犠牲者ゼロで2.4キロ先のプーチン軍を粉砕する…ウクライナ軍のロボット兵器「死の鎌」の知られざる実力
プレジデントオンライン / 2024年7月23日 16時15分
■ウクライナの戦場に現れた最新ロボット兵器
テクノロジーの利でロシアに対抗するウクライナ軍が、戦場で新たな兵器を導入している。敵軍に半自動的に攻撃を仕掛ける「ロボット兵器」だ。リモート操作で地上を走行し機関銃を放つあるモデルは「死の鎌」と呼ばれ、2キロ遠方にいるロシア軍に攻撃を仕掛けることができる。
ロシアによる2022年2月の侵攻開始以降、ウクライナ軍は飛行型ドローン兵器(UAV)を導入し、ロシアもそれに追随した。今後は両軍とも地上走行型ドローン兵器(UGV)を展開し、ロボット兵器同士の戦闘が活発化するとの見方がある。
ウクライナのロボット兵器の一例として、自動照準機能を備えたロボット兵器「ウォーリー(Wolly)」がある。ピクサー映画『ウォーリー(WALL-E)』に登場する孤独なロボットにちなみ命名された。
ニューヨーク・タイムズ紙は、銃撃が響く戦場に向かい、実際の使用シーンを取材している。取材先の東部ドンバス地方の戦場では、予備役兵で23歳のユリイ・クロンザック氏が4人の兵士に対し、操作方法を教育していた。
![2024年4月27日、ウクライナ南東部ザポリージャ地方で、ロシア軍から鹵獲した多連装ロケット発射管と、ピックアップトラックに搭載された照準器を積み込むステップ・ウルブズの兵士たち。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/d/1200wm/img_2d93e2e15e3f931083567020e1efaf64551914.jpg)
■AIで自動照準、ゲーム機のコントローラーで狙撃する「ウォーリー」
ウォーリーは三脚で地面に固定する機関銃で、自動照準機能が付加されている。機関銃からコードが延び、トランクケース状の黒い箱につながれている。ケースにはタブレット画面とボタン類が収納され、さらにプレイステーションのコントローラーが延びる。
タブレットとコントローラーを使って操作し、最大1000メートル先のターゲットを自動的にロックするしくみだ。また、あらかじめプログラムした照準位置へ瞬時に切り替えることも可能で、これによって1台で広範なエリアをカバーできる。
ウォーリーにはAIベースのソフトウェアが搭載されており、監視カメラの物体識別機能に似た技術を使って自動的に標的を追跡し、発砲する。現在は最終的に手動でボタンを押して狙撃を開始する必要があるが、製造元のDevDroid社は、動く標的を追跡して命中させる自動照準機能も開発している。
クロンザック氏はニューヨーク・タイムズ紙に対し、初めてこの銃を見た瞬間から、非常に興味をそそられたと語る。「この戦争に勝つためには、あるいは少なくとも我々の陣地を守るためには、これこそ唯一の方法だと確信したんです」
■2.4キロ先からプーチンの軍隊をねらう「死の鎌」
戦闘を自動化する方針は、開戦当初から変わっていない。ウクライナのデジタル改革担当大臣であるミハイロ・フェドロフ氏は2022年3月、ニューヨーク・タイムズ紙に対し、「我々は最大限の自動化を必要としています。こうした技術が、我々の勝利の基礎となるのです」と述べていた。
自動照準機能を備えた機関銃に、さらに自動移動機能を付加したモデルも戦場に投入されている。正式名をShaBlya(シャブラ) 7.62 PKTというが、その効果の高さから「死の鎌」の異名が与えられた。英メトロ紙は今年6月、「最大1.5マイル(約2.4km)先にいるプーチンの軍隊を仕留めることが可能」と報じた。
「死の鎌」は数十センチ四方ほどの小型の金属製の箱をベースにしており、下部には自動走行のための四輪、上部には回転式の台座に乗った機関銃を備える。
メトロ紙によると、ウクライナの3つの部隊に配備されている。ある部隊では実戦において、地下壕でオペレーターがコーヒーを片手に「死の鎌」を使って発砲し、自軍の隊員の安全を確保したという。激戦地となっている別の前線で闘うダ・ヴィンチ・ウルフ大隊も、「死の鎌」が「(ロシア軍の)突撃を阻止し、多くのロシア軍を撃破した」と報告している。
■犠牲者ゼロで作戦を遂行
ロシア軍による波状攻撃を防ぐうえで、「死の鎌」は特に効果的だという。ダ・ヴィンチ・ウルフ大隊の兵士は、「敵は最終的に陣地を占領しましたが、そこにはウクライナ兵の死者はいませんでした」と述べている。
ウクライナの防衛技術クラスター「Brave1」のナタリア・クシュネルスカ最高執行責任者(COO)は、「第一に、人間の関与を最小限に抑えることが重要なのです」と、戦闘の一部をロボットに担わせる意義を強調した。
