どこかのレストランやお店で食べています。この原稿を書いている少し前には、イタリアに2週間行っていましたが、最終日の夜を除いて、14日の滞在のうち昼と夜、計27の食事をすべて予約したレストランで食べました。

基本的に朝は食べないのですが、オーベルジュと呼ばれる宿泊機能を備えたレストランに泊まると、朝ご飯も食べるべき食事だったりするので、それも合わせると、2週間で35回は食事したと思います。海外と地方の9カ月が1日平均2.5食、東京の3カ月が平均1.5食なので、平均すると1日2.25食、年間800回以上外食していることになります。世の中には年間1000軒以上食べ歩いている人もいるので、フーディーの中では飛び抜けて多くはありませんし、数が多いだけではなんの意味もありません。ただ、フーディーでない方から見れば、理解不能な外食回数ではないかと思います。

■食事と旅のために全てを犠牲にできるか

よくいわれるのが、「よほどお金と時間があるんですね」「贅沢なライフスタイルで羨ましい」。世の中には、お金と時間があり余っているから世界中を旅して食べている人もいるでしょう。ただ、多くのフーディーは、他の趣味や生きがいに打ち込んでいる人と変わらず、特に富裕層ばかりではありません。単純に、お金を使うプライオリティの問題なのです。

浜田岳文『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』(ダイヤモンド社)
浜田岳文『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』(ダイヤモンド社)

僕は、日本人の平均よりは所得が高いとは思いますが、それでもこのライフスタイルを維持する形でしか仕事を受けられないので、金融業界に残っていたことを考えたら収入は格段に低い。「親がお金持ちなんでしょ」とか、「金融時代の貯蓄があるんでしょ」といわれることもありますが、親は地方公務員だったし、先祖代々の遺産もありません。金融といってもトレーダーやセールスではなく投資銀行やファンドで、かつ10年で辞めたので、そこでの蓄財も少なかった。そして、なけなしの貯金のほとんどを2年間の世界一周の旅で使ってしまいました。

では、なぜ僕が世界中を食べ歩けているのか。それは、いろんなものを犠牲にして、食と旅に全振りしているからです。自分が興味がある特定少数のこと以外に、全くお金を使っていない。

ちなみに2024年で50歳を迎えましたが、いまだに独身です。今のライフスタイルを続ける限り、結婚したり、子育てをすることは難しいかもしれません。ふと思い立って、週末から2週間イタリアに行ってくるね、というのは特に小さい子どもがいたら許されないであろうことは、未婚の僕でも想像できます。だから、もし僕のライフスタイルを羨ましいと思うなら、結婚を諦めて、子どもを諦めて、車や時計を諦めて、他の趣味も諦めて、食以外の出費を最低限に押さえればいい。そうすれば、全く同じでないとしても似たような生活は誰でもできるようになります。ただ、そんな偏った生活は絶対におすすめしないし、ほとんどの人はしたいとも思わないでしょうが……。

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浜田 岳文(はまだ・たけふみ)
美食家、フーディー
1974年、兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中に、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するため、フランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約127国・地域を踏破。「OAD世界のトップレストラン」のレビュアーランキングでは、2018年度から6年連続第一位にランクイン。株式会社アクセス・オール・エリアの代表として、エンターテインメントや食の領域で数社のアドバイザーを務めつつ、食関連スタートアップへの投資も行っている。

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(美食家、フーディー 浜田 岳文)

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