「最近、ろくなアイデアが浮かばない」のは年齢のせいではない…ダラダラ仕事がシャキッと進む意外な習慣
プレジデントオンライン / 2024年7月19日 17時15分
※本稿は、イ・ダヘ『仕事帰りの心 私が私らしく働き続けるために』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■毎日の仕事で必ず守るべき「最低ライン」を設定する
私の場合、仕事の効率が一番いいときは、適切に休憩時間をとれるときです。ちゃんと休むと、無理しなくても考えごとをどんどん発展させられるし、短時間に集中できます。
でも、ルーティンをつくって守ろうと努力するにあたって、もっとも神経を使っているのは「ベスト」を維持するのと同じくらい「最低」ラインも設定して、それ以下にならないようすることです。仕事の「過程」に没頭できるようにするためのベストな方法、それは「いつもの自分」の扱い方にかかっています。
最低ラインを守るルールをつくった経緯は、東西のクラシック演奏家の練習を見たのがきっかけでした。もっと正確に言うと、「毎日」一定の仕事をするように努力するすべての人々を目にしたのがきっかけになりました。
コロナ禍に、仕事関連のビッグインタビューを何度か担当し、さまざまな分野で働く女性たちの「仕事」と「進路」をテーマにしたインタビュー集『明日のための私の仕事』(내일을 위한 내 일、未邦訳)や、韓国映像資料院とともにYouTubeを通じて映画界のあらゆる分野のスタッフに行ったインタビューがそれにあたります(『私たちが映画をつくります』)。
■気分に左右されず毎日努力するプロフェッショナルたち
「仕事」にフォーカスをあてて話を聞いていると、彼らの「見えない努力」が目に入ってきました。毎日繰り返す練習やトレーニング、勉強です。
毎日眠るように、毎日ご飯を食べるように、練習したりトレーニングしたり勉強したりする。ウォーミングアップと全力疾走の間に、その日その日に割り当てられた分量をこなす。一般人から見ると全力疾走のレベルで、彼らが判断する全力疾走の基準ではウォーミングアップレベルのことをしながら一定時間を過ごす。彼らのモットーは「一日でも休むと(翌日の)自分が(低下した力量を)わかる」というもので、もちろん文字どおり一日もかかさずという意味ではないにせよ、「できるのに気分やコンディションを理由にしてやらないということはない」のです。
もっと知りたい人のために断言するなら、「できない」状況とは、「やりたくない日」ではなく、入院だとか長距離移動、冠婚葬祭などの外部的な状況を言います。
■1日の中でとにかく集中して取り組む1時間を設ける
実のところ、私はそういう毎日の練習やトレーニング、勉強などの話を聞くと、ちょっと羨ましくなってしまいます。私も本を読まない日は一日もないといえるレベルなので、まあ、毎日勉強していると言えないこともないのですが、ゆるい読書と勉強のための読書は同じはずがありません。
日常から脱して、何かに没頭する時間をもつべきなのでしょうが、演奏家やスポーツ選手の「毎日の練習」に対する崇高なまでの献身を簡単にまねるのは至難の業です。
それでもあえて、「かかさず集中する一時間」をつくるために努力するのです。勉強にせよ読書にせよ、なんにせよ、事前に計画したとおりに集中する時間をもとうとします。一定量の文章を読んだり、書いたり、一定時間体を動かす。「だめなら仕方ない」という考え方をやめて、「なにがなんでもやってみよう」と行動してみるのです。
仕事とは関係のない没頭時間をつくるために一番重要なのは、「しっかり休んだ体」でもあります。だから、結果的には規則正しい生活をするようになります。こうして最低ラインを徐々に上げていけば、いつしか最高のパフォーマンスを更新できるはずと、自信をもてるようになるのではないでしょうか。
■うまくいっていた良い習慣をやめるのは難しい
キャリアのある人たちが自分のことを昔の人、と感じ始めたら、これまでうまくいっていたやり方を改めたほうがいい、というアドバイスがあります。よい習慣も習慣ではあるから、繰り返しそのものによるメリットもあるでしょうが、創意力や瞬発力だけでは難関を突破できないものです。
現状を変えるための習慣を身につけて問題から抜け出そうとする試みは、その習慣に固着していると、逆にやり方そのものが新たな問題になりかねません。例えば、(ボスの決定の代わりに)オープンマインドなディスカッションを通じて部署内の問題を解決する方法を選んだ人たちは、話がいつまでもぐるぐる堂々巡りしているように感じながらも、やめられないときがあります。
