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プレゼンは「まったく新しいアイデア」を出すと大失敗する…クリエイターが「資料はありきたりでいい」というワケ

プレジデントオンライン / 2024年7月22日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Cecilie_Arcurs

プレゼンで企画を通すにはどうすればいいか。韓国のエッセイスト、イ・ダヘさんは「まったく新しいアイデアをすぐに受け入れられない人は少なくない。見慣れたものと新しいものを組み合わせることが重要だ」という――。

※本稿は、イ・ダヘ『仕事帰りの心 私が私らしく働き続けるために』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

■新しいアイデアのつもりでも流行の影響は受けている

インスピレーションを受けた文章やイメージを集めておいて、しょっちゅう見るようにしています。目的意識を持たずに場所を選択し、視線を向けてみます。

こうしたことは、あなたと似たような年齢、性別、所得水準、趣向を持った人たちの関心を惹く新たな企画を立てるときに役立つでしょう。新しいとは言ったものの、意識しない企画は結局、今流行している方向を向くようになっているものです。

あなたがなにげなく見つけたり、気づいたりしたと思っていたものは、本当は流行中だからあなたの目につきやすくなっていただけ。意図しないアイディアというのは、だいたいこういうケースで生まれる場合が多いのです。

画家や詩人はよく、創作方法論などを語るときに、子どもの視線で物事を見つめようと強調します。普通は脳が見えるものをそのまま見て、脳が聞こえてくるものを聞く。その作業を純粋に見えるとおりに見て、聞こえるとおりに聞く訓練をするのです。

一般論をつくりだす作業から始めるのではなく(最近の〜は、みんな〜してる、こういう〜は、ほとんどが〜という理由からです)、初めて接する人の観点を持つよう努力します。

■人はまったく見慣れないものには好感を持ちづらい

資料を目的に合わせて新しく分類し組み合わせる。このとき、目的になるキーワードは具体的であるほどよいでしょう。予想可能な企画案を新鮮な単語で改めてオーガナイズしてみましょう。あなたが普段なにげなく感じていることではなく、違和感があったり不思議に思ったりする新たなファクターの使用頻度を高めて、企画をつくってみるのです。

見慣れたものは悪く、新鮮なものがいいと信じている人たちも大勢いるものです。実際には、見慣れない新しいものがすぐに好感を得るのは難しく、会議の外に出ることすらできないアイディアもあります。慣れたものを「パターンで」新しいものと組み合わせると、新しいだけのものを提示するときよりずっといい結果につながることもまた多々あります。

度重なる会議の終わりに、みんなが探していたものが、そもそも新しくすらなかったことに気づくケースも同様によくあります。

■知っているはずのものを組み合わせ方で新しく見せる

単純に流行っているからよく目につくだけのアイディアを、これはいいと評価する確率も高いですが、同じ理由で、新しいという感覚も慣れをベースにして若干アレンジするだけでも十分なときがあります。見慣れない新しいものには抵抗を感じ、すっかり見慣れたものは旧態依然だとしりぞける。その中間あたりから始めて、アイディアを採択する人のクリエイティビティ次第でもっと身近なものにするか、反対に遠ざけていくのか決めればいいのです。

ただし、慣れをべースにするとはいえ、予測可能なイメージを与えてはいけません。どこかで見たような気がするという言葉は、ありふれているという言葉と同じなのですから。

きらっとしたアイディアであればあるほど、ほかの人のものと似ている場合があります。私たちが日常で見聞きしていることにはさほど大差はないものですが、その組み合わせ次第で生まれた輝くアイディアがものすごく特別なものになるはずはありません。

誠実なリサーチは一見すると、とても慎重で保守的に見えますが、すでに存在しているものを把握しない限り、この世にまだないものがなんなのかはきちんとわからないものです。

