「ビールはミニ缶135mlがコスパも満足度も最高」お金にシビアな銀行マンが350mlや500mlに目もくれない理由
プレジデントオンライン / 2024年7月26日 18時15分
■最小のお金で最大の幸福を得る方法
私の本業は銀行員です。仕事は山積みで、昇進や昇給のためには数々の資格を取らなければなりません。旅行に行ったり、子どもと遊んだり、ホッとするひとときは減ってしまいます。
あるとき、私は最新のドラム式洗濯機を買いました。約30万円と従来の縦型洗濯機の2倍近くするので、普段であれば選ばなかったと思います。ただ、そのときは家族が増えて浮足立っていて、勢いで購入してしまったのです。
使ってみて驚きました。スイッチを押したら洗濯が始まり、ブザーが鳴ったら乾燥からシワ伸ばしまで終わっている。出費と引き換えに、作業時間と労力が節約できました。私の場合、洗濯物を干して取り込む時間、計15分が毎日短縮されました。洗濯機の平均寿命が10年なので、約900時間。時給1000円で計算すると、約90万円。価格をはるかに超えた価値です。
それどころか、この時間の積み重ねが副業や息抜きの時間になり、お金を増やし日々の幸福度を高めていることに気づきました。「コスパが高い思考」とは、最小のお金で最大の幸福を手に入れることだと考えています。本稿ではコスパを高める3つの経済学理論とその実践法をお伝えします。
■ビールは135ml缶がコスパが高いワケ
1つ目は「限界効用逓減(ていげん)の法則」です。消費者が財やサービスを消費するときに、得られる効用(満足度)が、消費量が増えるにつれて減少していくという法則です。
具体例を挙げましょう。「ビールは一口目が一番おいしい」。これは多くの人が実感として理解できると思いますし、科学的にも証明されています。二口目、三口目と進むうち満足感はどんどん失われ、最後の一口の満足感は最初の一口に比べ少ないはずです。
缶ビールを買うとき、多くの人は500ml(約300円)か350ml(約200円)を手に取り、135ml缶(約90円)を買う人は少ないでしょう。容量と値段を比べると、135ml缶を選ぶのは合理的ではないからです。
しかし、私はあえて135mlのミニ缶を買います。同じ約200円でも通常缶だと“1日分”しかビールを飲む満足感が得られませんが、ミニ缶なら“2日分”得られ、一口あたりの満足度もミニ缶のほうが高いのです。
もちろん、いくら飲んでも一口目と同じようにおいしく感じるという方もいます。そうした方はロング缶で単価を下げるほうが満足度を最適化できる可能性があります。満足度の感じ方には個人差があるため、みなさんそれぞれの満足感を考えてみてください。
「限界効用逓減の法則」は、購買行動におけるモノ選びの基準にも使えます。たとえば、ボールペンには10本100円の格安品(エントリークラス)から、1本1万円以上する高級品(ハイクラス)まで多々あります。
書ければいいだけなら格安品で足りますが、書き味は悪く、時にインクが詰まってストレスがたまります。1本100円の中間価格帯(ミドルクラス)を選んでおけば、なめらかな書き心地と耐久性が得られます。差額の90円に見合うだけの性能はあるでしょう。
1本1万円の高級品ならさらになめらかですが、価格が100倍になっても性能面の向上は1.2〜1.5倍程度です。「9900円の差額を払って得られるものは何か」を考えたとき、ハイクラスの商品は「コスパの高い選択」とはならないことが多いでしょう。
■買い手は基本的に不利だと考えよう
次に、売り手と買い手の持つ情報に差があることを、経済学用語では「情報の非対称性」と言います。
たとえば、八百屋でトマトが売られています。店側は、産地や流通経路や仕入れ値など多くの情報を持っています。対して消費者は、価格や大きさや色つやなど、見たり触ったりして得られる情報しか手に入りません。
購入するのがトマトなら失敗しても勉強代と割り切れますが、金融商品や住宅や車など、高価な買い物になると失敗は避けたいところです。スペックや価格をネットで比較するなど、購入するものの相場や常識は勉強しておく必要があるでしょう。
難しいのは中古品です。ゲームソフトなど新品、中古の別なく同じように使えるものならいいのですが、住宅や車などは同じ状態の商品はほとんどなく、頻繁に買うものでもないので知識が備わりにくいものです。
自分で目利きができない商品は中古で買わないのが一番ですが、予算の都合で、中古品を選ばねばならないときもあります。その場合は「利害関係のないプロ」に助けてもらいましょう。
住宅や車に詳しい友人や親戚に意見を聞き、品定めや価格交渉に同席してもらうのです。友人や親戚なら「売り手と買い手」という関係性がないので、情報の非対称性は生じないはずです。
■株式投資だけでなく自己投資も重要なワケ
3つ目の「比較優位の原則」は、本来は国家間の貿易に関する理論です。
国にはそれぞれ世界市場で優位にある産業があります。日本は自動車がそれにあたるでしょう。この場合「日本は自動車生産に絶対優位がある」と言います。絶対優位は「他者より得意な分野」と言い換えることができます。
日本はパソコンの生産でも他国を凌ぐ優位にありますが、このとき「自動車のほうがパソコンよりも相対的に生産効率がいい」ならば「日本は自動車生産に比較優位がある」と言えます。つまり、比較優位は「自分の中で得意な分野」と言い換えることができます。
両方を製作すればいいのですが、リソース(資金や時間や労働力)が限られている場合、「比較優位」に多く振り分けるほうがコスパは高くなります。
これを個人の実生活に当てはめるなら「自分が得意なスキルを生かして仕事をするのが、最もコスパが高い」と言えます。「自分の好きなことをやるのが幸せへの近道」などという感情論を語るものではありません。あくまで経済学理論に基づいて、人生を最適化するための考え方です。
職場では、仕事量の公平性や属人性なども踏まえなければならないので、「自分は営業が得意だから、事務作業はしない」といった考えは通用しにくいかもしれません。しかし、たとえば副業をやるのであればこの考え方をストレートに活用できます。比較優位でない仕事はどんどんアウトソースして、自分の得意に集中するほうが稼げます。
また、冒頭のドラム式洗濯機の話は「比較優位にない作業にリソースを割かず、時間を捻出する行動」とも説明できます。わが家は家事が比較優位になかったため、ドラム式洗濯機のあと、自動食洗器や自動掃除機やスタンドドライヤーを次々導入しました。
こうして捻出できた時間を、私はスキルアップや情報収集、副業(本の執筆)にあてました。その結果、収入は増えましたし、得られた資金で比較優位に投資をする好循環が生まれています。いわば「コスパの複利投資」です。
今どきは投資ブームでビジネスパーソンがこぞって「新NISAで何を買ったらいいか」「投資資金をどう捻出するか」を考えています。私も知人から“利害関係のないプロ”として意見を求められますが、本当におすすめしたいのは「コスパの複利投資」です。
金融商品は外部環境で目減りしてしまうリスクがありますが、身につけた知識やスキルがなくなることはありません。金融商品に投資するのは、時間を使いスキルアップして収入を増やしてからでも遅くないと思うのです。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月19日号)の一部を再編集したものです。
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現役銀行員、証券アナリスト
現役銀行員、証券アナリスト。10年のキャリアで、投資運用、リスク管理、法人・個人向け融資、システム部門を経験。ほかにも、FP2級、簿記2級、税務上級など20種類の金融系資格を保有。電子書籍(Kindle)作家としても活動、著書に『コスパの経済学』など。
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(現役銀行員、証券アナリスト 浅見 陽輔 構成=渡辺一朗)
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