ロボットの用途は多岐にわたる。英テレグラフ紙はこのほか、ウクライナの特殊作戦部隊は、前線から人員や損傷した車両を撤退させるためにもロボット車両を使用していると報じている。
■空飛ぶドローンから地上ドローンへの変遷
これまで注目された飛行型ドローン兵器(UAV)に加え、今後は地上走行型ドローン兵器(UGV)が戦場でより多く見られるようになるとの観測が濃厚だ。
米フォーブス誌は、ウクライナ政府がUGVの量産を支援しており、複数の企業や組織が戦場でテストを行っていると報じている。その一例として、ウクライナ政府による公式資金調達機構「United24」は、戦闘、兵站、地雷敷設、地雷除去の役割を担うUGVの量産計画を発表した。ウクライナの「Brave1」クラスターもUGVの開発とテストを支援しており、14種類のUGVが実戦で使用されている。
一方、ロシアもUGVを導入している。英エコノミスト誌は、有志によって製造された「クーリエ」などのUGVが戦場で使用されていると報じる。ロシアはUGVを攻撃や後方支援に使用しており、UGVが橋を攻撃したり、負傷者を搬送したりする映像が公開されている。
ただし、UGVの導入には課題もある。エコノミスト誌は、地上での走行は飛行よりも難しく、自動運転技術の開発は特に遅れていると指摘する。空中のドローンは比較的簡単に自動飛行できるが、地上では経路上の障害物や地面の凹凸を認識して回避することが難しい。とくにUGVとの通信が遮断された場合、迷子になったり立ち往生したりするリスクが高まる。
■自爆用ロボットは15万円…兵士の命を守り、しかも安価
それでも今後、UGVの導入は増えるだろう。ロボット兵器を使用する利点のひとつに、生存率の向上がある。ロボット兵器は安全な場所から敵陣をねらうため、自軍の兵士の生存率を高める。
第2の利点は、コストの安さだ。ウクライナでは、多くのロボット兵器が市販の部品を使って低コストで製造されている。例えば、カモフラージュ塗装のリモートコントロールカーに爆薬を取り付けた「Ratel S」と呼ばれる自爆型ロボット兵器は、わずか900ドル(約15万円)で製造できる。静音性の電動モーターで駆動し、最大3マイル(約4.8km)の範囲を走行。最大35キロの爆薬を積むことが可能だ。
ウクライナのロボット兵器は一般に、身近な部品で作られていることが多い。ニューヨーク・タイムズ紙は、ラズベリー・パイなどホビー用小型コンピューターや、家電店や金物店などで入手可能な部品が使われていると解説している。
戦場に投入されはじめたロボット兵器に、西側諸国も動向に注目している。米シンクタンク「海軍分析センター」の研究者であるサム・ベンデット氏は昨年12月、米ディフェンス・ニュースの取材に応じ、「移動が困難な戦場でロボットは、兵士の負担を減らし、敵の攻撃を回避する有効な手段となります」とみる。
■ロボット兵器の役割が急速に拡大している
ロシアの本格的侵攻が始まった2022年以降、ドローンが戦闘の形を変えた。昨年後半から今年にかけ、地上ロボットの役割も急速に拡大している。これまでの戦争では、地上ロボットは主に支援任務に使われることがあった。ウクライナでは、攻撃任務にも投入され始めている。
戦場は様変わりし、ロボット同士が攻撃し合う時代へと突入する可能性がある。米ワイヤード誌は、飛行型ドローンが走行型ドローンの監視や攻撃に使われたり、走行型ドローンが飛行型を叩き落とすための妨害技術を備えたりする事例がすでに発生していると報じている。
ウクライナ軍もロシア軍も、走行型ドローンを戦場における重要な要素と認識しており、戦略や戦術に大きな影響を与える可能性がある。特にウクライナにとっては、ロシア軍の圧倒的な数的優位に対抗するうえで、ロボットの投入は必須となるだろう。
一方で、今後は戦術が変化するとの指摘もある。米国海軍分析センターのベンデット氏は、ワイヤード誌に対し、UGVの導入により、「オペレーターや支援組織を標的にする方向にシフトするでしょう」との予測を示す。
現状でも、偵察任務などをより安全に実施できるようになったとの評価がある。だが、ロボット兵器により戦場での犠牲者が本格的に減るか否かは、今後の両軍の動き次第となりそうだ。
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フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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