■どうすれば自分の生活に偶然性を取り入れられるか

『TIME SMART お金と時間の科学』(アシュリー・ウィランズ著、柴田裕之訳、東洋経済新報社)という本におもしろいエピソードがでてきます。

時間に追われて暮らしていたモニカは、時間管理についての自己啓発書をいくつか読んでから、「断る練習をせよ」というアドバイスに影響を受けました。そこで、たいていのことは断ろうと実行に移してみるのですが、心から付き合ってみたいと思う人たちからの誘いを断ってまで、いざ自分の時間を確保してみるとなんとなく後味が悪い。その後、アドリブ演技のクラスをとってから、自分の「断る」ルールを修正しますが、そのクラスでは極端にすべてに「YES」と言うトレーニングをさせられます。

モニカは自分の暮らしに即興性と偶然性を望み、自分に何かを望む人たちからの会いたいというリクエストをまずは一度すべて承諾して、それ以上の要求については水曜日に限っては許容するということにしたのです。

■あらゆる物事を最短距離でこなすことが可能になった

予測不可能な隙間時間を許さず、10分単位で時間管理をする人も大勢います。計画がないと時間の無駄遣いになってしまうからです。時間管理のみならず、あらゆる面で「最短距離」を優先しようという考え方はめずらしいものではありません。

測定技術が発達して、いざとなればなんだって測定できる時代です。道を探すときは地図アプリの画面だけを見て歩く。文化的なイベントもすべて誰かが選んでおいたリストをチェックする。本を購入するときはインターネット書店のキュレーションされた画面の中から選ぶか、誰かの推薦を参考にする。リアル書店でも誰かが陳列しておいた本を見るのだから同じではあるものの、露出している本の種類も数も桁が違います。

書店に積まれた本
写真=iStock.com/Svetlanais
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Svetlanais

関心のある分野の本ではないものの、存在すら知らなかった本、偶然そこに置かれている本を手にして選ぶことは、オンライン書店ではなかなか期待できません。地図アプリが教えてくれる道だけを歩いていけば、ふと迷い込んだ道でお気に入りのお店を見つけるような偶然もなかなか起こりません。

もちろん、そうした迷う労苦や無駄を減らすための生産性ツールの発展はメリットですから、今になって文明の利器を諦めろという話ではありません。ただ、偶然が入り込む余地をつくっておきましょうと言いたいのです。

■約束の時間に早めに着いたら街をぶらついてみる

図書館に行くときは、自分の探していた本と、なんとなく偶然目に入ってきた本が半々の比率になるよう心がけたりしています。約束の場所に早めに着いたときや、用事が早めに終わったときは地図アプリを見ないで路地をぶらついてみます。ヒップだといわれているスポットに出かけてインスピレーションを得るのもいいでしょう。

偶然がつくりだす組み合わせを自分のスタイルでつくりあげて企画するという、仕事が与えてくれる特別な楽しみもまた逃してしまってはもったいないと思います。

正反対の場合もあります。デザイナーの佐藤オオキさんは、きらめくアイディアを得るために変化を減らすそうです。出張に行くときにはできる限り普段使っているモノを持っていき、変化に適応するためのストレスを減らす。全力で同じリズムを繰り返さないと、クリエイティビティが必要なときに爆発的な力を発揮できないのだそうです。

要は、人それぞれ自分がどういうときに新しいアイディアが浮かぶのかをいろいろと実験してみながら、自分のものにしていくといいのかもしれません。

■マーベル・シネマティック・ユニバースを成功させた4要素

『ハーバード・ビジネス・レビュー』(2019年7・8月号)に、「ブロックバスター」という記事が掲載されました。この記事では、フランチャイズ映画を新しく定義したといっても過言ではない「マーベル・シネマティック・ユニバース」のヒットの秘訣を興味深く分析しています。

今までのフランチャイズ映画は続編が出るたびに、つまらないと言われてきました。パターンの繰り返しがメリットであり限界だったからでしょう。連続性と新鮮味の間でバランスをとるのは、口で言うほどたやすくはなく、どちらか一方に傾いた瞬間、根強いファンから酷評されたり、一般観客には無視されたりしてしまいます。マーベルはどうやってここまで成功したのでしょうか。