誰も責任をとらない安全な解決策が出てくるまで、あるいは、「じゃあ、とりあえずこのまま様子見ていきましょうか」といったあいまいな言葉を誰かが言いだすまで会話を楽しむ。問題を解決しようと集まったのに、会話を楽しむだけで答えを見つけられない? そんなことはあるはずがないと言いたいところですが、これがなかなか思いのほかよくあることなのです。
ときには、よい習慣のせいで順調に道を進みすぎるあまり、ほかの方向にはシフトできなくなってしまう場合もあります。
■「ほかの場所に行きたいなら2倍の速さで走らねばならん」
小説『鏡の国のアリス』では、アリスが庭をもっと素敵にしようと丘に上るエピソードがでてきます。
こっちの道だと思ったのに迷ってしまい、「帰ってくる」道を確かめてからまた別の道を選んでいってみます。ところが、どの道をいっても家に戻ってきてしまいます。アリスは鏡を潜り抜けて前に住んでいた家に帰らなければと思いながらも、冒険が終わってしまうのが惜しくて丘に向かう道を探しに出ては戻ってくるのを繰り返す。
同じ地点にばかり戻ってきていたアリスにバラが言います。「悪いことは言わないから、花のほうへ歩いてらっしゃい」。アリスはもちろんその言葉を無視しますが、また失敗して戻ってくると結局は反対方向へ向かうことにして、ついに別の道を見つけます。つまり、道だからといってすべてが目的地にたどり着けるわけではないのです。
その直後、アリスは女王に会います。女王は丘のてっぺんでアリスにチェス盤のような模様をした土地を見せます。アリスが興奮してチェスの馬になってゲームをしてみたいと言うと、女王はチェス盤で女王になれる方法を教えてくれて、突然アリスの手をとって全速力で走るのです。息継ぎもできないほどの速さで走っていたのに、止まってみると走り始めたときに立っていた木の下にいます。アリスがびっくりすると、女王がなぜかと尋ねます。
「そのう、あたしたちの国では、今みたいな速さで、こんなに長く走ったら、ふつうどこかほかの場所に着きます」
女王の答えはこうです。
「それはまた、のろい国じゃな! よいか、ここでは、力のかぎり走らねばならんのじゃ。もしどこかほかの場所に行きたいのであれば、少なくとも二倍の速さで走らねばならんぞ!」(脇明子訳、岩波少年文庫)
■ルーティンを守れば目標が達成できるわけではない
ものすごく速く走ればほかの場所に行けるとアリスは信じていたのに、鏡の国では通用しませんでした。道は互いに通じていると信じていたのに、そうじゃなかったのです。
新しいルールを適用しなければならないとき、過去のルールに埋もれていたら、「決して」目的地にはたどり着けません。ルーティンをつくってその中で誠実に反復を繰り返すのも魅力的ですが、ルーティンを守るからといって目標を自動的に達成できるわけではありません。
回し車をちゃんと回せる能力と、回し車の外で出口を探す能力は、それぞれ異なる性質のものであり、ルーティンが確固たるものであればあるほど、ときにはそれ以外のところで考えるトレーニングが必要になります。
いくらよい習慣だとしても、それはあくまでも習慣。堅固な枠なのです。
■自分が得意だと思っているやり方を変えてみる
ありきたりな考えにとらわれていると感じ始めたら、自分にぴったりで、自分が得意だと思っているやり方のうちの一つぐらいは、新しいものに変えてみましょう。
会議のスタイルや報告書作成の方法を変えてみたり、日課をこなす方法を変えてみてもいいかもしれません。今までは午後のほうが集中できたけれど、いつからか午前中のほうが効率がよくなっている場合もあります。
あなたの働く業界がそうであるように、あなた自身も変化している生命体なのです。自分の知識や判断に限界があると認めるとき、人は謙虚になって変わることができます。だからこそ、異業種の人に会ったり、関連書籍を読んだりする時間は、私にとっても大切な時間になっています。「箱の外に出て考えてみること」ほど、効果のあるシークレットキーはありません。
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著述と公演を生業とする。CGVシネライブラリー「イ・ダヘのブッククラブ」、ポッドキャスト「イ・ダヘの21世紀シネフィックス」、ネイバーオーディオクリップ「イ・スジョン、イ・ダヘの犯罪映画プロファイル」のパーソナリティを務めた。現在KBSラジオ「イ・ダヘの映画館、チョン・ヨウルの図書館」を担当。著書に『明日のための私の仕事』『旅の言葉』『朝食:朝食中に思ったこと』『とにかく、スリラー』など多数(すべて未邦訳)。
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(作家、映画雑誌記者 イ・ダヘ)
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