その答えを4つに分けて提示しています。

(1)経験のある未経験者を選ぶ
(2)核心チームがもたらす安定感を利用する
(3)過去の成功法則に挑戦し続ける
(4)顧客の好奇心を育てる

■長期の巨大プロジェクトでチームをどうマネジメントしたか

この中で内容についての言及は(2)を除いた3つ。

(1)は必ずしもスーパーヒーロー映画の経験のない監督でも、大きな予算の映画を手掛けたことのない監督でも、世界観のはっきりしている監督や俳優を起用するというやり方です。

(3)もコンテンツについての言及で、マーベル映画は前作と有機的に連なりながらも違いがあるという点です(記事が書かれてから3年が過ぎた2022年に公開された『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』までこうした原則は続いています)。

脚本を分析してみると、互いに異なる感情的なトーンやビジュアルイメージを描こうとしています。しかし、こうした戦略は『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』では無残にも失敗しており、かなり長い間新作が出なかったうえに(シリーズの伝統に保守的な)ファンたちの多いシリーズは、新しいものを試みようとすると抵抗にあいやすいのです。

(4)は特典映像やレファレンスについての言及です。しかし、(2)の「核心チームがもたらす安定感を利用する」はチームの構成についての話で、連続性がありながらも独立的で巨大なチームをどのように組織するかの問題を扱っています。

「新しい人材と意見とアイディアのバランスをとるために、マーベルは次の映画制作に入るときに、前編で一緒に働いていた人たちのうちの数人をそのまま採用した」(前出『ハーバード・ビジネス・レビュー』より)

■既存メンバーを残すことは安定感をもたらす

このようにして維持される核心的なメンバーは、新たにチームに合流した人たちにとっては「一緒にやっていきたい共同体」という感覚をもたらしてくれます。核心チームがもたらす安定感は、イノベーションをサポートもしてくれます(そろそろあなたは、自分の所属している組織はマーベルみたいなところじゃないと抗議したくなっているかもしれません。どんな組織であれ、核心チームと呼ばれる人たちは先輩風を吹かせるものです)。

イ・ダヘ『仕事帰りの心 私が私らしく働き続けるために』(かんき出版)
イ・ダヘ『仕事帰りの心 私が私らしく働き続けるために』(かんき出版)

この記事では、UEFAチャンピオンズリーグの最上位レベルのサッカークラブもまた、同じ方法をとっていると説明しています。2008年から2012年までトップクラスを誇っていたバルセロナの場合、自社クラブのアカデミーで少年スター選手を育て続けることで選手を輩出し続け、核心選手層をキープすると同時に新たなスター選手の導入にも積極的だったというわけです。

お互いにまったく知らない人同士で成り立っているチームでは、新たなアイディアではなく新たに適応するのに時間がかかったり、衝突が起きたりします。すっかり慣れ合いになった人たちからは新しいアイディアは出てきません。そのため、この中でバランスをとるために社内外の人たちでチームを構成し、アップデートしていくのです。

大ヒットの後続作品の足を引っ張らないためには、これに勝る方法はないでしょう。同時に、これは映画制作に限った話ではありません。

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イ・ダヘ 作家、映画雑誌記者
著述と公演を生業とする。CGVシネライブラリー「イ・ダヘのブッククラブ」、ポッドキャスト「イ・ダヘの21世紀シネフィックス」、ネイバーオーディオクリップ「イ・スジョン、イ・ダヘの犯罪映画プロファイル」のパーソナリティを務めた。現在KBSラジオ「イ・ダヘの映画館、チョン・ヨウルの図書館」を担当。著書に『明日のための私の仕事』『旅の言葉』『朝食:朝食中に思ったこと』『とにかく、スリラー』など多数(すべて未邦訳)。

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(作家、映画雑誌記者 イ・ダヘ)

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